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童話、イラスト、物語だけを語ります。 個人的なことは書きません。 純粋に物語だけのブログです。
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佐井花烏月(さいかうづき)
性別:
女性
職業:
一応漫画家?
趣味:
漫画を描く事
自己紹介:
佐井花烏月(さいかうづき)ともうします。

ここのブログでは
イラスト付童話や小説を制作していこうと思ってます。

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2011/06/06 (Mon)
 「気になるんだ?二人が」

ヒカルさんは、また、悪巧みを成功させようとしてる子供みたいににまにま笑い、

「なら、あの中に入っていけばいいのに」
「できないんですよ…すずさんをおこらせちゃったから……」
ヒカルさんさんから顔を背けてすずさんと真一郎さんの様子を見つめる僕。

その僕の後ろからヒカルさんは、僕の耳元に口を近づけて、

「キスしたとか?」

ぼくは図星をつかれてビクッと肩を震わせた。

「ど、どうして……わかったんですか……?」

どうしてバレたんだろう?
その反応を見て、ヒカルさんのほうが驚いたようだった。

「オカマの感。って、ほんとに?本当にあのすずさんにキスしたの?」

「こ、声が大きいですよ!」
声を殺して注意をする。

「 ごめんごめん、じゃあ、更衣室いこう…」

隠れて更衣室へ行くとき真一郎さんはちらっとこちらを見て、ウインクをした。
その合図はいったい何の合図なんだろう…?とにかく、すずさんには気付かれずに移動できた。

「へぇ~あのすずさんにキスしたなんて、武勇伝だぞ!」

武勇伝?どうしてそうなるんだろうか?

「おれなんか、すずさんにキス迫ったら、金的攻撃されて、オカマじゃなくてニューハーフにされるところだったんだぞ!」

「それこそ、すずさんの武勇伝ですよ……」

金的攻撃……そんな恐ろしいことをすずさんなら躊躇わずにやるだろう。
僕は青ざめていた。平手打ちで済んで良かった…
ヒカルさんは興奮ぎみに目を輝かせて言う。
一矢報いたと言うような感じなんだろうか?

「……実はヒカルさんとの関係を誤解して……嫉妬して…キスしちゃったんですけど…」

言うのが恥ずかしかったが、もしかしたら、今のヒカルさんなら、僕の味方になってくれるかも知れないと期待があった。



「そのあとは…?それ以上やっちゃわなかったのか?」

そんな下品な言葉を使うのはちょっと気が引けたので、しばらく、黙ってから言葉を続けた。

「すずさんに打たれて…冷静になって、とんでもないことしちゃった事気付いて逃げてきちゃったんです……」

恥ずかしさと申し訳なさで俯いて白状した。

「つまんね~そんなんで逃げたのか?」

ヒカルさんは呆れたようだった。

「つまんないことですか?」
「謝ればすむことじゃん、そんなこと」
「僕とすずさんにとってはそんなことじゃないんです!だって、約束やぶっちゃったわけだし…そういうことしないって約束…」
「約束はやぶるためにあるもんなんだぞ」

けろりとそんなことを言う。
「そう言う不実なことは嫌いです。」

僕はヒカルさんを睨んで言う。そんな不実なことをいうなんて、軽蔑してしまう。

「ホストだしね、仕方ないと思ってくれ。」

ホストだと仕方がないのか?真一郎さんもそうなのかな?


「ま、事情はわかった。本当に鈴さんのことが好きなんだなあ……たんなる若手のヒモだとおもってたけど…」
「むしろ、ヒモになれたら…」
そう小声でつぶやいた。

ヒモは一応恋人どうしに使う言葉だと、僕は思っている。
まだ警戒し、フテクしてる僕の頬をぎゅっとつねって、笑顔の形にし、

「そーゆー顔するなって!お前の気持ちはわかったし、味方してやるか 
らさ、元気出せ?」

ヒカルさんは意地悪だと思ってたけど(意地悪は変わらないけど)兄貴分といった雰囲気に僕は一気にヒカルさんへの警戒心が解けた。

「ホォンチョニ!?」
「恋のキューピットになってやる。
だって、すずさんはお前のこと……」
「へ?」
「なんでもないよ!それより、まずはあの二人の邪魔をする事だね」

ヒカルさんはキラリと目を光らせた。

本当はヒカルさんとすずさんの邪魔をするはずだったのに、ヒカルさんが僕の味方になって真一郎さんが恋敵になるとは全く考えてもいなかった…

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2011/06/05 (Sun)
  僕たちがもめている間にすずさんの隣に親し気に座って話している。
 僕のことを話してくれているのだろうか?

「あ~あ~先越されちゃったよ~。すずさんマスター好きだからな~マスター目当で来てるようなものだし…」

「え?すずさん…真一郎さんをスキ………?どういう事ですか?」

ヒカルさんは不敵ににんまり微笑むと説明してくれた。

「すずさんの初恋はマスターなんだよ」
「えええええ!!!っいててて!」

大声をあげる瞬間、僕の口を塞ぐではなく、鼻をつまんで制した。
なんか、この人ふつうの感覚が違う…

そういえば、すずさんの様子がちょっと、お淑やかに見える…照れてるような…
そんなすずさんを優しく見つめる真一郎さんは温かい感じがする……
 
「すずさんはマスターの奥さんそっくりだしね。そのうち、くついちゃうんじゃないかな?」

ヒカルさんは祝福するように言った。
……ヒカルさんの態度なんだか変だ。
自分の恋人なのにそんな風に言うなんて。

「ヒカルさん恋人じゃないんですか?」

その疑問を口に出していったら、ヒカルさんはハッとした表情をし、悪戯がばれちゃった子供のような感じで白状した。

「ウ~ン…そうみたいっていうか、どうして、オレとすずさんが恋人同士って事になったんだ?」

なぜだが、逆に質問された。
「だって…キスしてたし……?」
一昨日の行為を忘れたのだろうか?

「そんなことした覚えないぞ?」
「僕見たんです。あそこの応接の影で、すずさんとキスしてたじゃないですか!」


ヒカルさんは、は~んと、指を顎に当て理解したように頷いた。

「角度的にそう見えただけだろう?」

だが、納得できないここから見る真一郎さんとすずさんだって離れてみえる。
僕は疑いの目をすると、ヒカルさんはフッと微笑んで、

「それに…」
「え?」

突然、僕の顎を掴むとまじかに顔を近付けてきた!

「お前が見たのはきっと、こうしてるところを見たんだよ」
うわ!やっぱりキスするんじゃないか!っと思ったら。
どこからかもっていたのか、アイライナーを僕の目の上に素早く塗った。

「な…なに?」

衝撃的で意外な答えだった。

「すずさんパソコン疲れで目の上こすって、化粧が落ちちゃったのをなおしてあげたんだよ。すずさん化粧っけないから、おれが指導してあげてるのっ」

「でも、なんで紛らわしい顔の上げかたなんかするんですか?」


「女、お落とすテクニック、癖でそうやっちゃうんだよ。もしも、落ちたらラッキーじゃん?」
そういう、軽いノリがホストっぽかった。
そんな人にすずさんを奪われたくないと本気で思った。

でも、すべては僕の勘違いだったんだ…ヒカルさんは別に恋人じゃなかったんだし、キスもしてなかった…僕が嫉妬しただけ……はぁ…

だが…ライバルは灯台下暗し!

真一郎さんがライバルだったなんて!
二人を見るとなんか、すずさんが舞い上がってる様に見える……
真一郎さんは愛してるのは奥さんだけって言ってたから、すずさんの片思いなんだろうな……

そして新たな意外な三角関係が成立してしまった。

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2011/06/04 (Sat)
 窓から夕日の光が差し込んできていた。午後4時すぎだろうか?
僕がぐぐっと背伸びをする。双子たちも真似する。

「藍ちゃん蓮君は僕が寝てる間、なにしてたの?おとうさんは?」

仕事が終わった後、真一郎さんが家に送ってくれて、そのまま、ふとんに倒れてしまったので双子達が何をしていたか、真一郎さんはどうしたのか気になった。

「幼稚園いってきた!帰ってきてから、パパはすずちゃんのところにいっちゃった!」


「すずさんのところに!?」

真一郎さんすずさんと僕の仲を取りなしに行ってくれたのだろうか?
きっとそうだ!これですずさんのところに帰れる!
とってもうれしいけど…夢を思い出して、不安になった。
本当に帰れるのだろうか?
すずさんは許してくれるんだろうか…?
藍ちゃんはもう一つ思い出したというのように人さし指をたて、

「もし、許してもらえなかったら、うちで暮らしていいって!」
「よかったね~!」
「……」

きゃっきゃと本当に嬉しそうに言う双子たち。
いっきに不安がます……正夢になりそうな予感。
いや!正夢にしちゃいけないんだ!自分から何とかしなくては!
今、真一郎さんがすずさんのと頃にいるのなら、僕もいって許してもらおう!

真一郎さんの家からすずさんの家は30分ほどだ。走れば15分くらい。
幼い双子に留守を任せるのは気が引けたけれど、子供たちによく言って聞かせれば大丈夫だと信じ、留守番の極意を言い聞かせる。

「知らない人とかぜったいに入れちゃダメだよ!いいね。火も使っちゃダメだよ!もし、変な人とかきたらとなりの家に助けを呼ぶんだよっ」
「そんなのじょーしき!パパの電話しってるし」
「いつも留守番なれてるもん!!おみやげ買ってきてねーカイト!」
留守番になれている双子は快く送り出してくれた。

僕はすずさんの家に急いだ。

だけど、すずさんは帰っていなかった。
真一郎さんもいなかったけれど、カギは不用心にも開けっ放しだった。
いつも僕が留守番していたために、すずさんはカギを閉めるという事をわすれてしまったのかもしれない。
部屋の中は一昨日のままだった。
ただし、一昨日の御飯は綺麗に食べたらしく、食器はツケっぱなしだった。
僕は一応その食器を洗って、1時間ぐらいすずさんの帰りを待っていた。
こんな風に過していると、一昨日のことは何もなかったような気がする。

いつもの僕の生活。
たった二日だけなのになんだか懐かしい…

「そうか…すずさん仕事か……残業かな…?」

腕をテーブルに上半身を寝そべらせて、一人呟く。

ずっと、ここに居たかった。
だけど、やっぱり後ろめたさもあったし、幼い子を留守番にしてしまった事も不安に感じたので、すずさんの家のカギをきちんと閉め、真一郎さんの家に帰ることにした。

「う~さむい!!早く帰ろう!」
吐く息が真っ白。今日はとても寒い日だとニュースで言っていた。
もっと厚着して来ればよかったと、反省している。
トレーナー一枚はやっぱり寒すぎる。

小走りに走っていたが、駅前の商店街はとっても賑わっていたことに目がとまる。

「もうクリスマスなんだ……」
駅まえではもうすぐクリスマスなのでケーキの予約販売や、ツリーが飾られていてとても楽しげで明るかった。

「はぁ…クリスマスまでには仲直りしたいな……」
すずさんと初めてのクリスマス過したかった。
恋人同士ってわけにはいかないと思うけど…
楽しく二人で過す特別なパーティーをすごしたい……。
ふうとため息をする。


ケーキを一通り眺めたあと、僕は真一郎さんの家に帰るために歩き出す。
交差点の信号で青になるのを待っていると、反対側の路地に帰る途中、すずさんを発見してしまった!
真一郎さんの家の帰りは駅前を通るのですずさんの会社にも近かった。
すずさんはさっそうと一人、いつもの帰り道をいく…今、面と向かって会う勇気はないけれど眺めるだけなら…そう思いつつ僕は無意識にかすずさんを追っていた。
一昨日のデジャブだと思ってしまう。
一昨日も同じ時間にすずさんを尾行したことを思い出した。

そして、すずさんはまた、真一郎さんの経営するホストバー兼オカマバーに入っていった。

「ヒカルさんに会いに…かな?」
そう思うと嫉妬とライバル心が沸き起こる。
すずさんが入っていったのを見ると、僕は裏口から店に入った。


店の前に立つギャルソン姿のオカマの紫さんはやはり、ごついボディーガードマンの風体だ。
仁王像にも見える。
僕を見つけると、指を顔の近くで動かしオカマふうに愛想よく挨拶してくれた。

僕は苦笑いであいさつをし、一昨日の面接した曇りガラスの区画の角度から見えないところですずさんをジッと眺める。すると、後ろから怪訝な調子の声で

「なにしてんのかな~カイト。まだ、店は開かないよ」

慌てて、左腕をヒカルさんの首に巻き、回転してヒカルさんの口を押さえ、入ってきた扉の方まで引っ張った。
僕がここにいることがばれたら不味い。
人さし指を立てて静かにしてくれとレクチャーして納得を得ると、ヒカルさんを解放した。

ヒカルさんは小声で、まったく外見と違って力があるね~っと僕を睨んだ。

「ご、ごめんなさい…」
改めて見るヒカルさんの格好はオカマじゃなくってホストのスーツ姿だった。
男の格好もなんだか色っぽさが漂う…

 

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2011/06/03 (Fri)
 僕に与えられた仕事はメニュー表の料理を作り運ぶ仕事だった。

おカマバーをやっている時間だけだったけれど、お客さんに気を使っ 
たり身体を触られたり、絡まれたりして…
とにかく疲れた…仕事ってこんなに疲れるものなのか…

帰ったきたのは7時頃…朝までやってるなんて…
ホストの時はホステスのお客を相手にするらしく朝10時までやって 
るらしい…
僕はベットに倒れ込むと深い眠りに落ちた……
人間寝ている間に3回夢を見るという…

その3回のうち一つはすずさんと初めてあったあの日のことだった。



季節は梅雨。
雨にぬれた僕を家に招いてくれた。
僕はおずおずしながら、すずさんの家にはいった。

「あ!」

と声をあげたのはすずさんだった。

部屋の中はゴミだらけでお世辞に女の人の部屋とは言えるようなもの 
じゃなかった。

すずさんは顔を赤くしながらそのゴミのことは口にはださずに、ニコ 
ニコしながら、僕にお風呂を炊いてくれ入れてくれた。
お風呂も綺麗とは言えなかったけど、とても体があったまったし、と 
ても感謝して、心にもジ~ンと暖かさが染み渡っていた。
そんな中

「も~~~~!!私のバカ!!はっずかしい!!」

と、どなり叫ぶ、すずさんの声が…
もう十分暖まったので、着替えてすずさんのところにいくと、ゴミが 
倍にふえていた。

ゴミ袋の中身が散乱していた。
すずさんは、自分自身への怒りに髪をぐしゃぐしゃとかき乱していた。

僕は一瞬いるんだ…正直恐かったから。
「あの~手伝いましょうか?」
すずさんはこちらを見ると顔が真っ赤でちょっと涙ぐんでいた。
さっきの後ろ姿は鬼のようだったけど、かわいいと思った。
すずさんは恥ずかしがりやさんなんだ……。

「いいわよ、あんたはお客さんなんだし……って名前聞いてなかったわ 
ね」
「ぼくはカイトといいます」
「年は?」
「十六です…」
「六才も年下なんだ~私は寺乃すずよろしくね」
といい、ゴミの山を片付けようとすればするほど散らかっているよう 
だった。
僕は見兼ねて掃除を手伝った。ほとんど僕が片付けた。

「すごいわね~カイトくん。掃除の天才だわ!!」

本当に感心したように手を叩いて喜んでくれた。
それが僕もうれしかった。
少しでも恩を返した気もしたし、すずさんに誉められた。

「御飯かってきたわよ~コンビニ弁当。私、料理できないのよ」
「そんな感じはしますね。」

と、つい口にだして、キッと睨まれた。
「ごめんなさい……」

すずさんはふっと柔らかく微笑んだ。

「本当のことだから仕方ないわよね。さ、食事にしましょう」

ひさしぶりの御飯は普通のコンビニ弁当だったけれど今まで食べたご 
飯よりもとても美味しかった。

それは、一人じゃなかったからかも知れない。

すずさんは僕がまだ半分食べている間にすでに食べ終わっていた。

爪楊枝で歯につまったモノを取っている姿は、初めて会った時の女性 
らしさとはかけ離れていた。

 一瞬この人は性別を間違えてうまれてきたのではと思ってしまった。

「そういえばさ、カイトくんって帰る家ってないの?だから、あんなと 
ころで凍えてたの?」

「はい……住んでいたところは在ったんですけど……叔母が僕のこと迷 
惑がってるのがわかってたから、自分からでいったんです」

僕はうつむいて、そのことを話した。
叔母夫婦と従兄弟達とすんでいた。僕をこき使いながら邪魔者だと思っ 
ていたのは分かっていた。

だから、中学卒業した日にでていった。
高校も金がかかるから行かせたくない様子だったから…行かなかった。
でも、こんな針のむしろな用なところにいるのは馬鹿馬鹿しくなって 
でていったのだ…


「で、行くとろ頃がなくてあんな所で座り込んでいたというわけね」
「……はい」

しばらくの沈黙の後すずさんが、机に頬づえをついて、言った。

「じゃあ…私のところに住む?」
「え?」
「あんた、行くところないんでしょ?帰りたくないんでしょ?」
「はい……」

「じゃあ、決まり。私のところにいなさい。」
にんまりと微笑んでそう命令した。

「でも……まずくないですか?僕…男だし」
「不貞なことしたら、追い出すから安心して」
「は、はい」

そのときは、
「そういうことは、けしてしません」と心の中で呟いた。

「それと、家政婦みたいなことやってくれればいいからさ。」

そういって、微笑むすずさんが大天使にみてた。
僕に居場所ができたことが嬉しくって涙がこぼれた。

「は、はい…ありが…とうございます」
「あ~!も~!男の子なんだから、泣かないの!!」

 すずさんは僕の顔をハンカチで拭ってくれた。
姉のようであり、母のようだと感じた。心地の良い居場所。やっていることは叔母の家と変わらなかったけど。
心地が全く違った。僕の居場所って感じがしたのはすずさんの所がは 
じめてだった…

姉や母と同じ家族としての一線をこえなければ…ずっといられたの 
に……
嫉妬の余り、あんな不貞なことをしなければ…


あの時のすずさんが夢の中でまた再現されている。
すずさんに無理矢理キスしたシーン。
キスをするのは初めてだったけど、激しく唇を奪った…
ドキドキして…たまらなくて…
自分の方に心を向けたくて…あのヒカルさんに負けたくなくって。

すずさんの腕の震えが伝わって腕をはなした。
すずさんは消えた。僕への信頼がきえるように…
そして次の瞬間、ヒカルさんがあらわれて、あの不敵な笑みを僕に向ける。

 その腕にはすずさんがいた。
二人はどんどんとうくなっていく…

「まって!いかないで!!もうあんなことしないから!!」
追い掛けようとしたが、いきなり圧し潰されそうなほどの重圧感がおそってきた。

「俺たちがカイト君といるいからいいじゃ~ん!」
「いいじゃ~~~~ん!」
「いいじゃ~~~~ん!」

僕は突然あらわれた真一郎さんと双児に羽交締めにされた!
どんどんすずさんが遠くなっていく……

「俺達の家があらたなカイトくんの居場所なんだからさ~」
「からさ~!」
「からさ~!」
確かに、真一郎さんは善い人だし、双子達もかわいい、家は豪華なマ 
ンション…
けど…
僕が一緒に暮らしたい人はすずさんだけ…ボロくってちっちゃなア 
パートでも…


 僕は…すずさんとずっと…

「すずさんと暮らしたいんだ!!!」




と自分の叫びで起きてしまった。


「カイト起きた?」
「おきたおきた!沖田ソウシ!」

双子たちが僕の上に馬乗りになってキャッキャと自分達で言った駄洒落 
に笑っていた。

どうりで、重苦しい夢や、悪夢を見ると思った…


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2011/06/02 (Thu)
 「う~ん、自分の美に執着してる奴が多いんだよ。きれいな男ってナル シスト多いしね~。
男の自分も女の自分も大好きって変わり者が集まっちゃってね、面白いからオカマバーやってんだよ。女心も男心も分かってくれる店って密かに人気なんだよ?」

「真一郎さんも女装ってするんです…か?」

「ううん、しないよ。俺はマトモだからね。でも、カイト君は女の子のカッコしてもらうから。」

「え?」

ニヤリと僕に微笑んだ…恐いというか…ナイスな悪戯を思い付いた子供 
みたい……。

「おーい!ヒカル」
「はーい何ですかマスター」
よばれてきた女性じゃなくてオカマのヒカルさんは絶世の美女って感じだった。
でもよく見てみるとこの人は!


「すずさんとキス……!!」

興奮の余り大声を出し過ぎてしまった。
店の中のオカマ達がこっちに注目する。
そのため、言葉を飲み込んだ。オカマの視線は恐い。

「はぁ?だれ?この子?マスターの隠し子?」
不可解そうにこっちをじろじろ見て言う。

「そんなところだ。この子、今日からしばらく働くことになっから世話 
してくれ。それにこの店に似合う格好をさせてくれ」

「じゃあ、おいでボーヤ」
僕の腕を掴むと化粧室までつれていかれた。

「うん!若いから化粧ののりがいいね~」

鏡の中には可愛い女の子の姿が映っていた…それは僕なんだけど、自分じゃないみたいだ。
僕は女装をさせられ、化粧をさせられてしまった。

「若いからって…ヒカルさんだって僕と同い年じゃないんですか?」

鏡に映っているヒカルさんの顔がニヤッと不敵に笑う様は艶っぽい。

「嬉しいこというね。こう見えても25だよ」

「えええ!!僕より9も年上!?」

「君はまだ十六なんだ~って?バレないようにしなよ、未成年者はこーゆー立派なところで働いちゃいけないんだから。」

はたして立派だろうか?鏡の僕は苦笑いした。
「名前聞いてなかったね何ていうんだ?」

「カイト…網田…カイトです…」
「へぇ…君がねぇ~」

僕のことをすずさんから聞いて知っているのだろうか。
口元に手を添えてまたつやっぽく微笑む。

なんか僕を吟味してるみたいに鏡の僕を見てまたふ~んと頷く。
僕はなんか嫌な感じかした。
この人はすずさんとキスした男イコール恋人のはずだ。
僕の恋敵。
同い年ぐらいだと思って嫉妬もしたのだった。
でも、すずさんより年上だったとは……

「あの…ヒカルさんは恋人いるんですか?」

「いるよ~めちゃくちゃ可愛いの娘が」

鏡の中に写るヒカルさんはさっきの艶っぽい笑みじゃなかった。 
ちょっと、下品っぽい。
「もしかして…すずさんのことですか?」

口が先走ってしまった…
ヒカルさんはニンマリと微笑む。
やっぱりすずさんのことなんだ……
そう思うとライバル心が湧いてきた。

「僕……負けませんからね……」

鏡の中のヒカルさん…後ろに立っている男
(今はオカマだ。けどお互い様)
を睨み宣戦布告をした。
ヒカルさんはやっぱり不敵な顔をしてる。

「……かかってきなボーヤ」

フッと鼻で笑われた。
僕とヒカルさんの背景には見えない龍と虎のが炎を巻き上げ睨み合あっていた……

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2011/05/31 (Tue)
  子供達は遊び疲れたのか、ぐっすりと眠っている。
僕も一緒に眠りたい程遊んだというか遊ばれた…体のあちこちが蹴ら 
れたり、絞められたり殴られたりでアザやコブが数カ所できてしまった。

戦隊ものごっこやプロレスごっこ、激しい遊びが大好きな藍ちゃんと蓮君…
何度か、この子達は悪魔の申し子かと本気で思ったが、眠りに落ちた 
双児は天使のように可愛い。

ほっぺたをつっ突いてみる。フニゅっとして可愛い。

きっと、自分の子供だともっともっと可愛いんだろうな…好きな人と 
の 子供なら…すずさんとの子供なら……ハッ!
いけない!そんなことを考えちゃ!


もう僕はすずさんにあんなことはしないって決めたんだから!
ただすずさんと一緒に暮らせればそれだけで…
でも、すずさんには好きな人がいて…もし、その人とすずさんが結婚することになったら僕はすずさんから離れなくちゃいけないんだろうな…

「………そんなの嫌だな……」

ぽつりと思いが口にでてしまった。
「何が嫌なんだい?」

と僕の頭上で真一郎さんが気配もなく言ったものだから僕はビクっと背筋を伸ばした。
その調子に真一郎さんの顎と僕の頭が勢いよくぶつかった。

二人してそれぞれ打ったところを押さえて悶えた。
悶えながら、真一郎さんはまた笑いをかみ殺してる。

僕の反応がつぼにハマったらしい……面白い子っ言われるのってこうい 
うことなのかな?僕は面白くないと思うんだけど……

痛みがひいた真一郎さんは、ニコニコ微笑みながらまた、何が嫌なのか 
な?と問う。
だけど、心の中のつぶやきを説明するのは恥ずかしくて……
「なんでもありません」
とだけ言った。

「それならいいけど」

全てを話を聞いてくれて理解者になってくれた真一郎さんにこの嫉妬に似た思いは聞いてもらう必要無いことだったから…
でもよく考えてみると、すずさんのホストの彼のことを真一郎さんは知っているのかも知れない。

「これから、店に行くよ、それとも今日は疲れてそうだから、寝てるかい?」
「いいえ!行く!行きます!連れてって下さい!」

真一郎さんの店に行けば、すずさんの彼のことが分かるかも知れない!

なにか情報を掴んで、弱味を握って、すずさんと別れさせることもできるかも!
と思ったのだ。

なんてったって、ホストだもん。彼女に知られたらマズイ情報をたくさん持ってるはずだ!

「うん、いいよ。でも仕事してもらうんだよ?大丈夫?」

「大丈夫です!」
「じゃあ、行こっか?」
真一郎さんはホストの格好をしていた。
派手で高そうなスーツをきて、なんだか大人の男って感じに見える。 
いや、ラフな格好でも十分かっこいいんだけど。
僕もこういう格好するのかな?そうすれば、すずさんに見合う男に見 
えるようになるかな?と少し甘い期待を持って真一郎さんの店へと向かった。


だが……期待していたのは全く違ったのだ…
場所は同じ何だけど…店の人物が違う…ここは昨日調査したホストクラブなのだろうか?
周りは女の格好をした男ばかりである……

「オ…オカマ…バー……?なんで?」

僕を面接に来た子かと勘違いした、あのごついスキンヘッドも見事にごついオカマとしてオカマ仲間と楽しくはなしている…
まだ開店していないらしいけど…

「ホストクラブじゃなかったの……?」
と真一郎さんに聞く。
ひそかに僕はおびえていたため、涙声で聞いてしまった。
その反応に真一郎さんはクスクスと笑い、

「ホストクラブとオカマバー兼用してんだよ。深夜はオカマバーで早朝からはホスト。」

たしかに、テレビでみたけど、ホステスもホストは相手にするらしく、朝やっているっていってたような… 
だけど、この店の雰囲気は180度違う。

「どうしてオカマバーやってるんですか?」

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2011/05/30 (Mon)
 「すずちゃんと住んでたお兄ちゃんだよ。今日から暫く家で住むことになったんだ。ね?」
と合図のように真一郎さんはウインクをした。

「は、はい。カイトって言うんだよろしくね」
「うん!ヨロシクーーっ!!」
といい、二人していきなり僕に飛びかかってきた。
僕は重心を崩してソファーに倒れ容赦なく馬乗りにさて女の子のほうが小さな短い腕をクロスして遠慮なく首をしめてくる。
そして、男の子の方がカウントをとる。
「勝ったー!アイちゃんの勝ち!」
「さすが、藍ちゃん!今度、蓮くんのばんね!」

「こらこら、二人とも今日のところはこれぐらいにしなさい!」
さすがに見兼ねた真一郎さんが僕の上から藍ちゃんを持ち上げどか 
し、蓮くんのとなりに下ろす。
「は~い!おやしゅみなちゃーい!」
やはり声をあわせて命令どうり部屋に戻っていく。
藍ちゃんの締め技のせいで咳き込む僕の背を真一郎さんが擦ってくれる。

「ごめんな凶暴な子供達で、でも可愛いだろ?すずちゃんが時たま来て、プロレスをあの子たちに教えていくんだよ」

「す…すずさんが……そうですか…」

確かに、鈴さんはプロレスが大好きだったから納得がいく。
それにしてもすずさん真一郎さんの家にくるなんて…
僕がもしここに居候させてもらってるって知ったらどうなるんだろう…


翌朝、真一郎さんにことわり、冷蔵庫の中に入っていた物で、僕は真一郎さんと双児達に朝御飯をふるまった。
振る舞ったといっても、ソーセージエッグと、さらだと、お味噌汁だけだけど。

「おいしー!」
「ねー!」
と双児は喜ぶ。

「うん、本当に美味しい!才能あるよカイトくん」

「有難うございます」

美味しいって言ってもらうのは、とっても嬉しい。
でもすずさんはここにはいない…なんだか寂しい。

「すずちゃんにカイトくんを返すのが惜しくなっちゃうなー…別に無理しなくてもいいからね、この子たちと遊んだりしてくれれば」
それは、子供と遊ぶのは好きだけど、遊びが普通と違うこの双児の相手が一番大変だ。

真一郎さんは、卵のついたソーセージを顔の前で軽く振り回しながら楽し気に言った。

「…ってそういえば、その料理の才能、店に欲しいな…今夜の仕事一緒に来てもらおうかな?」

「え?」

目があって、真一郎さんはニヤリと、なにか企んでる笑みを見た気がする…ど見間違えか?
逆に、ドキッとする。優しい微笑みで見つめている。
本当に真一郎さんてホストが天職だ。
男の僕でもドキッとさせるんだもん。(遠くで危害もなく見つめられるのは別)
「やだー!カイトは蓮達のもの!まだ僕と勝負してない~」

「そうだよぉ!」
「そうだね~いっぱい遊んでもらったら、今度はパパに貸してくれるかな?」
「うん!貸す~」
「いい子だね~ってことだから、よろしくね。カイトくん」
ぴっと、真剣な顔になり有無を言わせない。

貸すってって…僕はおもちゃ…みたいなモノなのかな…? でも居候の身で文句は言えない!
すずさん曰く、働かざるもの食うべからずだ。
真一郎さんにはすずさんと仲直りさせてくれる約束ある!
「はい!いっぱいあそぼ~ね~」
「うん!!!」
と親子3人に一斉返事をされた。
真一郎さん本気で僕で遊ぶ気なのだろうか? 
新たな不安要素が増えた…


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2011/05/08 (Sun)
  僕はとってもビックリして、瞬時にソファの背もたれに体をくっつけて青ざめ怯え、激しく首を横にふり拒絶する。
完璧に僕は怯え身震いしている。

「すずさんより、俺を好きになっちゃうかもよ…」

吐息のように適度に低く良い声で耳元で囁く。
危機感と拒否反応が反射的にでて、僕は真一郎さんを突き飛ばしていた。

真一郎さんは、もと座っていた向かいのソファーに計算したように、ばふっと、座る。

「僕は、すずさんとじゃなきゃ!そんな気持ちにはならない!」
本気で、そう言ったものの、語尾のほうではその気持ちが仇になったことを思い、声は小さい。
その反応にクククっと真一郎さんは笑いを殺しているためか顔を赤くし僕の顔を覗き込んだ。

でも、耐え切れなくなって大声を出してお腹を抱えて笑い出した。

「冗談だよ!冗談!!あははははは!本当に面白い子だね!」
といい笑い続ける。「あ…あの……?」
「ごめんごめん、男ならそんな事あるよね、だって男の子だもんね~」

笑いながら僕の背中を叩く。

「だけど、すずちゃんも、さっきのカイトくんのように、ほんとに、理由が分からなかったんだと思うよ。」
「はぁ……」

やはり、義理の妹に手を出した報復だったようだ。

そして、分かり易く僕にハンムラビ法典のように罰した。

真一郎さんは満足したように僕を見て、
「それに君、本当にすずちゃんの事を好きなんだね?」
「はい!それは勿論!」
僕は、勢い良く返事をした。

その返事になおさら満足したのか僕の頭をくしゃっと撫で、
「それでこそ、男だ!心配しなくていいよ、なんとか俺がすずさんとカイト君の仲をとりなしたあげようではないか」
「はい!よろしくお願いします!」

そう返事はしたものの、不安で仕方がない。
真一郎さんが取りなしてくれるといったけれど、いままでの関係ではいられないんだろうなと、不安もある。
それは、当然のことで、報いでもある。
不安も後悔も報いもすべて、覚悟の上でもういちど、すずさんにあって謝りたい。

僕には勇気が足りないけど後ろを向いて、逃げるよりも、前を向いて、今の事態を良くしよう、情けないままよりはマシだと思うことにした。
そう、決意した僕の頭にボフっとまくらが飛んできた。

飛んできた方向から、二人の子供があらわれた。

「パパ!うるちゃい!!」
「うるちゃい!」
「あはは、ごめんね~」
二人は、ずんずんと、真一郎さんのところに駆け付け、ポカポカと、起こされた怒りを行動であらわす姿もかわいい。
そして、どことなくすずさんに似ている。
血が繋がっているからなのか、それともすずさんのお姉さんがそっくりなのかな?

その、行動を眺めていたら、二人同時に、こちらをじとっと見つめる。
「このおにぃちゃんだれ?」

と二人揃って声を合わせ指をさす。


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2011/05/08 (Sun)

「そ、そうですか…ごめんなさい…」

気まずいことを聞いてしまった気がして頭を下げて謝った。

「誤らなくていいよ。それに付け足すとしたら、俺はすずちゃんの義理の兄だよ。」
「義理の兄って?」
「俺の妻はすずちゃんの姉なんだ」
「え…え~~!?」
驚きの余り大声で叫んでしまった。

「声が高い!子供が目がさめちゃうだろう」

チョップで軽く僕の頭を冗談で叩いた。

「ご、ごめんなさい。だけど、どうして僕の事知ってるんですか?」

面接で会ったとは言え、全くの初対面である。

そんな僕の驚きに彼は、女子高生がもつようなシール手帳に、僕とすずさんが写ってるプリクラを見せた。
ゲームセンターに遊びにいった時、撮った物だ。
僕には半分も分けてよこさず、すずさんがもっていて、なくしてしまったというシールの一部だった。
どこでなくしたかは、きっとあの、ホストクラブだろう。
シールのフレームはなく、まん中に堂々と、夜露死苦!と書いてあって、僕の顔も半分その豪快な赤文字で埋まってるのによく、僕だと理解できたな…

「君のことはすずちゃんから聞いている通りだね。とっても面白くていい子だ。」
「面白くていい子ですか?」
「ああ、家事手伝いをよくこなすいい子だともいっていたよ。」

すずさんが僕のことをそんな風に言ってくれていたなんて嬉しかった。

だけど、もう、すずさんのところに戻れない…
そう思うとまた、涙が出てきた。

「おいおいどうして泣くんだ?俺、なにか悪いことしたかい?」
「い、いえ…すずさんが僕のことをそんな風に思ってくれていたのに…僕は僕は……」
僕は事情をこの人に全て話した。

すずさんと暮らしていたこと、すずさんへの想い、すずさんに不埒なことをして逃げてきたことまで…
真一郎さんは真剣に僕の話に耳を傾けてくれて、話し終わってしばらくたっても黙ったままだった。
すずさんにしたことを怒ってるのかも知れない、仮にもお義兄さんに当たる立場なんだから…

「僕って情けないですよね……真一郎さんもそう思いますよね…?」

声が掠れて弱々しくなる。
頭を下げていたので溜めていた涙がポロッと落ちた。

男なのに本っ当に情けなさ過ぎる…女々しい…こんな自分がとても嫌いになった。

そんな、情けない僕の肩に真一郎さんはポンと手を置いた。
その気持ち分かると、慰めてくれてるのだろうか?
同じ男同士ならそんな事もあるさと微笑んでくれるんだと思い…   

そんな同意を求めるように顔をあげ真一郎さんと目があった…
そして、いきなり、シャツをバッと脱ぎ、さっきまでチラ見えの適度に 
鍛え上げられた胸と肩の筋肉ががあらわになる。
「し、真一郎さん!?」
僕は声が驚きのあまり裏返る。

「その欲求、俺が満たしてあげようか?ん?」

挑発するような獲物を見つけたような目で僕を見下ろす。

その瞬間、僕は全身鳥肌と寒気が立った。
ついでに言うと吐き気までしてきた。
ってことは僕は正常な恋愛観の持ち主なんだなんて確認してる場合じゃない。

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2011/04/10 (Sun)
 ドアを開けると車内のライトがついてその男の人の顔が分かった。

「あ!あなたは!」
その顔はホストクラブの店長だった。
「おや?きみは面接にきた…」



ホストクラブの店長の真一郎さんは三五歳
高級マンションに住んでいた。

すずさんと住んでいたアパートなんかと比べ物にならない程の立派な住まいだった。

一言でいえば白亜な宮殿の一室って感じだ。
テレビで
『ホスト特集!女の金でリッチな暮らし!?許せますか?』
で観た通りの高級マンション…
この人はどのくらい女を泣かせてきたんだろう…
やっぱり悪い人なのかも…と考えをしてしまった。

けれど、今目の前で、高そうなソファーまで抱えてもらって座らせてもらい、足の手当てをしてくれている。

そんなに悪い人じゃないのかも知れない。
ちょっと顔見知りなだけの僕を丁寧に手当てしてくれて優しい。

もし、僕が女だったらやっぱり惚れてしまうかもしれない…
湿布を貼って包帯を丁寧にまいて、僕にニッと微笑んだ。
なんだか、不安な気持ちを吹き飛ばしてくれる笑顔。
つられて、かたい表情だった僕も頬を緩めた。

「よし、これで大丈夫だ。ちょっと着替えてくるから、そこで待っていてくれ」
ミルクをカップに注ぎレンジに入れ、自室に入っていった。
待っている間、何もすることがないので、部屋をぼーっと眺めていたが、奇妙なモノが目に飛び込んできた。

室内は白を貴重としたシンプルなものだけど、所々に子供の玩具が散らかっていた。
なんで、おもちゃなんかが落ちてるんだろう?
ふと隣を見ればウサギの縫いグルミが…
手にとって持ち上げてよく見てみると、子供の字で「あい」とかいてあった。
 

ウサギの名前だろうか?

「やあ、待たせてすまなかったね」
「あ、いいえ…」
真一郎さんは意外に早く着替えて来た。
しかもミルクを暖めていたレンジが調度チーンと鳴った。
真一郎さんはスーツを脱いでシャツのボタンを適度に鍛えた胸が見える位あけたラフな格好で戻ってきた。
カップを持って正面に座り、僕にカップを進めてくれた。

「あ、ありがとうございます」

手にしていた縫いグルミをもとの場所に置く。
けれど、その縫いぐるみが気になる…
なので、

「この、ぬいぐるみ可愛いですね」

遠回しに聞いてみたつもりだけど、露骨だったかも知れないと反省。

「ああ、可愛いだろう?」

真一郎さんは頭をかき苦笑した。
真一郎さんの趣味というわけでも無さそうだが、もし趣味だったら恐い。

「うちの子の玩具だよ。散らかっていて恥ずかしいな」
「こ、こども?」
「うん。男女の双児のシングルファザー」

もしかして、『これはあなたの子供よ!』

とか言われて押し付けられた子供とか?
無駄なことを勘ぐっているのを察したのか、真一郎さんはクスクスと笑いながら説明してくれた。

「違うよ、とっても愛していた妻の忘れ形見。妻は一昨年死んでしまったんだ。」





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2011/04/09 (Sat)
 僕は家を出てから行く当てもなく走り続けていた。
けれど、疲れてきてだんだんスピードを緩め、ゆっくり歩き出す。
深夜の街は暗かった。そして、

「さむい……」

今は十二月になったばかり。
だから、明るい、少しでも人のいるところに行こうと駅の方へと歩くことにした。
けれど、視線はずっと、地面を向いていて自分の足しか見えていない。
すごく、後悔している。

「僕…すずさんになんてことを、しちゃったんだろう…」
すずさんに平手打ちされた頬に手を当てる。
ひりひりと痛い。
当然の報いだ…
すずさんにあんな乱暴なことしてしまったのだから…

すずさん怯えてた…あの震えた声…もうすずさんの所に戻れない…
はぁ…っと
ため息をつく…後悔と罪悪感に心が苦しい。
あの時、すずさんと出会う前に戻った…
後悔と絶望に震えていたころの自分に…

「これからどうしたらしいんだろう…」

すずさんが手を差し伸べてくれたから、僕は居場所ができた。
それだけでも幸せだったのに…
一緒にいられるだけでも幸せだったのに…
それ以上のことを求めてしまったから幸せだった場所を無くしてしまった。
涙が込み上げてくる…悲しくって辛くて…
溢れ出す前の涙を腕で拭う。
誰もいない、暗くて寒い夜道はそんな僕の心とにていて、なおさら涙を誘う。
唯一良いことは、泣いている僕をだれも気にしないでいてくれることだ。
ふらふら、とぼとぼと歩いているうちに 車道にでてしまった。
突然、足元に明かりが付いた。
ハッと光るの方向くと、スピードを出した車が、僕をめがけて突進してくる。
跳ねられそうになってとっさに避けたが、足を挫いて道路に倒れ込んでしまった。
車は急ブレーキをかけて、1回転半して止まり、運転手がすぐさま出てきた。
トラック運転手のように罵倒されて殴られるかと思ったが、

「だいじょうぶか?どこか痛いところないか?」

あわてて、倒れている僕のことを心配している。
心配かけちゃいけないとおもい、立ち上がろうとして、足を動かしたらズキンと痛んで、立てなかった。
しかたなく、正直に告白する。

「あ…大丈夫ですけど…避けた時に足を挫いたみたいです…」

「それは大変だ!手当てをしなくては!もう病院はやっていないし家は何処だい?」
「家は無いです…ぼく…」

「家は無いって家出か?」
「ちがうんですけど…そんなところです」
「じゃあ、俺の家においで」

その男の人の顔は暗くて良く分からなかったけど声はどこかで聞いた 
ことがあった。
とっても男らしいく優しい声だから…
僕の体を軽々とお姫さまだっこをすると、車の助手席に乗せた。


 

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2011/04/08 (Fri)
 「ただいまーカイト」

すずさんは深夜に帰ってきた。
僕はいつもなら子犬のように御主人様の帰りを待ちに前ったように

「お帰りなさい!」
と喜ぶところだったが、

「遅かったね、すずさん…御飯を作って待ってたのに…」
テーブルの上にはいつものように鈴さんと食べるための御飯を作ってラップをしてある。
まるで、浮気帰りの夫を皮肉っぽく待ち続けた妻のような感じだ。
僕はあの後から未だ怒っていた。

「なにいってるの?私遅いっていったじゃない。一人で食べていてって」
「聞いてませんでした!」
怒ったような声で僕は反論した。

「聞いてないあんたが悪いんでしょ!」

すずさんも怒ったように僕以上に声を荒げて、ゴツっとすずさんの怒りの鉄拳が僕の頭を一発襲った。
理不尽に怒っている僕への制裁だ。
僕も理不尽だと思う。


僕が勝手に怒ってる。
無言なままで、すずさんは着替えに部屋に入っていった。
怒っている理由としてはホストのことだ。
ホストって、男に甘えたい女がお金を渡して、つかのまの恋人気分を味あわせる仕事。
インチキな商売、遊びの恋じゃないか!
僕だって男だ。
すずさんが望むなら今まで以上に尽してあげて、優しくしてあげるのに…
すずさんのこと本当に好きだから…
だから、ホストに夢中のすずさんに怒っている。
着替えを終えて、トレーナーとジーパンのいつもの格好をして、向いの席の椅子にすわる。
すずさんは怪訝な顔をして僕をジッと見て言う。

「どーしたのよカイト…なんか機嫌が悪いじゃない?」

僕の何時にない雰囲気に気付いて、すずさんは心配しそうに僕に話し掛ける

「別になわけないでしょ!どうして機嫌が悪いのか分けをいいなさいよ。こっちだって、気分悪いじゃないの」

また鉄拳をくらわすような雰囲気だ。

すずさんの鉄拳はトラック運転手の拳骨より痛い。


「すずさん今日ホストクラブにいってたでしょ?ぼく見たんだからね…」

上目使いですずさんを睨みながら言う。
すずさんはどうしてそのことを知ってるんだというような驚いた表情だったが、ため息を一つつき、呆れたように
「だから、なんだっていうのよ。私がどこ行こうが、カイトには関係無いじゃないのよ」

関係ない…

確かに、関係ないかも知れない。
だけど僕はその言葉を否定する。

「いやだ!関係なくない!」

僕は隠していたすずさんへの想いを吐き出すように叫んだ。
「いやだ!いやだ!他の男とすずさんがいるのが嫌だ!僕はすずさんのことが好きだから!関係なくない」
「ちょっと、カイト何いってるのよ!落ち着きなさいよ!」


すずさんは僕をなだめようとしてか?それとも正気にさせようとして手を上げようとした、その腕を僕は受け止め、すずさんをどさりと床に組みしいた。

「カイト退きなさい!」
すずさんは掴まれた腕は床に着けまいとして強く押し上げようとするが、もっと強い力で僕がその腕を押さえる。
男の僕が本気を出すと、さすがのすずさんの力も適わないらしく力を抜いたずずさん腕を床にたやすく押さえ付けられた。
僕は顔をすずさんの耳元に近つけ、まだ伝えていない思いを囁くように口にする。

「すずさん…僕も男だよ…僕のこともみてよ…」
「カイト…っ!」



ぼくは鈴さんにキスをした。
首筋にひとつ。
そして唇にいたっては…
キスは初めてだったけどそれはディープなキス。
ドキドキと興奮して何も考えられなくなる…



けれど、ふと、暖かいな涙が、僕の顔に触れた。

ハッとして、唇を離し、すずさんの顔を見てみると、すずさんは泣いていた。
いつもは男らしいすずさんが女性らしく泣いていた。
脅えたような表情は初めて見た。

すずさんの掴んでいた腕の震えが伝わってきて、とっさに腕を放した。
そんなすずさんを見て、僕にグサっと罪悪感という槍が矢が突きささった。
そして物理攻撃としてすずさんの平手打ちが僕の頬をたたいた。
僕の頭の中は真っ白になった。
冷静になったのかも知れない。
さっきまでの熱や焦燥感は一気になくなった。

「カイト…変よ…変だよ…」


すずさんの声は震えていた。
僕はなんて事をしてしまったんだろう!
罪悪感の槍が思いっきりまた刺さる。
冷静になって考えてみると本当に変だ。
嫉妬して…すずさんにこんな乱暴なことをしてしまうなんて!

「ごめんなさい!すずさん!本当にごめんなさい!!」
と叫んではダッと、家を出ていった。

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2011/04/04 (Mon)
  面接場所のこの部屋は扉がなく、通された入り口には控え室などあったけど、この部屋は区画に作ってあるらしくて、フロアからはこちらが気にならない位置にあるみたいだ。
だから、僕がここに居ることにすずさんは気付かない。

そして、僕はずずさんがいるテーブルを振り返って壁に隠れなから見みていると、長髪で背広を着た芸能人並に綺麗な男が現れて、すずさんのグラスにお酒を注いだ。
それをすずさんはぐびッと飲む。
すずさんの隣に座る時男の横顔をみた。
その男は、僕とあまり年がかわらないように見えた。
パッと見からでも18,9才くらいに見える優男。
すずさんより年下だ。
大人の男が好みという分けではなかったらしい。
それに、その男がすずさんの恋人と決まったわけではない。

なんだか、僕と同じように接してる感じがする。
優しい女らしいすずさんじゃなくてがざつで、男らしいすずさんだ。
だが、すずさんは目を擦るしぐさをすると男はすずさんの顔を優しく触り顔を自分の方にむかせるとキスをした!

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角度的にキスをしているように見えるだけかも知れない。
それにまだお店は開店していない様子だ。
客はすずさん一人。
しばらくして二人は顔を離し、こちらに顔を傾けたすずさんの表情はどことなく赤かった。
それはつまり…角度的にではなく、本当にすずさんとキスをしたんだ!
あの男こそ、恋人なのか!
そう思うと、カッとなってしまって飛び出 そうとした時、

「きみ、よそ見をしてるんじゃないよ。面接に来たんだろう?」

店長らしき男の人が僕の前の椅子に座っていて、声をかけてきた。

ハッとして振り向くと、三十路を過ぎた様子のとっても、優し気で甘いマスクの大人の男が座っていた。

「履歴書を見せてくれないか?」

声もとても色っぽく優しい雰囲気がある男の声だ。
そういわれても、履歴書なんて持ってるわけがない、すずさんが気になって後をつけるためにここまできた。
そして、結果が分かったのだからこんな所にいる必要なんかない。

「あ…その…やっぱ、地道に働こうと思いますので失礼します!」
と言い捨てて急いでホストバーを後にした。



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2011/03/02 (Wed)
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  恋人の話をしたりしないのは、ホストがいるから、恋人はいらないということなのか?
ホストにすずさんはハマっているということなのだろうか?
ホストにすずさんはハマっているということなのだろうか?
けれどすずさんは僕と同じでそういう、不実きまわりない男が嫌いではなかったか?
ホストはどう考えてもヒモと同じくらい不実な男どもの集まりではないか!
その中にすずさんが本気で好きになった男がいるとか…
ぐるぐると疑いの思いが頭の中をめぐる。 そう思うとまたしてもいても立ってもいられなくなった。

看板の下の玄関からは階段になっていて、地下に店があるらしい。僕はその玄関の壁から、顔だけを出し恐る恐る中を伺う。
階段はかなり長いものになっていて、店の入り口扉は地下にあり、かなり広い空間らしいので慎重に下に降りてみる。

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すると、玄関に一人の筋肉の筋が白いシャツから透けて見えるスキンヘッドのギャルソン姿の男が立っていて、偶然目が会って見つかった!
慌てて逃げようとしたが、ガシっと素早く僕の腕をとって捕まえた。
掴まれた腕を離してもらいたくて思いっきりふりまわしても離してくれない。
男は僕を不振な眼差しで睨んでくる。
ホストといったら、優男って感じだが、この男は体格が良い。
顔は美形というよりか、格闘家のようにごつい感じがする。
だから、なおさら恐い。
「きみは…もしかして…?」
外見とは違い声は優男…
「な…なんでしょか…?」
声が裏返った。
心臓がぎゅっと縮む感じがする。
「アルバイトの面接に来たのか?」
「……」
なんて言ったらいいのか言葉につまる。
このウェイターらしき男も返事があるまで腕を離してくれない気らしい。
僕はふと考えた。


 この中に入ってすずさんが中でどんな事をしているのか調べるためには面接だと言って、中に入った方がいいかも知れないと…
男はまた問う。
「君は何しにきたんだい?」
「め…面接…面接にです!」
「じゃあ、こっちじゃなくて、裏の方だ。」
といって、僕の腕を掴んだまま、お客さん用の扉ではなく、地下の廊下の突き当たりの扉から入ることになった。

 ウェイターの男はバーの一角のテーブルに僕を待たせた。
店長は今、出かけているらしく、しばらく待っていてくれということだった。
店の雰囲気は綺羅びやかで、オシャレな柄が彫ってある木製の棚に、とっても高そうな ワインや、酒のボトルがきれいに並べてあり、シャンデデリアの夕日くらいの明るさに照らされて、オレンジ色にキラキラと光り輝いていた。
落ち着いた雰囲気でセピアの世界という感じだ。
セピアの世界に異質なポスターがところ狭しと張られている…
ホストの店員のポスターが思いっきりCGを使った感じでなんか、テレビドラマの宣伝ポスターのようだった。 その他にもカレンダーやら、プリクラのように加工したフレームに店員が格好をつけた写真とかがたくさん飾られていた。
そのポスターが飾ってある近くの席にすずさんを発見した!
後ろ姿だけど、肩までの癖っ毛の髪は確実にすずさんだ。

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2011/02/22 (Tue)
  すずさんの会社の休みの前日。
僕は尾行をすることにした。
ひっそりと会社のビルの影に隠れて、すずさんが出てくるのを待つ。
影からつけていこうという作戦だ。
朝、仕事に行く時すずさんは、僕に今日も帰りが遅くなると言っていた。
だから、今日はぜったい、すずさんは飲みにいくそう見込み張り込みをすることにした。

すずさんはお昼を外で食べにいくとき、他に男がいないか調べたが、一人でパンを買って会社に戻るだけだった。
すずさんの会社は女しかいないという事を思い出し安堵した。

けれど、今夜は違う。
絶対どこかで飲みに行くはずだ!
待つ事5時間。会社が終わった。
すずさんは女友達と一緒に飲みに行くのだろうか?
僕達が住んでいる所は東京都心という訳ではない。
S県の新都心の近くの街だ。

けれど駅前はとても華やいでいる。
会社帰りの人とかが帰りに飲みに行く所は沢山あった。
すずさんに気付かれないように素早く建物の影に隠れながら後を追う。
途中で、すずさんと一緒にいた女の人たちは駅前で別れた。
すずさん一人になった。
すずさんは横断歩道を渡らずに車が通らないところを見計らって、走って反対側の歩道を歩く。
僕もここで見失ってしまっては今までの尾行が無駄になると思い、同じように歩道に飛び出した。
すると、トラックが法廷速度を無視して走ってきた。

「死にてーのか!コノヤローーー!」
と急ブレーキでトラックが僕がぶつかる寸前で止まった。

その騒ぎですずさんがこっちの方を向いた。
慌ててすずさんに気付かれないように、トラックの影に隠れる。

トラックの影で一発トラックおやじにゴツかれたが、バレるよりましだった。
一発殴られてから、すずさんを人込の中から探し出し、また遠くから尾行をする。
すると、薄ぐらい角を曲がって、すぐ近くの店の中に入った。
その店は僕にとってというか、多分いかがわしい場所が嫌いな真面目な人は決して入らないお店だった。
オレンジ色のライトに照らされたオシャレな雰囲気の看板。
看板は英語でなんて書いてあるかわからなかったが、
ホストクラブと小さくサブタイトルののようにカタカナのネオンが光っている。

「こっ…ここって……ホスト…クラブ……」
ホストクラブ。
そこは男の園。
いい男ぞろいで、女性達を紳士的にもてなし、お金をとるお水の世界…
そんなところに、すずさんは入っていったなんて!
僕はとても驚いた。
男の所在を調べるために尾行を続けていたが、完璧黒ではないか!


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2011/02/20 (Sun)


そして現在…
「メシまだなの~はやくして~」

頭をバリバリ掻きながらドカっと椅子に腰掛け僕に食事をせかさせる…

「はい少し待っていて下さい。あとはお皿によそるだけ…っと」
今日のメニューはニラレバ炒めだ。御飯をよそり、一つ一つテーブルに並べていく。

「すずさんも少しは手伝ってくれてもいいのに…」

と呟くと、すずさんはムッとして、お箸でぼくを指しながらお行儀の悪いのも構わずいつもの台詞を言った。

「何いってるのよあんた居候なんだから家事手伝いするのは当たり前でしょ?うだうだ言わない!」

そう言い、僕が作った夕飯をガツガツと男のように食べる。


テレビをつけると、ヒモ特集が放送されていた。
ひも男の生活密着取材というタイトルで隠しカメラで撮った映像が流れる。
同棲している女の人を送りだすと、食事の片付けをして、掃除をすると、おこずかいをもって外に出かける。

出かけたら、一緒に暮らしている人とは違う人と会いデートをして、仕事から帰ってくるころに戻り料理をして、おこずかいをもらう為にごますり。
そして、愛してるよとか囁いて愛しあって熱々以上は放送はできないので、司会者の映像に移りひもの生活について批判する。

そのテレビを黙って僕達は見ていた。

人事ではない生活風景にちょこっと、気まずくなった。

そう思っていたのは僕だけだったかもしれない。
なぜなら…

「サイッテーよねー!この男!すきな女は一人にしろってのよ!養ってもらってる分際で!生意気よ!自分で稼げってのよ!女もおんなだけどさ!騙されていることに気づけってのー」
と食事の後のお茶をグビっと一口飲むとドン!と怒りをあらわすようにテーブルに置く。

「そ…そうだね…僕はそんなことしてないからね」
念のためそういっておく。
僕もヒモとかわらぬ生活をしているからだ。
すずさんは僕の方を見てきょとんとした様子で

「なにいってるのよ、あんた、ヒモじゃないでしょ?」
「え!そ、それは…そうだけどぉ…」
僕は戸惑った。

僕もすずさんに養ってもらってる身だ。
どうみても、どう考えてもヒモ生活だ。
すずさんは決定的にヒモとは違うといった口調でいった。

「だって!ヒモはあくまで彼女の彼氏でしょ?カイトは違うじゃないの。恋人じゃいし
「…………」
僕は言葉につまった。
すずさんは僕のことを弟のように思っていて、異性として僕を決して見ていないといっているようなものだ。
僕は少々傷付いた…

「まぁ確かにカイトはよく私に尽してくれているし…一言でいうなら奴隷みたいなものよねー」

奴隷…僕はヒモすら成れない…奴隷なのか?ヒモ以下…

頭にぐあんぐあん鐘をつかれたように奴隷という言葉が頭の中でこだまする。

「どうしたのカイト?」
「べ…べつに…なんでもないよ…」
涙声でなんとか答えた。

ああ…ヒモが羨ましい…僕もヒモになりいた。
いや…ヒモというか恋人になりたい!

すずさんは僕のことを異性として見ていない?
すずさんの好みの男性はどんな人なのだろう。
やっぱり大人の男が好みなのかな?
僕は大人の男を目指そうとしても年の差があるし大人びた雰囲気を自分でも持ってないと思うし…当分無理な話だ。
それにしても、すずさんに彼氏がいるとかそう言う話は聞いたことがなかった。

もしかして、僕に内緒で彼氏がいるとか…仕事場とか…それとも…
すずさんは近頃酔っぱらって帰ってくることが多い。
朝帰りとはいわないけれど、帰りが遅い。

すずさんの仕事はグラフィックデザイナー。
小さな会社らしいけど、残業も多いらしい。
一日会社に泊まることもしばしばある。

けれど、休みの前の日は酔っぱらって帰ってくるのだ。
どこかで飲んでくる。
そこで男と会ってるのかもしれない!
そう思うといても立ってもいられなくなった。



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2011/01/13 (Thu)
りさいずふろうしゃかいと




僕、網田カイト一枚の上着をあまよけにして寒さに凍えて、
路をゆく人をただ見つめながらズボンもびしょぬれになっても雨がたまったアスファルトの地面に座っていた。

皆僕を変な目で見る…

当たり前だ

僕は浮浪者だ。
しかも十六歳で普通なら学校に通っている年ごろだ…

だけど僕には行くあてがなくてとても孤独だった…

(おなかすいたな…とても寒い…このまま死んじゃうのかな…)

はぁ・・・っと溜息を吐く。

その息がもったいなくあってついでに手も温めてみる。

それでも寒い…

もっと…もっと溜息みたいな息を吐き手を温め続けた。
寒さを感じるのは体だけじゃない

孤独だ・・・
寂しい・・・

そう思っていた
その時、ただ見つめていただけの視界を遮られた。

逆に不思議そうに此方を見つめてくる。

「君どうしたの?こんなところにうずくまって寒いでしょう?」
と優しく声をかけてくれた。

心配してくれている…

腰をかがめて、僕を自分の傘に入れてくれた。

肩までの短い癖っ毛の髪が傾げた時に
さらりと斜めに流れた。

幼さが少し残る綺麗なお姉さんだ。

声と同じ優しい表情。

「良かったら、私の家においで・・・ね?」
でも少し困ったような、迷子の子供を慰めるように優しく微笑んでそういってくれた。


「…っつ」

その言葉と声の温かさで僕の頬から涙が伝って、言葉に詰まる。



であい


急に心が温めれたせいか、涙が止まらなかった…
冷たかった心が溶かされて体から出た感じの涙…

「変なことしないからね、あんしんしてねって
泣かないの!
私が泣かせたみたいじゃない~~」


彼女は今度は本当に困惑し驚き、冗談を言いながら僕を慰めてくれる。

それが
うれしくって・・・って
言葉に出したかったけれど、声に出ないほどうれしかった…



「さ、行きましょう」


手を差し伸べられた…
その手は柔らかくて温かかった…
全てにおいて僕は
この人

すずさんに温められた…

そして半年後…


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