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童話、イラスト、物語だけを語ります。 個人的なことは書きません。 純粋に物語だけのブログです。
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佐井花烏月(さいかうづき)
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佐井花烏月(さいかうづき)ともうします。

ここのブログでは
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2014/06/03 (Tue)

1.葛葉姫の苦手なもの


「そこまでよ!!」

 長い髪を高いところに縛り、狩衣に朱の袴を夜風になびかせ、血なまぐさい匂いをはなつ異様な妖しを葛葉は睨む。

 グルルルっと威嚇するように唸る妖しは犬の様にも見えた。影の様に黒く、襲った人間の血を赤く口元に滴らせ、尻を持ち上げ、助走をつけて飛び葛葉に襲いかかった。

「あぶねえ!」
 横から頼光か自分の身長と同じくらいある刀をその口に挟ませ、防ぐ。

「そのまま、押さえておいて!」
 葛葉は瞳を閉じ、手にしていた呪府をピンと立て呪をとなえる。

「散妖伏邪!急急如律令、畜怪!」

 府は光る鳥となって黒い獣を貫いた。

 獣はけたたましいく叫び闇にとけ消えた…
そこには葛葉が放った呪府のほかにもう一枚血に塗られた呪府が落ちた。

「また偽モノなのね……」

 今し方命を落とした人に拝む。ぶじ成仏できるように…
 そして、血に染まった府に触る。

「いったい誰が放ってるかわからないのか?」
 刀を鞘にしまいながら、頼光は聞く。

「うん…私じゃまだまだ未熟なのかも知れない。父様か、光栄さまに聞けば分かると思うけど」

 今この二人は宮中行事で忙しいのだ。
 それに、この事件は貴族達にはどうでもいい事であった。

 襲われているのは庶民なのだから、いまだに貴族の一人にでも危害を加えられた者がいない。

 だから、宮廷陰陽師たちは動けない。
 外法陰陽師も庶民相手に金もうけにならないことで動きたくないという者も多いのか、動いている気配はなかった。

 そう言う理由から、うわさを聞き付けた葛葉はこの依頼を受けることにしたのだ。
依頼してきた人は正直上座に堂々と座る子供の葛葉を疑った。

 「こんな子供に任せられるものなのか…」
とつぶやいた。
 そのつぶやきを聞き逃さなかった葛葉は侮られているのがしゃくに触って、

「希代の陰陽師安倍晴明の娘葛葉姫に不可能はない!!」
と断言して。

 獣の妖しのうわさを聞けばこうして駆け付けて、夜な夜な京中に跋扈する獣の妖し退治をしている。

「それにしても、葛葉って、恐い者知らずだよな。」
「なんで?」
「その手に持ってる府に…べたべただぜ……?」
「もう慣れたわよ。」

 けろりという。
 頼光は月明かりのせいで青ざめているわけではないようだった。

「おれは慣れないな……葛葉って恐いものってないのか?」
「この葛葉姫に恐いモノがあると思うの?あるわけないじゃない」
 わざと胸を張って自慢してるように言う。

 そのとき、角の塀から、くう~んと子犬の泣き声が聞こえてきた。

 葛葉はまた妖しかっ!?と思い身構える。
 だけど、妖しの気配はない、ふつうの子犬らしかった。

「お!犬だ!おいで、おいで!」
「ち、ちょっと、やめなさいよ!頼光!」

チッチと舌を鳴らす頼光にかけよってきた。
葛葉は後ずさる。

「お~お!お主、賢いな。しかも、人間に慣れてる感じだ」
しっぽを思いっきり振って、頼光の顔を舐める。

「ちょっと、頼光!病がうつったらどうするのよ、というか、懐かれたらどうすんの!」
「そうだな~俺の父ちゃん犬嫌いだからな~葛葉かってくれないか?」
頼光は犬を抱きかかえ、葛葉に向き直る。
葛葉は、また後ずさる…

「ぜ…絶対嫌!!っていうかこっちに近付かないでよ!!」
「え~かわいいじゃん。撫でてやれよ」
 頼光は子犬を葛葉の顔に近付けると子犬はぺろりと葛葉の鼻をなめた。
「いや~~~~~~!!!!」

 バシンっと頼光の頬を思いっきりたたいた。

「イッテ~~~!ぶつことないだろう!」
「あんたが悪い!!」
 葛葉は涙ぐみながら、鼻を思いっきり袖で擦る。
 葛葉のそんな様子をみて、頼光は気がついたそしてそのことをにやにやしながら口にする。
 「もしかして葛葉って……犬が恐いなのか?」
 葛葉はぎくっとした。

「恐いものなかったんじゃなかったけぇ~?」
「う…それは…そうだけど……」
 葛葉は口籠る。
 なぜか葛葉は犬が本能的に苦手だった……

「葛葉もう仕事はおわったのか?」
「父さま!!」

 葛葉は『炎』という火をあやつる式神をつれて、闇からあらわれた父安倍晴明に駆け寄った。

「葛葉ちゃん御苦労様です」
 炎は手のひらにともしていた、火の玉をもう一つだし、辺りをいっそう明るくた。

 炎の対の式神の氷をあやつる式神の『氷』は炎と双児の童だが、今は光栄の式神として働いている。

「頼光が犬を使って私を虐めるのよ!!助けて!」
 葛葉は父に助けを求める程、犬が苦手のようだった。

「いじめてる?ほんとかい?」
頼光をにらむ目が光った。

「ち、ちがうよ。こんなにかわいい犬を恐いなんて変だって思って……撫でてやれって言っただけなんだけど…」
 これって虐めたことになるんだろうか?とちょっと罪悪感を感じた。けれども理不尽だと思う。
 頼光はからかうことはしてもひどいいじめは誰にでもしたことがないのだから。
 
 表情が難しく曇る頼光の頭をぽんぽんと晴明は撫でた。
「わかってるよ。さっきまで見てたからね。頼光君は悪くない」

「悪いって!」
 ムキになって反論する、葛葉の頭を軽くたたいた。

「なんでぇ~私が叩かれるのよ~」
「頼光君は悪気があったわけじゃないんだよ。葛葉は大袈裟すぎた。そうだろう?」
「確かにそうだけど、苦手なの知って近付けたんだもん!」
 それも見ていてそれも真実だろう。
 だが葛葉は父に甘えているだけな感じがする。
 修行以外のことは甘やかせて育てたことを晴明は自覚してる。

「じゃあ、修行として、犬に慣れよう葛葉」

「えええ!!」

「私も犬は苦手だったけど、案外可愛いよ。その犬うちで飼おう」
「本当ですか!」
頼光はパッと顔を輝かせた。

「オレが飼いたかったんだけど、オレのとおちゃんも生き物苦手でさ…翌朝、父ちゃんに串刺しにされると思うと飼えなかったんだ。良かったな、お前」
「ワン」と元気よく犬は吠えた。

「そんな~隠れて飼えばいいじゃないの!」
「うちも、母さまに隠れて飼わなくちゃいけないよ」
「たべられちゃいますものねぇ~」
と炎は青ざめ、小声で付け加えた。

「そんな~~~~!?」
葛葉は青ざめて叫んだ。

「これも修行修行。」
 晴明はニコニコしながら、葛葉の頭を撫でた。

 晴明には犬を葛葉に近付けることである意味があった。
 晴明の母、葛葉の祖母は辰狐だ。
 葛葉の血にも獣の気配が残っている。
 葛葉の母カグヤ姫の血は月神の者。

 月は獣を従える力。
 獣を従えるものが獣に脅えることはいけないことだ。
 それとは別に、人として生きていくのに犬の『気』によって、狐の『気』を払わせることも必要だった。
 本能的に犬が嫌いな根本はそこにある。
 だから、人として、暮らしていくためには、狐の力と別に『気』を払わなくてはいけないことなのだ。

 晴明も師匠加茂忠行、保憲にその修行をさせられた、苦い思い出がある。
 可愛い娘である葛葉にその思いをさせるのは忍びなかったが、これが娘のためでもある。
 娘を想いやるとき、もう一人の大切な存在の事を晴明は想う…

(これをあの子にもさせてやりたかった…)
 もう一人愛しく思う者を思いながら、夜は深けていき、朝となった。

「きゃ~~~~~~~!!」
鶏よりも早く朝の知らせを告げる叫び声が響いた。

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