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童話、イラスト、物語だけを語ります。 個人的なことは書きません。 純粋に物語だけのブログです。
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佐井花烏月(さいかうづき)
性別:
女性
職業:
一応漫画家?
趣味:
漫画を描く事
自己紹介:
佐井花烏月(さいかうづき)ともうします。

ここのブログでは
イラスト付童話や小説を制作していこうと思ってます。

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2014/10/23 (Thu)

7・容疑者確保!

 昨日の雨はすっかり晴れて心地の良い風が葛葉の髪を撫でた。

「う、う~んいい天気!久しぶりにゆっくり眠れたし」

 高欄に座り朝日を浴びながら背伸びをしてまだ少し残っていた眠気を解放する。

 ワン!
 とあいさつするように白い柴犬のコーエーが吠えた。

 葛葉は一瞬ビクっとして高欄に腰掛けている葛葉を見上げているコーエーを見て驚いた。

「コーエー!お前どこにいってたのよ!」

 名前を呼ばれた犬は階(きざはし)を上がり葛葉の前におすわりをしてじっと見つめてくる。
 そして、かしげる様はとても愛くるしかった。
 だからなのか葛葉は、高欄から降りて、コーエーの頭を撫でる。

「もう、心配したんだからね」

 コーエーは、ワンっと吠え、葛葉の顔なめた。
 拭きたいのを我慢して、葛葉はコーエーに頭を撫でた。
 成れてきたぞよし!さすがは葛葉ちゃんと自分をほめる。

「葛葉!!大変だぞ!!」
 と血相をかえて頼光は駆けてくる。
「どうしたのよ?」
 頼光は全速力で走ってきたのか、息が落ち着くのを待って

「き、昨日の邸の男が例の獣にやられた!!」
 と声を大にして告げる。

「なんですって!?」


 頼光の案内でその現場にいくと、人だかりが出来ていて、血なまぐさい匂いがする。

 昨日の雨の所為で血が水たまりとともに流されていつもより広がって野次馬達はその血を踏んでいる。

 野次馬のを縫ってその殺された男の顔を見た。
 確かに昨日の男だった。
 頼光は口を押さえて気持ち悪さを堪えている。

「また、殺されたよ……」
「まだ怪異の原因は掴めてないのかい?」
「たしか、童の陰陽師が事件をおってるんじゃないのか?」
「子供に任せたのが間違いなのでは?
 はやく本物の陰陽師殿に任せた方が良かったのではないか?」

 と言う、周りの大人たちに葛葉は唇を噛んだ。

 悔しい……
 こっちだって頑張ってるのに……
 と、ぐっと拳をつくる。

 その手を頼光が握り。

「葛葉、気にすんな。
 こいつらは何もできない癖に口だけでいってる愚か者だ。
 口だけじゃない行動している俺達がそんなふうに言われる筋合いはない。
 犯人を早く捕まえて黙らせてやればいいさ…!」

「う……うん……ありがとう頼光」
 その手をぎゅっと感謝の気持ちを込めて握りかえした。
 頼光は顔がまっかになってニヤニヤと笑った。
 そんななか、ふと隣に犬の気配がした。

 …この気配はっ!

 振り返ると、月夜丸がいた。

 目は死体をみていて、口はクッと端を少々口を持ち上た皮肉な笑い方だった。

 ……もしかして犯人は…

「ねぇ月夜丸様」
 と袖を引き、小声で問うた。

 ん…と、葛葉を見た。
 一瞬じっと観察するように葛葉をみる。
 そして葛葉が言葉を発する前に

「やはり似ている……」

 と無表情で見つめ、そう呟くと袖を引いている手を振り切って人込みから逃げるように去っていく。

「待って!!!」 

 と葛葉もその後を追う。

「おい!葛葉?」
 葛葉がいきなり手を引っ張って駆け出すので頼光驚いた。

「このまま愛の逃避行か?」
 ほほを赤くしながら頼光は頓珍漢な事を言った。
 そんな、頼光に葛葉は冷たい視線になる。
「何意味不明なこといってるのよ!月夜丸を追うのよ!!」
「は?」


 取りあえず葛葉のいう通りに月夜丸を追う。
 だが、角をまがった月夜丸の姿はなかった。

「見失っちゃった……?」
「あいつ足が早追いつけないよ」

 そのとき、コーエーが吠えた。
 こっちに来言っているように、先頭たって、顔を葛葉に向ける。

「居場所が分かるの?コーエー?」

 ワン!と吠えると駆け出していった。
 葛葉と頼光は顔を見合わせ頷き合うとコーエーを追った。


 月夜丸は葛葉たちを巻くために、角を曲がると、両手を使い犬のように走り犬が埋められている社に来た。

 もう、恨みを晴したのだから、埋まっている死体を解いてやるために土を掘り返そうと思った。

 そしてその犬の屍を社の林に眠らせてやるつもりだった。
 そうすれば、鴉や他の生き物に命を繋ぎ自然の源に帰れる。

 だが、その犬の屍骸はなかった。

「なぜ、だ…?」
と呟く。

 いつもなら在るハズの死体はなくなっていた。
 すでに他の動物に食べられた形跡も、掘られた穴もない。
 もとからそこには何もなかったかのように……
 不可思議さにその場所に立っていると人の気配が近付いてきた。

 その者達から逃げようとした時。

 とても速い光の鳥が、月夜丸の横を過ぎ円を描き、光りの残像が縄となり月夜丸を捕らえた。

「な……何だこれは!?」
手足を光の縄が月夜丸の体を動けないよう手首を縛り、体をぐるぐると縛り上げた。

 さっきの不可思議さとは違った不可思議に戸惑う。

「ふっふっ~父様直伝、鳥高速お縄式神よ!」

「鳥と超をかけてあるんだな!?」
と頼光が突っ込む。

「待ってくれれば、こんな事しなかったのに」
 葛葉は縛られて座り込むしかない月夜丸をわざと憐れむように見つめていう。
 
「オレを捕らえてどうするつもりだ」
 そんな態度の葛葉に腹が立ちいつもより声を荒立てて問う。

「ちょっと、話を聞きたいだけよ。」
「話だと……?」
 月夜丸は不可解そうに眉を寄せ葛葉を睨む。

葛葉は月夜丸の目の高さに合わせて座る。
「あんたが呪詛してたでしょ?」
と単刀直入で聞いた。

話というよりか尋問だ。
月夜丸は睨んだまま何も答えない。

「昨日の犬を殺した男を呪って呪詛をはなったのでしょ?」
 フッと嘲るように鼻をならし苦笑した。

「証拠があるというのか?オレは呪詛などしたことなど無いし、やり方も知らぬ。」
「そうかしら?知らなくても他の誰かにやらせてたりして」

 一瞬瞳孔が揺らいだ。目を合わせて話す方法は父様に教わった。
 目は嘘をつけないと。

「そうなのね。他に誰かにいるねの」
「知らない」
 ばれたが、絶対言わない、言えば負けになる。
 目を閉じて口を噤んだ。

 これは絶対、はかないわね……と思い式神を解いた。
 月夜丸は突然解放されて葛葉を訝しむ。

「なぜ放す?」
「そうだぞ、葛葉!せっかく捕まえたのに」
「だって、縛ってたって話さないんじゃ同じじゃない。」
 呪詛を行なっているのが月夜丸じゃなければ、このまま捕まえても呪術を使っていないなら意味がない。

「それよりね、この事件の関係以外で聞きたいことがあるの。」
 葛葉はにんまりと微笑んだ。
 さっきまでの攻めるような表情じゃなくなった。

 月夜丸はその表情の変わり様にもさらに訝しみ眉間のしわがふかくなる。
「あんたの事聞かせてよ。本当に犬と人の子なの?」

「全然、事件と関係なじゃないか」
 と頼光が不満げにいう。
 そんな頼光の耳を思いっきり、ひっぱりその耳に口を寄せる。


「いいの、誘導作戦よ。気楽に話して犯人の情報を得るの!」
 と声を殺してコソコソと話す。
 頼光声は納得いったというように、手のひらで堤を打つ。
 でもそんなに上手くいくか?と不安にも思う。
 葛葉はパッと笑顔で振り向いて親し気に話し掛ける。

「私の父様も狐と人の子供なのよ」
「そう…なのか?」
 月夜丸はわざと意外そうに眉をあげて驚いたようだった。
そして、
「うまそうだな……」
 と口の端を釣り上げ意地悪気に呟く。

 うっと葛葉は一瞬怯んだが負けずに、
「そして、もっと凄いことに私の母様は月の国の姫だったのよ」
「月の国の……?」

 そのことには純粋に驚いたようだった。
 月夜丸のその表情にに葛葉は満足したように、業と腰に手をやり胸を張ってみせた。
「そうよっ!凄い?」
「さぁ……」
 とだけ答えた、月夜丸も興味なさげを再び装う。
 もとから口数が少なく警戒している為に話にうまく乗ってこない。

「あんたのお母さんてどんな人だったの?」
「人ではなかった……オレを生んでからは」

 だが、粘って質問した甲斐があったのか、それとも、己の出生を真に聞いてくれるひとはだれ一人いなかった心のさみしさからか……月夜丸は質問に答えてくれた。 

「聞かせてくれる?昨日の従者さんにちょっとだけ聞いてきになってたの」

 あの従者はそのことをまったく信じていないくせに、調子に乗って愚痴る時そのようなことを言いふらしているのだろう…
 どこからその話を聞いたか訝しんでいたがあいつだったかと舌打ちをした。


「そんなに聞きたいか……?」
「うん。」

 目をキラキラかかやかせて頷いた。

「俺の母は人に殺された……それも父にだ……」
「え……?」

 葛葉が想像して期待していた甘い不可思議な恋物語ではなく、とても悲しい物語のようだった。

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2013/05/23 (Thu)

「なんだか、二人いい感じじゃないっすかぁ!」
「そうだね。カイト君のエスコートぶりは完璧だね」

 二人を心配して後を付けてきた慎一郎とヒカルは微笑ましく二人を観察していた。

「ほとんど、絶叫系の乗り物ばかり厳選して乗ってたのはすずちゃんの趣味だね」
「メリーゴーランドはデートのお約束なのに目も向けないところがすずらしい」
「うちの娘もすずちゃんと同じで絶叫系好きだよ」
「そ、そうなの?」
 ヒカルは少しおののく。
 そんなヒカルに慎一郎さんはニヤリと笑って

「大丈夫、ヒカルは絶叫系苦手なの知ってるし、藍とはデートありえないから」
「いえ。ぜひご一緒させてもらいますよ」
「変態とは一緒にいかせられないね」
 にっこりとキツい一言をいわれて、くそうっとヒカルは真剣に悔しがる。

「あ、カイトくんソフトクリーム買いに行くのかな?」
「ここのソフトクリームは一つにしなきゃいかんぜよ!カイト!おいしいシュチュエーションなのに!」
「どういうシュチュエーション?」
「アイスをなめながらお互いの唇をなめあうという・・・」
「ヒカル、うちの娘とは絶対にデートさせないから・・・」
 慎一郎は今度は笑いもせず、声にもドスが利いていた。

 あれから、いろんな乗り物をはしゃぎながら二人楽しくいろいろ回った。
 あたりは夕暮れ、夜のパレードがあるらくしく、夜のパレードをみに子供客より大人客のカップルがおおくなってきている。

 はぁ・・・大人げなくデート楽しんでるなぁー自分。
 カイトがアイスを買いに並んでいる間にベンチに腰掛けて一息つく。
 女子高生の格好しなくても、気分はもう女子校気分に戻って言う感じ。
 目立つ私たちを目にした人や私たちより明らかに目立つ周りのコスプレ女子達から羨ましがられるのを感じたとき姉弟にみられてないってことに安心したのかもしれない。

 優越感もあったし・・・
 顔が少しにニヤケる。
 これがデートというものか・・・
 いつも以上にカイトが私を持ち上げてくれるのも楽しいなぁって思った矢先。

「あれ?寺野さんじゃない?」

 聞き覚えのある同僚の声が聞こえた。
 反射的にその声に反応をしなかったのは、頭の片隅に知っている誰かと鉢合わせするんじゃないかという不安があったから、知らぬふりで、うつむいたままにしてみた。
 思えば、私がデート反対した理由もそういう懸念もあった。
 賢明に知らぬふりで、下を向いているのに、人なつっこいこの佐野さんは私の顔を無理矢理のぞき込もうとする。

「寺野さんじゃないのかしら~?女子高生のカッコしてるしぃ~」
 分かってて、そういい回しする。
 そういう言い方が常の人で、無視していれば、回避できるけれど、回避できそうにない。
 罰ゲームと言い訳でもしておこうかと、思って顔を上げようとしたそのとき。

「俺の彼女になにしてるの?おばさん」

 カイトが佐野さんの肩をつかんで、のぞき込むのをやめさせる。
「え、え、いえ、なんでもない。です」

 カイトはその不良の格好でガンをつけるから、びっくりして佐野さんは逃げていった。
 その後ろに彼氏らしき四十代の男性が追いかけていくのが見えた。

「すずさん大丈夫だった?」
「う、うん・・・」

 緊張がゆるんだのと、とつぜんデート前の現実がおしよせてきて、

「私・・・いい年して、恥ずかしいよね・・・女子高生のコスプレなんかしちゃってさ・・・」
 自分でいうと恥ずかしさと情けなさが増す。
 なんでかナイーブになってる。
 佐野さんだって私と変わらないのに、カイトにおばさん呼ばわりされちゃって・・・・・・
 わたしやっぱりおばさんにみえるのかな・・・・・・と思うとなおさら落ち込む。

「私いつの間にかはしゃいじゃってた・・・年上なのにはずかしいぃよね・・・」

 制服の袖で涙を拭うすずさんは、どうみても女子高生にしかみえない。
 僕はむしろ、そんな高校生の服で涙を拭う仕草はとてもかわいらしくてきゅんとしてしまった。

「もう、帰ろうか・・・?」
 と、無理に笑顔で笑うすずさんにきゅんとしてしまう。
 それは制服とは関係ないけれどなんか、かわいい・・・ってときめいている場合じゃない!
 手に持っていたいたアイスがとろっと、手に落ちてきた。
「あ、アイス食べようよ。一個しかもってこれなかったけど・・・」
 すずさんのピンチだと思って一個だけもって、もう一個は後を付けていたらしいヒカルさんに奪われた。
 
「あんた。私の言ってたこと聞いてた?」

 すずさんはじとっとした瞳で僕をにらむ。

「うん、聞いてたけど、食べて」

 すずさんは仕方なく半分溶けたアイスクリームをなめるんじゃなくて、大口を開けて、三口で食べて、コーンもバリバリと食べる。
 それはいつもの行動。かわいく食べようとしないすずさんはいつものすずさんだ。
 そして、口の周りについたアイスクリームの残りを拭こうとする手の甲を僕は素早く手首をつかんでやめさて、
すずさんの口の周りに残ったアイスクリームをなめるようにキスをした。

「おいしいね」
 突然の行為に、しかも周りに人がいて、見てるのになんて大胆なことをするの!?

「カイト、なにするのよ!汚いでしょ?」
「汚くないよ、ここにも残ってる」

 そういって顎の下のくりーむをぺろんとなめて、ニッといたずらっ子のように笑う。

「僕たちの関係ってどんな関係?」

「恋人でしょ・・・?でも周りからみたら・・・」

 こつんと、カイトは私のおでこにおでこをくっつける。
 微妙に勢いがついていたから痛い。
 
「まわりなんて、関係ないよ。すずさんはすずさんだ。僕の大好きのすずさん」

 とっても恥ずかしいけれど、うれしい言葉をカイトは恥ずかしげもなく優しく言ってくれる。
 きっと、カイトは周りなんか見ていない・・・

 ううん・・・

 恋人同士なら周りなんか関係ないのかもしれない。
 私が自意識過剰になりすぎていたのかもしれない。
 そんな不安をカイトは和らげてくれる

「私も・・・カイトが好きよ」

 周りが見えなくなった私はカイトにキスをしようとする
すると、夕日が隠れた水平線に七色に輝く水上噴水パレードが始まった。

 そのイベントをみるための人たちは噴水に夢中になっているから、きっと私たちに感心はない。
 一瞬そう思ってたら、カイトから唇を寄せて来て、甘いキスを繰り返した。


 家の帰り道、手を繋いで、ゆっくり帰る。
 なんだか、今の雰囲気がとても愛おしい特別な時間に思える。
 コスプレしてるのも特別の魔法って伊達じゃない。

「カイトって、頼れるお兄さんみたいね。」
「立場逆転?」
「ううん、意外なカイトが見れたなって思って、デート楽しかった?」
「うん!遊園地て僕の想像以上の通りの楽しい場所だったね」
 屈託なく、まるで、四、五歳の男の子のような笑顔だ。
 だけど・・・引っかかる言葉だった。

「もしかして、遊園地とか来るの初めてだったの?」

 ふとそんな疑問を何も考えないで聞いてしまった。
「うん・・・遊園地って初めてだったんだ」

「え?ほんとに?」

「おぼえてないだけかもしれないけど・・・」

 カイトの瞳が悲しげな雰囲気が漂った。

「僕、小さい頃から、親戚に預けられていたでしょ?
 迷惑かけないように一緒に遊園地とか遊びに行ったりしなかったんだ・・・」

「カイト・・・・・・」

 その事を聞いて胸が締め付けられる。
 まだ十代なのにすっごく苦労してるんだとても寂しい思いをしていたと言うことを改めて知ると、涙があふれてきた。

「すずさん?涙が・・・」
「だって・・・カイトが可哀想・・・」

「昔の事だし、今は初めて遊園地に来れたのがすずさんでうれしいんだ」

 それは、心からそう思う。

 すずさんと初めての遊園地で良かった。

「ねえ、カイトまた来週遊園地デートしよう」
「また、コスプレしなくちゃね」
「そ、そうね・・・」
 すずさんは苦笑いをして頷いた。
 
 でも、もうコスプレなんかしなくてもいい。
 ちょっとお互いにおしゃれしてデートできればいい。
 二人だけの世界って思っていても、やっぱり恋人だと見せつけたいってのはまだまだ、僕が子供だからだろうか・・・・・・

 それはとにかく、すずさんとデートができる楽しみができたことは良い事だ。

 時間はもう夜十時過ぎ、どこかでご飯食べていこうかということになって、駅前をうろうろしていると、歩道員のおまわりさんが私たちを呼び止める。

「君たち未成年だろう、こんなところうろうろしないでさっさと家に帰りなさい!」
「は、はーい」

 そういわれて、仕方なくコンビニのお店のお弁当をかってかえるけれど、すずさんはにこにこ顔だったことはいうまでもない。

「おまえ等の初デート写真ばっちりとってやってプリントしておいたぜぇー!」

 ヒカルさんはそういうと、どばーと袋いっぱいの写真を机の上に広げた。

「でも、なんかほとんどブレてる写真だね 」
「おまえらが、絶叫系しか乗らないからいいショットがとれなかったんだよ!」
「だったら、省けばよかったのに・・・幽霊写真みたい」

 確かに、遊園地といったら絶叫マシーンという定義をつけられた感じだった。
 次はもっと、ゆっくりとした乗り物ものってみたい。
 観覧車とかメリーゴーランドとかボートとか
と次のデートのプランを僕は密かに思い描く。

「で、こんなかで、一番いいショットがあるんだ」

 ヒカルさんはふふふと言う感じで後ろに隠していた写真をどーんと僕とすずさんの前に出した。
 それは、七色の噴水でキスをしている写真。
 でも逆光で陰にしか見えない。
「な、なんでそんな所まで撮ってるの!?」
「恥ずかしがる事ないだろう?陰っぽくっておまえ等だってわからないし」
「いい感じだよね。初々しい恋人同士のデートっぽくって」

慎一郎さんもうんうんと考え深くうなずく。

「記念写真だからとっておけ。ついでにこれ写真コンクールにも出しておいたからな」
「それほど評価されるものかしら?」
「おまえたち二人の世界はもしかしたら世界に見せびらかすことになるかもしれないけど、いい記念だからいいよな」
 なんとも正直で確信犯的な言い訳に僕とすずさんはなにもいえなかった。
 悪気がないんだからしょうがない。
 今回のデートはこの二人の計画でうまくいったようなものなんだから。

「あ、そうだ、またチケット貰ったんだよ」
「遊園地のチケットですか?」
 慎一郎さんはニヤリといたずらっ子の顔をして
「伊豆旅行二泊三日のツアー券だよー」
「え・・・それって」
 すずさんの顔がだんだん赤くなっていく恥ずかしさからだろうか。

「段階的のおつきあい第二だーん!新婚旅行ならぬ恋人旅行にいこーなんって!」

「あ。僕お茶だすのわすれてた」
そう言ってその場から少し離れることにした・・・

「ふ、ふたりともーいい加減私たちで遊ぶんじゃないわよーーーーー!」

 その日、慎一郎さんとヒカルさんはすずさんの怒りのサソリ固めにあったことは言うまでもない。


 でも、いつか、ううん
 近いうちその旅行もエスコートしてもらえるとありがたいなと図々しくも心の中で思ったりしたのでした。

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2013/05/23 (Thu)

 慎一郎さんに招待された遊園地は、大人も楽しめるエンターテイメントと人気のアトラクションがたくさんある今一番人気のデートスポットの遊園地だった。

「さすがに込んでるわね・・・・・・」
「テレビに見る以上だね」
 まわりには、家族、友達、カップル、いろんな年齢層が売店や食事所、アトラクションにひしめき合う。

 私はこう言うところが苦手で高校の頃の友達のつき合い以来きたことがなかった。

「ねえ、カイト・・・・・」
 一回りして帰ろうかと言おうとしたけれどカイトの顔をのぞいたらなんだか瞳を輝かせて、なにやら感動しているみたいだった。

「どうしたのカイト?そんなに目を輝かせて」
「だって、こんな楽しい場所ですずさんと遊べるなんて考えてなかったから感動しちゃって・・・」
 カイトの瞳は嬉しすぎてなのか瞳が潤んでいる。

「そんなに感動するほどのこと?」
「うん!ねえ。何乗る?何みる?
 あ、ここのソフトクリームおいしんだって!」

 カイトのはしゃぎっぷりをみてしまうと、すぐに帰ろうとは言えなくなってしまった。

「もう、カイトの好きなところならどこへでも連れてっていいわよ」
 わざとらしくどこへでも連れていってというように腕を仕方なし似差し出す。

 自分でもなんてひねくれた言い方なんだろうと内心反省した。
 
そんな私の手をカイトはぎゅっと握って、手の甲に自分の口元に持って行って

「お姫様のおおせのままに」
とキスをする。
 突然のことで頭が真っ白になるけれど
 周りの女子高生たちがきゃー!と騒ぎだすのと同時に顔が赤くなる。
 そして女子高生や周りの私たちをふとみた人たちがにやにや笑ったりして、
 あの人、悪そうなかっこの割には紳士的!
 なんがギャップ萌えだよね!
 と言う声も聞こえた。

「カ、カイト!」
「えへっ」
 と微笑えまれたら何も言えなかった。
 このいたずらっこがっ!

 慎一郎さんのすずさん対策が候をそうした。

『すずさんは、いや、女性はお姫様扱いに弱い。
今日はお姫様を守る騎士になりきり作戦だよ!』

 まあ、格好はどうであれ、今僕は姫を守る騎士気分でデートをがんばるんだ!
 すずさんのいまの格好はほんとに女子高生みたいでかわいいし、僕は同い年気分もしくは年上な感じ不思議な感じだ。

 それに・・・すずさんと初めて憧れの場所に来られたことも相まって、僕はいつもよりも心浮き立っている。

 ちょうど空いているコーヒーカップの乗り物に最初にのることにした。
 僕のこの格好にひいて他のアトラクションに行く人も数人いた。

「これって、この円盤をぐるぐる回すんだよね?」
「カイト乗ったことないの?」
「うん・・・女の子と乗るのもはじめてだよ」
「お、女の子・・・私のこと?」
「うん、すずさんしかいないじゃない」

 すずさんは顔を赤くする。かわいい。
 ちょうど、コーヒーカップのアトラクションが開始するオルゴールの音が鳴り出すと同時に、すずさんは銀の円盤のテーブルをおもいっきり回し始めた。

「わわっ!」
「カイトも一緒にまわして!」
「う、うん!」

 予想以上の遠心力に体が引っ張られる感じが新鮮でおもしろい。
 すずさんも、その爽快感に笑いながら回す。
 僕もつられて笑いながら楽しく回した。
 穏やかそうなコーヒーカップのアトラクションがとても激しいものと初めて知った。
 そのあと、あまりの目の回りように降りるときに二人してして体を支えあいながら降りたことは言うまでもない。
 そんな、互いの状態になぜだか笑いだしてしまう。

 デートってちょっと変わったスリルがあってすずさんの意外な場面がみれたりして楽しいなぁ
 すずさんもそう思ってくれればいいんだけど。

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2013/05/07 (Tue)

「カイト君。男らしくなったねーこれで、すずさんより年下に見えないよ」

 慎一郎さんは渾身の作品を作り上げたかのように、額の汗を腕で拭く。

「あの・・・年齢とか男らしくなったというよりか、この格好ってデートにふさわしくないような・・・」

 慎一郎さんに、すべて任せてコーデネートしてもらったのはいいけれど、いつもと僕とは全く違った雰囲気できっとすずさんがみたらひどく驚く姿だ。

「どちらかというと、危ない路地裏で喧嘩売る人のような格好なんですけど・・・」

 人畜無害のいつもの自分とは正反対の人畜悪害の不良少年になった。

 唇には、チェーンをつけて、目張りをアイライナーで紫さんに描かれて、きりりと男らしさアップしてる。
 髪型も、ワックスで流れをオールバック風のウェーブがかかっている。
 元々茶っぽい髪が外人風にみえる。
 服装も黒を基調にしているが、所々喧嘩の後のあとのような切れ目があってその切れ目から赤い下地が見える。
ただの赤じゃなくて刺繍でドクロが見え隠れする。
 肩が見える蜘蛛の絵のはいったアンダーに黒の光沢のある小さなベルトが不揃いについて、口元のチェーンと同じシルバーのベルトの金具がさりげなく、バランスをとっている。
 どこかのゲームのコスプレにも見えないことはないが、ある筋のブランドで今はやっているものを買ってきたとのことだ。

「さすがに、俺は着れないけれど、カイト君が似合ってくれてうれしいよ」

 慎一郎さんがこんな格好したら、どこの筋の人だとおもわれるだろう。
 いや、実際はホストクラブのオーナーをしているんだけれど・・・二児の父にはさすがに無理だ。

「この格好で遊園地いっても大丈夫でしょうか・・・?」

「大丈夫、今日はコスプレ大会もあるから誰も気にしないっしょ」
「け、計算ずくだったんですね」

「もちろん。だからすずちゃんも気がねなく楽しめると思うよ」
 にやりと、いたずらっ子の笑顔で慎一郎さんは笑った。

「ちょっと、この服どうなのよ・・・・・・」

 私はヒカルに言われるまま用意してくれた服を着て鏡を見てげんなりした。

「どうって、今はやりのアイドル風の服だよ」
「服は服でも制服でしょ!!これ!」

 更衣室のカーテンを勢いよく押し退けてヒカルの服の襟をつかみあげた。

「よくにあってんじゃーん。童顔でよかったな」
「あんたには言われたくないわよ」

 ヒカルはヘラヘラして悪気はない。
 むしろいたずら成功して喜んでいる。
「わたし二十三なのになんでこんなセーラー服っぽいの着なきゃらないの?」
「そんなこといったら、今をときめくアイドルに失礼だろ。」
「中高生に失礼だわよ!」
「大丈夫だって、ぎりぎり高校生っぽいというか。カイトとお似合いだろ?」
「う・・・そう?」

 改めて無意識に鏡の方をみて自分の姿を確認する。
 最初に髪型をヒカルにアレンジされて脇の髪を三つ編みにして後頭部で合わせて、リボンで縛られているから、なんだか幼いようにも見える。
 それに制服といっても本当の高校せいっぽいものではない派手な制服。
 改めて観察すると高校生にもみられなくないかなと思う。

「にやけてるぞ。まあ俺の手に掛かればこんな感じかな?」
「ほんとにカイトにつり合うかな・・・・・・」

 カイトの姉にみられないかな・・・
 ヒカルの存在も忘れて、スカートの裾を引っ張ってポーズをきめてみたりしていたら

「わーすずさんかわいいー・・・」

 鏡に映る私の背後に柄の悪い男が現れて、反射的に振り返ってその男の体を床にくみ伏せた。

「いててて!放して!すずさん!」
「ってカイト!?」

 驚いた・・・
 あのボサっとした少年がちょっと服装が替わっただけで、雰囲気がかわるなんて・・・・・・

 カイトは背が最近伸びて私の背を越したから、なんか見下ろされている感じが異性を感じさることがある。

「どうかな。僕の格好。かっこいい?」
「うん。不良ね。」
「だよね・・・」
「うん。」

 多分、大人の雰囲気には限界があるんだろうけれど、その格好デートって微妙だと私は思う。

 似合わなくない。でも、確実に・・・
 釣り合いバランスがある意味違う!
 
 てっきり学生同士の初々しいデートを演出してくれるん だろうとは想像していたが、二人の企みは斜め上を行っていた。
 完璧二人に遊ばれた感じだなと思う・・・
 初デートの楽しみより不安の方がある意味増した。

 慎一郎さんは僕たちを並べて微笑む。

「なんかある意味ギャップのある恋人だよね」
「年齢以前の問題になってよかったな」

 自分たちがそうセレクトして実際の僕たちをみると感慨深いものがあるのか、芸術を完成させた画家のようだ。

「こ、これで、デートいけるかなぁ」

 僕は心配になるすずさんの顔が少し険しい。
 きっと、この二人に頼んだのが間違えだったと思っているに違いない。

「いけるいける!そのままホテルまでいっち・・・」

 すずさんではなく、紫さんがヒカルさんの下品な口をふさぐ。

「すずちゃんなんだか高校生の時のすずちゃんを思い出すよ。懐かしいね。」

 そういわれて見つめられて、すずさんはなぜだか照れる、仏頂面だったのがなんだか、乙女のように頬を赤らめ照れる。

「あのころすずちゃん恋一切してなかったよね」
「え・・・う。うん」

 すずさんは戸惑う。
 ヒカルさんの情報からだと、すずさんは慎一郎さんに初 恋していたとか言っていたような。
 もしかして、そのときの気持ちを思いだしちゃったとか・・・・・・
 慎一郎さんはすずさんの頭をそっと撫でて

「学生気分に戻って、恋を楽しんでおいで・・・ね?

「うん・・・そうします・・・」

 素直にすずさんはうなづいた。
 優しい仕草と声で、すずさんを優しく見つめ、すずさんも高校生くらいの気持ちに戻っているのだろうか、慎一郎さんを見つめる目があやしい・・・・・・

「おい、カイトおまえ、様になってるぞ・・・」
「え・・・」
 ヒカルさんに言われて我に返る。
 いつの間にか二人のやりとりに嫉妬のオーラを出していたらしい。
 しかも、こんな格好だから「様」になっているという事だ。

「すずは、大人の雰囲気に弱いところがあるから、年上気分でエスコートしてやれよ。」

 ヒカルさんはフザケることが多いけれど、悪い人じゃない僕たちのことを見守って助けてくれる。慎一郎さんも
そうだ。
 二人のサポートを無駄にしないためにも、今日はすずさんと楽しい初デートをがんばろう!

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2013/04/12 (Fri)

いつも通っているホストバー&おかまバーの「アンティーク」のブラックのガラス扉が魔王の扉に思えて、私はゴクリとつばを飲み込む。
中にいるのはたぶん、慎一郎さんとヒカルだけだろう。
いるとしても、店の管理を任されているまっちょ店員の紫か・・・
「すずさん、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ、おめかしさせてくれるだけなんだから」
「そ、それはそうだけど・・・私の直感が悪意を感じるのよね」
 重々しく私はそう断言する。
 そんな私とは正反対に、カイトは一週間前からわくわくドキドキといった小学生が遠足にいくのを楽しみにしているようだ。
 まあ、デートじゃ遠足と変わらないけれど、私たちの年の差は六歳。
 私だって浮かれたいけれど、世間に認められるまで最低二年ある。
 カイトが老け顔だったらまだしも、女装させたらそこらの女の子よりかわいい美少年・・・・・・そうよ!

「ここに呼び出したって事は、きっとカイトを女装させて、女の子同士のデートを演出してくれるって事ね!それなら姉弟以前の問題だからOKね!」
 女の子同士のデートなら恥ずかしくもない!

 そんな私の肩を掴んで止めさせる。

「ちょっとまって、僕はそんなのはNOだよ!せっかくのデートが女の子同士ってほうがおかしいって!」
 今度はいっぺんカイトが青い顔してドアノブに手をかけた私の手を止めた。

「女装したカイトかわいいから大丈夫よ!」
「いやはや、そういう問題じゃないよ」
「私とデートしたくないっての?」
「ふつうの格好でデートしたい」
「じゃあ、おめかし必要無いじゃない」
「デートはおめかしは必要だよ!」

 ドアの前で口論になっていたら突然ドアが引かれてカイトと一緒に入り口で転びそうになってとっさに受け身を取りカイトの二の腕の部分に手を支える感じになり私に多い被さる形で倒れた。

「カイト大丈夫?」
「すずさんごめん!」

 カイトが地に腕を着いて、私に倒れ込むのを防いでいた。
「おまえ等、こんな所で、みせつけてんじゃねーよ。遊園地よりラブホに行くか?」
「・・・紫、お願い!」
 紫は私の命令を忠実に無言でヒカルの下品の言葉を放つ喉を絞めあげてくれた。
 ヒカルは締めあげる紫の腕を三回叩いて、ギブアップをアピールし、閉め上げをやめさせた。

「いらっしゃい、待ってたよ。すずちゃん。カイト君」
 クスクス笑いながら慎一郎さんがソファーのイスから腰を上げて私たちに手をさしのべ起こしてくれた。

「あ。ありがとう、慎一郎さん。」
「今日はよろしくお願いします!」

 カイトは起こしてくれた手をさらに強くにぎり懇願するようにお願いした。
 私がデートを嫌がってると思っているらしい。
 だから、私が嫌がらない何か良い策を持っているだろう慎一郎さんに必死にすがるのだ。
 でなきゃ、初デートに他人に助けを求めるようなことなどしないだろう。
 カイトはいつも慎一郎さんに頼る癖がある。
 その癖を利用して慎一郎さんたちは私たちをおもちゃのように弄んでるんじゃないだろうかとさえ私は思うんだけど・・・
 けれど、それは素直じゃない私にとってカイトに甘えられるチャンスを与えてくれている・・・

「すず、そんなに深刻に深刻に考えることか?
人生は楽しむためにあるんだから、年の差とか世間体とか深く考えるなよ。な」
 ヒカルは少し心配してくれたのか、ぽんぽんと背中をたたいて私の気分をなだめようとしてくれた。

「うん・・・よろしくね」

 そんなヒカルに私は笑顔を向けて安心したことをみせた。

「よし、カイトをあっと言わせるお洒落をしてデートを楽しませてやるよ」

 ヒカルは私にニヤリと艶のある笑みを向けて、しなやかな指がいたずらっぽい唇を隠した。

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2013/04/11 (Thu)
「ほんとに、デートしたことないの?」
 
 慎一郎さんは僕の隣に座ると双子たちは慎一郎さんの膝の上に乗って、僕のほうをみる。
 
「かいとっておくれてるー」
「ようちえんせいでもでーとするのに」
「そ、そうだね。藍ちゃんと蓮くんにさきこされちゃったね」
と苦笑いしながら答える。
「もっと遅れてるのは、すずだけどな」
「うるさい、いいじゃない!常に一緒にいるんだしデートなんかしなくったって」
 とすずさんは断言した。
 
「カイトと暮らしてることが一番楽しんだから・・・」
 自分でいっていてすずさんは恥ずかしくなったらしく、顔が赤い。
 
「デートは別物だよ。いろんな発見あるし、違うところに行ってお洒落して以外な自分を見せられて楽しいんじゃあない?」
「一緒に暮らしてるんだからお洒落しても家でばればれよ? それに・・・」
 すずさんは、うつむくと顔が暗くなる。
「どうせ姉弟にしか思われないし・・・」
「ま、まだ、あの時の事を気にしてたの?すずさん」
「あの時のこと?」
 すずさんは、みんなの疑問の瞳を向けられてさらに顔をうつむく。
 すずさんと両思いになれた次の日、クリスマスケーキの用意を買いにデパートに行こうと、すずさんから誘われた。
 すずさんはちょっと張り切ってか、いつもよりはお洒落していたと思う。
 だけど、デパートの店員に仲のいい姉弟でうらやましいですね。
 みたいなこと言われた。
 すずさんは家に帰ってから「しっつれいしちゃうわ!こんなに似てない姉弟なんてどこにいるってのよ!」
 
 いや、結構いるから・・・と、心の中でつっこんだものだった。
 
 その後も、スーパーに行っても姉弟でお買い物と思われてしまった。
 
「まあ、今はそれはそれで都合はいいけどね」
 と割り切っていたけれど、かなりショックだったのだ。
「ちょっとしたコンプレックスかーすずってナイーブだな」
「すずちゃんてかわいいね」
 ニコニコしながら慎一郎さんは言った。
「カイトより子供っぽいなー」
 ヒカルはあきれた感じだった。
 そんな性格だからなかなか結ばれられないんじゃねー・・・とぼそりとつぶやいた。
 
「だから、デートとかってまだしなくていいと思うもん、カイトが大人になってからで・・・」
 子供のように頬を膨らませてぷいっとそっぽを向く
 
「何言ってるんだよ、そんなコンプレックス感じさせなければいいだけだろう?ね、慎一郎さん」
 ヒカルさんは慎一郎さんに目配せをすると、そうだねとうなずく。
「遊園地の券たくさんあるから、来週行ってくればいいよ。そのかわり、バーに集合な。」
「なんで、バーなの?」
「すずのコンプレックスをなくしてやるためだよ」
 慎一郎さんとヒカルさんはニヤリといたずらな笑みをして僕たちをみた。
 
 何か絶対、企んでいるけれど、デートを演出してくれるんだったら、いたずらでもなんでもいいやと思った。

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2013/02/28 (Thu)

「おまえら、デートしたことないの!?」

 慎一郎さんの家でヒカルさんは驚きの声を上げた。
 ヒカルさんは昼はなるべく藍ちゃんに会いに週に一回は遊びに来る日にちょうど、すずさんと僕、カイトが遊びに行った日が重なった。
 慎一郎さんの大きなマンションのリビングの床で藍ちゃんと蓮くんはおもちゃを散らかしながら楽しんでいたときにそんな会話になった。

「でーとしたことないの?」

「したことないの?ぼくはしたことあるよー」
「えーだれとー?」
「あいちゃんの友達のきららちゃーん」
「えーきららとつきあってんのー」
「うん。きすもしてるよー」
 双子たちはませた会話をして盛り上がっている。
「藍ちゃんは僕と結婚するから、誰ともでーとしちゃだめだからね!」
 その会話にまざったヒカルさんは目が真剣だった。

「勝手なことをいってんじゃない!変態おかまやろうに大切なむすめをやれるか!」
 ラフな格好をした慎一郎さんがヒカルさんの頭を軽くはたく。
「そうよね、年齢さありすぎ」
「すずにいわれたくねーよ」
「うっ・・・あんたよりマシよっ!」

「デートというベタな肯定を忘れてヤっちまってる人にいわれたくないですー・・・ぐはっ!」
 すずさんの空手三段のチョップがヒカルさんを黙らせた。

「やってないっていってるでしょ!分別付けておつきあいしてるの!私たちは!」

 腕を組んでフンと鼻を鳴らしてそっぽを向く仕草を双子たちは面白がってまねする。

「デートか・・・・・・一緒にいすぎてそういうことを恋人するイベントをすっかり忘れてた」
 ヒカルさんとすずさんのバトルをみながら、そう無意識に言葉に出ていた。
 そして、想像する。

 デートそれは遊園地や動物園で楽しむこと、そして最後にはキスして・・・
 もうちょっと大人だったら

『今日とまってく・・・?』
『うん・・・』

 そしてさらに愛が燃え上がっちゃったり・・・とか、思うものの、僕はすずさんと同居中だ。
 常に一緒にいるようなものだから、デートなんて思いもつかなかったんだ。

続く…






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2012/09/21 (Fri)

「ほしい・・・すずさんが好きなんだ」
とても愛おしくて狂おしい…
ずっと抑えているものが溢れだすばかりだ。
すずさんも同じ気持ちなんだろうと思うもう止まらない…

「私も…カイトがほしい…でも…っ!」
大人として未成年に手を出しても出されてもいけない。
けれど、カイトは有無も言わず私をそのまま押し倒した。

「ちょっと、ここ玄関よ!ここはまずいわ。」

そう抵抗しても、カイトは首筋にキスを落として、
服の中の私の胸に手をあて・・・
やわらかく包み込み、しなやか指が私の心を捕まえるように妖しくふれてくる。

「やっ・・・カイトっ」

突然、初めて触れられてぞくりとする。
私は慌てて、その手を押さえてやめさせる。

「じゃあ、ベットならいいの?」

焦躁感が止まらないカイトは耳元でささやく様に問う。
その声がどこか艶っぽい・・・

「う。うん・・・」

ああ・・・肯定しちゃった。
否定しなきゃいけないのに…

「あーーっ!ごめーん忘れ物!」
ガチャリと遠慮なしに真一郎さんは扉を開けて玄関でいちゃついている私たちを見て、その場の時間が止まる。

「あーー…ごめーん。ほどほどにねっ!」
ウインクして玄関の扉を閉じる。
そして、真一郎さんの笑いながらじぶんの車に到着するまで笑い声が聞こえた。

なんだかとても恥ずかしくなって、その場の空気がさめる。
僕のあふれだす愛も心の中になんとか納まってしまった。
「ご、ごはんにしよっか?」
「そ、そうね。そうしましょ」
すずさんも同じみたいでほっと胸をなでおろす。

ちょっと気まずい雰囲気だけれど、お互いの顔を見つめあると笑ってしまって笑いが止まらない。

わざとらしく、忘れ物した真一郎さんとその罠にはまってしまったなと思う自分たちがなんだかおかしくて笑いがとまらなかった。

お互いの同じ気持ちがあるとおても面白くて幸せ。
こんな風にずっと過ごしていければいいな・・・

でも、徐々に私たちはゆっくりだけど体も結ばれてさらなる幸せを手に入れられることを刻んでいこうと思った。

それが、毎日そばにいる、刻まれる、私たちの絆と愛だと思って・・・


そして夜

「すずさーん。一緒にお風呂はいろー」
「だめっ!いやだ!まだ早い!入ってきたら絶交よ!」


ほんと徐々になんだけれどね・・・
あの時以来カイトはちょっと攻めすぎなのが今までの私の生活に危機を与えていることは言うまでもない。


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2012/09/21 (Fri)
真一郎さんはテーブルに肘をつき組んだ手に顎を載せて私たちを見た後、にっこりと微笑む。

「実は俺はらはらしてたんだ。このまま二人の恋仲が切れちゃうのかなってさ」
「え…?どういうことですか?」
カイトは首をかしげる。
私は神妙にうなずいてしまった。
たしかに、危機だった。すれ違い生活はテレビでやってたように心がつながらない不安が不満につながって別れてしまうんだなってしみじみ思った。

「だって、カイトくん。仕事してお金もらえて自分の好きなもの買えるってうれしかっただろう?」
「は、はい。でも・・・・」

たしかに家に入れてもらうもの以外のお金はカイトのお小遣いアップにもなったけれど、実際は。
僕の場合はフライパンとか鍋とかすずさんにご飯を喜んでもらえる道具ばっかかってたから・・・」

「え・・・?そうなの?」
真一郎さんは目を丸くする。

その反対にカイトは真面目にうなづいて、微笑む。
「今回の仕事の目標はすずさんを安心させることであって自分にお金を使うなんて考えてなかった」
「ふ、いいこだねぇ…」
真一郎さんはしみじみと半分あきれと半分関心した声を出した。
私も真一郎さんと同じ感想だったけれどそんなカイトは純粋で私は愛されてるんだなーってしみじみ感じる。
「カイトくんは芯から人と思いやることを知ってるんだね。僕の心配はいらなかったってことかー・・・」
「いいえ、私は心配してもらえてうれしかったですよ。真一郎さん。実際、すれ違いを感じたのも事実だし」

真一郎さんのつてじゃなかったら、カイトはがんばって仕事続けていたと思う。
断らせることもできなかったかもしれない。

いまは週三日であとは学歴とるための勉強と家事におわれている。
多少のお小遣いはほしいし、元気な青年が毎日家の中にこもっているのももったいない。
でも、私が帰る頃には出来るだけ帰ってきてご飯を作って一緒に過ごす日々になった。

「でもお互いを思っていることは素晴らしいことだね。オレにはできなかったから少しうらやましい」
少しさみしげに真一郎さんは、どこか遠くを見つめる。

「りり子にはもっとそういう気持ちを共感したかった・・・それを君たちにも知ってもらいともおもってたんだ」
「真一郎さん・・・」
カイトには平気なことだっただろうけど私には荒療治・・・

りり子姉は真一郎さんととても仲が良かった。
ホストという職業柄いろいろ苦労したらしいけれど、それでも二人はお互いを尊重し夫婦になってかわいい双子を産んで早く逝ってしまった。
真一郎さんはもう誰とも結婚せずに、藍ちゃんと蓮くんを大切に育てるときめている。
それはりり子姉への思いでもある。

真一郎さんのもう叶わないりり子姉への思いを思うと少し切なくなった。


真一郎さんが帰った後、カイトの手をぎゅっと握る。
「すずさん?」
「あのね、お金なんて関係ない、思い合える人がいる。大切な人がいるそれだけで幸せになれるんだね」
「うん。そうだね。」
カイトもその思いを受け取ったかのように握った手に力を込める。

「カイト。好きよ」
そういうと、チュッと僕の唇にすずさんの口付けが軽く落ちる。
「す、すずさん」
うう。。。我慢できない。
自分の心の中に納めておきたい大きな愛しいという想いがすずさんを抱きしめる。
「カイト・・・くるしいっ」
「僕もくるしい・・・どうしてもすずさんが欲しい・・・」
「あなたの欲しいものってやっぱり、私なの・・・?」
すずさんが背中に腕をまわしてそう問うた。

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2012/09/20 (Thu)
「御褒美作業で、仕事に来れなかったわけだ」

ふーんとやっぱりなという、ドヤ顔でニヤニヤしている光さん。
光さんだけじゃない・・・真一郎さんもニヤニヤして僕のほうを見る。
昨夜、仕事に来れなかった理由を尋問されているが、いたたまれなく恥ずかしい。

「ご、御褒美はもらってないですよ・・・ほんとに」
「未成年に手を出したらすずは犯罪者だもんな!あはははは」
「でも愛する者同士なら犯罪なんて関係ないんじゃないかな?大丈夫だよ、ここの仕事より健全な男女関係だ」
「いえいえ、ぼく料理してるだけですから。って本当に何にもなかったですからそれだけは、言ってきなさいってすずさんに言われました」
「そういうところが怪しいんだよ。恥ずかしがって隠したい気持ちはわかるが、逆効果だってーの!」
ばんばんと僕の背中を叩いて、カイトも大人の男の仲間入りかーと異様に喜ぶ光さん。
「いえ、まあ・・・・」
信じてもらえそうにない・・・・ごめんなさい。
すずさん・・・

すずさんに抱きしめられた後の記憶はない。
あまりの、すずさんの馬力(?)に息が出来なくなってそのまま気絶をしてしまった。
朝起きたら、すずさんが目の下に隈をつけて僕を見つめていた。
「す、すずさん!?僕は一体…」
「き。ぜ。つ。し。た。の。」
そういうと、ふんとそっぽを向いた。
せっかく女の一大決心が台無しじゃない・・・とぼそりとつぶやいたのを聞こえた。
「ご。ごめんなさい・・・」
据え膳食わぬは男の恥というか食い損ねた・・・・ちっ!と内心残念だった。

「朝ごはん作って、部屋の掃除して!早くっ!」
「は、はい!」

すずさんの命令でゴミやしきとかした家の中を片付けて向かい泡で出ご飯を食べるのはひさしぶりで楽しかった。

いつもの日常が一番しあわせだとしみじみ感じた。

でもなんかだ、キスより進展したようで、すずさんは、朝のご飯を作っているときギュッと背中から抱きしめることが多くなった。
なんだか、くせになってしまったらしい。
人の温かさが恋しいというけれど、子供みたいだとおもっていまうと同時に

「誘ってるのかーーーーーーーー!?」
ってドキドキしてしまう。

昨晩の窒息抱っこをどの程度手加減すればいいのか研究しているとは、馬鹿らしくて言えないけれど
甘い雰囲気をまた狙っているいるのと言われたらそうかもしれない。

カイトが好き。
ずっと触れていたい。
あのとき、体は結ばれないままだけど
心が結ばれるのはとても幸せでそれを確かめるために何も言わないで背中からだきしてみた。

ああ・・・幸せだな・・・


このあと、夜のバイトは控えさせることにした。
やっぱり、そういうことは未成年にやらせられない。
保護者のたちばと恋人として嫌だった。

保護者の立場がなくなれば、本当に結ばれてもいい
結ばれたい。
本当は今スグに

でもカイトの将来私の将来を考えて自制をしようと思ってる。
どこまでじせいできるかわからないけれどね。

カイトを家まで送ってもらって真一郎さんにお茶をだしているとき
「元の鞘に戻ったようでよかったよ」
ほっと溜息をついて、そう私たち本音をこぼした。

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2012/09/20 (Thu)
ああ…私…こどもみたいに駄々をこねてる…
涙までこぼしちゃって・・・
心ではどこか冷静になっている自分がいる。
でも、実際冷静でいられなくて、不安で悲しくて、本音をはきだしている・・・

でも冷静に分析しているところが顔を見せられない恥ずかしさで下を向いてしまって、カイトと真摯に向き合えないでいた。

「すずさん…泣かないで。ね?」

カイトはやさしく声をかけながら、困りながら、下を向き涙をこぼししゃくりあげる子供な私にやさしい。
斜めからかがんで私の顔をのぞきこもうとする。

かあっと顔が赤くなる。
恥ずかしい。
言ってしまった。
本当のことを…
子供でわがままな私は年上なのに恥ずかしい。

のぞきこまれるのが嫌でカイトに背を向ける。

「ごめん・・・大人なのに・・・子供みたいなこと言っちゃって…もうわがまま言わないから、仕事いっていいわよ」
「いけないよ・・・そんなすずさんを一人に出来ないよ」
そういい、後ろから私をそっと抱き締めて、耳元でささやく。
「僕も、すずさんがいるから仕事が楽しいがんばろうって思った。・・・でもすずさんが悲しむなら仕事しない。ずずさんの帰りを待っているほうがいい」
そういって、カイトは柔らかい唇で耳を食む。
ゾクリと体が熱くなる。いや、しびれる感じだろうか・・・
「っつ!な、な、なにするの・・・!?」
初めての感じで恥ずかしくて、カイトを押しのけようとしたけれど、男の子といえど、男の力で抱きしめられたら、抵抗できなかった。
「すずさん。ずっとこうしたかったんだ。仕事始めたのはすずさんが安心して僕と結ばれて家庭を作るためだったけれど、すずさんと会話が少なくなるの触れ合うのが少なくなることに矛盾をかんじていたんだ・・・」

そういいながら、今度は首筋に唇をあててキスをされた。
「・・・っ!」

顔だけじゃなくって、体中が熱くなる。
カイトに襲われそうになって以来の出来事で、でもあの時と雰囲気が全く違くて・・・

なんかだ
甘い雰囲気でしびれる・・・

「すずさんもそう思っていてくれた?」
「あ、あたりまえじゃない・・・なんて矛盾してるんだろうって、ずっとずっと、カイトと触れ合いがなくなってててとっても不安だったの・・・カイト疲れて帰ってくるし,起こすの悪いなって思ったりしてたら、すれ違ってって・・・」
恥ずかしさのあまり、雰囲気を変えようと思っても今までの思いを思い返すと涙が出てきた。
「すずさん?」
「ごめんねカイト・・・私わがままで。」
「すずさん・・・」
ギュッと背中から抱きしめられる。
温かい。とくんとくんとカイトの音が聞こえる。
こうされたのは初めてだ。
親に抱きしめられた以来かもしれない。
「ずっとこうしていたいな・・・」
ぼそりとつぶやいてしまった。また恥ずかしいことを言ってしまって、顔が熱くなる。
「ずずさんのわがままなら、なんだって叶えてあげたいよ」
反射的にカイトの顔を見たくて少し上に顔をそらすとカイトと瞳があう。
カイトも突然のことに顔を真っ赤にしてる。
「ちょ、ちょっと大人っぽかった僕・・・」

あらためて、顔をのぞかれるとハッと現実に戻る。
実際すずさんのほうが年上なのに、子供扱いして失礼だったかもしれない。
ただ、無意識にすずさんが愛おしすぎて、触れたくて、自分のものにしたいという衝動が抑えられなかった・・・
すずさんはそんな僕の顔を見てくすっと、笑った。
久しぶりのすずさんの笑顔とおもい、僕もうれしくてほほ笑んだ。

「カイト…大好き・・・愛してる・・・」
すずさんは体ごと僕に向き合って、胸に顔をうずめて抱きしめる。
空手三段柔道三段だけある力強いほうようだった・・・


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2012/08/30 (Thu)

ズボンのポケットの中で携帯の振動が鳴る。

「ああ・・・時間だ…いかなきゃ・・・」

充分に疲れが取れない体を無理矢理起こして、背伸びをする。
いま工場のバイトは忙しい時期で残業を断ることなく働いて家の事が出来ないでいる。

ゴミ山だらけになった家に申し訳なさを感じる。
しかも、いまホストバーにバイトに行ってご飯をつくるのにすずさんとの楽しい食事を作る事も出来ないなんて…
虚しさと矛盾を感じる。
「でも、すずさんにアンしてもらうには今は耐えなきゃ・・・」

時計を確認すると深夜2時近く。
ホストバーは深夜同じ同業者のホステスさん相手にも商売する事があるので朝6時頃まで仕事がある。
けっこう朝早い仕事なのだ。

もう、この時間はすずさんは寝ているから、ばれないように眠りを覚まさないように、そっと玄関の方へ向かうと
すずさんが仁王立ちで立ちふさがっていた。

「す、すずさん・・・どうしておきてるの?」
いつもなら十時にはねているのに起きている事にびっくりしてしまった。
「明日休みだからよってか休みをもらったのよ」
「そ、そうなんだ・・・」
「こんやも、ホストクラブへバイト?」
「な、なんで知ってるの?」
「ふ・・あんたって馬鹿がつくほど正直ね」
呆れた溜息を吐くすずさん。
思わず僕は俯いてしまうすずさんの顔をまともに見られない。
やばい、すずさんにはこの仕事はダメだって言われると思ったから言わないでいた。
それも罪悪感になっていてすずさんとの会話に少しぎくしゃく感が影響していた。
ホストクラブで調理だけの仕事アルバイトしていると言えど未成年で働かせている保護者としては遺憾だろう。
すずさんがこちらへと近づく気配があって、頭上にすずさんの手を感じる。
思わず殺られる(脳天チョップ)とおもったけれど、優しく頭をなでられた。

「そんなに・・・がんばらなくてもいいのよ」
思わずすずさんの顔を見ると悲しそうな辛そうな顔をしている。
僕の心もすずさんと同じ気持ちになって悲しくなるそして心配になる
「すずさん?どうしたの?何か悲しい事あるの?」
僕の頭を撫でている手を思わずとって胸の前でギュッと優しく握った。
その行動にすずさんの顔は赤くなってそっぽを向きながら
「べ、べつに・・・そんなんじゃないけど。とにかく体が辛くなるほど頑張らなくていいてこと言いたかったの。」
今度はすずさんが僕の顔を見ない。
「でも頑張らないとすずさんを安心させてあげられないから、僕は行くよバイトに・・・」
何時もぎりぎり出勤だからもう行かなきゃ、紫さん一人に厨房を任せることになってしまう。
すずさんの体をそっと押しのけて急いで外へ出ていこうとしたらすずさんが僕のトレーナーの帽子を思いっきり引っ張り首が閉まる。
「くっ!すずさん?僕急いでいかないと」

「行かないでっ!」
顔を伏せたまま泣き声交じりにそういうすずさんの声に何かに胸を突き刺された。

「今・・・とても不安なの・・・とても・・・」

「すずさん?」

床にすずさんの涙が一滴ぽたりと落ちた。

慌てて僕はすずさんのもとへかけより顔を覗き込むように慰めようとする。
だけど、いやいやする子供のように僕を拒否して涙をふく。
「私・・カイトがいるから仕事が好きになったの・・・」
ぽつりとけれどはっきりとすずさんは口にする。
「カイトが家にいるから頑張って仕事をする事が出来るって気がついたの」






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2012/08/24 (Fri)
「そんなにへとへとになるまですずの為に働いてるって分かってるんだったら一発やらせてやれよ」

ホストの格好をして人を引き付ける品のある美貌を持つ光は悪びれることなく私を責めるように品のかけらもない言葉をい放つ。
腹が立ち、腹部に拳を遠慮うなく一発入れてやった。
「こんな風に・・・?」
光はその場にうずくまり、ううっ・・・と痛さに耐えるために無口になった。
「そういう問題じゃないのよ!」
「そういう問題だろう!?子供を安心して作れる環境の為にカイトのやつガンバてるんだからさ」

光は腹をさすりながら私のの言葉を否定する。
ホストは口が命、腹に一発だけじゃ黙らせるのは無理か・・・
しかもストレートに図星を付いているからこちらが黙る事になる。

「工場の仕事もがんばって金溜めて、ここで働いているのは真一郎さんが将来の為に自給をためてもらっているんだとさ」

「私だってお金貯めてるからそんなに頑張らなくてもいいのに…」

一人暮らしだったら余裕にお金を使えていたけれどカイトと二人暮らしで以前のようにお金をためるのも自由に使うの
も正直大変だった。

でもそれは…

「すずは今の仕事好きで働いていて辞めるつもりもないだろう?
いざ出産なんかなったら収入にも困るしもしかしたら路頭に迷う事になるしな。そのための保険だとおもっておけばいいんじゃないか?」
光は客観的に正論を言う。それは私を納得させ安心させるものだったけれど、今は違うのだ。
ケンカしたときは光が言うように将来の為の生活が出来るかが問題だった・・・
「でも…今が問題よ・・・」
私はぼそりと独り言が口に出ていてそれを光は聞き逃さなかった。
「だから、結ばれちまえって言ってんだろ?行きつくところは結局それなんだからさ・・・ごふっ!」
今度は水落に一発入れて黙らせたと言うか気絶させて私はさっさと帰宅することにした。

カイトは少し勘違いしちゃてる・・・
勘違いさせたのは私だけど・・・

いま、私は仕事が楽しいし、好きな仕事にやりがいもある。
今の稼ぎだけで十分一人で暮らせていけた、
でもカイトと暮らして正直きつい事もあるけれど自分の自由のお金を減らせばいいだけ・・・
そして、今はカイトがいるから仕事を更に頑張れる。

なのに・・・

仕事から帰るとまた、ゴミ袋につっぷするように倒れていて、そんなカイトを背負って布団に寝かせる日々。
なんだか、寂しい
悲しい
虚しいな…

そうおもうと、ポロリと一粒の涙がカイトの寝顔に落ちた。

すずさん・・・
すずさん・・・泣いてるの…
どうして…
僕がんばってるよすずさんと幸せになれるように仕事がんばってる。
正直仕事するのはたのしい。
家にこもっているより動いてその分お金になることが楽しい。
でもね、でもねこの楽しさは未来を考えるから
すずさんとの幸せの未来を思うから・・・

なのになんで泣いているのそんな悲しい顔・・・・
しないで・・・

ぶるぶるぶるとポケットの中の携帯の振動が鳴る。
もう仕事に行く時間だ・・・



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2012/08/16 (Thu)
カイトが仕事を始めてから、生活習慣が変わった。
出勤時間帯が一緒だから、路の途中まで一緒に通勤して、夕飯のときはいつも以上に会話が増えた。
始めのころは仕事や人間関係が上手くいかなくてなやんでいたのに、半月たった今ではなんだか楽しそう。
その話を聞いているのもたのしいし、カイトが社会を少しでも体験できている事はカイトにとってもいい経験だと思う。
でも、朝仕事一緒に仕事言っているけれど、夜もカイトはアルバイトをしているらしい。
それはきっと真一郎さんのバーの仕事だと思うけど…
一生懸命働いているカイトの姿をみるとやめろとは言えなかった。

けれど
三ヶ月経ってさらに今までの生活が変わっていってしまった。
いや・・・戻ってしまったと言うべきか・・・
カイトと出会う前の私の家に・・・

だんだんゴミ邸状態になってきて、さすがの私も
「カイト!家の事やってよ!カイトの仕事でしょう!?」
「ぼ、僕だ手仕事が忙しくて疲れて・・・ごめん今日はもう眠い・・・無理…」
そういうと、ゴミ袋のクッションに突っ込んで眠ってしまった。
「もう、カイトったらそんなところで寝ちゃだめでしょっ!コラッカイト!」
拳一発入れても起きない・・・
これはもう重症だわ・・・

しかも最近こんな感じ。
通販のッピッキングが忙しい時期で残業までして帰ってくる、そして夜になったらバーに仕事にいってしまう真面目のカイト。
まじめに働いてくれているのは私を安心させてくれる為だってわかってる。
でも
この頃カイトとたわいもない会話もしていない・・・
何時もこんな感じで帰ってくるからしかたないけれど・・・
これってテレビで観た…
「『擦れ違い生活』というものなんじゃないかしら・・・」
新たな不安が込み上げてきたのを知らずにカイトは行き日まで書いて眠っている…
「カイトの…馬鹿…」
会話してくれない唇にキスを落とす。
無意識にカイトは幸せそうな顔をすると会話がなくてもなんだか心が温かくなってく・・・
キスを落とす時でさえドキドキするほどだけど
その事を眠りのなかの小さな王子は気づかずに眠っている。

カイトが来る前のゴミ邸になっているのをすこしでもカイトが来て綺麗にしてくれたように私なりに片付けてみるか。

けれど翌日カイトが愕然とするほど部屋がなおさら散らかってしまったのは言うまでもない・・・




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2012/08/09 (Thu)
「僕働くことになったよ!すずさん!」


仕事から帰ってくると、しばらく真一郎さんのところでお世話になると出ていったカイトは玄関にいつものように出迎えてくれていて、開口一番の言葉がその報告だった。
あまりの突然の事に私は驚く。
「真一郎さんに紹介してもらったんだー!」
「え…そうなの?どこで働くの?というか家の事はどうするの?」


真一郎さんのつてで仕事を紹介してくれるなら安心だけど、冷静に考えていれば今考えても仕方ないことで、悪い事言ったか持って反省なんかしてたんだけど…その言葉を本気に悩んで仕事を取ってくるとは侮れない子だ。

「もしかして、オカマバーとかじゃないでしょうね!?あんた未成年だから働いたら犯罪よっ!」
「う、ううん…真一郎さんの経営する通信会社のアルバイトだよ」

最初の言葉のつっかかりが気になるが、真一郎さん関連だから目をつぶろう。

「アルバイトいいんじゃない?カイトも少しは仕事の大変さ、社会勉強も必要だしさ」
「うん。年収六百万は行かないと思うけど、がんばって働いて、不安をなくしてみせるよ!」

ギュッと手を握って目をキラキラさせて見つめ合う。
カイトの意気込みに感動して涙が出ちゃいそうになる。
私の為に頑張ってくれるなんて…なんてかわいいのっ!なんて純粋なの!カイトに気持ちがとてもうれしかった。

「そして安心して子供をつくろうねっ」
「うん・・・うん?」

子作りのためにしごとをするってこと?
それはそうなんだけど・・・なんだかなんだか

「不純の動機じゃないの!カイトのばかっ!」
恥ずかしさと、本心がそれかっ!と思う事が同時に手が出てしまいカイトの頬をひっぱたいてしまった。

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2012/07/20 (Fri)
「どーしたカイト君?すずさんにやられたのかい?」
真一郎さんは僕を見るなり驚きの顔で出迎えてくれた。
なぜなら、
頭には包帯がぐるぐる、絆創膏が痛々しい僕の姿におどろかないわけはない。
僕は、真一郎さんの心配してくれる優しさに涙をためてしまう。
「すずさんの怒りが収まるまでいそうろうさせてくださーいぃ!」
ひしっと、真一郎さんのたくましい胸板にダイブした。

ケンカの理由を話すと真一郎さんは顔いっぱいに空気を膨らませて耐えきれずに吹いた。

「あーーーーっははあはははははははははは!」

真一郎さんはお腹を抱えて大爆笑している。
もう、ごろごろごろと床まで転げまわるほどに・・・

「真一郎さん・・僕真剣に困ってるんですよ、破局の危機ですよ!?そんなに笑わなくたって…」
「笑わずにいられないよーーーーもー君たちの恋愛かわいい~~~~~~~」
可愛いから爆笑ってどういう事だ・・・
真一郎さんの笑いのツボが分からなくて僕は困惑する

「すずさんに答えが出るまで帰ってくるなって言われてるんです・・・・・」
「それまで俺のところに居候してくれるんだ。じゃあ、答え見つからなければいいなぁー」
「もう!真一郎さんのいじわるっつ!真一郎さんにしか頼れないのに・・・」
冗談だってわかるでも、本気で困っているからそう甘えてしまう。
「頼ってもらえるのはうれしいけど、答えはカイト君自分で考えたほうがいいって言うより・・・
すずさんにもその答えが分かってないと思うね、だから、不安なんだ」
分からないから不安…
未来が分からないけれど想像すると不安の事が多い。
金銭を現実に未来を考えると現実に近い未来が不安に終える事がある。
現実にお金を稼いでがんばってるのはすずさん。
だけど、すずさんひとりで僕も養ってるのは大変だ有り難く思う。
でも、将来すずさんと子供をつくって、今よりも幸せになるにはお金が足りなくなる。
それは、幸せになれない未来につながる事なんじゃ…

今さらになって、すずさんが不安になってる事を思い知った。
「年収六百万稼いでないと結婚不安ってテレビでやってた・・・僕も六百万稼げたら不安にさせないで済むのかな…」
と僕はつぶやいた。
「サーそれはどうだろう・・・」
真一郎さんはどこか遠い目をしてそれからしばらくだまっていたけれど、
「でも結局…女性を安心させるのはなんだかんだ言ったってお金だからね」

「愛があれば幸せだと思ってたけど・・・・違うのかな…現実は・・」
「まあ、僕たちホストは愛や優しさをうりにしてお金をもらってるけどね」
肩をすくめて溜息を真一郎さんは吐く。
そんな真一郎さんに白い目を僕は無意識に向けていた、そんな僕にいたずらっ子のようににやりとわらって
「だったら、その現実をつなげるのが今のカイト君の出来ることだよ。未来の為にちょっと、稼いでみるかい?
すずさんへの不安やあいをつなぐためにさ」
真一郎さんの言葉は応援と適切なアドバイスと説得力があった。
「稼いでみます!すずさんの愛をつなぐ為に!」
「でさ。まず僕のお店のアルバイトもやってほしんだ―だめかな?すずさんには僕から言っとくからさー」
「・・・・・・ほんとはそれが狙いですか?」
「てへ❤ぺろ」


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2012/07/19 (Thu)
テレビで婚活がテーマの特集をカイトのおいしいおかずを食べながら観ていた。
『年収六百万の男がなかなかいないのが問題よねー』
『そういう男性じゃないと安心して結婚できないよね!』
『なかなか年収六百万以上稼ぐ男性がいないのも現実だから彼女たちは結婚できないと言う』
私はじっとテレビを見て考える。
そんな私の真剣そうにテレビを観ている様子を見てカイトは
「すずさんには僕がいるから婚活なんてかんけいないよね?」
そう、6歳違いの現在17歳のカイトが私の恋人。
去年のクリスマスにめでたく両想いになった、現在ひもの恋人。
ヒモ…
それは、彼女が彼を養う状態の事。
家事を全くできない私にとって彼は大天使さまだ。
ずぼらな私の世話をかいがいしくしてくれる。
その分彼にもお小遣いをあげていて、いまや生活費も管理してもらっている。
一人分の生活で満足していたから多少無駄つかいしてたりしたけれど、カイトの分もかんがえると、けっこうカツカツな生活だ。
けれどそれが幸せのあかしだとも思ってる。
今の状態に不満はないけれど、もし、なにかの手違い…
いえいえい、カイトが18歳になるまでそう言う事はしちゃいけないと思っているけれど、何かのきっかけで妊娠しなくちゃいけない状態になって、収入がなくなる状態になったらどうしようとおもう。
出産費も高いって聞くし・・・
そうなるとカイトに働いてもらわなくちゃならない・・・
「ねえカイト・・・あんた外に出て働く気がある?」
不安に思ったらふいに言葉に出てしまった。
「え…?」
「え…?って考えてなかったの?
まあ、今は考えてなくても良いけれどそれは、私が仕事が出来なくなった時の対策の一つだから…」
「僕・・中卒で学歴ないから…働けるところない・・・」
カイトはしょぼーんとして自分の情けなさに涙をためていた。
気づ付きやすい年頃だし、一般の同い年比較しないわけでもないと言う事をよくわかってるのに、そう聞いた私のばか!
「うん…そう、よね。私が稼いであんたが家の事やってもらえればいいと今も私思ってるわ」
「僕もそう思ってた・・・ずっと、主夫していたい」
「主夫ね…でも私に稼ぎがなくなったら大変じゃない」
彼はまだ17歳でまだまだ将来があると言うのに私の為に主夫でいてくれると言うのはうれしいけれど、男としてその考えはどうなんだろうと思うと私はイラっと来た。
「カイト…中卒で自分を卑下するなら、今からでも勉強して放送大学でもいいから学歴を取ればいいだけの事じゃない。家事だけって暇でしょう?その暇を見つけて勉強したら?」
「でもかじって結構大変なんだよ、すずさんすぐゴミの家にする…し」
私はキッと睨んで口を閉ざさせた。
「そ、それに!もし子供が出来たとしても僕が責任を持って面倒みるし!」
その言葉は私のほんとに言いたかった事に的を射ていた。
妊娠でもしたら稼ぎがない事が私の不安だったからだ。

「それは父親はあんたになるんだからあたりまえでしょう!?」
「うん!あたりまえだね!えへへ」
その言葉は裏を返せば、子作り・・・sexしなくては現実にならない。
あなたとしかしないって言ってるようなもの・・・
まだキスしかしてないし
その、いざそういう事をするんだと言う事を考えると無意識に顔が赤くなった。
だって、そのお相手が目の前にいるんだもん!
って・・・
「そーじゃなくて!そうでもあるけど!」
「そっか、そうだよね、妊娠したら十か月の間の稼ぎの事考えなきゃだよね!」

「そうよ、そうなったときどうするつもり?」

「大丈夫だよ!その時は!・・・」
異様にカイトは自信満々だ。
「どーにかなるさっていうんじゃないでしょうね?」
「そんな考えなしの事いわないよ!」
「そうよね!それで、そうするつもり?」

「眞一郎さんのところにいってオカマバーで働かせてもらうから!!」
・・・・一瞬私の頭は真っ白になった。それに追い打ちをかけるように
「光さんが僕はけっこういけるっていってた!ナンバーワンになって稼いでみせるよ!」


それはそれで・・・・・

「大問題でしょうがあああ!!」
あまりの発言に頭に血が上りいつの間にか、カイトにバックドロップをきめていた。

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2011/07/30 (Sat)
 「すずちゃん、カイト君貸してくれない?」

「だめっ!未成年者が働いて良いお店じゃないでしょ?」

真一郎さんがカイトの料理の上手さに目を付けてスカウトしにくきた。

「店じゃなくて俺ん家で子供達と俺のために作るバイトだよ良いだろ?カイト君?」

カイトは少し考えて
「僕の椅子の用意ととすずさんが僕の向かいの席なら良いですよ」
と答えた。

「…っカイト!」

あの訳の分からない告白を本気にしていわなくても良いじゃない!

ときたま、そんな意地悪するようになった。

真一郎さんは訳が分からなくて首を傾げるが

「ん?いいよ。じゃあ持っていくよー
この椅子がある限り家にきてくれるってことだろ~?」

真一郎さんは本気で椅子抱えて出ていこうとする。

「待って!分かったから椅子置いていって!」

私は慌てて椅子をもとに戻した。


「私が仕事中ならカイトがご飯作りにいってもいいわ。
でも、帰ってきたら私にご飯作ってね
ずっと一緒にカイトとご飯食べる一生の約束だもん!」

子供みたいな言い訳だ。
「すずさん…」
その言葉がとても嬉しいカイトはぽーとして喜んでいる。

「すずチャン…かわいいっ!」
おもわずぎゅっと抱きしめられた。
「真一郎さん…」
カイトは真一郎さんを睨む。

「ごめんごめん!そうだね。めでたく恋人同士になったふたりの邪魔しちゃいけないね。」

真一郎さんはふと寂しげに微笑んで

「大切な人と向かい合わせられるって幸せな事だよ。
俺はもう叶わないけどね…」

姉ちゃんは真一郎さんに子供達をのこして逝ってしまった。
「いつでも良いから遊びにきてくれよ

「うん。明日にも遊びにいくわ」

「そうしてくれると助かるよ
光が毎日藍目当てで来られて気が気でないからさ」

光さんは藍チャンになぜだか運命感じている。
危険は無いと思うけど父として心配なのかも。

「それにしてもどうして向かい合わせなんだ?」

真一郎さんの家で約束通りご飯を作りに遊びにきたら、案の定ヒカルさんもいた。
カイトと向かい合わせに座って私の隣は蓮くん
カイトの隣に藍ちゃんそのまた隣にヒカルさん
真一郎さんはお仕事中だ。

真一郎さんのダイニングテーブルは大きい8人座れる。
椅子も高そうな家具だ。

「隣同士ならもっと近くじゃん。いろいろできるじゃん」

「あんたが真ん前だったらその顔一発なぐって黙らせてやれるのに…」

子供の前でなんて下品な…

「そうかその距離はまだまだなのかー
大きな隔たりだなカイト」
「いろいろって~?」
「まだまだー?」
双子たちが復唱する。
カイトは苦笑いで応えない。
カイトもヒカルさんの上手く伏せた意味深口調に引いている。

「うーん~藍ちゃん好き好きが出来ないってこと~」
突然ぎゅっと藍ちゃんを抱きしめるヒカルさん。

「いやーっ!」

藍ちゃんは見事にヒカルさんの顎に頭突きした。

「ナイス!藍ちゃん」
グッジョブとグーをだして誉めてあげた。
ヒカルさん以外がそのポーズをして笑い合った。


確かに

ヒカルさんの言うとおりだけど

軽いキス以上はまだ怖い
あの時のトラウマだ。
関係は崩れる事はないけど…

今はこの距離が幸せなのよ。

小さなテーブルに向かい合わせの椅子の位置がね。

チャンと向き合える恋愛したいから…。



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2011/07/29 (Fri)
 「ゴメンナサイっ!」
まだカイトは謝っている。
謝りまくられるとイライラする。
「もうそれは良いって行ってるでしょ!!」
そのイライラをテーブルをバンと叩いて解消させるとともにカイトを恐縮させた。
その様子をみて押し倒して私を泣かしたことの仕返しができて胸がすいた。

だから許す。

でも小さくカイトはゴメンナサイと小さく呟いた。

その様子がカワイくなってついヨシヨシと向かいに座って小さくなったカイトの頭に手を伸ばしなでる。
「すずさん…」
ぱぁと嬉しそうに微笑む。

「お帰り…カイト」
「ただいま…すずさん」

「何だか逆ね。いつも私がただいま言うのに」
「そうだね。初めてだ」

見つめ合って笑いあう。

いつもと同じだ。

向かいの椅子に座って笑い会う。

だけどチャンとハッキリさせなくちゃいけない。


「カイト…
あのね…あの…」

言わなくちゃハッキリでも恥ずかしい。
私もカイトが好きよって…

まだ言ってないから
でも言えない
恥ずかしい
ドキドキする

カイトは勢いに任せて告白してあんなことしてくれちゃったりしたけど
こんな何気ない会話から言うのは勇気いる。
あの時よりパニクってる。
だから出た言葉は。

「一生その椅子に座って私にご飯を作りなさい!いいわね!?」


「は?」

意味が私も解らなくてその台詞にも恥ずかしくて顔が熱くなって俯いてしまった…

ずっとそばにいてほしいそれだけで言えば良かったのに…

「すずさんそれ難題だよ?」
クククと笑いをかみ殺してカイトが言った。
「でもどんな難題でもすずさんのためならがんばるよ。だってすずさんの事好きだから」

私を見つめながら言ってくれた。

「カイト…ありがと…私も好きよ…」

向かいに座るカイトに私からキスをした。
恋人同士というあかしに…


 

 

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2011/07/28 (Thu)
 「僕も男だよ…僕のことも見てよ…」

カイトは私を押し倒してキスをした…

カイトは私のことをずっと想っていたらしい…

そのことはとても嬉しかった…

でも
怖がった…

好き同士になるのも初めてだし

押し倒されるのも初めてだ。

必死な思いで私への想いを隠して爆発させたカイトが怖がった…

なにをされるのか
怖がった

本当突然なことで
パニックになって…
私は泣いてしまった…
カイトの前でなんかで泣きたくないのに…





カイトがキスを止めた瞬間頬をひっぱたいた。

「カイト…変よ…変だよ」
カイトは、はっとしたようだった。

そして謝りながら家を飛び出した。


カイトが出て行ってしばらく私はそのまま床から起きあがらず仰向けでぼーっとしていた。

カイトが出て行った開けっ放しにした扉をただ見つめる。

「カイト…」

出て行っちゃった…
幸せだったのに…

約束破りやがって…

でも…



ドキドキする

カイトも私のこと好きだったなんて…

キスされた唇をそっと触れる。

涙がまた出てきた。
嬉しいけど
寂しい


カイト出ていってしまったから

帰ってこないかもしれない…

帰ってきたらどう接すればいい?

私は意地っ張りだから今まで通りな関係でいられなくて自ら突っぱねてしまうかも…

好きなのに…

ずっと一緒にいられると思ったのに…

カイトは帰ってこない…

いつ帰ってきても良いように鍵は開けてある。

貴重品はすべてバックに入れて仕事に行く。

あれから3日…

確かトレーナー一枚でこの寒い季節に出て行った。

「…もしかして死んでたりして…」

拾った時のこと思い出し拾われなかったときのカイト運命を想像するとゾクッと悪寒がした。

そんな妄想を振り払いテーブルに突っ伏した。

そして正面のカイトの椅子に目をやる。

いつもなら
向かい側に座っているカイト…

美味しいご飯を作ってくれてそのご飯を食べるのを楽しみだった。

向かい合って楽しい会話したり意見交わしたり楽しかった。

なのに向かいの椅子に彼はいない…

座ってない…

寂しい…

家に帰ってもつまんない…


だったらもう一つの憩いの場…
カイトがなにか勘違いしたホストクラブでオカマバーの店に飲みに行こう…


あの日のカイトの憤りの理由が解るかもしれない
…と思ったけど…
まさか、カイトがその店で働いているとは思わなかった。




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2011/07/27 (Wed)
  狭いアパートに狭いテーブルに向かい合わせでカイトが作ったご飯を食べながら幸せだとおもった。

向かいに座る十六歳の少年カイトは半年前に拾った。

雨に打たれながら暗く悲しい顔した少年が哀れで子犬を拾う感覚だった。

拾った少年が子犬のように純粋な子でよかったと改めて思う。

家のことよくやってくれるし

ご飯も美味しい。

初めてあったときから気兼ねいらない感じが気に入った。

彼がいるから安心する

ひとりでコンビニ弁当買って食べてテレビ観てるより

二人で向かいあって美味しい手作りご飯たべてテレビ見たり会話するのが楽しかった。

そんな毎日になったのがうれしかった。


「おかえりーすずさん!」
満面の笑顔でカイトが玄関まで迎えてくれる。

「ただいまカイト」
私もつられて笑顔で答える。
家に帰って来たって感じがしてほっとする。

仕事から帰って来るとカイトがご飯を作って待っていてくれるのが何だか嬉しくてこそばゆい。


新婚ってこんな感じかしら?

と思ったら
ぷっと笑いが吹き出した。

「なになに?なんかおもしろいことあったの?」
興味津々という感じで聞いてくる。

「何でもないって!」
私はまだ笑いが収まらないのか含み笑いで否定する。

このことをカイトに言いたくない。

正直に言ってそのまま受け止めると笑い話だけど

その関係を一言で現せば

ヒモじゃん

仕事する
彼女に家事する
彼氏

イコール

ヒモ…

でも恋人同士じゃないからその関係は成り立たないはずだった…


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2011/06/20 (Mon)
 ★☆★
 
すずさんは

女だけど
男より強い

空手柔道三段だし

男気があって

さっぱりした
性格

そんなすずさんの唯一弱点は雷だった

★☆★

ゴロゴロ…
ピカと一瞬あたりが輝き
3数えて

ガラガラ
ドカンと雷の音が続いた

「キャー!」

と音にも負けない悲鳴が玄関で響いた

「おかえりーすずさんっ…」

いきなりひしっと抱きしめられた。


「す、すずさんっ!? どうしたの!?」

「雷が…怖いの…よっ!
何か文句あんの!?」逆ギレされた。

文句ないけどびしょ濡れの服で抱きつかれているのはちょっと…

濡れた服からすずさんの体温感じる…

僕の胸の高鳴りはゴロゴロといつ大きな音になるかわからないから

内心ヤバいと思う

「あの…すずさんお風呂わかしてあるからはいったほうがいいよ」

僕は抱きついているすずさんの体を少しはがした。


「バっカじゃないカイト!感電死するじゃない!」

と言いながら
くしゃみする。

「じゃあ雷遠くなってから入るとか」 

「うんそうする」
子供のようにコクリと頷く。
でもまだ僕の服をキュッと握ったまま、玄関にあがる


そんなすずさんがカワイい愛おしく思う
でも

約束で男女のなかになったら僕はここから追い出されてしまう。

だから

この心は隠さなくちゃ…

 ★☆★

カイトは心配してくれているのに
つい甘えて文句を言ってしまう。

2ヶ月まえに同居したばかりで弟のようにおもってたのに、

カイトが男っぽい…と

ドキドキしてしまった…

でも甲斐甲斐しくタオルとか着替えとか持ってきてくれるところはお母さんみたいだわ…

本当
いい子拾った

でも
最近はそれだけじゃない

この頃
男らしなったと思う…
私より大きい手長くしなやかな指とか…
ふとしたとき
そう思って…
いつの間にかだんだんもっと意識して…
だから最近は真一郎さんの店で酒によってそんな心を暴露してしまうとい失態をしてしまった。


気まずくて仕事終わればすぐ家に帰るようになった。

意識していても
遠慮なく甘えれる存在のカイト。

そんな関係が大切だから
男女の関係になるのが怖い

家族のような遠慮ない関係を保っていたいと思う。

そんなこと
つらつら思ってたらまた雷がピカっとひかった。

☆★☆

ドーンと
雷が落ちた。

「キャーイャー!」

すずさんは後ろからドンと抱きついてきた。

しかもブレイカーが落ちて停電した。


当たりは真っ暗になる

でも

かなり雷が近いのか雷の光と音が交差して僕も少しおののいた。
けど、すずさんはかなり震えているのを感じた。

「すずさん?大丈夫」

「大丈夫じゃないかも…」

キュッと背中のシャツの布を震えながらつかんでる感じがとてもかわいく感じて
つい抱きしめた…

あっ
ヤバい

怒られる

空手チョップ落とされると思って体を引いた。

けれどすずさんの方から体を引き寄せる。


☆★☆


「雷なり終わるまでこうしていて…」

自分でも女みたいなこと言ってるて思うと恥ずかしい。



二人そのまま
床に座って私はカイトに抱きしめてもらった。

どっちにドキドキしてるんだろう…

雷?カイトに?

でもこのドキドキは幸せのドキドキということだけはわかった

「カイトも…」

「なに…?すずさん」
なんだかほんとに恋人同士みたい…

「何でもない」

同じ気持ちか聞いて同じ気持ちでも
関係が崩れるだけだと思うと聞けなかった

でも…カイトは素直だった。

「何だか恋人どうしだね」

☆★☆

しまった!
つい口からこぼれてしまった…

気まずい沈黙の間雷なってくれればいいのに…

雷は遠くへ行ってしまったようだ。


でも、しばらく黙って僕たちは寄り添っていた。

☆★☆

「雷が怖いのは昔小さいころ空がもう雷が落ちそうで野良犬に襲われそうになって逃げてたら、その野良犬に雷が落ちたのよ」

その事を思い出して身ぶるいをする。

「それはショッキングな…トラウマになりますね」

カイトは青ざめて感想を述べた。

「良かったんだか悪かったんだかよくわからなくて
とにかく怖いというのがうえつけられてるのね」

でも…

数時間前のあの感覚を思い出せば

温かい気持ちになって雷が少し怖くなくなった。

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2011/06/14 (Tue)

「痛い!腕はなしなさいってばっ!!」

ばぁしっと空手三段のチョップを手首に食らった。

「うっ!う~~…ご…ごめんなさい……」
すずさんを引っ張って、しばらく走った。
すずさんが僕の掴んでる手にチョップを食らわさなかったら、そのままどこへ行くとも知れず、逃避行していただろう。

辺りは、駅の商店街から離れ、間隔をあけた外灯だけが明るい橋の上だった。
そのうちの一本が頭上に光りを降らせている。
「あんた、なんでバーにいたのよ!それに、何その格好!?」
そうだ、女装したまま出てきちゃったんだ。

「あら、私~どうしてこんなところに?カイトじゃ……ないわよカイコよ!」
動揺の余り最後の悪足掻きでオカマのふりをする。

「頭にチョップほしいの?」

すずさんは僕のこと思いっきり睨んだまま言う。本気だった。

「ご、ごめんなさい……」
僕は目を合わせることはできず、すずさんに対して謝る言葉しか出てこない…

「ごめんなさいは、もういいわ。それより、どうして、バーにいたのよ?」
一昨日すずさんの家をでて行ったからの後のことをすべて告白した。

「ふ~ん……
で、私への誤解は解けた?」

「うん…べつにホストと付き合ってなかったんだね……
嫉妬してあんなことして、本当にごめんなさい!!」
頭を下げて謝った。

本当に謝ることしかできなかった。
とにかく、すずさんには謝りたい。
謝って済む問題じゃないかも知れないけど、そのままよりは良かったから…
「でも…もう……すずさんと暮らせないよね……?」
「約束やぶったしね……」
容赦なく怒ってる口調ですずさんは顔をそむけて僕の方を見ない。

「そんなことする子じゃないって思ってたのに……」
怒っていて当たり前だ。
無理矢理キスして…それ以上の事もしていたかも知れないのだ。

伏せていた目をすずさんの視線に真摯に合わせ、
「だけど、これだけは言わせて、本当にぼくはすずさんが好き…。
けして不純な思いでしたことじゃない」
ごめんと謝って起きながら、反省してるような言葉じゃないなと自分でも思った。

そんな自分はもう、すずさんとは暮せないだろう。
つらいけど、もうすずさんと会わない方がいいのかもしれない…
背を向けて僕はそのまま逃げ出そうとした。
その後ろから叫ぶようにすずさんの声が僕を引き止めた。

「また逃げるつもり!?あんたに居場所はないんでしょ?」
「し、真一郎さんの所……」
すずさんは僕にスタスタと近づいて、思いっきりチョップをした。
とっても痛くて、座り込み頭を押さえた。

「真一郎さんには謝って住ませてもらえて、私のところには住ませてもらえない思ってるの?」
すずさんは仁王立ちで腰に手を当てて怒った風に僕を睨んでそう言った。


「え?それって……」

僕はおずおずとすずさんのほうを見る。


「いいわよ、
また一緒に住もう……家に帰ってカイトの作った御飯が食べたいもん。
真一郎さんにあんたを渡すのもったいない…」

すすさんは手を差しのべ、顔を赤くして言葉を続ける。

「あんたは私の……ヒモなんだから……ね?」
すずさんの方から僕の手をとって立たせてくれた。

ヒモ?奴隷じゃなくって?
それって、もしかして……

「それって……こっ…恋人ってことでいいの?」
困惑と期待を込めた顔ですずさんを見つめる。

すずさんは何も言わなかった。ただ顔を真っ赤にして微笑んでいる。

恥ずかしがりやだから、それ以上を言うのは恥ずかしいのだろう。

差し伸べられた手をぎゅっと強く握ってくれたことが返事なのだ。

僕はとても幸せで涙が止まらなかった。

「男の子なんだから、泣かないのって……今は女の子?」
「ううん!男の子っ!!」
ついムキになって反論してしまった。

「そのカッコで言われても説得力なーい~ってあははははは!本当に面白いよカイトって」

すずさんは大声で笑い出した。

僕もおかしくて何より嬉しくて一緒に笑った。
そして握ったこの手を僕は愛しく握り返した。
僕は奴隷からヒモという立場を手に入れた。

手を握りながらの幸せな帰り道の途中、すずさんは僕に言った。

「あんたってさ~」
「なに?」
「ヒモっていうよりかストーカーよね……」
「え!?」

おわり
 

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2011/06/13 (Mon)
 「なんか、このお店に関係あるみたい。私のこと尾行して、この店にい たのが気にくわなかったんじゃないの?」

確かにそうだ……
あの時はすずさんが悪いって思ってた。
ヒカルさんが恋人だと思ってたから……
今はそんな関係じゃないって分かって、僕が一方的に悪いんだって反省している。


「私、カイトのこと、ないがしろにした覚えないんだけどなぁ…まあ…奴隷みたいに扱使っていたけど」
奴隷と未だ言う。
やっぱり奴隷程度なのだろうか?僕は……なんだか泣けてきた。

「奴隷?それはひどい例えだな、ヒモじゃないの?」
「ヒモは恋人同士でしょう?私達まだそんな関係じゃなかったもん」
「まだ?…すずちゃんがその気になればヒモになれたんじゃないの?」
「だって…恥ずかしいじゃない……相手の気持ちも分からないのに…… 
そ、それに、犯罪者になりたくないしっ」
「ああ、それは確かにね。でも数年たてばさ、そんなの関係なくなるよ?」

 犯罪がどうのという現実な問題っていったのは、前の言葉の本音を知られたくなくてわざと否定する為に言ったように感じた。

『相手の気持ちも分からないのに……』

とすずさんは言った。
それって、すずさんも僕のこと好きって事なんだろうか?

そこのところをもっとよく知りたいと聞きたいと思ってたところへ、
「カイコちゃんっサンドイッチまだ?出来たら持ってきて」
と真一郎さんが僕を呼ぶ。

「あ、はい、ただいま持っていきます」
サンドイッチはもう出来上がっていた。
けれど、サンドイッチをもって行くのを躊躇う。
いくら女装してるからって、バレたりしないだろうか?
僕は出来上がったサンドイッチを持ちながら落ち尽きなく不安でウロウロしていた。
そんな僕を真一郎さんはチラっとみて、グラスに入ったお酒をグビッと飲みカクッと頭を俯かせたと思うと、そっとすずさんの頬を両手で触れた。

そして、男性独特の艶っぽい雰囲気ですずさんに微笑みかけた。
「すずちゃんて…恥ずかしがり屋さんだね。そう言うところ妻に似てる……」


すずさんは、体を引いて戸惑っている。
「そ、そうかな?わたしも、ねーちゃんに似てきてるって思う時もあるけど……」
ジッと見つめたまま真一郎さんは何も言わなくなった。

すずさんも見つめられてそのまま固まっている。

初恋の人でまだ、すずさんは真一郎さんのことが好きなんだろうか?
ほのかに顔が赤い。
真一郎さんはジッと憂い気にすずさんを見つめて、だんだん顔を近づけている。

「真一郎さん酔ってる……の?」
「よってないよ?里利子…」
真一郎さんはお酒一杯で酔っていた。

すずさんはそのまま動かない。
いや、体を引いている分ソファーに寄り掛かっているが、倒れて、そのままじゃキス以上な事をしそうな雰囲気だった。

なんで!!?
いきなりそんなことを!?
れって本当に作戦?なんの!?

「い…いやだ…ちょっと、真一郎さんっ!」

そのままソファにすずさんと倒れ込もうとする。

「だめーーーーーーーーっ!!
すずさんは僕のなんだから!!!」

誰であろうとすすさんをとられるのはいやだ!

折角作ったサンドイッチも投げ捨てて、自分でいうのもなんだけど、人間業じゃない早さで、二人のそばに行き真一郎さんとを突き飛ばしてしまった。
ガシャーンっとテーブルとグラスがひっくり返る。

真一郎さんに怪我はないか心配するより、すずさんの腕をつかんでいた。

「行こう!!すずさん!」
「え!?カイト!?」
すずさんは何が起こったか分からない様子だったが、そのまま店を出た。

出ていく後ろで、真一郎さんの笑い声が聞こえた……

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2011/06/12 (Sun)
 「……ってなんで、女装しなくちゃいけないんですか?」

僕はヒカルさんに女装をさせられしまった。

自分でも誰だろうと思うほどに可愛く頭の左右にポニーテールをし(カツラ)、ピンクと黒と赤の色がおしゃれに配色されたゴスロリ系のメイド服(スカートが膝までで短くレースがひらひらついている)を着た女の子に仕立てられてしまっている。


「そのほうが、すずさんに会いやすいだろ?」

ヒカルさんは悪戯っぽい笑みで僕に微笑む。

「むしろ、会いづらいですよっ!」
「インパクトで許してもらおう作戦だ」

自分の作戦を曲げたくないヒカルさんはと題名までつけ宣言した。
「ばれたらすずさんのゲンコツが容赦なくディープインパクトしますよ!」
許してもらうどころか身の破滅だ。
その事に怯える僕を光さんはじろりと冷ややかな目でみる

「お前わがままなんだよ、直接会いたくない、でも会いたい、勇気のないお前に、変身という魔法をかけてやったんだぞ、ありがたく思え」
「うっ…」

僕は図星をつかれて言葉に詰まった。
ほんとに、僕は勇気が無い、わがまま者だ。

人に手助けしてもらわなければ、すずさんと仲を取り持てないと思ってるんだから…
でも、女装は勇気の魔法だろうか?

「おーいヒカル!ちょっときてくれー」

真一郎さんがヒカルさんを呼んだ。

「マスターがお呼びだ、ちょっと行ってくる」

ヒカルさんは素早く更衣室を出て、真一郎さんの元へ向かった。
こっそり、その様子を見てみると、真一郎さんはすずさんとの席から離れてカウンターのところで話をしている。
その話が終わると、ヒカルさんは更衣室に戻ってきた。

「マスターからの命令で用事が出来たから、帰る。じゃあな」

さっさっと貴重品をまとめると、そのまますぐ帰ろうとした。

「え!!キューピットになってくれるんじゃ……」
「キューピットは大天使さまの命令が一番なんだよ。それに……」
 
キュッと僕の鼻をつまんで、怪訝な顔をし、僕を睨んだ。

「おまえ、藍ちゃんと蓮くんおいてここまで来たんだって?
しっかりしたお子様とは言え、危ないだろうが!
今日は俺が二人の面倒見る事になったからお前の面倒はやっぱ、大天使さまにみてもらったほうがいいってことになったんだ」
「あっ…」

そうだった。
僕も双子が心配で早く帰ろうとしていたのに、すずさんが気になって今に至る。

「まぁ…俺は、愛しの藍ちゃんに会えるチャンス貰えたからお前に感謝するけどっ」

怪訝の顔を消して、今度はニマニマ笑いになっている。
まさか、ヒカルさんが好きなのは……

「ロリコン…」

藍ちゃんの名前を出すより先に思った事が口に出た。
ボコッとヒカルさんの拳が僕の頭にディープインパクトした。

「ま、とにかくマスターに任せておけば大丈夫だって」
真一郎さんはもとから僕に強力するって言ったけど……僕は複雑だった。
真のライバルは真一郎さんだ。

「心配すんなって、女装してるんだし、ちょっとやそっとじゃバレないだろう。うまくやれよっ」

と僕のお尻を叩いて、じゃあなと言い出ていってしまった。



厨房はバーカウンタの中にあって、二人の様子が良く分かった。
営業時間はまだなので、中には僕と真一郎さんとすずさん3人だけだった。
すずさんと、真一郎さんの会話が聞こえる。
真一郎さんは僕に気付くと、ウインクをした。

すずさんは、ぐぐっと両手を組んで背伸びをして下ろしてから、

「あ~あ~なんかお腹すいちゃった。どっかに食べにいかない?真一郎 
さん」
「ここで食べればいいよ。」
「え~?でも言っちゃナンだけど、ここのご飯まずいし…」
「大丈夫大丈夫、とっても腕の良い調理人やとったんだ」
「へ~じゃあ、食べてみたい。でも食欲あんまりないから軽いものがいいな~」
「カイコちゃん、サンドイッチでも作ってくれ」
「あ、はい!」

カイコちゃんというのは昨日、付けられた僕のオカマバーでの名前だ。

「カイコちゃん?」
「うん。まだ未成年だから、表には出さないんだけどね。とっても可愛い子なんだよ。」
「ふ~ん…、なんか…聞き覚えのある声だったわ…?」

僕はギクッとした。声を作るのを忘れてしまった。
ドキドキしながら作業にとり掛かる。
材料は揃っていたので、直ぐに出きるだろう。
その間に二人の話が聞こえてくる。

「藍ちゃんと蓮君もうすぐ誕生日よね?」


「ああ。クリスマスの日だよ。誕生日会するから、ぜひ来てくれよ。同棲している男の子…名前なんていったけ?」
わざと、真一郎さんは上手く僕の話題に持っていった。
「同棲じゃなくって同居!」
すかさず、すずさんは訂正をいれた。

「……それにカイト…帰ってくるかどうか……分からないし……」
すずさんの声は低く小さかった。
一昨日のことを思い出したのだろうか?

「どうして?」
真一郎さんは悩みでも愚痴でも何でも聞いてくれそうな寛大な優しさを醸し出す声で理由を聞く。
この優しい感じは生まれ持ってのモノだろうと僕は思う。
だから、僕は真一郎さんを信頼してすべてを話してしまった。
すずさんも心に溜まったことを聞いて欲しくて理由を言ってしまうかもしれない。

 すずさんは、なんと言おうか迷ってるのか、それとも言わないつもりなのか、黙ったままだった。

「もしかして、襲われたとか?」
真一郎さんは核心的なところをついた。
「……」
「顔赤いってことは、そうなんだね」
しばらく沈黙があったけど、すずさんの様子を僕に伝えるため、真一郎さんが解説する。

「でもっ!何もされてないわ。あの子のこと引っ叩いて止めさせたから…」
何もされてないと言っておいて、止めさせたと言うのは、かなり動揺してるんだろうと思った。
 

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* ILLUSTRATION BY nyao *