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童話、イラスト、物語だけを語ります。 個人的なことは書きません。 純粋に物語だけのブログです。
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佐井花烏月(さいかうづき)
性別:
女性
職業:
一応漫画家?
趣味:
漫画を描く事
自己紹介:
佐井花烏月(さいかうづき)ともうします。

ここのブログでは
イラスト付童話や小説を制作していこうと思ってます。

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2014/11/12 (Wed)

19・いつか、きっと

 空は清清しく晴れて過ごしやすく紅葉が風に舞って散る。
 葛葉と頼光は月夜丸の邸に招かれた。
 この間の礼をしたいということだった。

 「こんなに犬が……」
 葛葉は固まった。

 月夜丸の住む東の棟の庭には子犬であふれ返っていた。
 ざっと見ても二十匹はいるだろう。
 子犬が葛葉や頼光に興味をしめし尻尾を振って近寄ってくる。

「葛葉犬に慣れたんじゃなかったのか?」
 頼光は呆れたように固まっている葛葉に問う。

 「う~ん……前よりは大丈夫になっただけだもの。シロはすでにこの世のものじゃなかったし」
「では、慣れるために、この子犬をもらってもらえぬか?」
 月夜丸は白い犬を葛葉に渡す。
 まだぎこちなく子犬を抱く。顔をぺろっとなめられた。

「う……」
 嫌な顔をしてしまう。

「おいおい、葛葉ぁ~」
 頼光は飽きられたように声をあげる。

「大丈夫だもん!あ~かわいい!!」
 葛葉はなげやりに顔を子犬に頬擦りをしてみせる。
 顔は固まっていたが。
 その様子がおかしくて、頼光と月夜丸は声をあげて笑った。

 邸に仕える女房が持ってきてくれた、高槻にのせてあるの饅頭を手にとりながら、三人は語り合う。

「俺はもうすぐ元服することになったのだ。」
 ちょっと、照れたふうにいう。
 貴族といっても落ちぶれているが、立派になって父や育ててくれた母に恩を返したいのだという。
 義母の兄は右大将なので、がんばれば中流貴族くらいにはなれるだろう。

「おめでとう、月夜丸。私達と遊べなくなるのね」
「ざんねんだな…一緒に犬のしつけしたりするのも、葛葉を慣れさせるのも楽しかったのに」
 二人は邪魔してはいけないと思ってそう言った。
 元服して仕事するのは貴族の大切の仕事子供の自分たちとは遊べなくなるのは当然のことだ。
 けれど、月夜丸は饅頭を食べる口を止めて、

「元服してもまた会いにきてくれぬか?初めての人間の友……だから……」
 顔を赤くして最後は口籠った。
 そんな、月夜丸をみて葛葉と頼光は顔を見て微笑して、

「うん!遠慮なくこさせて頂く」と声をあわせ答えた。
その言葉を聞くと月夜丸はほっとして一緒に微笑んだ。

 月夜丸はふと澄み切った空を無表情に見つめながら語る。

「それにしても、月の方…
 秋月は俺と同じだったのだ。
 憎くて、悔しくて仕方がなく、親が許せなかった……
 心を開けず、愛を素直に受け入れられなかった。
 それを思うと俺は父と同じだとも思った。」

「月夜丸…」
 葛葉もその気持ちを感じた。
 自分には感じた事のない気持ちだけれど、秋月から伝わって来たのはその気持ちだ。

「受け入れるのは苦しいことなのだ。
自分の思いが違うと否定されることは……だが、受け入れてすまうと、苦しさがなくなり心が清清しくなる。そして他の道が見えてくる」
 空から視線をはなし、そっと葛葉の手を握り、真摯の瞳で見つめる。
 
「秋月もきっと今苦しんでいると思う。
 その苦しみを受け入れられる日が来ると俺は思う。それには、葛葉や両親の思 いが必要なのだ。」

 月夜丸は葛葉の家族のことを心配してそういってくれた。

「うん……そうだね、ありがとう、月夜丸…」

 月夜丸の言葉を胸とどめる。
 夜丸の言う通りだ。
 誤解を認め、和解することが必要だ。
 家族と和解した月夜丸の様子を見るとそれが幸せなことで、秋月の未来のように思える。

 だから、いつかきっと、秋月と分かりあえて家族として幸せに暮らせる日がくればいいなと葛葉は願うのであった。


葛葉姫鬼譚☆犬妖鬼☆おわり

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2014/11/12 (Wed)

18・つながる、想い

 日の下の国では光り輝く最高神アマテラスが神々しい朝日を大地に輝かせるが、その分影の国では闇が増していた。
 光りあるところ影がある。
 それは、陰陽は世界の成り立ち。

 影の世界に出来た異国風の宮殿に秋月は膝を付き礼をとっていた。

 秋月が礼をとっているのは九本の大きな尻尾をもち、耳は狐の人。
 強大な力を持つ妖狐だ。
 彼女は、美しく艶のあり凛とした女王とした感じがにじみ出ていて、服装は唐の肩口を露出し、その美しい肩に天女の衣をふわりと羽織っている。
 狐の特徴さえなければ、仙女か女神だった。
 大陸から来て、秋月をさらった者……
 それは、九尾の狐である。
 大陸にいた時は妲己と言う名であった。
 今は珠藻という。
 日の下の国に密かに闇下の国を創り王として君臨している。

「秋月……陽の世界は如何であったか?」

「……つまらぬところでした」
 秋月は無表情で呟くように伝えた。

 玉藻は豪勢な玉座に寄りかかるように座り、秋月の本心を見透かそうとするように金に輝く瞳を細める。

「つまらぬところ、か…
だが、その世界はいずれは我れらがものになる世界だ。
お前の新月の力を使ってなぁ」
 くくくっとその時のことを夢見、笑う。

「ところで、もう一人のお前にあったか?」
 もう一人のお前とは葛葉のことだ。
「はい……」
 ただ機械的に答えるように努めたが、首尾よく葛葉をこの手で仕留められなかった事を思えば、感情が一言に滲みだす。

 秋月の感情を感じ取って、玉藻は眉根を寄せた。
 珠藻は手を前突き出し、手招きを一回すると秋月の体は宙に浮き、珠藻の傍らに引き寄せられた。

「片割れは殺したのか?」
「……邪魔が入って始末できませんでした……それに僕の名を知るものがいた…」
「ほう…お前の名を知る者がいたか」
 珠藻は秋月の頭を胸元に抱き頭を撫でる。
 それは、はた目から見れば慈しむように見えるだろうが、実際は吟味しているような感じだ。
 秋月の目を見つめる玉藻の瞳は爛々と輝き、『喰らわれる』という危機感は慣れなかった。

「その人間は力を持っていようなぁ……うまそうな……」
「捕らえてきましょうか?」
 と言ってみる。

 自分の呪を解き、どことなく嫌な感じのする光栄と言う人間。
 葛葉以外にはあまり興味を持たなかったが、厄介な人間だ。
 いつか、この玉藻に献上してしまおうと本気で思う。
 この狐は人が好物だ。とくに成人した大人の男。
 秋月に流れる人の気が食欲をそそそるらしいが、新月の力と狐の力を持っているので食らうことはしないだけ。

「ぜひ、そうしてほしいのぉ……お前の呪を解く程の人間だからのさぞ素晴らしい味のする人間に違いない」
 珠藻は秋月がしてきたことを知っていて聞いていたのだ。
 だから、呪を解かれたということは自分にとっても恥じなので口に出さないでほしいことだった。

「片割れは今何をしているのだろうな?見てみるかの?」
 珠藻は妖力を手元に集めると大きな鏡を具現化させて、業と秋月に葛葉の姿を見せる。
 それはいつもの事、自分の境遇と比べさせるようにいつも葛葉の様子、家族とのやり取りを見せらてきた。

 鏡に映る葛葉は両親に見守られて眠っていた。
 葛葉に注ぐ眼差しは柔らかで慈しんでいる。
 優しく頭を何度も撫でられる。
 その手が気持ちよさそうに葛葉はさらに幸せの眠りに落ちる。
 秋月はその様子を見るたび、羨ましく思い、怒りを身の内に溜める。
 自分には向けてもらったことのない眼差し、優しく髪を撫でる手、胸がズキンとする。
 憎いから痛いと思っていたが、それは嫉妬の痛み。
 自分が欲しいモノを葛葉は持っている。
 とても悔しくて憎い……
 その心を育てるのが珠藻の狙い。
「!」
 秋月は鏡に映る家族の中に、いつもと違う物を見つける。
 葛葉の隣にいる父の手には黒い紐が握られていた。
 それは、多少なりとも呪が残っていて握っているだけでも辛いはずなのになぜ持っているのだろうと疑問に思った。
 そのことは珠藻は気付いていないようだ。
 なので言わない。
 
 余計なことは言わないほうがいい……

 秋月は捨てられたと言われ育てられながら、こうした場面を見せられ続けそだってきた。
 だが、憎しみや嫉妬を『焼きもち』という感情ということを光栄に諭された。

 『焼きもち』は憎しみや恨みより軽い言霊だが、その通りなのかもしれない…
 そしてさらに、光栄は晴明が自分を捨てていないと、ずっとさがし続けていたと言った。
 父が握っている紐は僕自身…それをギュッと握られているのは自分を忘れていない証拠ではないだろうか…

 それが本当なら……僕は……

 そう、思いいたっても、確信できなくて胸が焼ける程苦しくなる。
 『焼きもち』とは違う『焦れ』るという苦しみだと言う事を秋月は知らなかった。
 秋月はその苦しみをまた葛葉への怒りに変えることにした。
 その方が楽だから誰かの所為することの方が……
 
 秋月はの親への想いは月夜丸のと本当に同じなのだ。
 だから呪が混じりあって操ることができた。
 その操りのヒモは切れてしまったが……

 自分に見えないあの紐と同じものが断ち切れる日が来るだろうか……
 秋月はただじっと、鏡に映る家族の姿を見つめていた。

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2014/11/12 (Wed)

16.親子の絆

 事件が終わった深夜、妖犬とかかわった者たちがボロボロの姿で月夜丸の父宮のもとへ訪れた。
 宮のもとにいた者たちはどうした事か何があったかと慌てたが、月夜丸は宮を襲った妖しを追い葛葉たちと共に退治をしたということにしておいた。
 全くのウソではないから問題ないが、葛葉たちだけでは、月夜丸が犯人だと思っている貴族や邸の者たちに疑われたかもしれないが、加茂家の光栄がいた事によって信用が保たれた。
 落ち着いたころ合いをみはからい、宮を心配して来てくれた貴族や知人たちは己が邸へと帰って行った。

 葛葉たちは、都にはびこる妖犬の事は解決できたけれど、月夜丸の首には未だにあの紐がとれないでいた。

「月夜丸よく帰ってくれた……」
と宮は微笑んで帰りを待っていた。

「父上……すまなかった……怪我をさせて……」
「あまり傷はひどくない……シロが助けてくれたからな」
 包帯で巻かれた腹部のほうを、少しさすりながら宮は微笑む。
 月夜丸は一瞬、父に怪我をさせたほうを見て、すまなそうに眼を伏せる。
「母上は父上のことを恨みもせずに愛してました……恨んではいないと言っていた」
「そうか……」
 そう短く答え、嬉しいような悲しいような表情を隠すように父宮は俯いた。

 月夜丸は母が父を恨んでいると思って自分も父を恨んでいたが、違った。
 だから……

「父上……母上が恨んでいないなら……もう意地を張るのはやめる……あの時の済まなかったって言葉は本心なら……もう許すことにした」
 父の手をとってそう告げた顔は微笑んでいた。
 ハッとして月夜丸の顔を見た。
 そして初めてお互い瞳を見つめあう事が出来た…
 初めてみせる我が子の笑顔に父は驚き、暖かいモノが心から目から溢れていた。
 父宮はぎゅうっと、温かく強く月夜丸の手を握る。

「ありがとう……本当にすまなかった……ありがとう……」
と、心からくり返した。

 その言霊が月夜丸に胸に閊えていた何かをはずした感じかすると、紐は首から外れた。
 
 呪詛が外れたという事は呪いが、最後のわだかまりが解けたという事。
 これで、月夜丸は月の方に命を操られなくて済む。
 葛葉はほっとするものの、月の方…秋月のことが、気になっていた。
 落ちた紐を葛葉は無意識に取ろうとしたが、先に光栄が紐を預かった。
 それは何か意図があるのかもしれないと思い、光栄と目配せしてうなずき合う。
 その心が通じたのか、お互い笑顔になって改めてほっとする葛葉だった。 

 葛葉たちはその親子達の和解を見届けた後、そっと、邸を出た。

17.葛葉の家族会議

 今度は葛葉たちの家をどうするかだった。
 邸に帰り、事件に関わったものが寝殿に集まり晴明にことの真相をはなした。

 「そうか……秋月が……」
と晴明は深刻そうな顔で唸って考え込んだ。
 顎に手を添えて悩んでいる父の袖をぐいっと引っ張って葛葉は詰め寄った。

「どうして、秋月を捨てたの……?
どうして…弟がいるってことを隠していたの………?」
 と真剣な父を攻めるように問う。

 そんな葛葉を困ったように悲し気に見つめて、一つため息をはいた。
「べつに捨てたわけではない……だが……」
「双児だから?忌み子だから?」
 双児は忌み子としてどちらかを捨てるか、親戚に預けるかすることがある。
 父もそうやって、秋月を捨てたのだろうかと思った。
「あの子は、秋月は、母……辰狐である、葛の葉に預けるつもりでもいた……」
「それじゃ、捨てるのと同じじゃないの!!」
 葛葉は肯定したと思い、カットして頭に血が上り、バッと立って声をあらげて父を睨む。
「落ち着きなさい……」
 葛葉の腕を強く引き座らせる。
 葛葉はまだなにか言いたかったが父の厳しい目つきに黙って従うしかなかった。
「私は二人とも育てるつもりだった。
だが、秋月の力は生まれながらにして新月の力と獣の力が強かった。
それは辰狐を統べる者の証。」
「総べるものの証?」

 そう……と少し間を起き晴明は目を伏せて語る。
 母の葛の葉姫に秋月を預けるのは決まっていたことだった。
 人と獣が共存して生きていける世界を創るための統べる王が秋月だった。
 母で狐の王である葛の葉に預けるはずだったが、生まれたばかりの秋月は何者かによって攫われたのだ。
 辰狐である母にその事を問いただしてみたが、知らないという。
 だが心当たりはあった、大陸から来た、力ある狐が秋月の力を欲し攫ったのではないかと。
 相手は手がかりを置いていかなかったので今まで探しようがなかった。
「そして、今日手がかりとなるモノを手にいれました」
と光栄黒い紐を晴明に差し出す。
「これで手がかりが掴めるのではないでしょうか?」
 あの時もらってきたのはそのためだったのだ。

「よくやった、光栄」
 紐を晴明に預ける。
 晴明はその紐を触った瞬間にビリっと痛みが走ったらしく顔をしかめるが、秋月の悲しい心を自分の罪だと思いその痛みをしばらく握り続けた。

「秋月のことを一言も話さなくて済まなかった。
話しておくべきだったね。
だけど、いつかは話そうと思っていた。
話が理解できるようになったら……と」
 父の申し訳無さそうな表情で見つめられて、なんだかまだ府に落ちない心を落ち着かせる為に大きくため息を一つ吐いた。

「それが今日だってことよね…
……でも秋月が可哀想……」
と、うつむき、秋月の事を考える。
もしかしたら、秋月の立場に立っていたのは自分かもしれない。
 そして、双子なのに考え方が全く違うことを考えて口にする。
「秋月は人の命なんてモノだって言った……攫っていった狐って秋月のことをモノとしか考えていないのかも……」
 そっと閉められた首を撫でる。
 そういって首を閉めた秋月の思いが感じられて。
 そのことに気付き晴明は眉をしかめる。
 葛葉の細い首には青黒い痣が秋月の手の形で残っていた。
「でも父様……秋月を結局お祖母様に預けると言ったけれど、
それって、モノとかわらない言い方だと思う……」
 悲しそうに言う葛葉の真直ぐな言葉を聞き、晴明は苦笑した。

「そうだね、人の命、運命はモノじゃないね。
運命はその人そのもの。
人がどうこうすることじゃないけど、我が子のための決断は親がしなくてはならないと私は思うのだ。」
 迷いなどなくハッキリといった。

 その言葉に葛葉は納得した。
 確かにそうだ。
 何も分からない子供を導くのは親の役目だと思う。

「私もそう思うから、葛葉を晴明様にお願いしているのよ……」
 カグヤは子の教育はほとんど晴明に任せている。
 自分は人ではなく神に近し存在だから、葛葉に他ならぬ力を増させてしまう。
 それにカグヤは邸に常にいるわけではなく、贄を探しにに何処かに出かけることがしばしばである。
 だか、家族としてのスキンシップはふつうの家族より温かく絆も強いと確信はある。

「晴明様が導いてくれたおかげで、こんな可愛い良い子に育ったのだものね」
 とカグヤは葛葉に微笑み、痣になっているところに触れて消した。
 自分では気づいていなかったけれど、きっとひどい痣が首に着いていたんだろうと思った。
 それは月夜丸の首に巻きついていた紐のようなものだったのかもしれない。
「ありがとう…母様」
「いいえ、どういたしまして……それにしても……」

 カグヤは扇を握りしめている手をぐっと握る、笑みがスッと消えると目を、大胡ん色に輝かせて人並み鳴らない怒りがにじみ出てるのが周囲にいるものをおののかせた。
「秋月を攫った狐メ……みつけしだい…八つ裂きにして贄にしてくれるわ!」
 手にしていた扇がミシっと泣いてみんなは黙る。

「そ、それにしても、無事にそだっていることが分かって良かったじゃないですか」
 その場の雰囲気を明るくするため光栄はそういった。
 行方も分からず、もしかして、すでに亡くなってかも知れないと危惧していた晴明のためにも。
「それもそうだな」
 晴明は光栄の気遣いに微笑して答える。

「だけどよ~性格悪く育てられたものだよな。なんだか捻くれて……」
 と今まで黙っていた頼光がそう言ったものの途中で口を閉ざす。
 秋月の両親の目の前でいう台詞を言うものじゃないと思ったからだ。
 けれど、葛葉は大きく頼光の言葉に頷いた。

 「そうよね!!秋月のやつ本気で私を殺そうとしたり、命をモノ扱いしたりしてさ!むっかつわよね」
 葛葉は秋月の不満を怒りを現す。
 可哀想だと思っても許せいないのだ。

 「本当にどんな教育されてるんだか!!」

 葛葉は愛しの光栄様の目の前では、少しはお淑やかにしている事もわすれて怒りを現すように地団駄を踏む。
 
その様子を黙って見ていた炎と氷はとっさに手と手を取り合い怯える。

「ほんとうに、北の方さまそっくりだよな……」
「うん……」
と氷と炎は囁きあった。

「ま、ともかく、秋月のことは私が必ずみつけて連れ戻し、人間としての人格を育てるから、今日はこれくらいにしよう」

 晴明はパンパンと手をはたき、話を切り上げ終わらせる。
 皆の様子を見ればボロボロな出で立ちで、長く話をすることは無理だと思っていたからこの辺で家族会議はお開きになった。

 さすがに、気が抜けた、光栄と頼光は自分の邸にまっすぐ帰えっていった。
 もう、朝日が都を優しく包む時刻になっていた。
 頼光はさすがに疲れていて、晴明の命令で炎と氷に邸まで運んでもらい、光栄は物忌中なので、久々に出仕しなくていいから、邸に帰ったとたん眠りに着く。

 葛葉は一日中寝ていなかったので頭がボーとしてその場で寝ころんだ、すると、
晴明とカグヤは葛葉が眠るまでそこにいてくれた。
 子供扱いされていることに少し抵抗を見せてみたが、それは甘えである。
 こうして両親の慈しみを受けている自分は本当に幸せ者で、こうしてもらえない秋月に申し訳ないと思った。
 秋月はこういう幸せを本当に知らないのだろうか……

 そんな私をどこかで見ていて、憎んでいるのではないだろうか……
 心の底でごめんね…とそう思いながら意識は眠りに落ちていった。



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2014/11/12 (Wed)

15・慈愛の力

「心が癒されない限りって……」

 月夜丸と秋月は同じような感情の持ち主だった。
 だから呪が通じたの?
 そう思った時。

「うわあああああ!!」
 月夜丸は突然叫び、首に縛られている紐が月夜丸の首に黒く小さな雷がビリビリトはしり、苦しみにもがく。

「月夜丸様!!」

 倒れてもがく月夜丸をおさえようとしても、近付けない。
 秋月が呪を手放した所為で呪詛の制御がきかなくなったのだ。

 光栄は、口元に手を当てて、考えあぐねる。
「う〜ん……困ったねぇ……月夜丸の心が癒されるまでといわれても、気持ちがわからないからねぇ」
 呪詛解除は陰陽師の得意分野だけれど、呪いを解く手立てが本人次第で、いまや、正気も失いかけているとなるとなかなか難しい。

 葛葉はハッとして、光栄の衣のすそを引いて、戸惑いの瞳で光栄の顔を見る。

「秋月と同じ気持ち……だと思うの……親の愛が関係してると思う……」

 どういう、気持ちかは口に出して言えなかったけれど、さっきの流れ込んできた気持ち。
 それと同じだとおもう。

 くぅ〜んと白犬が近付いてきて何か訴えるように葛葉を見つめる。

「シロ?どうしたの?」
 シロはくるりと向きを変えると月夜丸に近づく。
 だが、暴れる月夜丸には中々近付くことができないようだった。
シロは月夜丸にどうしても近づきたいようだった。

「光栄さま、炎、氷、それと頼光、月夜丸を押さえて!」
「おう!」
 一斉にかかって月夜丸の両手首を押さえつけた。
 けれど手加減を知らない月夜丸を抑え込むのはなかなか困難だった。
 光栄が式を使って抑え込もうとした時
 頭を激しく左右にふって苦しがる月夜丸を、人の姿をなったシロが優しく両手でそっと包むように頭をおさえた。
 すると、激く痙攣まで起こしかけた体は次第に治まっていく。

 ビリっと両手に黒く小さい雷が走って痛みを感じているようだったが、我慢し月夜丸の名前を呼ぶ。

『月夜丸……苦しむことは無いのよ……お父様を恨まなくていいのよ……』

「は、ははうえ……?」

 月夜丸の苦しさが段々ひいているようだった。
 だが、逆にシロの白い手が黒に染まっている。
「シロ…もしかして……呪を引き受けようとしてるの……?」

 葛葉の問いに微笑んだ。

『この力は月の姫に頂いたもの。
月の姫の御子の呪を取る力が有るそうです……
お返しするのが筋ですが……申し訳ございません……
わが子を助けるために使わせてほしいのです…』

「そんなことはいいよ!でも、シロが……」
シロは魂の存在だ、秋月が作った呪われた獣と同じになってしまう。

『あなたの苦しい全てを取り除いてあげる……獣の気配も……苦しい思いも……』

 シロの白の魂が、蛇のようにうごめく黒にだんだん染められていく。
 その分、月夜丸も苦しさから解放されて、母親の手に触れる。
 月夜丸の瞳は涙が溢れ、頬に伝う、その涙が黒く染まったシロの手に濡れた。

「母上……母上は本当に父上をお恨みではないのか?
殺されて悔しくなかったのか?裏切られて……」

『ええ……悲しかったけれど…
…恨みはなかったわ。
あなたという愛の証がうまれたのだもの。
初めて会った幼いあなたを認めてくれた。きちんと、あなたを大事に育ててくれてた。それは愛があった証。』

 ふつうなら、我が子でも殺してしまうかもしれないが、そうしなかった。
 本性が犬であった自分は受け入れられなかったけど、時を経て受け入れてくれたそれだけでもういい……

「母上……」
 黒い呪が、首の方まで伸びてきた。
 喋るのがくるしそうだったが、言わねばならない事がまだある。

『あなたの心は父上と同じ……私を殺めた時とおなじもどかしさ……。
お父様を理解できるはず……分かりあって……そうしたら、きっと……あああ!!」

 顔を挟んでいた手をばっと離し、頭を押さえてもがく。
 だんだんあの、秋月がつくった犬妖鬼になっていく。

「母上!」

「シロ!!」

『葛葉……ちゃん……私を……消して……』
 言葉を言うのも困難になっているようだった。
 グルルルと獣のうなり声がまじる。

 葛葉は涙をためて、頭を振って拒む。

「そんな……!そんな事をしたら、シロは生まれ変わることもできないのよ!?」
 それは、恐ろしい事だから、本能的に拒絶したかった。
 
 シロはかろうじて、人の微笑みをする。
『もう……生まれ変わることは……ないのです……
その力を使ってでも、あの人を愛したかったから……だか……ら……はやく……』
 もう、獣になってしまった…
 目は赤く、のぞく口も血のように赤く、黒い獣の姿になった。

「葛葉ちゃん……やってあげなさい。
僕が同じように祓うのと葛葉ちゃんの力で祓うのは違う力を持っているのだから
ただし、心をこめて願って、晴明様から教わった祓いをやるんだよ」
 光栄のその言葉の意味は、葛葉は特別な力を持って生まれてきた。
 月の神の血を引く母と、辰狐の血を引く父の子供。
 人ではあるけれど、人とは違う内なる力を持もっている。
 
 だから、月の血を受け継ぎ尚且つ人でいる為には、犬であるシロに慣れる必要があった。

 そして、シロに慣れてきたところだった。
 可愛いと思えるようになってきたところだった。
 でもそれは、特別な存在になりつつあるシロだからこそ、だったのかもしれない。
 葛葉はそう思うと胸のあたりがギュッと痛くて瞳に涙があふれてきた。

「シロ……ごめんね……」

 と呟いたあと胸元から府をとりだし、呪文を唱え、シロに貼る。
 葛葉に襲い掛かろうとするのを押さえているのはまだ意識がのこっているからだ。

「散妖伏邪……急急如律令…畜怪」

 府は月の光のように光り、闇を淡く照らしていく。
 黒く染まったシロは人の姿に戻り、元の白い獣になって、だんだん消えていく。魂がいやされ消えていく。

 葛葉はこの力を初めて使えたと思う、母と同じ力。
 魂を清め祓い、この星を巡らせる特別な力を感じた。
『ありがとう……葛葉ちゃん短い間だったけど楽しかった……』
 シロはやさしく微笑み小さな光の粒子となって消えていった。

「コーエー……わたしもよ……」
 シロが消えて、落ちた府に葛葉の涙が落ちてぬれた。

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2014/11/12 (Wed)

14・ふたつのこころ

「葛葉!!」

 頼光は襲い掛かる最後の妖犬をひとなぎし、葛葉を助けるべく月の方に刀を振り下ろす。

 首を閉めている手首と腕が分かれた。
 月の方は一歩葛葉から離れ、自分のきられた腕をみる。
 頼光は自分で斬っておいて、いやな感じより無気味を感じる。
 月の方は平然としていて、腕からは、血が一滴もながれず、いまだに同じ位置で葛葉の首を手が締め上げている。

「どっどうなってるんだ!?」
 まだ締め上げている手を取ろうとしてもなかなかとれない。

「呪だね……己の憎しみを糧に動いているんだ。」

 苦い顔をして光栄は月の方をにらむ。
 月の方はもうすで人間ではなくなっているのだろう…
 式神でなくてはそういう離れ業はできない。
 それとも存在自体が呪詛の塊なのだろうか…
 
 月の方はおかしそうに笑い出した。

「そう、純粋な憎しみで、僕の力は動いている。この憎しみが癒されない限り呪はとけないのさ!」

 勝利を勝ち取ったような感じで高らかに言い笑う。

「それか……僕の本当の名を知らないと、解けないのは基本だよねぇ?
でも残念、この中に僕の名など知る者はいない……」
 くすくすと笑いつづける。

「うっ・・・くっ!」

 月の方の顔は見えないが葛葉が首を閉められだんだん命を落とそうとする様をきっと恍惚の顔で見ている。

 頼光は葛葉を助けようと手をなんとか取ってやろうとしていたが、復活した月夜丸にそれをさせないように両手をつかまえられて、身動きができなくなった。

 術者は本当の名を明かさない。
 名は自分の命、運命を左右するモノ。
 光栄は静かに思い出していた一度だけ晴明に聞いた事がある。
 この葛葉の片割れの子の名。
 それこそ、生みの親につけられた本当の名なのだ。

「あ、き、づ、き……」

と音をくぎって月の方に向かって呪を込めて言う。
すると月の方ビクリと肩を震わした。
 黒くて見えない影の顔がうすれて、目がのぞく。
 その目は光栄を驚きの目で見つめていた。

「あきづき……」

 今度は続けていう。
 葛葉を締め上げていた、手がきえた。
 葛葉は大きく咳き込む。
 後少しで意識をうしなって、死ぬところだった。
 光栄が呪をといたおかげで助かったが、どうして、名を知っているのか不思議だった。
 葛葉は苦しさで出てきた涙を拭い、光栄が視線を向けている人物をみると、自分がいた。
けれど、髪の色は銀色で耳は狐の耳をしている。

「な……ぜ………?」

 同時に葛葉と秋月と呼ばれた月の方は掠れた声で疑問をつぶやいた。
 
 光栄はニヤリと笑った。
 (うわ、なにか企んでるぞこいつ。)
 と頼光は思う。

「もう一度いってあげようか?秋月くん。」
 すらりと、言葉をつなげて名をいった。

「やめろぉ!!」
 いつの間にか己の腕に戻っていた手で頭をかかえて苦しむ。

「どうして、名前をしって……いる……」
 苦しんでいる秋月を見て、フフと今度は光栄が笑う。

「晴明様に教わったんだよ。愛しい愛しい我が子の名前をね」

 どういうことなの?愛しい我が子って……?
 自分以外に父様に子供がいたなんて知らない。

「愛しい我が子だと……?
そんなはずはない!僕は捨てられたのだから!葛葉の変わりに!!」
 と叫ぶ。
 その顔は泣きそうな悲しい顔をしていた。

「そんなことはない。
晴明様はいつもお前を探していた。忘れたことなど……」
「うるさい、うるさい!!!」
 聞きたくないというように叫ぶ。

 自分の知っている事実と本当はそうあって欲しかったという思いを振り切っているように葛葉は思えた。

 それは何故だかわからないけど、そう何かが伝わってきて、胸を締め付ける。

「その憎しみは葛葉がうらやましという気持ちから、だろ?」
 光栄は秋月の黒い感情が生まれた本質を言葉にした。
 口に出されたものは日の国において、言霊となって力となる。
 言霊となるように込めていってやる。
 秋月は狂ったように暴れるのをやめると肩をおとして力なく笑う。
 俯いていた顔をあげるとキッと葛葉を睨んだ。
 それは殺気の含んだ目。

「そうさ……僕は葛葉がうらやましくて……憎い……葛葉が死ぬまでこの恨みは憎しみは消えないのさ……」

「……」
 葛葉はなにも言えず、秋月の目をそらさずに受け止めているだけが精一杯だった。
「あーあー興ざめだ。この機会に葛葉を殺せると思ったのに、予定が狂った……
そこのお兄さんの所為でね……」

「数年後には本当に君のお義兄さんになるからよろしく」
 光栄はにっこりとほほ笑んだ。

「…そうならないようにしてあげるよ。かならずね。」
「いやでも、みとめてもらいますから」
しばらく光栄とにらみ合いをしていたが、秋月は、月夜丸を示すように顎をくいっと上げ、葛葉たちの視線をそちらに注目させる。
「あれの呪はとけないよ……心が癒されない限りね……」
まだ何かあるという用に不適に笑うと、秋月は闇に溶けるように消えた。

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2014/11/12 (Wed)
空は月が紅く輝いている。
 禍々しさが漂う空には小さく輝く星もある。
 葛葉、頼光、光栄、シロ、と式神の、炎と氷はさびれた神社にきていた。
 そこは一度、月夜丸を捕まえた神社だった。
 しばらく待って、来ないのではないかと思ったその時、鳥居のが、ぐにゃりと不気味に時空が回ると人があらわれた。
 月夜丸は虚ろな表情で生気のが無いように思える。

「やっときたわね……私に勝負を挑もうなんて根性あるじゃないの!」

 と左手を腰に当てて右手で、月夜丸を伴ってあらわれた者をびしりと指差す。
 炎は鬼火を出して辺りを明る照らす。

 挑戦者で今回の事件の犯人の姿を見てやろうと思ったが、顔がないのか、ただ黒かった。

「あいつ顔がないのか?」
と頼光は呟いた。

 葛葉は顔をしかめる。
 同い年くらいで犬神をあやつる者の顔が見えないが、耳は狐の耳で、尻尾は狐だった。
 顔と同じく、黒い服をきていて、全体的に暗くて、影のようだった。
 ただ、髪が銀が混じっているらしく明かりによく輝く。
「呪術をつかって、顔を見られないようにしてあるんだね……」
 光栄も内心で舌打ちする。
 葛葉の片割れがどんな顔をしているのか興味があったからだ。
 わざと覆面にしたのは顔を知られるとまずい理由があるのだろうか?
 

「お前こそ、本当にくるとは思わなかったよ、葛葉……」
 フフっと人を見下したような口調と笑いをする。
 その声音できっと人を見下したような表情をしているんだろうと思うと腹が立つ。

「売られたケンカは買うのが私の主義よ!」
「ケンカか……フン。ケンカで済めばいいけどね」

 声のトーンを落として、皮肉たっぷりにいう。
 光栄はそのやり取りをきいて、なぜか、解説したい気分になって、

「う~んどう思いますかね、結構似た者同士だと思いますが~
……どうでしょう解説員の頼光君」
「そうですね~二人ともプライドが高いところが………ってちゃかすなよ!」

 と頼光はのりつっこみをする。
無意識に合わせてきてくれた頼光に肩をポンポンと叩きながらアハハッと笑う。

(光栄って、何考えてるのか…
…真剣勝負のときに…しかも時代錯誤だっての!)
 と氷は光栄のことを心の中で思った。

「月夜丸様を返しなさいよ!」
 葛葉たちは光栄たちの話をよそに話をすすめる。

「いやだ、これは僕のものだ。」
 口調がやはり居丈高だった。
 しかも、モノ扱いが当然の、悪気がない言い方がやたら腹が立つ。
 葛葉はその言い方にむかつき、札を数枚取り出しさっと放つと輝く鳥になってその犯人に向かう!
 葛葉が式を放つと同時に

「月夜丸!!」
 と月の方が命令口調で叫ぶと、月の方の前に立ちはだかり、人間技じゃない早さで光り輝く式鳥を素手で全て掴み消した。

「なっ!」
 葛葉はあまりの事に驚く。
 その隙をつき、凄い勢いで葛葉目掛けて月夜丸は走り、
葛葉の細い首をつかみ、そのまま月が輝く空に持ち上げる。
 自分の身長以上高いところに持ち上げられしかも、容赦なく閉めてくる手の所為で息が出来なくて意識を失いそうになる。

 「葛葉!!」

 頼光が鬼切丸の鞘を抜き助けにいくよりも早く、光栄が放った式神が月夜丸の腕に当たり、紙は白蛇になり腕に容赦なく巻き付いた。
 その締め付ける痛さに手を離し、葛葉を落とす。
 頼光はすかさず落ちた葛葉の下敷きになって衝撃を和らげる事が出来た。

「ごめん、頼光大丈夫?」
「ちょっと重い…」
ぺしりと頼光の頭を叩いてから、
「ありがとう」
と葛葉の安堵の笑みを見ると、それだけで幸せになる頼光だった。

「多勢に無勢なんて卑怯だと思わない?」

 月の方は表情は見えないが、光栄の方を不敵な笑みを浮かべて睨んでいることだろう。

「君だって、無勢じゃないだろ……?」
 光栄がそういったのは、周りが闇の気配に満ちていたからだ。
 獣の唸り声がどこからともなく聞こえてくる。
 禍々しい犬の気配がする。
 それは今まで呪術した犬神だ。
 一匹が光栄目掛けて飛んできた。

 それを頼光がすかさず鬼切丸で切る。
 そうするとさぁっと消えた。

 「ありがとう、頼光君」
 と微笑んで頭を撫でる。
 光栄に対しては少し不服な表情をするがすぐに気を引き締めて
 「子供扱いするな!まだくるぞ!」

 次々と黒い者が光栄達を襲う。
 頼光と、炎、氷、白がそれらの相手をする。
 葛葉は月夜丸の手が離れたあと、蛇の式紙を剥がそうと必死の月夜丸を無視して、月の方に式神を放つ。

 月の方は手を前へ突き出し、空に浮かぶ紅い月のような光があらわれ、式紙を黒にかえて、式紙を返す!

「式返し!?」
 あわてて、式解きの術をとなえるが、

「解けない!きゃあっつ!」

黒に染まった式紙が葛葉の頬や腕を掠った。そこから血がにじみ出る。

 月の方はわざとらしく大きなため息をついた

「弱いじゃん。ちやほやそだてられすぎなんじゃないの……?」
 くっと咽をならして見下すように笑った。
 
月夜丸は蛇を喰いちぎって、再び葛葉めがけて突進する。

 葛葉は傷で痛む体をおさえる事をやめ、素早く態勢を立て直し、襲いかかろうとする月夜丸の方に走り、間近に迫ったところでしゃがみ、足払いを払った。
「!?」
 突然の攻撃によろけた隙に素早く、頭で顎をづつく月夜丸は仰向きに倒れた。
「きまった!!」
とその様子をよそ見していた、氷と炎が同時に叫んだ。

「呪術だけが、取りえじゃないわよだ!」
 氷にいつもプロレス紛いなことをやっているのはこの為でもある。
 呪術は意外と体力を使うのでそう言う格闘系で体力を葛葉は養っていた。
 倒れたすきをついて、喰いちぎったはずの光栄の白の蛇が二匹に別れて月夜いるの両手首を地面におさえつける。
 その上に葛葉が乗る。
 意図したわけではないけれど素晴らしい連携技だった。

 「さてと、まずはあなたから解放しないとね」
 何処かに操っている核がある。
 それはすぐに見つかった。首に黒い紐がある。
 それを取ろうとしたら、バチリと手をなにかに弾かれた。

「うはぁ!!!うあぁあ!」

 と同時に月夜丸は苦しみもがく。
 その苦しみは光栄の式神を引き千切るものだった。
 葛葉は暴れる月夜丸から、とっさに離れた。

 「それを無理にとったら、月夜丸は死ぬよ……いいの?」
 月の方はクスクスと笑う。

 「あんたねぇ……」

 葛葉は月の方を睨む。
 この呪は命を縛っているらしい。
 紐をとったら月夜丸の命もない。

「月夜丸は僕のものだ。お前が僕のものにふれるから呪って縛ってやった……」

 月の方は葛葉に近づき肩をわざと強く推して転ばせて度かすと、月夜丸の首の紐を引っ張る。
 すると月夜丸は苦しまなくなった。
 手首に再び巻き付いていた蛇は月の方が足で踏み付けると灰となって消えた。
 月の方は命を本当に握っているのだ。
 葛葉は月の方の襟をばっと掴み引き寄せ睨む。

「人の命をなんだともってるのよ!モノじゃないのよ!」
 目を見つめて説教をしたいのに、顔が見えない為に心に芯に届かないと思う。
 それでも、見えない顔を睨みつける。
 けれど、月の方の態度のなさ馬鹿にしたどこか、虚しさだけが伝わってくる。
「モノだよ。
命なんて……月夜丸の命は、僕のモノ
……そして、お前の命も!!」
 月の方は叫ぶと葛葉の首を両手でしめる。

「うっ!」
 指が咽にくい込む。じわじわと、きつく締め上げていく。

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2014/10/26 (Sun)

12.シロの思い

「月夜丸様のお母さんだったんだ……」
 葛葉は府も落ちた。
 いつもこつ然といなくなったり、月夜丸の後を間違えなく追えたり、悲しそうにして いたのはそう言う事だったのだ。

『はい……我が子がとても心配で……心を闇に蝕まわれているのが悲しくて……』
 それが心残りで天へ上がれなかったという。

『葛葉ちゃんと初めてあったとき、明るい月の力を感じました……あなたなら月夜丸を救うことができると思ったのです』
「でも……救えなかった……」
 もう月夜丸が獣になってしまったなら手遅れだ…

『いいえ……これからです……あの子を救って下さい……あの闇の月の力を使う童から……』
「闇の月の力をつかう童?」
と、光栄は眉根を寄せた。
 月の力を使えるものなど、さっきの葛葉の母くらいなものだ。
 葛葉も月の力をもっているが、潜在的で使えるとは言えない。
「だとすると……もしかして……その童と言うのは……」
一つうなずき、静かに確信したとなりで、

「それが犯人なのね!」
 葛葉は犯人が見つかって意気込んだ!よし!これで犯人が捕まえられる!

「よぉし!つかまえてやるわ!そして、月夜丸さまを救ってみせる!!」
「おう!やってやろうぜ!葛葉!」
 頼光も意気揚々だ。
 光栄は二人を少し落ち着かせるように肩をポンポンと叩いてから、
「その童は犬に虐待するものに復讐を共にしていたのに、月夜丸自身をつかうとはなにか、仲間割れでもしたのかな?その時の事を知っているなら詳しく話してくれないかな?」
唯一の年長者の冷静さでシロに問う。


シロは真剣な眼差しで光栄の問いにうなずいた。

『その者は私の存在に気付き言いました……』

 宮が月夜丸に殺されそうになったとき、コーエー、シロは宮を守った。
 そして、霊力を奪われた。
 それでも宮を守るように唸る。
 月夜丸は一瞬怯んだようだった。
 自分の母だと感じたのだろう。

「お前……葛葉の犬神か?」
 月夜丸を操っていた童は不敵に笑い。

「葛葉に伝えろ……例の社で待っていると。僕の犬に手を出した報いを受けさせてやる」
といい、消えたという。
 宮はその時、シロの姿をみて驚いていた。
 それは恐怖ではなく、哀しいまなざしと謝りの意がこめられていた。
 それで、シロは十分だった。

「ええ!あたしが今度は狙われてるの!なんで!?」
『それは分かりません……どういう意図ががあるのか……」
 光栄はだまっていた。
 やはり、葛葉の攫われた片割れだなと確信した。
 でも葛葉はその存在を一切知らない。
 知らされずに葛葉育った。
 けれど、もう一人は充分葛葉の事を穿った形で知っているようだ。
 
 攫った者は人ではないもので禍々しい、晴明の力や、カグヤでも探すことが出来ない、壁を創る程の力を持つ者に育てられた。
 もし、幸せに親のもとに暮らしている葛葉を知り、遠くから見て羨ましく思うことがあったから、疎外感や羨ましいという感情がうまれて憎んでいるのかもしれないと、光栄は思った。

 まだ、そのことは言わない。自分の想像でもあるし、親である晴明が口に出すまで……
 それを言ったら葛葉は他のことでも混乱してしまうと思う。
 なので、フツーの兄弟喧嘩だと気楽に思うことにした。
 そこまで考えておいて気楽な事に切り替えるのがうまい光栄だった。

「宣戦布告されたら、受けてたってみたらどう?」
と光栄は囃し立ててみた。

「宣戦布告だな。葛葉どうする?」
 葛葉の気ごころを知った頼光はわざとニヤリとした笑みを向ける。
 それにこたえて葛葉も同じ笑顔だ。

「もちろん!!売られた喧嘩は受けて立ってやるわ‼」
「おう!やってやろうぜ!葛葉!」
 頼光も再び意気揚々だ。

「その勢いだ。僕も精一杯手伝ってあげるからね」
 光栄も同じく微笑みながらいう。
「最強タック結成しちゃったね氷」
「オレ達もその中にはいってるんだぞ炎」
炎も氷もわざと同じ頬笑みをつくって
チームの結束力がつよまる。

 その頬笑みは力強いものとなって、シロの不安をも吹き飛ばすものになる。
 葛葉はシロの手を取ってぎゅっと握る。
「それに、月夜丸さまももとに戻してあげるから安心してコーエーじゃなかった、シロ」
『ありがとうございます……葛葉姫、皆様もよろしくお願いします』
犬姫は微笑むと子犬にもどり、いざ、月夜丸を操る月の方のもとへ急いだ。

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2014/10/26 (Sun)

11・カグヤの力

 翌日、右大将殿の妹の夫が獣に襲われたという話題が持ち切りになった。
 昼にはそのことが葛葉の耳にも入った。
 夕暮れに頼光を邸に呼んで詳しい話を聞く。

「ついに、貴族まで狙われたのね……こうなったら宮廷が動くことになるのかしら…」
「じゃあ、オレ達がしていたことを、他のやつらに取られることになるのか?」
と頼光は不満げだった。

「それは大丈夫だよ」

 と光栄が正式な直衣を着て庭先に現れた。
 宮仕の帰りらしかった。

「じつは、晴明様がその件を引き受けてくれたんだ。
でも、晴明さまは仕事だから僕がやることになったんだ。晴明様は宮中仕事で秋の季節は忙しいからね」

 微笑みながらいった。

「お前は忙しくないのかよ?」

 と不服顔で頼光は光栄に言う。宮廷陰陽師で自分たちの仕事を奪う事は同じ事だからだ。

「もの忌中ってことで、宮廷にはいけないってことになってるんだ」
「陰陽師がきいてあきれるぜ!」

 頼光は皮肉を言い放った後頭部に葛葉の拳が襲った。

「せっかく横取りされないようにしてくれたのに文句を言うなっ!」
 けれど、憎まれ口をたたくのは頼光だけではなくて、
 光栄の後ろからひょいっと、青いイメージの葛葉と同い年くらいの童子があらわれ、
「結局横取りだよな、葛葉がとろとろしている所為だぜ~」
と今は光栄の童式として使えている氷が口悪く言う。
 頼光はまっすぐに思った事を言うが、氷は確実に悪意をこめた憎まれ口をいうのだ。

 ひさしぶりの憎まれ口に葛葉は高欄から、すくっと立ち上がり氷めがけてとび蹴りをした。

「ぐは!!!」
「ひっさしぶりねぇ……!
その憎まれ口を聞くのは本当にひさしぶりで涙がでてきそうだわ!!」
 といい、氷の背にのり両腕で首をホールドして背骨をしゃちほこのようにそらせる。
「ごめんなさい、ごめんなさい!!葛葉さまはなにか考えがあってとろとろしておいでだったのですね!!」
「とろとろは余計じゃ!!!」
 さらに背骨をそらせて、背からぼきばきと音がなる。
 氷はバンバンバンっ!と両手で参ったの合図を出す。
 それが何時ものスキンシップでもありストレス発散となるのだ。
「葛葉ちゃんもう放してあげてよ~」
と炎が何時ものように止める。
すると、もう気がすんだのかパッと手を放して退く。
 葛葉は頼光のレフリー判定により勝利し栄光の笑みをうかべる。
 「くくくっ面白いよね葛葉達はっ」
 光栄はそのしぐさがとてもつぼに入っておなかを抱えて笑いをこらえる風をとっているが、葛葉の面白可愛さに萌え死ぬ寸前だ。
「なんか…いつもより凄い…
いびり方だったぜかなりストレスたまってんな……」

 氷は炎にそう呟いた。

 「そりゃねぇ……犯人の手がかりが掴めそうで、掴めなかったし、月夜丸の話を聞いて落ち込んでたんだよ」
「ふ~んって……月夜丸?」
 氷は光栄の方を見た。
 その視線を受けて光栄がいう。

「実は最初に報告された情報だと月夜丸という宮の息子に襲われたということだったんだ。」
 

「それっ!本当に!?」
 葛葉は信じられなくて、光栄の顔を驚愕した顔で見る。
 けれど、昨日父が憎いと言っていた事を思い出すと神妙の顔になってう葛葉はうつむいて冷静に考える。
 本当に殺す程憎かったのだろうか?
 そうしたら、今日じゃなくてもいいはずだ。
 
 
「その月夜丸のお父さんって死んじゃったの?」
「なんとか一命は取り留められたそうだよ。」
葛葉と頼光はホッとむねを撫で下ろす。

「それで、宮の口から獣にやられたという報告になったんだ。」
 それは、あからさまに愛しい息子を守る言葉だ。

 その言葉を信じられない貴族が葛葉の父の晴明を呼び出し、占わせたところ、晴明は今巷を騒がせる妖犬の所為だと断言して今日の京都じゅうに本格的に広まったということだった。
 どちらにせよ、陰陽師で調べさせ結果を追求するならそういう事になるだろうけれど、父は空気を読んでそう答えたに違いない。
 そして、光栄様を早速葛葉のもとへ行かせてくれたのだ。

「晴明様の情報によると、月夜丸さまは行方がわからないことが、怪しく思われている方もいるから、月夜丸を今日中に探してくれと言っていたよ」

 まだ最初の情報を疑っている方々がいる、月夜丸に親近をもった葛葉に悲しい思いをさせたくないと思っての忠告だった。

「取りあえず、月夜丸さまを探してみることだな。犬コーエーに後を追ってもらえば分かるんじゃないか?」
 頼光はそう提案した。
 ところが葛葉は困ったように頭をかいた。

「コーエー昨日からいなくなっちゃったのよ。
いつも夜になると消えちゃうの…」
「コーエーはあそこにいるよ」
「え・・・?」
 光栄は草の陰を指さす。
 すると、庭の影から、よろよろと、コーエーが現れた。
 葛葉はコーエーの体が透けていることに驚いた。
 コーエーは葛葉の顔をみると安心するようによろけて倒れた。
「コーエー!?
しっかりして!」
 触ろうとして、体が透けた。

「これは?どうなってんの?」
「この犬は……魂だったんだ……」

と光栄はいった。

「晴明様が言っていたよ。
 月の力を借りて形を保っていたんだって。
 けれど、これは誰かにやられて魂の力を奪われているね…」
 葛葉たちが気付かなかったのは母カグヤの月の気に慣れているからだった。
 コーエーはだんだん薄くなっていく。

「ど、どうしたらいいの?死んじゃダメっっていうか消えないでっ」
 薄くなりつつも何かを訴えるように葛葉を見つめる瞳に、どうにか助けたいという思いと、助からないかもという絶望感で慌てふためくしかない。

 そのとき、凛とした清清しい月のイメージがする香が馨って来た。
 その香は葛葉の心を落ち着かせる効果を持っていた。

「葛葉、、その犬を私に貸しなさい」
 北の棟からあらわれた母のカグヤが威厳のある凛とした声で言った。
 そして、不思議なの力で、コーエーを浮かせ胸元に抱いた。

「く、喰われる!!たいへんだ!」
 と氷は叫び、カグヤは失礼なっという顔で手にしていた扇をブーメランよろしく投げ付け氷を気絶させた。

「『白』の生き物は神の使いでもあり神に愛されし獣。
お前の魂が癒されるまでの力を与えましょう……」

 カグヤの手は月の光のよう優しく光り、コーエーの魂を癒し力を与え輝いた。
 そして、犬の姿ではなく人の姿へと変えた。
 ただし、耳と尻尾が生えている。

『ありがとうございます。月の姫……この力は贄となりお返しいたします。』
と頭を垂れ、礼をする。カグヤは手をふって断った。

「いいのよ。まだお腹はすいてはいないし……非常食の贄は二匹いれば十分だから、ね?」
 カグヤは炎と氷を見て妖艶に微笑んだ。
 炎と氷は二人抱きあってざめた。
 
「毋様って凄い!」
 葛葉はキラキラさせ尊敬の眼差しである。

「じゃ、がんばってね」
と気さくにいい自分の部屋へ帰っていった。
だが、言い忘れたことがあったかのように、柱に手をかけ止まり、

「あ、氷あとでその扇を持ってきてね」
い、嫌だ……絶対に!
と氷は心の中で叫んだ。

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2014/10/25 (Sat)

9.ゆるむ思い

 
 月夜丸は自分の邸の階に腰掛け、子犬をあやしながらそんな月を眺めていた。
 今宵の月は少し欠けた月だ。
 自分に欠けてしまった感情のような気がした…

 「月夜丸……いい加減に元服をしないか?」
 と父が月夜丸の部屋まで渡ってきてそう言った。

 無視をする。
 父は自分を可愛いと思ってくれているのは感じているが、月夜丸は心が開けない。
 一匹の子犬が父の方に近付いた。
 父は子犬を慣れた手付きで撫でる。

「シロはこのくらいの時に私とあったのだ……」
「そして殺した」

 刺を含んだ声で次の言葉を継がせないように言ってやった。
 父は口を噤んだ。

「お前は北の方の子だぞ、シロの子のはずがない…」
 と父は諭すようにいう。

 幼かった月夜丸を、母を裏切って迎えた妻の養子にした。
 幼いので、犬に育てられたことな、忘れるだろうと思っていたらしいが、全く忘れなかった。

 父をこそ諭したいとムキになったことが幼いころはあったが、父は頑としてその事を受け入れなかった。
そういうところは、この父の子だとおもう。

 最近はその事で父と話す事を諦め父の言葉をむしすることにした。
 けれど、今日葛葉という娘と話した時の熱い思いが胸にまだ燻っていた。

「母のことをまだ人喰いの化け犬とお思いか?愛した女が獣なのが許せなかったか?答えろ……」

 犬のように唸るように父を睨み切にいう。
 父は目をそらし、俯く。
 また答えをはぐらかし逃げる気だろうか?
 逃がさないように腕をガシっと掴む。
 「!?」
 月夜丸、意表をつかれた。
 父はそのまま、夜丸の肩に顔を埋め、月夜丸の背をきつく抱きしめて耳もとで呟く。

「確かに……私は正体を知って受け入れられなかった……自分の思いを受け入れられない思い、府に落ちない思いに苛つかせ…シロを見つけ殺してしまった……
だが、今は後悔してる……
 この年になって落ち着けるようなって、ふと考える」
 父は、口には一生出さないと思っていた想いを、愛しいわが子に、月夜丸に白状する。

「シロは本当に私を愛していてくれたのだなと……
私も、もっと真剣になれば良かったと。
 殺すこともなかったのではないかと………すまない……本当にすまなんだ……月夜丸許してくれ…」

 声を殺し月夜丸の肩に頭をのせて泣いた。
 張っていた心の糸がゆるんだのだ。
 そのゆるみが月夜丸の方にも伝わってきた……
 それがなんだが、もどかしくて、許してしまいそうになる自分が嫌で父を突き飛ばし、邸の外に出た。

10.服従の関係

 あの月の方に会った場所に無意識に来ていた。
 杉の木の幹に肘をつき大きく息を吐き左の手を胸元できつく握る。
 心を、ドキドキと鼓動する何かを止めたくて。

 苦しい……苦しい……憎くて憎くて仕方がなかったのに……
 なんなんだこの違和感は。
 父から流れ込んできた心が苦しくて仕方がない。
 憎くて仕方がないという心を洗い流そうとする温かなものが、別の苦しみを与えているような感じだ。

「どうした?何がそんなに苦しんだ?」
 と月の方が気配もなく現れた。

 月の方の突然に話し掛けられてビクリと肩を揺らし振り向いた。
 月夜丸は黙った。

 なんていえばいいのかわからなくて別のことを言うことにした。

「昨日殺した犬は……?跡形もなかった……どうしてだ?」
 月の方は不敵に何時ものように微笑んでいたが、眉ねを寄せていた。

「葛葉が近付いてくるのがわかったから、消した」
「自然には還したか?」
「還すわけないじゃない。闇に支配されたモノを地の神は受け入れない、いつものようにお前は呪術を使い終わった犬を林に放ったが…」
 口元に手を当てクククっと笑いをかみしめるように笑う。

「それは意味がない事だったね。その肉体は僕が仲間にくれてやった」

 月夜丸はぐっと拳をつくり月の方を睨む。
 仲間とはどういうモノたちなのかは想像もつかないが、きっと禍々しいモノなのだろうと思った。
 
「なに?その反抗的な目は?御主人様に逆らっていいのぉ?」
「誰が主人だ‼」
と月の方の首元を狙って腕を勢いよくのばす。
 さっきまでの感情も手伝って手加減は無い。
 むしろ力が増している。
 この力で勢いで月の方の細い首を握れば息の根を止めらた。
 だが、月の方は地を蹴り跳躍し、月夜丸の背の方に空中で回転しながら着地すると何かの呪文を唱える。唱え終わるとニヤリと不敵な笑みを浮かる。
 シュッと細く黒い紐が月の方の口元から現れて、月夜丸の首に巻きついた
「なんっだ!?これは!」
「首輪だよ」
 とっさに首に巻きついたものを引き千切ろうとしたが、月の方はその紐を思いっきりひっぱり、月夜丸を仰向けに倒す。
「それにねぇ……犬のくせに、飼い主以外に懐くんじゃないよ……」
と倒れた月夜丸のむねに馬乗りになり、無表情で冷ややかな刺のある声で覗き込み言う。

「俺は主人などいない……たとえお前でもそう思っていないっ」
「思わせてやるよ……忠実なる犬神としてね……」
 きつく呪の紐を閉めていく。
 息ができなくて意志が薄らいでいく。
 薄らいでいくにつれて、この月の方の心が流れ込んできた…
「同じだ…お前も…っ俺…と」
 この童も俺と同じなのだ………と思うと意識を失った。

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2014/10/25 (Sat)

8・せつなき想い

 父は天皇の血に繋がる者で、勢力争いにもならない捨て宮だった。
 都の外れに邸で独りで暮らしていた。
 ある日カラスに襲われ傷ついた子犬を助け、俺の母になる白い犬を飼った。
 一人寂しかった父の人生に楽しい日常が始まった。
 
 シロがいれば一人など寂しくない。
 大事にしてやるからな…
 シロを父はとてもかわいがった。
 
 母はそんな人間である父を愛し、月に毎晩祈った。

 どうか、どうか、この愛しき人間の妻になれる姿にしてください…
 私はこの人間を愛おしいのです…
 

 その祈りが月の神に通じたのか人の姿となり、父と恋に落ちた。
 人の姿を保つには毎日月にお祈りをしなくてはならなかった。
 父は始めはいなくなったシロが心配だったが、なぜか、娘といるとシロがいた時とかわらず穏やかな気持ちになれた…
 しだいに、犬のシロの存在を忘れていった… 

 だが、都からも離れ、人とかかわらない父の暮らしはとても質素で、自分ひとり暮らしていくのが、ぎりぎりの生活をしていた為に、
 愛しいが、地位のない女を養いながら暮らしていくのは生活厳しすぎた。

 そんなある日、父の知人の貴族から妹を紹介されて、その娘とも結ばれ正式な夫婦になった。
 
 人の姿になって俺を身ごもった母は、何時帰ってくるか分からない父を不安に思いながら待つばかり。

 毎夜、月に祈ることも忘れてしまった母はだんだん、人の姿を保ってはいられなくなった。

 父はひさしぶりに邸に帰ってくると、母の正体を知ってしまった。
 頭には犬の耳が生えて、尻尾が袿の下からのぞいていた。
 女は人ならざるものだった。
 父は驚きと衝撃にその場から逃げだした。
 二度とこのシロと共に生きた寂しい邸には足を踏み入れなくなった。
 
 正体を知られた母は深い森へと隠れた。
 正体がばれたら、人とは会わないという獣の掟だった。

 もうすぐ臨月だというのにばれてしまった。
 このまま、犬の姿に戻ったら、子は人でも獣でもなく、ヒルコという、神の禁忌の子のようになってしまう。

 「どうか、神様……今少しだけ、人の姿に!!」

 と切に願いながら俺を生んだ。

 生まれてきた俺の姿は人だった。

 今だって人として、育っている……禁忌の子になるのは避けられた。
 だが、気配は獣だった。
 それは仕方のないことだと母は言ったが。
 そして、二、三年の月日が立つと俺は森を駆け巡り、犬の生活をしていた。
 幼く好奇心が強かった俺は森の外にでてしまった。
 そこで偶然狩りに出かけていた父と会った。
 父は俺を見た時、自分の子供だと感じたそうだ。
 人間の姿を見るのは初めてだったから、俺は驚いて逃げた。
 そのことを、母がに話すと、母は俺を人間のいるところに父のもとへ行けと言った。
それは、獣の森の神は人間である俺を、森で健やかに暮らすための条件として人に会わせてはいけないという掟があった。

 母は人であるころ父に贈られた袿の衣を被せて森を追いやった。
 行く場所もなく彷徨っていた俺は偶然に父に拾われた。

 衣を見て父は愛した女の子供、自分の息子だと認めたが、母が獣だとは認めようとはしなかった。
 母はあの化け犬に喰われたのだと、思い込んだらしい。

 そして、森に入り愛しい女を殺した化け犬と思い込んで、矢を放ち殺した……

 「ひどい………」
 葛葉は胸元で拳を作り涙をためていた。

 淡々とした口調に熱がこもって月夜丸は咽をつまらせながら思いを吐き出す。
 瞳には怒りに煌めいている。

 「愛しいモノを殺されて仇をとるくらい愛しているなら……
 母を本当に愛していたなら……獣だろうとなんだろうと母だと純粋に認めてれば… …あんなことにはならなかったのに……」

 その辛い話に葛葉も月夜丸と心が共感して泣きたくなる。せつなくて悲しくて苦しい…
 月夜丸にかける言葉が葛葉には見つからなかった。
 頼光も同じ気持ちらしく、かなしい話に涙を我慢している。

「父は……人間は愚かだ……
現実が受け入れられないと、勝手に解釈してなにかの所為にする……
人間は弱いから、もっと弱い生き物に辛く当たる……自分がどうしようもなく、何もできないからって……母にした仕打ちのように感じて……憎しみが止まらない……‼」
 最後は叫ぶように言う。
 風がザァッと吹いた。
 月夜丸の結っていない髪を激しく乱す。
 表情が見えないが、葛葉の頬に冷たいモノが濡れた。
 これは自分のモノではない。

「月夜丸…泣いてるの………?」
 月夜丸の近くに足が行き自然と涙をぬぐおうと手を差し伸べるが払いのけられた。
 月夜丸はさっと立ち上がると走り出した。

「おい!葛葉追わなくていいのか?」
 葛葉は払いのけられた手をさすりながら沈黙する。
 ただ、頭を小さく俯いた。
 
 月夜丸に気づかれる事がなかった、白い犬のコーエーはただ、寂し気に月夜丸の後ろ姿を見送っていた。

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2014/10/23 (Thu)

6・闇夜に浮かぶ月の方

 世界は闇に覆われ何も見えない。
 ただ、冷たい雨が、己の存在が存在するものだと感じさせてくれる。

 星は雲に隠れ、光が届かず、時折、雷だけが闇に閉ざされた世界を一瞬だけ激しく輝かせ闇に閉ざす。

 神社の社で雨宿りしている月夜丸は、生き絶えた犬を抱いている。
 理不尽な乱暴を受け、一気に死ねず痛さに呻く犬を刀で一息にした。
 本当はしたくなかった……
 だけど苦しむ姿がとても痛々しくてそれを犬も望んでいた。

  この犬には子がいたらしく、途中で追い付いてきた従者に子犬を預けてこの社まできた。
 従者には見つからなかったとでもいっておけと言い邸に返した。

 月夜丸は罪もない犬をこんな目にあわせた人間が憎いと思う。
 そして、自分の人間と同じ姿のことも。

「人であることが憎くなる……半分流れている血の同族をこんな目にあわせている人間が……」
と呟く。

 どちらかの一種族なら、苦しまなくてすんだのに……
 人の体でうまれ、心は獣なのだと自分は思う。

 だから自分が苦しい。

 でもこれが、自分という存在なのだから仕方がないといつものように諦める。

  ここでじっとしていても、きっとあの方は今日は来ないのだろうなと思い、かえろうとした時。

「また連れてきたの?」
と子供の声。

 それは、自分と『同じ者』で月の力を持つお方。

「ああ……この犬の恨みを晴らしてくれ」

 暗闇で何も見えないはずだが、二人はお互いの姿が見える。
 人では無い瞳の能力を活かし視る。

 闇の色をした衣を着、耳は人の耳ではなく狐の耳。
 そして十歳くらいの童というのが、この月の方の姿だった。

 月の方は月神の力をあやつり、獣の望みを叶えてくれるという。
 それは数日前に遡る、犬を殺されたところを悲しんでいた時、その方はあらわれた。


「その犬の恨み晴らしてあげようか?」
 と言った。

 最初は訝しんだ。
 狐の匂いもするからだ。

「狐の匂いがする?
 それは君と同じ獣の血を引いてるんだよ。狐のね。
でも、僕は犬であろうとなんであろうと、恐くない……」

 癖なのか、悦の入った喋りかたが少々気に触ったが、続きを促すように目を見つめる。

「なぜなら月の力を授かる者だからだ………」
「月の力を授かるもの……?」

 それは、小さいころ犬の母に聞いたことがあった。
 月に獣の願いを叶えてくれる力があると、自分が生まれたのも、月のおかげだと……
「どう?お前の望みを叶えてあげるよ……」
 フフっと不敵に笑う。

 そして、願いを叶えてもらった……

 事あるごとに今のように犬の死体を抱いてはそのお方に会うようになった。
 犬を手渡すと、またフフッとあの笑みだ。
 そういえば……昼に会った男の子のような格好をした女の子に似ていると思った。

「昼……会わなかったか?」
 と聞いてみた。

「あってないよ?
僕は夜闇のなかでしか、会わないじゃないか」
「そうか……」

 確かにそうだ、この方は『雄』だ。

 月の方は犬を頭だけ残してうめるている。
 本当は生きている犬で呪術を使うらしいのだが、闇の力を借りて、まだ生きている思いを宿らせて術を行なうのだ。

 その作業中、その方はふと何かを思い付いたらしく月夜丸に問う。

「昼に会ったってやつ……僕に似てたんだよね」
「ああ……雌の匂いをしてた」
その言葉をきいて、怪訝な顔をした。

「……幸せそうだった?」
 声に刺があった。憎んでいるような……
「不自由しているようにはみえなかったな」
「ふ~ん……」
 と鼻で相づちをしいつものように呪術の用意が出来た。

 その姿をみるのは辛いが、呪術を使うためだ。
 呪を唱えると、首の周りに白いモノが集まり中に入る…と、一声なく、すると、白いモノはだんだん黒にかわっていき例の獣の妖しへと変じた。

 そして、闇の中に解けて呪う相手のもとの所にいった。

「これでよしっと……それにしても……」
呪術を探っているモノがいる。

それが…

「葛葉だったなんて……」
 と憎々しく呟く。

「葛葉?」
「お前は知らなくていいことだ……さっさと自分の寝ぐらに帰れ」
 そう呟くと月の方は消えていった。

 「寝ぐらか……」
 月夜丸は皮肉毛に苦笑をすると、いわれて通り邸に帰ることにした。

 その後ろ姿を、白い子犬が付いてきた。
 だけど、月夜丸は気付かなかった。

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2014/10/23 (Thu)

6・闇夜に浮かぶ月の方

 世界は闇に覆われ何も見えない。
 ただ、冷たい雨が、己の存在が存在するものだと感じさせてくれる。

 星は雲に隠れ、光が届かず、時折、雷だけが闇に閉ざされた世界を一瞬だけ激しく輝かせ闇に閉ざす。

 神社の社で雨宿りしている月夜丸は、生き絶えた犬を抱いている。
 理不尽な乱暴を受け、一気に死ねず痛さに呻く犬を刀で一息にした。
 本当はしたくなかった……
 だけど苦しむ姿がとても痛々しくてそれを犬も望んでいた。

  この犬には子がいたらしく、途中で追い付いてきた従者に子犬を預けてこの社まできた。
 従者には見つからなかったとでもいっておけと言い邸に返した。

 月夜丸は罪もない犬をこんな目にあわせた人間が憎いと思う。
 そして、自分の人間と同じ姿のことも。

「人であることが憎くなる……半分流れている血の同族をこんな目にあわせている人間が……」
と呟く。

 どちらかの一種族なら、苦しまなくてすんだのに……
 人の体でうまれ、心は獣なのだと自分は思う。

 だから自分が苦しい。

 でもこれが、自分という存在なのだから仕方がないといつものように諦める。

  ここでじっとしていても、きっとあの方は今日は来ないのだろうなと思い、かえろうとした時。

「また連れてきたの?」
と子供の声。

 それは、自分と『同じ者』で月の力を持つお方。

「ああ……この犬の恨みを晴らしてくれ」

 暗闇で何も見えないはずだが、二人はお互いの姿が見える。
 人では無い瞳の能力を活かし視る。

 闇の色をした衣を着、耳は人の耳ではなく狐の耳。
 そして十歳くらいの童というのが、この月の方の姿だった。

 月の方は月神の力をあやつり、獣の望みを叶えてくれるという。
 それは数日前に遡る、犬を殺されたところを悲しんでいた時、その方はあらわれた。


「その犬の恨み晴らしてあげようか?」
 と言った。

 最初は訝しんだ。
 狐の匂いもするからだ。

「狐の匂いがする?
 それは君と同じ獣の血を引いてるんだよ。狐のね。
でも、僕は犬であろうとなんであろうと、恐くない……」

 癖なのか、悦の入った喋りかたが少々気に触ったが、続きを促すように目を見つめる。

「なぜなら月の力を授かる者だからだ………」
「月の力を授かるもの……?」

 それは、小さいころ犬の母に聞いたことがあった。
 月に獣の願いを叶えてくれる力があると、自分が生まれたのも、月のおかげだと……
「どう?お前の望みを叶えてあげるよ……」
 フフっと不敵に笑う。

 そして、願いを叶えてもらった……

 事あるごとに今のように犬の死体を抱いてはそのお方に会うようになった。
 犬を手渡すと、またフフッとあの笑みだ。
 そういえば……昼に会った男の子のような格好をした女の子に似ていると思った。

「昼……会わなかったか?」
 と聞いてみた。

「あってないよ?
僕は夜闇のなかでしか、会わないじゃないか」
「そうか……」

 確かにそうだ、この方は『雄』だ。

 月の方は犬を頭だけ残してうめるている。
 本当は生きている犬で呪術を使うらしいのだが、闇の力を借りて、まだ生きている思いを宿らせて術を行なうのだ。

 その作業中、その方はふと何かを思い付いたらしく月夜丸に問う。

「昼に会ったってやつ……僕に似てたんだよね」
「ああ……雌の匂いをしてた」
その言葉をきいて、怪訝な顔をした。

「……幸せそうだった?」
 声に刺があった。憎んでいるような……
「不自由しているようにはみえなかったな」
「ふ~ん……」
 と鼻で相づちをしいつものように呪術の用意が出来た。

 その姿をみるのは辛いが、呪術を使うためだ。
 呪を唱えると、首の周りに白いモノが集まり中に入る…と、一声なく、すると、白いモノはだんだん黒にかわっていき例の獣の妖しへと変じた。

 そして、闇の中に解けて呪う相手のもとの所にいった。

「これでよしっと……それにしても……」
呪術を探っているモノがいる。

それが…

「葛葉だったなんて……」
 と憎々しく呟く。

「葛葉?」
「お前は知らなくていいことだ……さっさと自分の寝ぐらに帰れ」
 そう呟くと月の方は消えていった。

 「寝ぐらか……」
 月夜丸は皮肉毛に苦笑をすると、いわれて通り邸に帰ることにした。

 その後ろ姿を、白い子犬が付いてきた。
 だけど、月夜丸は気付かなかった。

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2014/10/23 (Thu)

5.安倍家の家庭

 夕暮れは龍のように光る雷が空を駆けめぐり、大粒の雨をしばらく降らした。
 そのため、頼光は自分の邸に散歩が終わった後帰っていったのだ。

 嵐の様な夕方が過ぎて穏やかな夜が訪れた。
 安倍晴明の邸全体が螢のように明るかった。
 それは呪術で作り上げた光だ。

「ってことがあったのよ」
 と葛葉は父晴明の部屋で食事をとりながら昼あったことを告げた。
 普通は家族で食事をとることなどないのだが、晴明の家風は特別である。
 子犬のコーエーは階で御飯を食べている。

「犬との子供ね……あり得るんじゃないのかな?」
 と晴明は温かい汁ものを飲みながら言った。

 「あなたも狐との間にうまれたのですものね」
 母は炎に御飯のおかわりを要求してにっこりと微笑む。

「じゃあ、私も狐の血がやっぱり繋がってるの?」
「繋がってる、でも人である為に犬に慣れないといけないぞ」
「わ、分かってるわよ父様。大分コーエーに慣れてきたし……それよりさ、人間と獣って結婚できるの?狐の話はよく聞くけどさ」

 狐の話は古代大和の時代の書物にも載っていることだ。
 狐は化ける、現に父が生まれている。

 ふいに、母のカグヤはフフッと笑った。

「月の力を借りるのよ。」
「月の力を借りる?母様が貸してるの?」

 母は月の住人で、父と恋に落ちて地球に暮らしている。
「そうじゃないわ。月は獣を統べる力を持っているの。人だって、月の力を借りて人がうまれるのよ。」


 月はとても神秘な力を持っている。
 獣は月の神を崇めているのだという。

「月の神は稀に獣の願いをきいて、人へと姿をかえてくれるのだそうだよ」
「へぇ~月の神様って凄いのね!」
 葛葉は神秘的な話に目をキラキラさせて感嘆した。

「きっと、その犬は宮を愛してしまって人にして下さいって願ったのね」
「そして結ばれて、その月夜丸様がうまれたのよ」
「だから、月夜丸って名前何だわきっと!」
 母子は二人してロマンチックな想像の恋物語にきゃあきゃあと浮かれて会話している。

「でも、その月夜丸様は生まれた時は犬の中で育ったのだろう?
その名前つけたのは偶然だと……」

 カグヤに頬をつねられて晴明はいいかけた言葉を渋々噤んだ。
 水をさすなということなのだろう。
 これ以上口をはさむとたとえ愛しの夫と言えど容赦はしないのが葛葉の母である。

 そんな二人をみて葛葉は楽しげに、ふふっと笑う。
 平安時代では奇妙な家族風景だが、これが葛葉の家の生活。
 この時代のどこの家族よりきっと幸せな家庭だった。
 

「コーエー、お手!」

 子犬は葛葉の差し出した右手に足を載せた。
 ちょっと、うれしくてコーエーの頭を撫でる。

「本当になれたのだね」
 父は葛葉の後ろから覗き込むようにその様子を見ていた。

「うん。なんだか恐くなくなったような気がする。」

「だろうね。
さっきの話の続きだけど、葛葉にはカグヤ……母様の力を持っている。
だから、獣を怖がってはいけないよ?」

「月は獣を従わせるから?」
「そうだよ。よくわかったな」
「だって……そう思ったんだもの……私は普通の女の子にはない力を持っていて、普通とは違う血をもっているなら・……って
 母様の話を聞いて、月の血を引いてるなら、コーエーを怖がっちゃいけないなと思ったの」
 照れながら葛葉は答えた。

「葛葉ちゃん……」
 相変わらず感の良さと深い考え方をする我が娘を誇らしく思えた。
 そして、とても愛おしく感じる。
 ふわっと、ふいに葛葉は晴明に後ろから、暖かく抱かれて、その腕にいつものように頬擦りをする。

「どうしたの父様?」
「可愛いな~ッて思ってね」
「もう!分かり切ったことじゃないの!」
 はは、そうだね。と笑いあって十分包容したらそっと離れる。
「今日って例の妖しでたりしないかな?」
「出たら出たでいいじゃないか。今日はお休みにしなさい」
 厳しいものではないが、有無を言わせない親の特権で命令する。

「もう父様ったら!私の信頼がなくなるのよ。……犯人は犬神を使うものなのよね…父様そう言う人知ってる?」
「う~ん道満殿……かな?でもあれは私を狙っていて庶民に手を出すような方じゃないしねぇ」

 道満とは父の永遠のライバルとか名のって時たま邸に訪れる変な人だという認識が葛葉にある。

 「月夜丸様ってこともあるかも知れないな……」
 ふと、晴明は犯人の疑いのある者の名を呟いた。
 「犬を抱えて消えてしまったなら、その消えた犬こそ犬神にして使役している可能性がある…」
 「でも…あの人、犬をとても哀れんでたし、犬に惨いことはできないんじゃないかな……」
 そう思いながらも、葛葉も怪しいと思う。
 死にかけた犬を楽にしてやるといって社や廃寺にいっていると月夜丸の従者が言っていた。
 もしかしたら、そこで何かの術をしているのかも知れないと、葛葉も思い当った。

 それが事実なら確かめたい!とうずうずして、父の顔を仰ぎ見る。
 その眼の輝きはとてもかわいらしくて、許してしまいたくなるのを晴明は、ゴホンとわざと咳払いをして、

「今日はもうそーゆーことは考えるの止めて、もう休みなさい。いつも深夜起きてるのだからね?」

 言葉は優しげだけど、目は笑っていない事に、葛葉は気づいて諦めることにする。言いつけを守らないと、この事件の仕事も父自ら打ち切る可能性があるからだ。

「……うん。そーだ!コーエーが入って来れないように綱で繋いでおこう……ってあれ?」
 やはり今朝のようなことは、まだ慣れないので、頼光の案で柱に繋いでおこうと思ったのだが、白い子犬のコーエーは気配もなくいなくなっていた。

「どこにいったのだろうね?」
 父の晴明も首を傾げたが、顎に手を当てて目を閉じ、コーエーの気を感じ気がついた。 

「あの子犬……もしかして……」
 私としたことが……とひとり晴明はごちた。
「父様?」

 神妙な顔をしている父を見上げる葛葉の頭に手を当ててなでる。

「ま、いいか。いつか帰ってくるよ」

 葛葉を不安にさせないように微笑んだ。


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2014/06/10 (Tue)
4.月夜丸

 晴天だった空は昼を過ぎるころには雲行きが怪しくなってきた。
 葛葉と頼光は綱に繋いだ子犬のコーエーをつれて散歩に出た。

「なんだか、雨がふってきそうだぜ」
「雨が振る前に帰れたらいいわね~」
 ワンとコーエーも話に加わるように吠えた。

「いい?呪府の匂いを辿るのよ?」
 血にぬれた呪府を嗅がせようとするとコーエーは鼻を背ける。

「ちょっと、ちゃんと嗅ぎなさいよ!」
「無理いうなよ、俺だってやだぜ、血のにおいのついたもの嗅ぐなんて」
 頼光に諭されてしぶしぶやめることにした。
 場合によっては虐めてるようにも思えるからだ。

「それにしてもどうして、いきなり散歩なんか思い付いたんだ?」
「原因を確かめによ」
「呪者じゃなくって?」
「それも見つかるかも知れないじゃない」
いきなりコーエー勢い良く駆け出した。
綱をもっていた葛葉は引っ張られる。

「きゃ!なんなの?」
 コーエーがひっぱり連れてきたところは角をまがった、すぐのところで犬の悲鳴と容赦なく犬を棒で叩く現場だった。

「ばか犬がっ!人様に逆らうじゃねえぇ!」

 キャンギャン!

 もう動けない犬を中年の男が手加減無しで棒で叩き付けていた。

 見ているこっちも恐くて痛々しかった。
 コーエーはその人間に威嚇するようにしっぽを下げて、うなっている。

「やめろよ!!」
 と頼光はその中年の男を止めに入った。


頼光はその中年の男を取り押さえた。
 子供など振り切ってまた、乱暴をしようとしても、毎日の剣の稽古をしている頼光からは逃げられなかった。

「弱いものいじめすんじゃないわよ!」

 倒れている犬の前を両手を広げ庇い、葛葉も怒鳴った。
 子供にとめられて、恥ずかしくなったのか、チッと舌打ちをし、まだ怒りがおさまらないのかがなり声でいう。

「この犬が主人の塀にションベンかけやがったんだ!だからこらしてたんだよ!当然の報いなんだよ!」
「こんなになるまで暴力振るうことないじゃない!!」
「お前らみたいな良い所の子供にこのどうしようもない感情がわかるかってんだよ!」

 たぶん、使用人として働いていて、いろんな嫌な事があったり、卑下されている事にも腹をたていたり、みじめな感情をもっていて、それを犬にあたっているのだ。

「分からなくてもいいもの!」
 葛葉は睨んで言う。

 中年男はフンっと鼻をならし踵をかえし去っていった。

「これは……助からないかもな……」
 頼光は暗い顔をして息も絶え絶えの犬を撫でながらいう。
 口からは血を流し呼吸が荒い。内臓を何度も蹴られて、骨は折れそれでも生きているのはとてもいたくて苦しそうだった。

「もう少し…早くたすけられたら……」
 コーエーは悲しそうに鳴き犬の鼻をなめた。

「惨いことをする……」

 怒りを込めた怒りをこめた、ぼそりと呟く声がした方を仰ぐと、十四、五くらいの少年が葛葉たちの後ろに立っていた。


立派な狩衣のまとい、成人しているなら髪を結い烏帽子をかぶるところが、髪をとかざずにボサボサした髪をしていた。けれど、一瞬で人を魅了する美しい顔立ちをしていた。
 端正に整えらている顔は眉間に皺よせ、怒っているように見えるし泣いているようにも見えた。
 片膝をおり葛葉の横に腰をおろした。

「!?」
 突然、葛葉は後ずさった、気配が犬に似ている。
 なんなの…この人は……姿形は人なのに……

「これはお前達がやったのか……?」
じろりと睨まれた。

「ち、ちがうわよ!」
「そうだぜ、ここの邸の使用人がやったんだ!」
「………そうか」
といい、倒れている犬を抱き上げると歩き出した。

「その犬どうするつもり?」
肩ごしに振り返り、
「楽にさせてやる……」
 楽にさせる。それは死を与えてやるということなのか。

「名前は何ていうんだ?」
 と頼光はたずねたが無視をし、角をまがって消えた。

「なんだあいつ!感じのわるい!!」
コーエーはクゥンと泣いた。
「そういえば、このコーエーの存在をあの人は気付いてなかったみたいね……」
 でも、酷いし打つをした犬のほうに気を取られていただけかもしれないと思う。

「月夜丸様~~~~!」
 と後ろから従者らしき身分の青年が駆けてきた。

「君たち月夜丸さまみなかったか?はずかしげもなく、烏帽子もかぶってない少年を!」
 それは、きっとさっき犬を抱えていた少年だろう。

「あの角をまがっていったぜ。」
「はぁ……まったく狂い君の方に仕えるのは骨が折れる」
「狂い君の方?」
 たしかに、この時代では烏帽子をかぶらないと死ぬより恥ずかしいことだとされているのに、被らず髪を乱していれば、狂っているように見える。

「どこの方なのですか?」
「恐れ多くも、宮家の方なのですよ…宮家といっても落ちぶれていますけどね……」
「また宮家か……」
 ボソっと頼光は呟いた。

「月夜丸さまって、元から狂るってるの?」
 自分の発言はどうであれ、失礼な言い方だと思ったらしく、眉をしかめたが、子供のいうことなのでため息をひとつして、呆れたように主人のことを説明する。

「べつに狂っている分けじゃないんだが……生まれが生まれだからね。」
月夜丸の従者はここだけの話だよというように、葛葉たちの耳に口を寄せ、
「じつは犬と宮さまの子供とされているんだよ」

「え?」

「宮はある素性の知れぬ姫と恋に落ちた、だがその姫は消えてしまった……」
 

 数年後ある子供、月夜丸があらわれた。
 その子供は姫の衣をまとっていたという……

 そのあとのことはハっとして口を噤んでしまった。
 あまりそう言うことを口に出していう事ではないからだ

 なんだが、父様に似ている…

「犬が殺されそうだといっては出歩かれて…まったく……」
「あのさ~追わなくていいのか?」

「もう、犬を連れて行ってしまったとなれば、行き先はきっと廃寺か、社でしょう」
 またくといいながら、心当たりがあるのか主人を探しににまた駆け出していった。

ポツっと雨が降ってきた。

「そろそろかえろうぜ!大雨にならないうちにさ」
「うん」
といい、自分の邸に駆け足で帰宅した。

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2014/06/09 (Mon)
3.犬神の呪詛

「生き埋め!?犬を?」
「そう、生き埋めにして殺す…殺されたその恨みを呪詛に変えて、人をのろい殺す呪詛だよ」
「でも、庶民を呪ってどうするんだ?ふつうは貴族とか狙うだうもんだろう?」
 頼光は貴族がよく勢力争いの為にそう言う力を持つ者に頼み呪うのだと思っている。

「貴族を呪う者も多いが、個人的な恨みを持つ者もいる。それに、どうしょうもないから、近くのもの…関係ないものを小さき者を呪うとかね」
 眉を潜めて苦笑した。

 それは良くあることだった、貴族は贅沢していて、下のもの苦労もしらずに、のうのうとして贅沢をしいている。
 同じ病にかかっても、貴族は治せる薬が手にはいっても、庶民は手に入らず死ぬしかない。
 羨んで憎んで……どうしようもないことが多すぎて、自分より小さなモノに八つ当たりしたくなる…
 なんだか、ついさっき、子犬のコーエーにしたような、それよりもっと、どうしようもない気分になるから小さきモノにあたってしまう…

「そうなのよ!!原因は多分……」
葛葉はハッとして気がついた。

「なにか分かったのか?」
「うん…原因だけ……じゃ…意味ないんだけど」
 葛葉は複雑な表情をして俯いて考える。

「それだけでも、手がかりは見つかると思うよ。」
 にっこり微笑んで葛葉の頭をなでる。
 応援しているよというように光栄に頭を撫なでられて、葛葉は照れて表情をやわらげた。

 けれど、式紙の光栄は顔色をかえたと思うと、
「あ!晴明様!」
 といい、紙片になって姿は消えてしまった。


「この忙しい時にサボるとは……」
 晴明は光栄の頭をこついた。

 毎日毎日宮中行事の準備で忙しいときに光栄はひとり柱の影で術をつかって、葛葉と話していたとろを晴明に見つかった。

「すみません、晴明様」
 にこにこと幸せそうな光栄を、晴明は、ふぅとため息をついて、手にしていた新たな書類を光栄に渡した。

「犬神の話をしていたようだが?」
「はい、葛葉ちゃんたちが追っている呪者の手がかりがわかったので、その話をしました」
 犬神のヒントをつかめば、事件解決は進展するはずだ。
 忙しくて葛葉に直接会えないけれヒントを与えられた事に喜びを光栄は感じている。
 その事で表情が緩んでいる光栄とは逆に晴明は無表情で考え事をしている。

「その犬神欲しいな……」
 晴明は少しだまっていたが不意につぶやいた。
「は?誰かのろい殺したい相手でもいるんですか?」
「いや……そうじゃないんだが…探している愛しきモノが見つかるかも知れないとね」
 ああ……と光栄は心の中でその意味を納得した。

 愛しき者とはもう一人の晴明の子供。
 葛葉と同じ時をして生まれた子供。
 生まれたと同時に何ものかに攫われたのだった。

「そのような不穏な呪詛をつかわずとも、きっと見つかりますよ」
 と一応慰めのことばを口にする。
 
「そうだな……そんなことより、葛葉ちゃんはどうして私にその札の話を聞いてくれなかったのだろう……」
 はぁ…と本当に悲しそうにため息をついた。

「まったく……晴明さまは、親ばかなんですから」
そんな晴明の親としての寂しそうな様子を見て、つい言葉にでた。
 その光栄の言葉に晴明はわざと、光栄に足をかけてころばした。
 油断していた光栄の手元から書類が舞う。
「ひ、ひどいです!晴明様!」
 フンと鼻で笑い、晴明は陰陽寮にさっさとはいっていった。

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2014/06/04 (Wed)
2.葛葉と白犬で修行する

「なんで、犬がいるのよ!!」

 顔をなめられて起きた葛葉は机調の影に隠れ、頬を思いっきり拭う。
 子犬はきゅ?と首をかしげ、葛葉を眺める。
 そんな子犬を一瞬可愛いと思う。
 けど恐い。

「しっ、しっ!あっちいけってば!!」
 子犬はよばれたかと思い、近付いてくる。
「来るなっていってるの!!」
 立ち上がり逃げようとしたときに、几帳の垂れ下がっている衣に足を滑らせて、後ろにあった櫃を巻き込んで、派手に転んで、ついでに頭をうった!

「いったーい!!」
 なんて、朝から今日はついてないの!
 と思うと自分がなぜかみじめになって涙がじわりとでてきた。

 仰向けになって、涙ぐんだ葛葉の涙を子犬がくぅ~っと心配そうに舌で拭ってくれた。
 この子犬が原因でこんなみじめな気持ちになっていたのになぜだか、心がいやされた。
 結構…可愛いかもという心が芽生えはじめていた。

 「あんたの……せいなんだからね……」
 といいながら、恐る恐る頭を撫でる。

「葛葉!どうしたんだ!!その部屋の散らかり様は!」
 頼光が縁から突然あらわれて、部屋に遠慮なしに入って来た。
 いつものことだけど、なんだか、気恥ずかしいし、むかつく。
 曲がりなりにも葛葉はいっぱんの姫のように男の子と付き合いたくない気持ちもある。

「あんた、何度いったら分かるのよ!勝手に入ってこないでよ!まだ、わたし着替えてないのに……」

「あーーーー!葛葉犬を虐めてるのか!!!」

 葛葉のいつもの言葉は聞き捨てて、頼光はあわてて、子犬を葛葉のもとからひっぱがして、悪者から守るように抱き込んだ。

「べつにいじめてないわよ…」
 なんだか濡れ衣を着せられたようでなおさら腹が立った。

「この犬がこの部屋をこんなのにしたのよ!!」
 さっきの、慰めの行為に心を癒されていたが、イライラがつのって散らかした原因を犬の責任に押し付ける様言いはなった。

「だいたいさ!なんで私がこんな犬の面倒見なくちゃいけないのよ!私が虐めるんだって分かってるんならあんたが面倒見ればいいでしょ!!」
 葛葉はヒステリックに怒りを頼光にぶつける。

 「そんな…いいかたねぇだろう……が……」
 頼光は、いつにもない、葛葉の苛立ちに怯む。
 沈黙がながれた。
 子犬がくぅうんと鳴く。
 この雰囲気を察して悲しくなったようだった。

葛葉は着替えるため、犬を抱えたままの頼光をおいだして、炎にテチョウズを用意してもらい、顔を洗う。
 無言で、いつにない葛葉の怒りを感じ、炎はいつものニコニコ顔は苦笑ぎみだった。

 頼光のばか!
 べつに犬のこと虐めてなかったのに…虐めたなんて勘違いするなんて、腹の立つ!
 そんなふうに言うから、あの犬の所為にしちゃったんじゃないの!

 なんだか、また涙が出てそうになったとき、犬に嘗められたことを思い出す。
 なんだか心が通った感じがした。
 犬に対してこんな気持ちは初めてでなんだか、気持ちよかった。

 ……それを…私は…

 葛葉の心は怒りと罪悪感で問答して、その心を引き締めるように涙を消すように何度も何度も水を乱暴にすくい顔を洗う。

「あの…葛葉ちゃん」
「なに?炎」
「なんか?あったの?」
「別に……なんでもないわよ…」
「それならいいけど、頼光君外で待ってるよ?遊ぶの?」
「………遊びたくない」
「でも喧嘩したんでしょ?謝った方が良いんじゃないの?」
 炎はさっきの出来事を知っている。

「私の方から謝れっていうの?」
「うん。だって、その方がスッキリするよ」
「向こうからあやまったらあやまってやるわよ!」
 怒鳴るように言う。

 そのとき、御簾をばっと上げ、部屋に駆け込んできた頼光は床に手をついて土下座した。
「すまん!この通り許してくれ!で、遊ぼう!」
 頼光はずっと、御簾の後ろで葛葉の様子を伺っていたらしい…
 葛葉は一つため息をついて、そっぽを向きながら

「いいわよ…ゆるしてあげるわよ」
 葛葉は許しても自分から謝ることはしなかった。
「気位が高いんだから……」
「何か言った?炎?」
「いいえ?べつに」
「じゃあ、犬と遊ぼうぜ!!」
「う…うん……」
 葛葉は頼光に差し伸べられた手をとって庭へと出る。

 庭に出ると子犬はお座りをして待っていた。
「こいつ、本当にいい犬だぜ。人の言うことわかってるんだ。」
 頼光は犬を思いっきり可愛がる。
「本当にあんたが飼えばいいのに……」
 葛葉はこんなにこの子犬を可愛がることができないから……

 自分といても、可愛がってあげられないし、さっきのように、八つ当たりしちゃうかも知れないから……

「何言ってんだよ、この犬に慣れることが葛葉の修行でもあるんだろ?慣れること 修行なら仕方がないかと思うようにする。
 修行とはつらく厳しい事が当たり前でそれを乗り越えることに意味がある。

 そうすれば、嫌なことでも我慢できる気がするから。
 恐る恐る子犬の頭を撫でようと手を頭に近付けるが、犬が上を向き手のひらをペッロっとなめた。

「きゃああ!」
 葛葉は思いっきりあとずさった。

「手。手を食べようとしたぁ!」
「してねぇって」
 頼光に突っ込み入れらたのがちょっと、しゃくにさわった。

「分かってるわよ!!みてなさいよ!」
 勝ち気が手伝って、犬の頭を撫でることに成功した。
 ふわふわとした感じがとっても気持ちがいい。

「か、可愛いじゃなの……」
 でも、頭を同じ方向でしか撫でることができなかった。
「ほら、こんどは、顎の下」
「あ、あご!?」
 頼光は見本だというように顎を思いっきり撫でてみせる。

 葛葉もそれに習ってなでてみる。
 「できたじゃん。よかったな」
 「う、うん…」
 前よりは抵抗がなくなったような感じがする。

 犬は嬉しくて、尻尾をおもいっきりふる。
 そして、葛葉に飛びかかったって顔をなめた。

「きゃあああああ!!!!」
 バンと犬をどかす。

「ま、マだダメ…」
 葛葉は本気で怯えた。
キュウンと犬は悲しそうに泣いた。
「まだまだ修行が必要だな~」
「そ、そうね…」
バクバクする心臓を押さえる。

葛葉はふと、父は狐の血を引いているから自分もそうなのかも知れないと気づいた。
 人間なのに獣の血がながれているから、この犬が不自然に恐いのだ。

「人間であるために修行しないと……」
 落ち着くためにひと息吐いて呟くように言う。

「?なんか言ったか?」
「べつに……そうだ、この犬に名前つけよう」
「そうだな。なんにする?清和丸ってのは?」
「それって、清和源氏がらつけたでしょ?」
「いいじゃんかっこいいじゃん」
「コーエーがいいな」
「光栄のなまえとってんだろう!」
「いいじゃん、好きな人の名前つけた方が、この犬のことすきになるかも知れないしさ」
「それもそうだけど……おれがこいつを虐めそうだぜ……」
 頼光は光栄のことが嫌いなのだ。

「じゃあ、コーエーで決まり!!」
「呼んだ?」
 二人の目の前に突然、光栄が現れた。

「光栄様!?」
「光栄!貴様どこからあらわれた!」
 いきなりの現れに頼光は吃驚して刀を抜きそうになった。
「こうやってだよ」
 また現れた時のように突然消えたかと思うと、紙片になった。

 そしていきなり、ビロビロビロっと折り畳み状態にちじんだりのびたりして人の姿になった。
 本当に頼光は腰を抜かした。

「気持ちの悪い現れ方すんなよ!」
「式紙をつかってんだもん。人間業じゃないことしたほうが面白いと思ってさ」
はははと光栄は笑う。

「光栄様、お、おひさしぶりです」
 葛葉は顔を赤くしてもじもじとして、挨拶をする。

「うん、ひさしぶり。本当は式じゃなくって本当の僕で会いたいんだけどさ、仕事が忙しくってね」
 と言い、葛葉の頭を撫でる。
 うふふってわらって幸せそうだった。

「晴明様にちくるぞ光栄!」
「それは困るなぁ~」
 全然困ったふうじゃないのが腹が立つ。
「これが、例の犬だね。」
 子犬のコーエーは威嚇している。
「こら!光栄様をいかくするな!」
 ポンと犬を打つと、犬はしゅんとなった。

「あ、そういえば!ちょっと待ってて下さい!」
 といい、自分の部屋に入り、血塗れの呪府をもって戻ってきた。

「あの、昨日倒した式神の犬なんだけど、これの気配分かりますか?」
 光栄は血塗れの呪府を手にして額につけて少しだまっていた。

「光栄動かなくなっちまったぞ?」
「っつっつくんじゃないわよ!失礼な」
 ぺしっと光栄を突いた頼光の指を払う。

「う~ん式から念を探るのはちょっと難しいね。だけど、一つだけ分かった。これは犬神を使ってる。」

「犬神ってなんですか?」
「犬の神様の祟りとかか?」

 光栄はヘラヘラと笑っていた顔に表情を消して二人の問いに答える。

「ちがうね、生きた犬を生き埋めにして自分の式神にする、呪詛だよ。」

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2014/06/03 (Tue)

1.葛葉姫の苦手なもの


「そこまでよ!!」

 長い髪を高いところに縛り、狩衣に朱の袴を夜風になびかせ、血なまぐさい匂いをはなつ異様な妖しを葛葉は睨む。

 グルルルっと威嚇するように唸る妖しは犬の様にも見えた。影の様に黒く、襲った人間の血を赤く口元に滴らせ、尻を持ち上げ、助走をつけて飛び葛葉に襲いかかった。

「あぶねえ!」
 横から頼光か自分の身長と同じくらいある刀をその口に挟ませ、防ぐ。

「そのまま、押さえておいて!」
 葛葉は瞳を閉じ、手にしていた呪府をピンと立て呪をとなえる。

「散妖伏邪!急急如律令、畜怪!」

 府は光る鳥となって黒い獣を貫いた。

 獣はけたたましいく叫び闇にとけ消えた…
そこには葛葉が放った呪府のほかにもう一枚血に塗られた呪府が落ちた。

「また偽モノなのね……」

 今し方命を落とした人に拝む。ぶじ成仏できるように…
 そして、血に染まった府に触る。

「いったい誰が放ってるかわからないのか?」
 刀を鞘にしまいながら、頼光は聞く。

「うん…私じゃまだまだ未熟なのかも知れない。父様か、光栄さまに聞けば分かると思うけど」

 今この二人は宮中行事で忙しいのだ。
 それに、この事件は貴族達にはどうでもいい事であった。

 襲われているのは庶民なのだから、いまだに貴族の一人にでも危害を加えられた者がいない。

 だから、宮廷陰陽師たちは動けない。
 外法陰陽師も庶民相手に金もうけにならないことで動きたくないという者も多いのか、動いている気配はなかった。

 そう言う理由から、うわさを聞き付けた葛葉はこの依頼を受けることにしたのだ。
依頼してきた人は正直上座に堂々と座る子供の葛葉を疑った。

 「こんな子供に任せられるものなのか…」
とつぶやいた。
 そのつぶやきを聞き逃さなかった葛葉は侮られているのがしゃくに触って、

「希代の陰陽師安倍晴明の娘葛葉姫に不可能はない!!」
と断言して。

 獣の妖しのうわさを聞けばこうして駆け付けて、夜な夜な京中に跋扈する獣の妖し退治をしている。

「それにしても、葛葉って、恐い者知らずだよな。」
「なんで?」
「その手に持ってる府に…べたべただぜ……?」
「もう慣れたわよ。」

 けろりという。
 頼光は月明かりのせいで青ざめているわけではないようだった。

「おれは慣れないな……葛葉って恐いものってないのか?」
「この葛葉姫に恐いモノがあると思うの?あるわけないじゃない」
 わざと胸を張って自慢してるように言う。

 そのとき、角の塀から、くう~んと子犬の泣き声が聞こえてきた。

 葛葉はまた妖しかっ!?と思い身構える。
 だけど、妖しの気配はない、ふつうの子犬らしかった。

「お!犬だ!おいで、おいで!」
「ち、ちょっと、やめなさいよ!頼光!」

チッチと舌を鳴らす頼光にかけよってきた。
葛葉は後ずさる。

「お~お!お主、賢いな。しかも、人間に慣れてる感じだ」
しっぽを思いっきり振って、頼光の顔を舐める。

「ちょっと、頼光!病がうつったらどうするのよ、というか、懐かれたらどうすんの!」
「そうだな~俺の父ちゃん犬嫌いだからな~葛葉かってくれないか?」
頼光は犬を抱きかかえ、葛葉に向き直る。
葛葉は、また後ずさる…

「ぜ…絶対嫌!!っていうかこっちに近付かないでよ!!」
「え~かわいいじゃん。撫でてやれよ」
 頼光は子犬を葛葉の顔に近付けると子犬はぺろりと葛葉の鼻をなめた。
「いや~~~~~~!!!!」

 バシンっと頼光の頬を思いっきりたたいた。

「イッテ~~~!ぶつことないだろう!」
「あんたが悪い!!」
 葛葉は涙ぐみながら、鼻を思いっきり袖で擦る。
 葛葉のそんな様子をみて、頼光は気がついたそしてそのことをにやにやしながら口にする。
 「もしかして葛葉って……犬が恐いなのか?」
 葛葉はぎくっとした。

「恐いものなかったんじゃなかったけぇ~?」
「う…それは…そうだけど……」
 葛葉は口籠る。
 なぜか葛葉は犬が本能的に苦手だった……

「葛葉もう仕事はおわったのか?」
「父さま!!」

 葛葉は『炎』という火をあやつる式神をつれて、闇からあらわれた父安倍晴明に駆け寄った。

「葛葉ちゃん御苦労様です」
 炎は手のひらにともしていた、火の玉をもう一つだし、辺りをいっそう明るくた。

 炎の対の式神の氷をあやつる式神の『氷』は炎と双児の童だが、今は光栄の式神として働いている。

「頼光が犬を使って私を虐めるのよ!!助けて!」
 葛葉は父に助けを求める程、犬が苦手のようだった。

「いじめてる?ほんとかい?」
頼光をにらむ目が光った。

「ち、ちがうよ。こんなにかわいい犬を恐いなんて変だって思って……撫でてやれって言っただけなんだけど…」
 これって虐めたことになるんだろうか?とちょっと罪悪感を感じた。けれども理不尽だと思う。
 頼光はからかうことはしてもひどいいじめは誰にでもしたことがないのだから。
 
 表情が難しく曇る頼光の頭をぽんぽんと晴明は撫でた。
「わかってるよ。さっきまで見てたからね。頼光君は悪くない」

「悪いって!」
 ムキになって反論する、葛葉の頭を軽くたたいた。

「なんでぇ~私が叩かれるのよ~」
「頼光君は悪気があったわけじゃないんだよ。葛葉は大袈裟すぎた。そうだろう?」
「確かにそうだけど、苦手なの知って近付けたんだもん!」
 それも見ていてそれも真実だろう。
 だが葛葉は父に甘えているだけな感じがする。
 修行以外のことは甘やかせて育てたことを晴明は自覚してる。

「じゃあ、修行として、犬に慣れよう葛葉」

「えええ!!」

「私も犬は苦手だったけど、案外可愛いよ。その犬うちで飼おう」
「本当ですか!」
頼光はパッと顔を輝かせた。

「オレが飼いたかったんだけど、オレのとおちゃんも生き物苦手でさ…翌朝、父ちゃんに串刺しにされると思うと飼えなかったんだ。良かったな、お前」
「ワン」と元気よく犬は吠えた。

「そんな~隠れて飼えばいいじゃないの!」
「うちも、母さまに隠れて飼わなくちゃいけないよ」
「たべられちゃいますものねぇ~」
と炎は青ざめ、小声で付け加えた。

「そんな~~~~!?」
葛葉は青ざめて叫んだ。

「これも修行修行。」
 晴明はニコニコしながら、葛葉の頭を撫でた。

 晴明には犬を葛葉に近付けることである意味があった。
 晴明の母、葛葉の祖母は辰狐だ。
 葛葉の血にも獣の気配が残っている。
 葛葉の母カグヤ姫の血は月神の者。

 月は獣を従える力。
 獣を従えるものが獣に脅えることはいけないことだ。
 それとは別に、人として生きていくのに犬の『気』によって、狐の『気』を払わせることも必要だった。
 本能的に犬が嫌いな根本はそこにある。
 だから、人として、暮らしていくためには、狐の力と別に『気』を払わなくてはいけないことなのだ。

 晴明も師匠加茂忠行、保憲にその修行をさせられた、苦い思い出がある。
 可愛い娘である葛葉にその思いをさせるのは忍びなかったが、これが娘のためでもある。
 娘を想いやるとき、もう一人の大切な存在の事を晴明は想う…

(これをあの子にもさせてやりたかった…)
 もう一人愛しく思う者を思いながら、夜は深けていき、朝となった。

「きゃ~~~~~~~!!」
鶏よりも早く朝の知らせを告げる叫び声が響いた。

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2014/01/01 (Wed)

京に吹く風

「頼光、頼光、みてみて!光栄様からのお手紙!」

「なんて書いてあるんだ?」

 暖かな昼下がり。
 いつものように高欄に腰をかけ、葛葉と頼光はいつものようにお喋りをしている。

「中将は罪を認めて、貴族からはずされたんだって、その事はもう噂になってるけど、光栄様が吐かせたことっていうのは、伝わってないんだよね~だけどね、光栄様からの文で陰陽師の術を使って脅したそうよ。陶然の報いよね!」

「ふーん…陰陽師って怒らせると恐いよな……」
 
 頼光は光栄の懲らしめ方がなぜだか想像ができた。

「それと、もう一つ、宮姫からきたのよ。」

「宮姫って出家したんだよな? その後どうしてるんだ?」

「この文によると、姫は尼になって、正樹様を見られるように修行するんだって。それと、ありがとうって…」

「尼寺ってそんなことをするための修行場じゃないだろうに」

「ま、いいじゃない。好きな人を見るための努力は実を結ぶわよ」


「それにしても、今日は葛葉機嫌がいいな」

「そう?」
 
 いつもは大人ぶって、渋々と遊ぶだけだが、今日は蹴鞠に、弓に、囲碁、いろんな遊び相手をしてくれる。
こういう日はとても良いことがあったりする時だ。

「うん、何か良いことあったのか?」

「わっかるー?」
 
 ニコニコと満面の笑みを向け、幸せそうに両手を組みあわせる。

「だって、光栄様が明日かえってくるんだものーーーーきゃーーーー!」
 嬉しさの余り葛葉は叫び声をたてる。


「げっ!きゃーじゃねぇよ!ぎゃーーーーーーー!だ!おれにとって!」

「なによ!頼光!一緒に喜びなさいよぉぉぉ!」
葛葉は頼光の両方の頬を無理矢理笑わせようとギュッ! と抓りあげる。




「お取り込み中悪いけどね。2人とも…」
 高欄に座る二人の間から、晴明が顔を挟むように割り込んできた。

「なーに?父様、『光栄様お帰りなさい宴会』についての御相談?」

『光栄様お帰りなさい宴会』というのはたった今考えた宴会だ。

「う~んその宴会なんだけど」

 晴明は娘の会話にあわせる。
 だけど、表情が困った顔だ。

「『光栄様お帰りなさい宴会』を『お父様、葛葉ちゃん播磨にいってらっしゃい!』
の宴会になりそうなんだよね」
一瞬意味が飲み込めなかった…

「は?『お父様、葛葉ちゃん播磨にいってらっしゃい!』ってどういうことかしら?」
にこやかなまま固まっている葛葉に、同じ表情をした晴明は分かりやすく言う。



「保憲様の代わりに、私が播磨の任地につくことになったんだ。一人で播磨にいくのは寂しいから、葛葉ちゃんも一緒につれていこうかな?って思って…」

 葛葉はみるみる怒り顔になる。
「父様寂しーよぉ~葛葉がいないと寂しくて夜も眠れないし光栄に何かされていない
とも限らないし」

「なにかされないように俺が守りますよ!父上さま!」

「なにかってなによ!まったく!」
 
 葛葉は本気で怒る。
 その葛葉を宥めるため晴明は頭を撫でる。

「ゼッッッッッタイ嫌!父様一人でいってきてよ!」

「ま、今の播磨へ赴任というのはそれは冗談だとしても」
「悪い冗談やめてよ!父様、心臓に悪い!」
晴明はハハハと少し笑い、優しげな瞳で葛葉を見つめる。
「都の悪い風より、播磨の澄んだ風を葛葉に知ってもらいたいのもあるのだけど…」

「…都の風が悪い風?」

「念風が吹き荒れる都より、播磨に連れていきたいんだ…本当は…」

 晴明は娘のことを思っていっている。

 葛葉もそれに気付いたが、にっこりと笑って答える。

「あのね、そう言う、念とか廻ってっている都を守るために陰陽師や祈祷師や、僧侶がいるのよね。
私、都でも清らかな風になるように祓える力をもってるんだから、自分なりに清らかにしていきたい…ダメかな?」
 まだ、何て言ったらいいのか分からないけど、自分なりの言葉を父に言う。

「俺も!その手伝いするから、葛葉を播磨に連れていかないで下さい!」

 頼光は冗談じゃなくて、真剣な表情で晴明に言う。
 晴明は優しく微笑んだ。
 何も言わずに葛葉と頼光の頭を撫でる。
 

「こういう良い子がいれば、都も健やかになるだろうね…」

 健やかな、あたたかな風が、三人を吹き抜けていった。
 それは、葛葉たちが浄化した風なのかもしれない…

 念は決して消えないと言った。


 けれど、いつかきっと…健やかな、清らかな風が吹くことだろう…
 
 清らかな風を都にふかせることが葛葉のやることだと葛葉は思うのだった。




葛葉姫鬼譚念風鬼 終わり。

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2014/01/01 (Wed)

光栄の中将退治

 氷はバタリと倒れた。
 目を閉じ祭壇に向かっていた光栄は瞼を上げ、ゆっくりと体を中将へと向ける。
 光栄の表情はにこやかだったが、瞳が笑っていないどことなく恐い…
 その表情にビクリと肩を震わした中将は横柄な態度を崩すまいとしたが、声が出てこない。

 「京の鬼騒ぎの原因の一端は…中将様だったのですねぇ…」

 とぼそりと呟く。
 相手には何いってるのか分からない程の音程なので中将はいぶかしむ。

「藤原の大臣の息子で三十路過ぎで正樹どのを殺し位を昇級させた中将どの…を御存じですか?」

 を業と光栄は今度は本人を目の前に尋ねる。

「う…む……?」
 
 中将は表情をひきつらせた。
 それは自分のことで、皆には他言無用にしてあり、あまつさえ、光栄は播磨に住ん
でおり噂のうの字もきこえないはずなのに…
 光栄はただただにっこりと笑って、

「依頼は果たしました。
貴方様の悪行に恨みを抱き、都中を恐怖に陥れ貴方様の命を狙おうとした鬼は祓い終わりました」
 とハッキリと今度は言ってやる。
 自分の状況を理解するために一旦、間をおいた中将はキッと光栄を睨み立ち上がった。

「鬼を退治したのは、ほめて遣わすが、なんという無礼の数々!この私を誰だと思っているんだ!身分の低く位もない外法陰陽師めが!」
 
 中将は光栄を見下し怒り狂って罵った。
 
 都にいない、そして、位を持たない陰陽師は外法(げほう)とつけられ妖魔や呪術を自分の勝手にあやつり悪さをするという者、金銭を貰い呪を行う者のことをいうこともある。

 しかし、京にいられなくなって播磨に来たこの中将とは状況が逆で光栄自身、京に帰れば宮廷の仕事が待っているし、賀茂家の陰陽師の御曹司でもあり位もそこそこ戴くことになる。
 
 光栄は中将に、挑発するように視線に合わせ不適な笑みに変える。
 

「外法は認めますよ?僕が外法陰陽師なら、あなたは外道貴族というところでしょう?」
 イヤミなど認めてしまえば効果はない。直接悪口をいう方がストレートに攻撃になる。




光栄は顎に手を当てて考えるようにわざとらしく
「外法陰陽師は褒美があって依頼を果たす者なんですよね…」
と言う。

そんな光栄のわざとらしい態度に中将は腹を立て

「だれがお前のような者に褒美なぞやるか!」

 手にしていた扇を光栄の額目掛けて投げ付けるが、頭をわずかにずらして躱された。
 
 光栄はすくっと立ち上がって、中将の目の前に立ちふさがり、光栄より頭一つ分程低い中将を見下す。

 さっきまでの笑みは無い。
 ただ無表情に見据える。

「いえ…貰いますよ。あなたの汚れを落としてからね!」
 
 光栄は懐から札をだし、中将の額に張ると一足先に結界から出た。

「何のまねだ!この札は!」
 
 額につけられた札を剥がすより、はやく呪を唱える。
 すると、暗い影が中将の周りに現れた。
 暗い影は姿を形どる。
 目は暗く落ち窪んでいて頭には角をはえ、口は暗い空洞を思わせるが牙が鋭く生えている。
 中将に恨みを抱く怨霊達だ。

「ひっひぃぃぃぃ!!」

 中将は結界の中で腰を抜かしその場に座り込む。
 恐ろしさのあまり、立ち上がれない。


「おやぁ…あなたに恨みを抱くのは都にいる鬼たちだけでは無さそうですね?」
 光栄は意地悪くいう。
 中将は、急いで這いつくばって結界を抜け出そうとした。

 そこをすかさず光栄は中将の頭に軽く蹴りを入れるとコロンと鞠のように中将は一回転して転ぶ。

 起き上がったところで鬼が中将の目の前で悲痛な叫びと真暗な空洞な口をあけて中将を喰らおうとしてすり抜け無気味な笑いを耳朶にのこしていく。

「だめですよ、この結界内から出るとたちまち、怨霊にとり殺されてしまいますよ?」

 容赦しない光栄の態度と自分の周りにいる鬼たちに中将はビクビクする。
 鬼たちの表情と光栄の底意地の悪い表情が重なる。

「じゃあ…ど、どうすればいいのだ?」
もう何もみたくないのか突っ伏して訴える。

「さぁ…あなたの汚れたお心が改まるまで…でしょうか? 心が改まるのが先か、あなたが、狂われ、地位も名誉もなくなるのが先か、愉しみなところですね…ふふふふふ」

「そ、そんなぁ~~~~!」
 
 光栄は倒れたままの氷を抱きかかえ、さっさと部屋をでていく。
 氷の意識は少し戻っていた。

(こいつ…北の方より末おそろしぃ…性格してんじゃねーか……?)

 と心の中でつぶやいたのだった。


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2014/01/01 (Wed)

愛しきものの想い

 老女房は語る。
 なぜ姫が鬼に憑かれたかを…
「姫様には恋人がおりました。名を近衛正樹様。
 藤原一門でなくとも有能で少将の位の殿方でございました。
 彼は身分が低かったのですが、宮家の姫さまに似合う殿方になるために頑張られたのでございます。」
 その一生懸命さと、お優しさに姫様も惹かれ、相思相愛の仲になられたのでございます。
 けれど、結婚する為には、
『まだ位が足りぬ、もっと昇進してからでない』

 姫様の父上様は正式な結婚を許さなかったのでございました。
 そんな時、賊盗伐の命が下り、正樹様は賊討伐に向われました。
 手柄を取れば、少将から中将に昇進できる。

『姫、この討伐で手柄をたて、きっと姫を幸せにしてみせる。だから待っていてくれ…』
『正樹様…あなたが無事に帰ってきてくださるだけで良いのです…討伐が終わったら
真直ぐに私のもとに…』


『ああ…必ず姫のもとに戻ってくるよ…』

 と堅い誓いをたて、賊討伐に出かけられました。
 姫は正樹さまを信じて待つ日々が続きました。

 そして、討伐が終わって凱旋の日、姫は正樹様をお待ちしておりました。
 けれど、正樹様はいらっしゃいません。

『正樹様…一体どうなさったのかしら……まさか…!』

 姫は正樹様に文をおくりました。
 けれど返ってきた返事は正樹様のものではなく、正樹様に付く従者のものだった。
 それに記された文面を御覧になった姫は深い悲しみに暮れてしまわれました…

 正樹様は討伐のさい、敵に討たれて亡くなられてしまわれたのでございます。

 私は姫の傷心ぶりを宮に話しました。

『そうか…姫はそれほどにも正樹殿の事が…おしいことを……』

 宮も正樹様が亡くなられたことを悲しく思われました。
 宮は正樹様のことの討伐の時の話を関係した貴族達に話を聞き姫に正樹の勇姿を聞かせてやろうと、父親心に正樹様に関わる話を聞きまわりました。


そこで、府に落ちないことを聞いたのです。

 藤原の大臣の息子が討伐で活躍する正樹様を妬ましく思い、どさくさにまぎれて、正樹様を殺したという噂を…
 大臣の息子で三十路もすでに過ぎていて、正樹様と同じ官位のその息子は藤原一門でもないのに若くして少将ということに妬みを持っていたのです。

 手柄はなくとも、討伐にでかけたことと藤原の大臣の息子だということで三位の中将という位についたのです。
 正樹様が今は中将となった男に殺されてしまったことを姫は聞いて、深い悲しみは、
激しく根強い恨みと変わり毎日恨み続け、夜風にあたり、鬼に憑かれておしまいになられたのです…

「そう言うことだったの…怨みの念が念をよび惨劇を呼んだのね…」
とその女房の語りを聞き葛葉は悲しく思った。
 父上がいった無念そのままだと、呪うのは呪わせるような悪いことをした者が悪い。
 そして、恨みを成就できなかった姫に悔しさを思った。


「けど、播磨の男ってどういう意味だ?」

 と頼光が問う。

「大臣の息子のことですわ…その男は現在、播磨にいるらしいのです。うわさが消えるまで播磨の地で隠れるつもりで大臣に命令されたそうですわ…鬼の身になったときに分かったことですけど…」

 姫君はまた恨みに満ちた目で答える。

「播磨の中将ねぇ…ふ~ん……」
 ぼそりと炎の光栄は独り府に落ちたようにごりる。

「許せませんわ!また、鬼に身をやつしてでもあの男だけは!あの男だけはっ!」

 姫はぎゅっとその恨みを拳に握りしめ、涙がぽろぽろと、こぼれ落ちる。
 その涙を優しい目に見えない、手が拭おうとする…けれど身のないモノがその涙を拭うことはできない…
 葛葉はハッと気付いた。その透明なもの。
 ふつうの者には目に見えない者…
 鬼の荒れ狂う風の中姫を守っていた人…

「姫…正樹様はいるよ…姫のそばにずっと…」

 憎しみ、恨みを握りしめる姫の拳を葛葉は開かせ、両手で握りしめる。

「今あわせてあげる…在光明現 前事真形…」
 呪を唱えると姫の目に移らなかった者が光となって形をつくり、この世にすでにいない愛しいものの姿になる。

「ま…さき…さま…?」
 姫は驚きのあまり目を見開いて正樹を見つめる。
 正樹も姫が自分を見てくれていることに驚いたが、すぐに、愛しいものに向ける優し気な笑顔になった。

「姫…もう…恨みを持つのは止めなさい…姫のためにも……
オレの所為だな…姫をこんなにも窶れさせてしまった…すまなかった」
 愛しい姫のやつれた姿を悲しそうに見つめ頬にふれる。
 頬に生前生きていたころと同じようにふれる正樹の手の上に姫の手が重なる。
「いいえ…いいえ!悪いのはあの男っ…」

正樹は姫の恨みの言霊を吸い込むように唇を奪った。

「姫…約束をしてくれ…もう人を恨むまいと…美しかった姫が窶れて、恨みに心を汚すようなことは…見たくないのだ…健やかに…幸せに生きてほしい…」

「いや!あなたがいない幸せなんてあり得ない!あなたがそばにいてくれなければ…」
 
 涙ながらに激しく正樹を見つめながら訴える…正樹の体を掴み、抱き締めようとしても、通り抜けてしまうこの世にはない愛しき者…ならば、自分もこの世のものにな
らずにあなたのそばにいたい!
 その真剣で悲しい表情に、正樹は困ったようにだけど、優しく見つめていう。

「姫はこの世に生きていてほしい…それにオレはずっと姫のもとにいる…姫を守っている…姫の目にはオレが見えなくてもずっとそばにいるから……おれと同じモノにな
ろうとはせずに生きてくれ…」
 
姫を納得させるようにいい終えると、葛葉の呪によって姿が見えていた正樹はまた消えていく。

…声も聞こえなくなる前に

「姫…愛してるよ…ずっと…そばにいる…」
 くり返しつたえる。

「正樹様…わかりました……私も愛しております…いつまでもずっと……」
 光はだんだん細くなり消えた…

「これで一件落着ね…」

 葛葉は疲れたように正座を崩し、後ろに手を尽き安堵のため息をつく。
 呪は力を使い、体力を使う。葛葉はとても疲れたが、晴れ晴れとしたスッキリした気分だった。
「ううううっ!いい話だったなぁ~葛葉~正樹殿は男の中の男だぁ~!」

 と顔中、涙と鼻水に濡れなから、頼光は感動している。
 頼光の目にも呪が消えたとたん消えた。
 葛葉は力を使ってしまったため、今は見えないがきっと、姫のそばに正樹はいるだろうと思った。

「葛葉ちゃん良くがんばったね。初仕事、お見事だったよ。頼光君もね」

 炎の光栄はニコニコしながら二人を誉めた。



「だけど、鬼を退治したのは結局、光栄様よ?」
「それでも、一番大事なところ…恨みを浄化させること。そこは葛葉のお手柄だ。偉い偉い」
 炎の光栄は葛葉の頭を撫でた。
 撫でられてとても嬉しく満たされた気分になる。

「僕もそろそろ、炎に意識をもどさないとね。」
「ええええ!もう帰っちゃうの!?もう少しお話したいよ!」
「僕も葛葉とお話したいのはやまやまだけどね。
炎も氷もへとへとだし、僕にはもうひと仕事あるからね」
 
 仕事というところを強調した。

「仕事? 仕事があったのに私達のこと手伝ってくれたの? 
迷惑かけてごめんなさい!」
すまなそうに葛葉は光栄に謝る。

「謝らなくていいよ、共通した仕事だったから」
「共通した仕事?」
「そう、例の中将からの依頼」

ニッコリと可愛らしい炎の表情でいうから一瞬分からなかったが、ハッとして思いあたる。

「中将ってまさか!」
「しっ!」
 
 炎の光栄の手に口を塞がれる。
 光栄はその男を助けるための依頼を受けたのか?
 興奮して疑問を口にするよりも早く。

「ちゃんと、懲らしめておくからさ!」
 
 と言うやいなや、炎はバタリと抜け殻のように倒れた。

 けれど、すぐに弱々しくも上半身を支えながら立とうとするが、疲れ果ているようで、尻をつき後ろに手をささえにして仰け反ろうようにすわる。


「光栄様ひどいよ~!いきなり意識を奪うし! 僕達も一応鬼なのにあんな、鬼を散らす呪を放つなんて! 氷から聞いてるはずなのに…晴明様から頂いた額の五芒星がなければ僕達も昇天してたよ!もう!それでなくても疲れるというのに~~~!」

炎は立つ力はなかったが、怒りを口にする力はあるらしい。

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2014/01/01 (Wed)

鬼現る!いざ鬼退治!

 鬼女は完全に姫に離れたわけでははく、足もとが姫の背に根付いている感じだ。
「これを切ればいいのか?」
 鬼の足下を頼光は指さす。
「ええ」

 頼光は鬼切丸を水平に振りサパッと鬼の足を姫から切り離した。

 斬られた途端、鬼は結界の中を勢いよく回り始め、突風のようなモノが結界の外にも伝わってくる。

 風を起こして結界を壊そうとしているようだ。
 葛葉はその激しく外にまで伝わってくる結界の姫は無事かと見ると風に巻き込まれることもなく横たわっている。
 何かの力に守られている…

「なぁ!こんなモノさっさとやっつけた方がいいんじゃないか?」

 結界の近くにいる頼光は強風に煽られないように踏ん張りながらいう。

「それもそうだけど、すぐにやっつけなくてもいいわ!」
「中にいる姫が危ないじゃないか!」
「姫は大丈夫みたいよ…それより…」

 父の言葉が心に引っ掛かる。
「父様がいったのその鬼の立場に立ってみると、あまりのも無念だと思わないかって…だから聞きたいの!聞いてあげて成仏するならそれにこしたことはないでしょ?」

 と父の言い付けを守ろうとする葛葉。

 そして、結界で暴れ回っているものに声をかける。

「どうして恨んでいるのか、どうして姫に取り付いたのか教えて!」

 葛葉は鬼に問う。
 鬼は動きを止めずに答えた。

「ワレラト同ジ気持チ…思イ…仲間ダカラダ……コノ女は私達自信…同ジ者…」

「同じって何が?何が同じなの!」

「悲シミガ同ジ…同ジ念…男ヲ怨ム念……ハリマの男ガ…憎イ…」
グルグルと回り続ける。その声も濁った声音。

「播磨ねぇ…」

と光栄は呟いた。
なにか思い当たることがあるといった口調。
「光栄様なにかあるの?」

「まぁね…」

 そういうことか……
 と口の中でつぶやいて、葛葉の瞳を見る。
 葛葉が心に引っ掛かってることを言う。

「それよりも、晴明様が言ったことはごもっともだけどね。
無念なのは死んだ者がいう台詞だ」

 葛葉は首をかしげる。光栄の言葉がすぐに理解できない。

「この鬼は死んでいない鬼だから話を聞いても仕方ないと思うよ」
「死んでない?ってどういう意味?」
「正確にいえば、思い…人の心の吐き出した念の固まり。
霊に近いがそうでもない。言霊だ。京の都の中を巡る念」

 葛葉はわけが分からなかった。
 だが、京の都は守護された結界の都。
 父が施した結界のようにグルグルと巡り外には出られずにいるのと同じということか?
 その間に同じ思いや、念を吸い取って、鬼になっていく。
 それが、この鬼なのだと思い当たった。

「話を聞いても無駄ってことはやっつけてもいいてことだな!?」
「そうだ。頼光君、好きなだけ、やっつけてもいいよ。」
「おお!やってやるぜ!」

 刀を結界の幣紙に当たらないように垂平に構える。
 そして、回っていた鬼の念が刀に当たり真っ二つになる。

 が、消えない。
 
 ずっと構えたままで、鬼は何体も分裂していきキリがない。
 腕が疲れてきた頼光は、光栄に訪ねる。

「いつまでやってれば…いいんだ?」
「好きなだけやっつけていいよ。でもいつまでやってもキリがないけどね」

 炎の光栄はニコニコ穏やかなまま答えた。
 光栄さま、もしかして頼光で遊んでる?
 と、こんなときでも余裕な光栄様はさすがだと葛葉は素直に感心する。


「光栄貴様~~~~~!」

 頼光も遊ばれていると気付き怒りが湧いてきて頼光は刀を勢いよくおろしたが、下ろしたところが悪かった。

「あ!結界が!なんて事するのよ頼光!」

縄が切れてしまい結界が解けた。

「憎イ! 憎イ! 憎イ! 男タチガ!!」

 突風が洞くつの中を吹き抜けて聞く時の音と同じような音と共に念鬼は勢いよく結界から出ていき、部屋の中で暴れまくる。

「道具トシテシカ見テイナイ男ガ!苦シメル男タチガァァ!」

 鬼切丸でバラバラになった念はまた一つになり葛葉に襲い掛かる。
 呪を唱えようとしたが、念鬼のほうが早かった。
 葛葉めがけて突進してくるのを頼光の鬼切り丸が閃き念を切る。
 だが、斬っても斬っても消えない。
 増えるだけだ。
 鬼は葛葉を狙っていたが、頼光の方に標的を変えた。

「オ前モ!大人ニナッタラ私達ノヨウナ者ヲ増ヤス男ニナル!」

「俺はならん!!」

 正直に応えバサリと切る。
 二つになった念鬼は葛葉と頼光に同じに襲い掛かる。
 頼光は葛葉を守るために自分が傷を負う覚悟で前に立ち鬼念を斬る。
 葛葉も自分の周りに結界を張るのに手一杯になる。

切れば切るほど増えていき、二人を回り囲った。
やがて、念鬼は一人に標的をしぼる。

「私タチノヨウナ者ヲ増ヤサナイ為ニモ、オ前ヲ殺シテヤル!」

 一気に頼光に押し寄せる。さすがの頼光も防ぎきれない!
 葛葉は護身の呪をかけた光りの壁も耐えられそうにない!
 護身の呪の結界にヒビが入り、崩れた。

「散妖伏邪急急如律令、逐怪!!」

 炎の光栄の呪文が念を消した。
 炎は鬼と同じ気の持ち主。

 鬼にとって生身の生を感じない炎を見のがしていた。
 二人が囲まれているすきに式には耐えられない程の退魔の呪文を唱えて二人を助け、鬼も消した。

「ワレラハ…コノオモイハ消エヌ…永遠ニ……」

 念はバラバラに塵とかした。



「一件落着だね」
と光栄は吐息を吐く。
「光栄様凄い!一発でやっつけちゃうなんて!」
「それほどでもないよ」
「こいつ今まで高みの見物してただけじゃないか! さっさと消せるんだったらけせよ!」

「呪文を唱える時間稼ぎが欲しかったんだ。頼光君が時間と念の気を引いていたおかげだよ。」
そんな風にいわれると怒る気が少し和らぐ。

「ま、とりあえず。助けてくれてありがとな」
そんな二人をみた葛葉は微笑んだ。

「…ん……?」
姫が気がついた。

「姫様!」
 今まで隠れていた老女房が姫のもとに駆け寄る。

「姫様が気付かれた!姫さま!姫様」
「ここは……私は何を……?」
 葛葉も姫のもとに行き。
 まだ微かに残っといる障気を払ってやる。

「今まで鬼に憑かれていたのです。鬼に憑かれる心当たりが姫にありますか?」

 念鬼は姫と同じ気持ちだから取り憑いたと言った。
 だから聞きたかった。
 姫は宮家の姫。

 捨てたり捨てられたりされるような身分ではない。
 それなのに、念鬼に憑かれたのだ。
 そこが不思議に思った。

「心当たり……?」

「男に捨てられたりとか…裏切られたり…」

 姫は首をふる。
 だが、思い当たることはある様子で、悲しい表情を葛葉に向けた。

「愛しい人が、遠くへ行ってしまったの…殺されてしまったの…それで鬼に憑かれて
しまったの…」

 姫の目から涙が溢れだし嗚咽しはじめた。
 とても悲しいく辛いことを急に思い出したせいだ。
 
「詳しい話は私が…」
 姫の背を優しく摩りながら、姫の代わりに老女房が語り出す。

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2014/01/01 (Wed)

鬼に憑かれし宮姫


「こちらが姫様のお部屋でございます。」

 女房は簾を上げて、姫の部屋に葛葉と頼光と、牛車を止めてきてから葛葉の後をついてきた、式神の炎を中に入れた。
 呪力のあるもの意外は炎は葛葉と同じ子供に見える。

 葛葉は部屋に入った瞬間うっと口を押さえた。

 倒れそうになって頼光に寄り掛かる。
 葛葉を頼光は押さえて心配そうにいう。

「どうかしたのか…葛葉?顔色がわるいぞ…」
「だって…あれ…」

 葛葉が指で示した方向には姫が苦しそうに眠っている。
 姫の周りには鬼を封じる護符が五芒星の位置に置かれた御幣と共に貼られ、頭もとに祭壇が用意されていた。
 昨日父晴明が行った封印と準備だった。

「すごいな…やっぱり晴明様だな」
 と綺麗に整えられてある祭壇をみて頼光は感心したが、本当は違うのだ。


 葛葉が示したのは頼光程度の霊感では見えないもの。

「部屋中に…ち…血が飛び散っているの…」

 姫の部屋は大量の真っ赤な血が壁という壁に激しく飛び散った感じにこびり着いてい
る。
 この血は殺してきた男達の魂の呪縛。

「えっ!?」
「頼光には見えないわ…」
「みえるぞ!うん!こわいな!うわあー」

 頼光は嘘をつく。
 葛葉と同じモノをみたいから。
 なぜか頼光はこんな時にも意地になる。
 そんな頼光の様子に葛葉は苦笑した。

「もう…大丈夫、ありがとうね頼光」
 葛葉は気再び気を締め、心を落ち着かせ様とする、がなかなかこの無気味な感じは取れない。
 鬼の気配がビンビンと伝わる。この鬼の気は陰の気。心の弱いところに影響する。
 こんなに近くに、しかも頼光と2人だけで鬼退治をするのは初めてである。

そんな自信のなさが、鬼の気に捕らえられそうになる…

 祭壇の前で葛葉は祈祷を始める。
 祝詞を唱え、姫に憑いているモノを剥がすための呪を唱える。
 姫は身悶えし苦しそうに唸る。
 だが憑いているモノは中々出ていかない。

 父から受け継いだ能力と教わった呪文は間違っていない。
 だけど、自分には無理なのではないだろうかと徐々に不安になってくる。
 父は葛葉にもできる仕事だといったが、本当にこれを一人で(頼光をいれて二人になるが)できるのだろうか?
 こんな気持ちじゃ祝詞を唱えても効果がなく、鬼の気の影響か、

「私一人じゃ心細い…やっぱり…」

 いつにもなく弱音を吐いてしまった。
 自分でもしまった!影響去れてると焦る。
 焦れば焦る程状況は悪くなるのに…

 そのとき、葛葉の肩をぽんぽんと炎が叩いた。


「僕のこと忘れていない?」
「炎?」

 父の式神はそれは役に立つだろう、けれど、祝詞は唱えられない。
 式神も鬼と実際はかわらないからと思ったが、その思いを理解してか炎は首を 小さく振った。

「違うよ、僕は光栄」
「え!?」
 葛葉は驚いた。
「炎に魂を移したんだ。葛葉は一人じゃないよ。安心しなさい。葛葉を守ってあげるから」

 葛葉はとっても驚いた。
 声も懐かしい許嫁の声だ。
 嬉しくて心強くて炎をぎゅっと抱き締めた。
 姿形は違うが、炎から感じる気配は光栄のものだった。

 光栄のいる播磨では同じく祭壇が置かれていた。
 葛葉がいる宮姫が結界にいるように播磨の邸では結界の中にいるのは中将だった。
 中将はぶつぶつと、文句をいっている。
 久々にゆっくり眠れているところを光栄に遠慮なしに起こされ、強引に浄めさせられ祭壇の中央に座らされて不機嫌である。
 自分の身を守ってもらう為とは言え、安心を確保した今は位のない光栄に不満を漏らしている。

 光栄は氷の肩に手を置いたまま動かないのを良いことに文句をいっているのだ。
三流陰陽師だの、大臣になったら二度と京に帰れないようにしてやるとか聞こえよがしに言い放つ。
 それは、光栄に十分届いている…

 京の宮姫の邸でも頼光が炎の光栄に文句を言った。
 抱き着いてる葛葉を無理矢理退かして炎に詰め寄る。

「あのなー葛葉を守るのは、この俺、源頼光さまだ! 播磨にいるお前に何ができるんだ!」

 炎の襟元を掴み掛かりながら怒りをあらわにする。
 頼光は葛葉に喋っているのは今朝がた盗み見た会話するだけのものだと思っている。

 だが違った。

「頼光君も守ってあげるからねー」
 と自分より背の低い、炎の式神光栄に頭を撫でられた。
頼光は光栄を殴ろうと思った時、尋常じゃない気配を感じた

「ハリマ…ハリマ…アノ男ガイル播磨…」

 地を這うような無気味な声を出したのは結界の中で寝ている姫のものだった。
 姫は手も使わずにぐわっと上身を起こす。

 そしてその背後からは邸の外で見た禍々しい気が流れ出ていた。
「ハリマ…アノ男ガイル……許セナイ……許セナイィィ!!!」

 姫は結界から出ようとして弾かれた。
 姫は苦しそうに呻く。
「さ、葛葉、姫と憑いているモノを剥がすため呪文を続けよう!」
「はい!じゃあ、頼光、姫に憑いているモノが出てきたらその刀で姫と切り離して!」
「おう!」

 頼光は刀を構えて、姫の背後に近い場所に移り準備万端整える。
 炎の光栄と葛葉は祭壇の前に声をあわせ呪を唱える。
 姫は苦しそうに体を激しくうねらせる。

 尋常ならない動きだった。
 だが、その動きとともに憑いているモノが浮き上がり、鬼女の形になっていく。
 そして、姫は動きを止めカクリと首を俯かせ、背後に鬼女があらわれた。


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2013/12/16 (Mon)

異様な邸

 そこは大きな邸だった。
 葛葉が住んでいる一条戻り橋の邸よりはるかに大きい造りの邸で、身分の高さがうかがえる。
 今上帝の弟の宮様の邸である。

 宮の娘の姫が鬼に憑かれて、今世間を騒がしている鬼の根元だという。
 葛葉はぶるっと肩を震わせる。

 父、安倍晴明に付き、いろいろ邸を回ったことがあり、無気味な気配は慣れていたが、
 このように強い渦は初めてである。

(安倍晴明の娘である私がこんなことでびびってどうするのよ!気をしっかり持たな
いと!)

 顔をふりつつ自分を戒め気をひきしめる。

 そっと頼光の手が葛葉の手を握りしめてきた。
 そして、自分の胸のところに重ね合わせたてを持っていき真剣な顔で葛葉を見つめる。
 業とそういう形に頼光は持ってきたのである。

「なぁに……?この手は…?」

 葛葉は不機嫌な声でいった。
 頼光の意図が見えたからだ。
 案の定頼光は
「葛葉こ…こわいのか?」
「なにが?」

 葛葉は手を上下に思いっきりブンブンと手を解こうと振払おうとしてたが、頼光は離そうとしない。

「鬼が怖いのであろう?俺が手を握ってやるから安心しろ」

 いかにも男らしい台詞を言う。
 だが、声は震えていた。手も冷たい。
 葛葉はニヤっと意地悪く笑う。

「そーいえば頼光も少しは見えるんだったよねー鬼とか幽霊とか」
「あう!」
「あんたの方が怖がってるんじゃないの?」
「そんなことは…な……ないぞ!」
「どーかしら?それにしても手が冷たいんだけど?」
 その言葉に頼光はパッと手をはなした。

 男の自分の方が怖がって、好きな葛葉にこれ以上に怖がっているのを知られるのが恥ずかしくなっったからだ。

 ギギギギっと門がいきなり開いた。

それはとてもこの邸の雰囲気にあった無気味な音だった。
 頼光はさっと驚きの余り葛葉の後に隠れた。

「あんたね!私を守ってくれるんじゃなかったの!?」

 葛葉の声も上擦っていた。
 門から出てきたのは老女房と門衛だった。
 その老女房の皺くちゃの顔と白髪をみて頼光は叫んだ。

「鬼ばばぁだぁーーーうっ!」

 葛葉は頼光の腹に拳を入れて黙らせた。

「失礼なこというじゃないわよ!あー見えても人間よ!」
「失礼な童どもめ……」
 と老女房は怒りを静かにあらわしていた。

 門衛たちは苦笑した。

 門衛の一人が葛葉が乗ってきた牛車の家紋を見て安倍家のものだと分かり、牛車を中に通してくれた。
 老女房は葛葉たちを見て少し驚いた。

 安倍晴明自身ではなく子供2人だけだったからだ。

「あ、あの!私は、父、安倍晴明の代理で参りました葛葉と申します。
そしてこっちは……」

「清和源氏、源満仲の息子、源頼光ともうします」

 頼光は片膝をついてなれたようにお辞儀をいた。

「晴明殿からはお話を伺っておりまする。どうぞ中にお入りくださいませ」
 老女房は、ふーっと、ため息を吐いた。本当にこんな子供を寄越すとはと困ったように呟いた。

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2013/12/15 (Sun)

初仕事の緊張の朝

 翌朝、晴明と光栄は、式神を通して遠い土地から話していた。

話す様子は電話みたいな感じで、自分が喋ったことをそのまま式神がその人物の声で言葉をとおす。

 晴明がことの次第を光栄に詳しく説明した。



「そう言うことだからよろしく頼むぞ」

「はい分かりました。でも、葛葉一人で本体の方をやらせて、平気でしょうか?」

「それは大丈夫だ。頼光君も手伝ってくれるよ」

「なお、心配なのですが…」



 光栄は声を低くして心配そうに言った。



「まあ、いつでも式神を通して連絡できるから助けてやってくれ。……ってそろそろ出仕しないと遅刻をしてしまう…ではな…光栄」

「あ、ちょっと!晴明様まだお聞きしたいことが!」



 一方的に晴明は連絡を途絶えた。



「切られちゃったよ…まだ聞きたいことがあったのに……」

「なんか…その台詞、平安じゃないぞ…」



 自分の意識に戻った氷がいった。

「そうか?」

「うん」



と氷に言われて、光栄は顔をかきながら、照れた。

光栄は顎に指を当てて困ったことをつぶやく。



「連絡だけじゃ…葛葉を助けられないよな…いくら何でも…」

晴明はいそいでいて、肝心なことを忘れていたようだ。

だが、氷がその点は氷がフォローする。

「それは、大丈夫だ。オレ達を通して魂を乗り移らせればいいことだ。そうすれば、炎になって光栄は葛葉たちを助けられる。」



 その言葉に光栄は驚きと感嘆の息をもらした。



「へぇ~さすがは安倍晴明様の式神だ」

「だけど、あんまり術とか使われるとオレ達疲れてしまうから…って、光栄!」



 光栄はその言葉は聞かずにテキパキと祭壇の用意をした。

 鼻歌まじりで…その鼻歌は…かずかに、葛葉の名前の音が含まれていた…



「こいつって………」

氷は白い目で光栄眺めていた…



「あれ~?父様は~?」



 葛葉は寝坊け眼で、父を呼ぶ。

 興奮して眠れなかったため、寝るの遅れ、起きるのも遅れた。

 そのため、父はいなく、光栄と連絡を取るところにも立ち会えなかった。

 単衣の姿をした葛葉は炎に着替えを頼みながら、今日の仕事内容を炎から聞く。

 それは宮家の邸にいき、鬼を払うこと。

 昨日、父が結界を張ってあるので後は鬼を引き出し、退治をする。

 だけど、昨日父のいった言葉。



『やっつけちゃえばいいとか、退治してしまうのは簡単だけど、その鬼の立場に立っ

てみると、あまりのも無念すぎると思わないかい?』



 その言葉を理解はするがどうその無念を思ってあげればいいんだろう?

 と考える。



 ……思うだけいいのだろうか?

 その無念をはらすなら望みのまま動かさせればいいことだ。

 だけど…それは、人々が困ること。

 それを止めるのが父や葛葉がやろうとしていることなのに…



「本当に私できるのかなぁ…不安になって来た…」



 やっぱ父様がやった方がいいんじゃないかな…と自信がなくなってきた。

 そんな葛葉を見て炎は慰める。



「葛葉ちゃんの手に負えないものなら晴明様がと?くに仕事を終えているよ。

だから大丈夫。光栄さまも手伝ってくれるしそれに…」



「俺様もいる!」

 

 少年の声がどこからか叫んだ。

 

「う、わああぁ!」

 

 中庭の木から少年が落ちた。



「頼光!」



 左頬に紅葉のように赤い平手の後をつけた少年が葛葉のもとにかけよる。



「どうして、邸にいるのよ!」

というか、また塀をよじ登ってきたんだろうな……と思いながらいつもの台詞をいう。



「君の父上さまに頼まれたからさっ!

俺って信頼されているな~はっはっは!」

 

自信たっぷりで、胸を張り言う。

 しかも、君とわざというところが臭い台詞っぽく葛葉はうんざりとした。





「光栄様も頼まれてるんだけど?」



 うっと頼光は言葉につまった。

 だけど気を取り直す。



「播磨にいるんじゃ何もできないじゃないか!」

「頼光だって何もできないじゃないの!」



 確かに、遠くにいちゃ何もできないと自分でも思ったが、他人にいわれると腹が立 つので言い返し冷たいめで頼光を見下ろす。

 だが、頼光はめげなかった。

それどころか自嘲の笑みをした。

 腰につけていた自分の背よりは頭一つ半くらいの低い刀剣を葛葉に見せた。



「なにそれ?飾り刀?キラキラした石が多いのねそんなんで何ができるというのよ」



 刀には北斗七星の形をした紋章に宝石が星の位置にうめてある、豪奢な刀だった。

 星の色は、赤、青、黄、緑、紫、黒、白の小さな宝石だ。

 けれど、飾り刀はしょせん飾りであるが、その刀には異様な力の気配がした。



「これは、退魔の太刀で『鬼切丸』っていうんだ。」

「鬼切丸って頼光の父様の刀じゃない!勝手に持ち出してきたの?」



「いいや!晴明さまから頼んでくれたらしくて今日一日貸してやるといって預かってきた」



 頼光はニコニコしている。

 なかなか触らせてもらえない神剣をかしてもらい、それを使えるのもうれしいのだろう。

 鬼切丸を葛葉も頼光から貸してもらい持ってみる。

 この刀はとても重かった。

 先程木から落ちたのはこの刀の重さゆえバランスを崩したせいだろう。

 それを、頼光は軽々と持つところを見ると初めて感心した。

 頼光も剣術は何度か見せてもらって信頼はある。





 ちょっと自信を失いかけた葛葉でも頼光がそばにいてくれると少し頼もしいかなと思った。



 そんな、葛葉を頼光はここぞとばかりに格好の良い台詞を考え言う。



「この刀で葛葉…お前を守ってやる…命にかえても…」



 ふ…決まった!

 これで葛葉は自分に惚れると思ったが、



「ねぇ? 炎、車の用意はできてる? 札は? 」

「はい全て整えてあるよ」

「じゃ、行こう、炎」

頼光をまるっきり無視して牛車の方へ向かうため渡殿を通っていた。



「ちょっと、まてよ~、待ってくれよ~!」

 頼光は急いで葛葉を追った。



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2013/12/13 (Fri)

愛しの君の光栄

ここは播磨。波打つ海の音が気持ちがよい…

砂浜にはきれいな貝殻が落ちている。

巻貝が半分砂に埋まっているのも京にない風情がある。

そんな播磨の海岸を光栄は歩いていた。





「この地から離れるのか…離れがたいな…」





夕日が海に接して紅い…そんな海を見つめていた。

父、賀茂保憲に従ってこの地に訪れてから随分とたつ。

京には年に二、三回は帰っていたが、ついに帰るが来るとは…

長年この地に住んでいたのでこの空気や、風景がとても好きだった。



京の空気より、景色よりこの美しい土地…だから離れがたい。

そんなことを考えながら、歩いていた足に貝殻がぶつかった。

その貝を手にとり見つめながら思う。





「葛葉をここに連れてきたかったな…きっと、大喜びで砂や海で遊んだだろうな」





幼い許嫁のやりそうな行動を想像してくすりと笑う。

光栄は本当に浮気の心配のない青年だった。ただちょっとロリコンなだけかもしれないが。





「光栄様ーーーー!」

葛葉のお土産に貝殻を拾っている時、従者が光栄を呼びにきた。

「なにかあったのか?」





従者が光栄のたつ砂浜までくると息を切らせながら告げる。





「保憲様のお呼びでございます。何やら貴族がまえられていて…光栄様にその貴族のことを任せるとのこと。」

「貴族が?」





なぜ貴族がこんな播磨の地に来ているのだろう?



と思いながらも、邸に向かった。



邸に着いたころにはもう夜空だった。

貴族は一段高い位置に円座を敷き座っていた。

歳は三十、位は中将。



そして、藤原姓なのである。



その男はガタガタと震え、燭台の明かりを受けてみえる顔は青ざめている。

そして、光栄は机の上に紙と墨と筆を用意して、その貴族の用件を聞いていた。

貴族は声を震わせながら話す。





「毎日恐ろしい夢を見るのです。昔通っていた女が出てきて…その女は鬼の形相で…手と口は血まみれで…あ、あらわれて…『今度はあなたを食ろうてやる!』と高笑いをしながら追い掛け私を喰らおうとする夢なのです…恐ろしくて恐ろしくて…」

その夢のことを思い出したのか目に分かる程の震えをした。



そんな中将とは反対に光栄は無表情の冷静な態度で話を聞くふりをする。





「そうですか……ですがなぜ、この播磨の地に?京には晴明様やなだたる陰陽師、祈祷師がいらっしゃるでしょうに…」





「それはその…父上が…いや…恐ろしくなったのだ!京には私が捨てた女が何人もおる…京を離れれば女達いや…鬼に殺されずにすむとおもって…いや…だが…夢は消えぬのじゃ…今も私を追って播磨まできているのかもしれん…ですから、助けてほしくてまいったのですのじゃ」





恐怖にかられているためか、言葉数が多く、言葉もかなり乱れている。

光栄はその用件をすらすらとそのまま紙に書き写していく。

書きながら光栄は自業自得じゃないか…と思っている。

浮気をして女を捨てる方が悪い。



好いた女なら捨てることをせずに妻としてくらせばよかったのだ。



光栄は自分は浮気などしないたちなので、こういう男が許せなかったりする。





「わかりました。なんとかいたしましょう。」

「本当ですか!?」





用件を書き終えた筆を置き額をおさえて光栄は大きくため息をついた。

とても面倒だという態度がありありだとそばで控える光栄の従者ははらはらするが、中将は逆に大柄な態度は自信の表れだと思って心強くかんじたらしい。







「その夢の原因の鬼をどうにかするためには京との連絡が必要だと思いますので時間かかりますよ?」

「ど、どのくらいですか?」

「3,4日ってところでしょうか?」

「そ、そんなに!それまでに私は殺されてしまう!」





いきなり光栄に抱きつき懇願した。





「大丈夫です。この札を邸に貼っていれば夢は見ませんし、鬼も現れません。



それと念のためこの邸に泊って下されば問題ないと思います。



だから、抱きつくのはよしてくれませんか!」

思いっきり貴族の体を引き剥がした。

札を渡すと、従者に部屋へ案内するように命じ、手を叩きながら光栄は貴族より先に部屋を出てていった。

従者は、相変わらず態度のわるい…と思ったが、注意もしなかった。









光栄は父保憲のもとに訪れて文句をいっていた。









「父上が依頼をお受けになったらよかったのだ」

「私は忙しい。もうすぐこの地を離れる準備をしなくてはいけないからな」





書物の棚を整理しながら保憲は言う。









「その言葉…一週間も前にも聞きましたが…」

「荷物が多くて整理しきれんのだ」

その言葉も聞いたきがする。





「そういえば葛葉の君に文を送ったそうだな。」

「父上の所為で遅くなると書いておきました。」





恨みがましく言う。まるで子供の態度。

そんな光栄を保憲は精神年令は葛葉の君と同じだなとおもった。









「ああ、そうだ、鬼女の件に関する文が晴明からも来ていた。」





懐から文を取り出し息子の前に放り出す。





「それをしっているなら……ん?」





光栄は文を手に取った時、簾の向うで何を感じた。

人間ではない気配。

そして尋常ならぬ息切れの音…ゼイゼイという…苦しそうな息遣いだった。

光栄がその何ものかを調べるため簾を慎重に開けてみるとそこには…





「お前は氷ではないか!どうしたのだ!」

氷は手にた文をフルフルと腕をあげ光栄に差し出す。

「これを…葛葉…から…」

光栄がそれを受け取ると、氷はパタリと気絶をした。





「そろそろ、播磨に文が着いたたころかな?」



葛葉は夜空を高欄に寄り掛かりながら見つめている。

葛葉の側には手のひらにわずかな光として燭台のようにほぞぼぞと火を灯している式神の炎が、苦笑いをした。



「死にものぐるいで飛んでいったからねぇ…着いたと思うよ」



氷は今日中までに播磨に文を届けなかったら、帰ってきた時に母様の刑に処されるので、

葛葉が文を書き終えた後すぐに必死に飛んでいったのだ。

葛葉はその時の氷の様子を思い出して、うふふふっと笑った。



「何がそんなにおかしいのかな?葛葉」



その人物は足音を忍ばせて、渡殿を渡り葛葉のいる東の対(葛葉の部屋)まで来た。

この人物はいつも葛葉を驚かせるために忍ばせて渡ってくる。

葛葉は満面の笑みでその人物を見る。



「おかえりなさい!とー様ぁ!」



ぱっとその場を立ち上がると、父、安倍晴明に抱き着く。

この時代の姫はそんなことはしないのだが、この家の家風は世間ととてもずれている。

スキンシップ旺盛な父子はしばらくお互いの温もりを確かめた後、幸せいっぱいな顔を見つめあいながら、家族の会話へと入る。



「父様、今日も遅い帰りなのね。仕事が大変だったの?」

「とても大変だったのだよ。

とても疲れたけど葛葉の顔を見るだけで疲れが吹っ飛んでしまった」



もうすぐ40になるとは思えない程とても若々しくて美男な晴明の顔は父の顔になっている。

葛葉はとても若く見えて美男でとても優しい父がとても大好きで自慢だった。



「そういえば氷の姿が見えないが…どうしたんだ炎」

「それが…播磨まで使いにいっています。葛葉様の怒りを買い北の方様の刑になるのが嫌で…とでいきました」



「そう…か…」

(可哀想に…氷…。)

と哀れんだ。



晴明も北の方自分の妻の式神に対する恐ろしさを知っていたからだ…

「そんなことより!どんな仕事だったの?もしかして今世間を騒がしている。鬼女の仕事?」



「良く知っていたな~葛葉は世間の噂に聡いな。」

「だって父様の娘だもの~」

実際には頼光に聞くまで知らなかったのだが…その事は口に出さない。



「そうなんだよ。鬼女に怯える公卿たちに祈祷をしにまわっていたからね」



「たいへんね~」

ふぅ~と自分が疲れたような仕種をする。

そんな、葛葉の仕種が愛おしくなって頭を撫でる。



「大変なんだけど、鬼の根元をたてば、怪異はなくなるんだけどね」

「その根元はみつからないの」

「見つかったよ」

「じゃあ、さっさとやっつけちゃえばいいのに」



晴明は苦笑いをした。そして優しく言い聞かすように葛葉に話す。



「葛葉…やっつけちゃえばいいとか、退治してしまうのは簡単だけど、その鬼の立場に立ってみると、あまりのも無念すぎると思わないかい?」



葛葉はハッとした。

人を脅かすのはとても悪いことだけどそれにも理由がある。

男達の身勝手な振る舞いで鬼になる。悲しみを怒りで我を忘れてしまうのは、その男達の所為なのだ。



「なるべく、その鬼の心もくんであげるのが陰陽師というより、人としてやるべきことだ…」

葛葉は自分の考えの浅かったことを恥じる様子でうつむき頷く。

そんな娘を『偉いぞ』というように優しくなでてやる。

「でだ。この仕事…葛葉がやってみるか?」

「え!?」

突然父に思ってもいなかった言葉をいわれて、一瞬意味が飲み込めなかったが、その言葉の意味をりかいする。



「え~~~~~~!それって私が祈祷とか鬼退治をするってこと!」

「うん。前々から、葛葉もやりたがっていただろう?」

「やりたかったけど…私一人で?」

「一人じゃないよ。光栄もきっと手伝ってくれるよ」

「光栄様も!?」



ぱぁあと葛葉の頭は有頂天になっている。

光栄様と一緒に……

だけど、光栄は播磨だ。

それでどうやって、一緒にできるのだろうか?

その疑問が過った時、晴明は炎に話し掛ける。



「氷とは連絡できるか?」

「それが…何度もためしたのですが、氷は気を失っているらしくって…」



炎は困ったように言った。

「まったく。氷ってば役立たずなんだから!」

晴明と炎は苦笑いをして葛葉を見た。



「それでは仕方がない、明日連絡をとるとするか」



葛葉は寝床に入っても、興奮のあまりなかなか寝つけなかった。

初めて自分の成果を試せる。

そして何より光栄と一緒に仕事をすることが嬉しくてたまらなかった。





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* ILLUSTRATION BY nyao *