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童話、イラスト、物語だけを語ります。 個人的なことは書きません。 純粋に物語だけのブログです。
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佐井花烏月(さいかうづき)
性別:
女性
職業:
一応漫画家?
趣味:
漫画を描く事
自己紹介:
佐井花烏月(さいかうづき)ともうします。

ここのブログでは
イラスト付童話や小説を制作していこうと思ってます。

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2014/10/23 (Thu)

6・闇夜に浮かぶ月の方

 世界は闇に覆われ何も見えない。
 ただ、冷たい雨が、己の存在が存在するものだと感じさせてくれる。

 星は雲に隠れ、光が届かず、時折、雷だけが闇に閉ざされた世界を一瞬だけ激しく輝かせ闇に閉ざす。

 神社の社で雨宿りしている月夜丸は、生き絶えた犬を抱いている。
 理不尽な乱暴を受け、一気に死ねず痛さに呻く犬を刀で一息にした。
 本当はしたくなかった……
 だけど苦しむ姿がとても痛々しくてそれを犬も望んでいた。

  この犬には子がいたらしく、途中で追い付いてきた従者に子犬を預けてこの社まできた。
 従者には見つからなかったとでもいっておけと言い邸に返した。

 月夜丸は罪もない犬をこんな目にあわせた人間が憎いと思う。
 そして、自分の人間と同じ姿のことも。

「人であることが憎くなる……半分流れている血の同族をこんな目にあわせている人間が……」
と呟く。

 どちらかの一種族なら、苦しまなくてすんだのに……
 人の体でうまれ、心は獣なのだと自分は思う。

 だから自分が苦しい。

 でもこれが、自分という存在なのだから仕方がないといつものように諦める。

  ここでじっとしていても、きっとあの方は今日は来ないのだろうなと思い、かえろうとした時。

「また連れてきたの?」
と子供の声。

 それは、自分と『同じ者』で月の力を持つお方。

「ああ……この犬の恨みを晴らしてくれ」

 暗闇で何も見えないはずだが、二人はお互いの姿が見える。
 人では無い瞳の能力を活かし視る。

 闇の色をした衣を着、耳は人の耳ではなく狐の耳。
 そして十歳くらいの童というのが、この月の方の姿だった。

 月の方は月神の力をあやつり、獣の望みを叶えてくれるという。
 それは数日前に遡る、犬を殺されたところを悲しんでいた時、その方はあらわれた。


「その犬の恨み晴らしてあげようか?」
 と言った。

 最初は訝しんだ。
 狐の匂いもするからだ。

「狐の匂いがする?
 それは君と同じ獣の血を引いてるんだよ。狐のね。
でも、僕は犬であろうとなんであろうと、恐くない……」

 癖なのか、悦の入った喋りかたが少々気に触ったが、続きを促すように目を見つめる。

「なぜなら月の力を授かる者だからだ………」
「月の力を授かるもの……?」

 それは、小さいころ犬の母に聞いたことがあった。
 月に獣の願いを叶えてくれる力があると、自分が生まれたのも、月のおかげだと……
「どう?お前の望みを叶えてあげるよ……」
 フフっと不敵に笑う。

 そして、願いを叶えてもらった……

 事あるごとに今のように犬の死体を抱いてはそのお方に会うようになった。
 犬を手渡すと、またフフッとあの笑みだ。
 そういえば……昼に会った男の子のような格好をした女の子に似ていると思った。

「昼……会わなかったか?」
 と聞いてみた。

「あってないよ?
僕は夜闇のなかでしか、会わないじゃないか」
「そうか……」

 確かにそうだ、この方は『雄』だ。

 月の方は犬を頭だけ残してうめるている。
 本当は生きている犬で呪術を使うらしいのだが、闇の力を借りて、まだ生きている思いを宿らせて術を行なうのだ。

 その作業中、その方はふと何かを思い付いたらしく月夜丸に問う。

「昼に会ったってやつ……僕に似てたんだよね」
「ああ……雌の匂いをしてた」
その言葉をきいて、怪訝な顔をした。

「……幸せそうだった?」
 声に刺があった。憎んでいるような……
「不自由しているようにはみえなかったな」
「ふ~ん……」
 と鼻で相づちをしいつものように呪術の用意が出来た。

 その姿をみるのは辛いが、呪術を使うためだ。
 呪を唱えると、首の周りに白いモノが集まり中に入る…と、一声なく、すると、白いモノはだんだん黒にかわっていき例の獣の妖しへと変じた。

 そして、闇の中に解けて呪う相手のもとの所にいった。

「これでよしっと……それにしても……」
呪術を探っているモノがいる。

それが…

「葛葉だったなんて……」
 と憎々しく呟く。

「葛葉?」
「お前は知らなくていいことだ……さっさと自分の寝ぐらに帰れ」
 そう呟くと月の方は消えていった。

 「寝ぐらか……」
 月夜丸は皮肉毛に苦笑をすると、いわれて通り邸に帰ることにした。

 その後ろ姿を、白い子犬が付いてきた。
 だけど、月夜丸は気付かなかった。

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2014/10/23 (Thu)

5.安倍家の家庭

 夕暮れは龍のように光る雷が空を駆けめぐり、大粒の雨をしばらく降らした。
 そのため、頼光は自分の邸に散歩が終わった後帰っていったのだ。

 嵐の様な夕方が過ぎて穏やかな夜が訪れた。
 安倍晴明の邸全体が螢のように明るかった。
 それは呪術で作り上げた光だ。

「ってことがあったのよ」
 と葛葉は父晴明の部屋で食事をとりながら昼あったことを告げた。
 普通は家族で食事をとることなどないのだが、晴明の家風は特別である。
 子犬のコーエーは階で御飯を食べている。

「犬との子供ね……あり得るんじゃないのかな?」
 と晴明は温かい汁ものを飲みながら言った。

 「あなたも狐との間にうまれたのですものね」
 母は炎に御飯のおかわりを要求してにっこりと微笑む。

「じゃあ、私も狐の血がやっぱり繋がってるの?」
「繋がってる、でも人である為に犬に慣れないといけないぞ」
「わ、分かってるわよ父様。大分コーエーに慣れてきたし……それよりさ、人間と獣って結婚できるの?狐の話はよく聞くけどさ」

 狐の話は古代大和の時代の書物にも載っていることだ。
 狐は化ける、現に父が生まれている。

 ふいに、母のカグヤはフフッと笑った。

「月の力を借りるのよ。」
「月の力を借りる?母様が貸してるの?」

 母は月の住人で、父と恋に落ちて地球に暮らしている。
「そうじゃないわ。月は獣を統べる力を持っているの。人だって、月の力を借りて人がうまれるのよ。」


 月はとても神秘な力を持っている。
 獣は月の神を崇めているのだという。

「月の神は稀に獣の願いをきいて、人へと姿をかえてくれるのだそうだよ」
「へぇ~月の神様って凄いのね!」
 葛葉は神秘的な話に目をキラキラさせて感嘆した。

「きっと、その犬は宮を愛してしまって人にして下さいって願ったのね」
「そして結ばれて、その月夜丸様がうまれたのよ」
「だから、月夜丸って名前何だわきっと!」
 母子は二人してロマンチックな想像の恋物語にきゃあきゃあと浮かれて会話している。

「でも、その月夜丸様は生まれた時は犬の中で育ったのだろう?
その名前つけたのは偶然だと……」

 カグヤに頬をつねられて晴明はいいかけた言葉を渋々噤んだ。
 水をさすなということなのだろう。
 これ以上口をはさむとたとえ愛しの夫と言えど容赦はしないのが葛葉の母である。

 そんな二人をみて葛葉は楽しげに、ふふっと笑う。
 平安時代では奇妙な家族風景だが、これが葛葉の家の生活。
 この時代のどこの家族よりきっと幸せな家庭だった。
 

「コーエー、お手!」

 子犬は葛葉の差し出した右手に足を載せた。
 ちょっと、うれしくてコーエーの頭を撫でる。

「本当になれたのだね」
 父は葛葉の後ろから覗き込むようにその様子を見ていた。

「うん。なんだか恐くなくなったような気がする。」

「だろうね。
さっきの話の続きだけど、葛葉にはカグヤ……母様の力を持っている。
だから、獣を怖がってはいけないよ?」

「月は獣を従わせるから?」
「そうだよ。よくわかったな」
「だって……そう思ったんだもの……私は普通の女の子にはない力を持っていて、普通とは違う血をもっているなら・……って
 母様の話を聞いて、月の血を引いてるなら、コーエーを怖がっちゃいけないなと思ったの」
 照れながら葛葉は答えた。

「葛葉ちゃん……」
 相変わらず感の良さと深い考え方をする我が娘を誇らしく思えた。
 そして、とても愛おしく感じる。
 ふわっと、ふいに葛葉は晴明に後ろから、暖かく抱かれて、その腕にいつものように頬擦りをする。

「どうしたの父様?」
「可愛いな~ッて思ってね」
「もう!分かり切ったことじゃないの!」
 はは、そうだね。と笑いあって十分包容したらそっと離れる。
「今日って例の妖しでたりしないかな?」
「出たら出たでいいじゃないか。今日はお休みにしなさい」
 厳しいものではないが、有無を言わせない親の特権で命令する。

「もう父様ったら!私の信頼がなくなるのよ。……犯人は犬神を使うものなのよね…父様そう言う人知ってる?」
「う~ん道満殿……かな?でもあれは私を狙っていて庶民に手を出すような方じゃないしねぇ」

 道満とは父の永遠のライバルとか名のって時たま邸に訪れる変な人だという認識が葛葉にある。

 「月夜丸様ってこともあるかも知れないな……」
 ふと、晴明は犯人の疑いのある者の名を呟いた。
 「犬を抱えて消えてしまったなら、その消えた犬こそ犬神にして使役している可能性がある…」
 「でも…あの人、犬をとても哀れんでたし、犬に惨いことはできないんじゃないかな……」
 そう思いながらも、葛葉も怪しいと思う。
 死にかけた犬を楽にしてやるといって社や廃寺にいっていると月夜丸の従者が言っていた。
 もしかしたら、そこで何かの術をしているのかも知れないと、葛葉も思い当った。

 それが事実なら確かめたい!とうずうずして、父の顔を仰ぎ見る。
 その眼の輝きはとてもかわいらしくて、許してしまいたくなるのを晴明は、ゴホンとわざと咳払いをして、

「今日はもうそーゆーことは考えるの止めて、もう休みなさい。いつも深夜起きてるのだからね?」

 言葉は優しげだけど、目は笑っていない事に、葛葉は気づいて諦めることにする。言いつけを守らないと、この事件の仕事も父自ら打ち切る可能性があるからだ。

「……うん。そーだ!コーエーが入って来れないように綱で繋いでおこう……ってあれ?」
 やはり今朝のようなことは、まだ慣れないので、頼光の案で柱に繋いでおこうと思ったのだが、白い子犬のコーエーは気配もなくいなくなっていた。

「どこにいったのだろうね?」
 父の晴明も首を傾げたが、顎に手を当てて目を閉じ、コーエーの気を感じ気がついた。 

「あの子犬……もしかして……」
 私としたことが……とひとり晴明はごちた。
「父様?」

 神妙な顔をしている父を見上げる葛葉の頭に手を当ててなでる。

「ま、いいか。いつか帰ってくるよ」

 葛葉を不安にさせないように微笑んだ。


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2014/08/25 (Mon)
永遠命
何時からだろう自分が人間じゃないと気がついたのは

ただ怠惰に時を過ぎていった
時たま自分にまとわりつく人間が保護してくれてながされるままに過ごしていた

そんなある日
心が生き返るような出来事が起きた
人間なんか興味なかったのに…

その少女はとても明るく心にここちょよくともいいる時がとても愛おしかったのに

突然
彼女は何者かに殺された
それ以来悲しみが消えない
今まで心がなかったから
もとのなにもない怠惰な自分に戻るだけならよかったのに

彼女が最後に私の心に与えたのは悲しみ

あれからなんびゃくなんぜんの時が経ったのだろうか…

文明は繰り返し
未開な土地から文明へ
文明が崩れて未開な土地へ

旅をすれば全く違う世界
知らない世界

けれど私の悲しみは癒えることがない
さ迷う私の希望は
また巡り会える君の魂を持つものを探すこと…

神の生け贄になるという巫にであった
姿かたちはちがくとも

彼女に間違いなかった

私は彼女を連れて逃げようとしたけれど
阻止された

長く永遠に生きるだけでなんの力のない自分に嫌気と後悔が生まれた

彼女は世界の生け贄として川の神にその身をすべて捧げる

私はなりふり構わず身を捧げる彼女にかけより共に神ノ生け贄になった

目が覚めると彼は隣で眠っている
私はどうなったの…

辺りは見たこともない緑や花の世界
ここは天国だろうか…

違う
この男が起こした奇跡だ
神が言う
この男は我と同じ神のもの
心がわからぬただ無力の神だった
お前を探すため永遠の時を生き世界を巡りソナタに出会った

みずからに力がないことを悔やみ
ソナタを救うことを願い

ながの命存在と引き換えにソナタの命を選び星に力を与えた力のある神だった

ただ
お前のため巡り会うために
愛しい娘はこの神の心の鍵
最後の希望

星の危機をす縫うために生まれた神だった

自らの存在に気づきお前を救えた彼は心から幸せそうな顔をしている

その唇にそっと口付けずにはいられなかった

求めあった魂が今重なる…

ふと彼は瞳を上げて娘と見つめ会う

彼が生き返ったことに驚き
川の神を振り向くと

同じ神として悲しい結末は好まぬ
人としての生を共に生き幸せに暮らせ

それは神々の望だ
希望と奇跡の人のこよ

長い長い永遠の時のなか
永遠は君に恋し
愛した時が永遠の奇跡

輝く宝石は星に刹那の煌めき…

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2014/06/10 (Tue)
4.月夜丸

 晴天だった空は昼を過ぎるころには雲行きが怪しくなってきた。
 葛葉と頼光は綱に繋いだ子犬のコーエーをつれて散歩に出た。

「なんだか、雨がふってきそうだぜ」
「雨が振る前に帰れたらいいわね~」
 ワンとコーエーも話に加わるように吠えた。

「いい?呪府の匂いを辿るのよ?」
 血にぬれた呪府を嗅がせようとするとコーエーは鼻を背ける。

「ちょっと、ちゃんと嗅ぎなさいよ!」
「無理いうなよ、俺だってやだぜ、血のにおいのついたもの嗅ぐなんて」
 頼光に諭されてしぶしぶやめることにした。
 場合によっては虐めてるようにも思えるからだ。

「それにしてもどうして、いきなり散歩なんか思い付いたんだ?」
「原因を確かめによ」
「呪者じゃなくって?」
「それも見つかるかも知れないじゃない」
いきなりコーエー勢い良く駆け出した。
綱をもっていた葛葉は引っ張られる。

「きゃ!なんなの?」
 コーエーがひっぱり連れてきたところは角をまがった、すぐのところで犬の悲鳴と容赦なく犬を棒で叩く現場だった。

「ばか犬がっ!人様に逆らうじゃねえぇ!」

 キャンギャン!

 もう動けない犬を中年の男が手加減無しで棒で叩き付けていた。

 見ているこっちも恐くて痛々しかった。
 コーエーはその人間に威嚇するようにしっぽを下げて、うなっている。

「やめろよ!!」
 と頼光はその中年の男を止めに入った。


頼光はその中年の男を取り押さえた。
 子供など振り切ってまた、乱暴をしようとしても、毎日の剣の稽古をしている頼光からは逃げられなかった。

「弱いものいじめすんじゃないわよ!」

 倒れている犬の前を両手を広げ庇い、葛葉も怒鳴った。
 子供にとめられて、恥ずかしくなったのか、チッと舌打ちをし、まだ怒りがおさまらないのかがなり声でいう。

「この犬が主人の塀にションベンかけやがったんだ!だからこらしてたんだよ!当然の報いなんだよ!」
「こんなになるまで暴力振るうことないじゃない!!」
「お前らみたいな良い所の子供にこのどうしようもない感情がわかるかってんだよ!」

 たぶん、使用人として働いていて、いろんな嫌な事があったり、卑下されている事にも腹をたていたり、みじめな感情をもっていて、それを犬にあたっているのだ。

「分からなくてもいいもの!」
 葛葉は睨んで言う。

 中年男はフンっと鼻をならし踵をかえし去っていった。

「これは……助からないかもな……」
 頼光は暗い顔をして息も絶え絶えの犬を撫でながらいう。
 口からは血を流し呼吸が荒い。内臓を何度も蹴られて、骨は折れそれでも生きているのはとてもいたくて苦しそうだった。

「もう少し…早くたすけられたら……」
 コーエーは悲しそうに鳴き犬の鼻をなめた。

「惨いことをする……」

 怒りを込めた怒りをこめた、ぼそりと呟く声がした方を仰ぐと、十四、五くらいの少年が葛葉たちの後ろに立っていた。


立派な狩衣のまとい、成人しているなら髪を結い烏帽子をかぶるところが、髪をとかざずにボサボサした髪をしていた。けれど、一瞬で人を魅了する美しい顔立ちをしていた。
 端正に整えらている顔は眉間に皺よせ、怒っているように見えるし泣いているようにも見えた。
 片膝をおり葛葉の横に腰をおろした。

「!?」
 突然、葛葉は後ずさった、気配が犬に似ている。
 なんなの…この人は……姿形は人なのに……

「これはお前達がやったのか……?」
じろりと睨まれた。

「ち、ちがうわよ!」
「そうだぜ、ここの邸の使用人がやったんだ!」
「………そうか」
といい、倒れている犬を抱き上げると歩き出した。

「その犬どうするつもり?」
肩ごしに振り返り、
「楽にさせてやる……」
 楽にさせる。それは死を与えてやるということなのか。

「名前は何ていうんだ?」
 と頼光はたずねたが無視をし、角をまがって消えた。

「なんだあいつ!感じのわるい!!」
コーエーはクゥンと泣いた。
「そういえば、このコーエーの存在をあの人は気付いてなかったみたいね……」
 でも、酷いし打つをした犬のほうに気を取られていただけかもしれないと思う。

「月夜丸様~~~~!」
 と後ろから従者らしき身分の青年が駆けてきた。

「君たち月夜丸さまみなかったか?はずかしげもなく、烏帽子もかぶってない少年を!」
 それは、きっとさっき犬を抱えていた少年だろう。

「あの角をまがっていったぜ。」
「はぁ……まったく狂い君の方に仕えるのは骨が折れる」
「狂い君の方?」
 たしかに、この時代では烏帽子をかぶらないと死ぬより恥ずかしいことだとされているのに、被らず髪を乱していれば、狂っているように見える。

「どこの方なのですか?」
「恐れ多くも、宮家の方なのですよ…宮家といっても落ちぶれていますけどね……」
「また宮家か……」
 ボソっと頼光は呟いた。

「月夜丸さまって、元から狂るってるの?」
 自分の発言はどうであれ、失礼な言い方だと思ったらしく、眉をしかめたが、子供のいうことなのでため息をひとつして、呆れたように主人のことを説明する。

「べつに狂っている分けじゃないんだが……生まれが生まれだからね。」
月夜丸の従者はここだけの話だよというように、葛葉たちの耳に口を寄せ、
「じつは犬と宮さまの子供とされているんだよ」

「え?」

「宮はある素性の知れぬ姫と恋に落ちた、だがその姫は消えてしまった……」
 

 数年後ある子供、月夜丸があらわれた。
 その子供は姫の衣をまとっていたという……

 そのあとのことはハっとして口を噤んでしまった。
 あまりそう言うことを口に出していう事ではないからだ

 なんだが、父様に似ている…

「犬が殺されそうだといっては出歩かれて…まったく……」
「あのさ~追わなくていいのか?」

「もう、犬を連れて行ってしまったとなれば、行き先はきっと廃寺か、社でしょう」
 またくといいながら、心当たりがあるのか主人を探しににまた駆け出していった。

ポツっと雨が降ってきた。

「そろそろかえろうぜ!大雨にならないうちにさ」
「うん」
といい、自分の邸に駆け足で帰宅した。

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2014/06/09 (Mon)
3.犬神の呪詛

「生き埋め!?犬を?」
「そう、生き埋めにして殺す…殺されたその恨みを呪詛に変えて、人をのろい殺す呪詛だよ」
「でも、庶民を呪ってどうするんだ?ふつうは貴族とか狙うだうもんだろう?」
 頼光は貴族がよく勢力争いの為にそう言う力を持つ者に頼み呪うのだと思っている。

「貴族を呪う者も多いが、個人的な恨みを持つ者もいる。それに、どうしょうもないから、近くのもの…関係ないものを小さき者を呪うとかね」
 眉を潜めて苦笑した。

 それは良くあることだった、貴族は贅沢していて、下のもの苦労もしらずに、のうのうとして贅沢をしいている。
 同じ病にかかっても、貴族は治せる薬が手にはいっても、庶民は手に入らず死ぬしかない。
 羨んで憎んで……どうしようもないことが多すぎて、自分より小さなモノに八つ当たりしたくなる…
 なんだか、ついさっき、子犬のコーエーにしたような、それよりもっと、どうしようもない気分になるから小さきモノにあたってしまう…

「そうなのよ!!原因は多分……」
葛葉はハッとして気がついた。

「なにか分かったのか?」
「うん…原因だけ……じゃ…意味ないんだけど」
 葛葉は複雑な表情をして俯いて考える。

「それだけでも、手がかりは見つかると思うよ。」
 にっこり微笑んで葛葉の頭をなでる。
 応援しているよというように光栄に頭を撫なでられて、葛葉は照れて表情をやわらげた。

 けれど、式紙の光栄は顔色をかえたと思うと、
「あ!晴明様!」
 といい、紙片になって姿は消えてしまった。


「この忙しい時にサボるとは……」
 晴明は光栄の頭をこついた。

 毎日毎日宮中行事の準備で忙しいときに光栄はひとり柱の影で術をつかって、葛葉と話していたとろを晴明に見つかった。

「すみません、晴明様」
 にこにこと幸せそうな光栄を、晴明は、ふぅとため息をついて、手にしていた新たな書類を光栄に渡した。

「犬神の話をしていたようだが?」
「はい、葛葉ちゃんたちが追っている呪者の手がかりがわかったので、その話をしました」
 犬神のヒントをつかめば、事件解決は進展するはずだ。
 忙しくて葛葉に直接会えないけれヒントを与えられた事に喜びを光栄は感じている。
 その事で表情が緩んでいる光栄とは逆に晴明は無表情で考え事をしている。

「その犬神欲しいな……」
 晴明は少しだまっていたが不意につぶやいた。
「は?誰かのろい殺したい相手でもいるんですか?」
「いや……そうじゃないんだが…探している愛しきモノが見つかるかも知れないとね」
 ああ……と光栄は心の中でその意味を納得した。

 愛しき者とはもう一人の晴明の子供。
 葛葉と同じ時をして生まれた子供。
 生まれたと同時に何ものかに攫われたのだった。

「そのような不穏な呪詛をつかわずとも、きっと見つかりますよ」
 と一応慰めのことばを口にする。
 
「そうだな……そんなことより、葛葉ちゃんはどうして私にその札の話を聞いてくれなかったのだろう……」
 はぁ…と本当に悲しそうにため息をついた。

「まったく……晴明さまは、親ばかなんですから」
そんな晴明の親としての寂しそうな様子を見て、つい言葉にでた。
 その光栄の言葉に晴明はわざと、光栄に足をかけてころばした。
 油断していた光栄の手元から書類が舞う。
「ひ、ひどいです!晴明様!」
 フンと鼻で笑い、晴明は陰陽寮にさっさとはいっていった。

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2014/06/04 (Wed)
2.葛葉と白犬で修行する

「なんで、犬がいるのよ!!」

 顔をなめられて起きた葛葉は机調の影に隠れ、頬を思いっきり拭う。
 子犬はきゅ?と首をかしげ、葛葉を眺める。
 そんな子犬を一瞬可愛いと思う。
 けど恐い。

「しっ、しっ!あっちいけってば!!」
 子犬はよばれたかと思い、近付いてくる。
「来るなっていってるの!!」
 立ち上がり逃げようとしたときに、几帳の垂れ下がっている衣に足を滑らせて、後ろにあった櫃を巻き込んで、派手に転んで、ついでに頭をうった!

「いったーい!!」
 なんて、朝から今日はついてないの!
 と思うと自分がなぜかみじめになって涙がじわりとでてきた。

 仰向けになって、涙ぐんだ葛葉の涙を子犬がくぅ~っと心配そうに舌で拭ってくれた。
 この子犬が原因でこんなみじめな気持ちになっていたのになぜだか、心がいやされた。
 結構…可愛いかもという心が芽生えはじめていた。

 「あんたの……せいなんだからね……」
 といいながら、恐る恐る頭を撫でる。

「葛葉!どうしたんだ!!その部屋の散らかり様は!」
 頼光が縁から突然あらわれて、部屋に遠慮なしに入って来た。
 いつものことだけど、なんだか、気恥ずかしいし、むかつく。
 曲がりなりにも葛葉はいっぱんの姫のように男の子と付き合いたくない気持ちもある。

「あんた、何度いったら分かるのよ!勝手に入ってこないでよ!まだ、わたし着替えてないのに……」

「あーーーー!葛葉犬を虐めてるのか!!!」

 葛葉のいつもの言葉は聞き捨てて、頼光はあわてて、子犬を葛葉のもとからひっぱがして、悪者から守るように抱き込んだ。

「べつにいじめてないわよ…」
 なんだか濡れ衣を着せられたようでなおさら腹が立った。

「この犬がこの部屋をこんなのにしたのよ!!」
 さっきの、慰めの行為に心を癒されていたが、イライラがつのって散らかした原因を犬の責任に押し付ける様言いはなった。

「だいたいさ!なんで私がこんな犬の面倒見なくちゃいけないのよ!私が虐めるんだって分かってるんならあんたが面倒見ればいいでしょ!!」
 葛葉はヒステリックに怒りを頼光にぶつける。

 「そんな…いいかたねぇだろう……が……」
 頼光は、いつにもない、葛葉の苛立ちに怯む。
 沈黙がながれた。
 子犬がくぅうんと鳴く。
 この雰囲気を察して悲しくなったようだった。

葛葉は着替えるため、犬を抱えたままの頼光をおいだして、炎にテチョウズを用意してもらい、顔を洗う。
 無言で、いつにない葛葉の怒りを感じ、炎はいつものニコニコ顔は苦笑ぎみだった。

 頼光のばか!
 べつに犬のこと虐めてなかったのに…虐めたなんて勘違いするなんて、腹の立つ!
 そんなふうに言うから、あの犬の所為にしちゃったんじゃないの!

 なんだか、また涙が出てそうになったとき、犬に嘗められたことを思い出す。
 なんだか心が通った感じがした。
 犬に対してこんな気持ちは初めてでなんだか、気持ちよかった。

 ……それを…私は…

 葛葉の心は怒りと罪悪感で問答して、その心を引き締めるように涙を消すように何度も何度も水を乱暴にすくい顔を洗う。

「あの…葛葉ちゃん」
「なに?炎」
「なんか?あったの?」
「別に……なんでもないわよ…」
「それならいいけど、頼光君外で待ってるよ?遊ぶの?」
「………遊びたくない」
「でも喧嘩したんでしょ?謝った方が良いんじゃないの?」
 炎はさっきの出来事を知っている。

「私の方から謝れっていうの?」
「うん。だって、その方がスッキリするよ」
「向こうからあやまったらあやまってやるわよ!」
 怒鳴るように言う。

 そのとき、御簾をばっと上げ、部屋に駆け込んできた頼光は床に手をついて土下座した。
「すまん!この通り許してくれ!で、遊ぼう!」
 頼光はずっと、御簾の後ろで葛葉の様子を伺っていたらしい…
 葛葉は一つため息をついて、そっぽを向きながら

「いいわよ…ゆるしてあげるわよ」
 葛葉は許しても自分から謝ることはしなかった。
「気位が高いんだから……」
「何か言った?炎?」
「いいえ?べつに」
「じゃあ、犬と遊ぼうぜ!!」
「う…うん……」
 葛葉は頼光に差し伸べられた手をとって庭へと出る。

 庭に出ると子犬はお座りをして待っていた。
「こいつ、本当にいい犬だぜ。人の言うことわかってるんだ。」
 頼光は犬を思いっきり可愛がる。
「本当にあんたが飼えばいいのに……」
 葛葉はこんなにこの子犬を可愛がることができないから……

 自分といても、可愛がってあげられないし、さっきのように、八つ当たりしちゃうかも知れないから……

「何言ってんだよ、この犬に慣れることが葛葉の修行でもあるんだろ?慣れること 修行なら仕方がないかと思うようにする。
 修行とはつらく厳しい事が当たり前でそれを乗り越えることに意味がある。

 そうすれば、嫌なことでも我慢できる気がするから。
 恐る恐る子犬の頭を撫でようと手を頭に近付けるが、犬が上を向き手のひらをペッロっとなめた。

「きゃああ!」
 葛葉は思いっきりあとずさった。

「手。手を食べようとしたぁ!」
「してねぇって」
 頼光に突っ込み入れらたのがちょっと、しゃくにさわった。

「分かってるわよ!!みてなさいよ!」
 勝ち気が手伝って、犬の頭を撫でることに成功した。
 ふわふわとした感じがとっても気持ちがいい。

「か、可愛いじゃなの……」
 でも、頭を同じ方向でしか撫でることができなかった。
「ほら、こんどは、顎の下」
「あ、あご!?」
 頼光は見本だというように顎を思いっきり撫でてみせる。

 葛葉もそれに習ってなでてみる。
 「できたじゃん。よかったな」
 「う、うん…」
 前よりは抵抗がなくなったような感じがする。

 犬は嬉しくて、尻尾をおもいっきりふる。
 そして、葛葉に飛びかかったって顔をなめた。

「きゃあああああ!!!!」
 バンと犬をどかす。

「ま、マだダメ…」
 葛葉は本気で怯えた。
キュウンと犬は悲しそうに泣いた。
「まだまだ修行が必要だな~」
「そ、そうね…」
バクバクする心臓を押さえる。

葛葉はふと、父は狐の血を引いているから自分もそうなのかも知れないと気づいた。
 人間なのに獣の血がながれているから、この犬が不自然に恐いのだ。

「人間であるために修行しないと……」
 落ち着くためにひと息吐いて呟くように言う。

「?なんか言ったか?」
「べつに……そうだ、この犬に名前つけよう」
「そうだな。なんにする?清和丸ってのは?」
「それって、清和源氏がらつけたでしょ?」
「いいじゃんかっこいいじゃん」
「コーエーがいいな」
「光栄のなまえとってんだろう!」
「いいじゃん、好きな人の名前つけた方が、この犬のことすきになるかも知れないしさ」
「それもそうだけど……おれがこいつを虐めそうだぜ……」
 頼光は光栄のことが嫌いなのだ。

「じゃあ、コーエーで決まり!!」
「呼んだ?」
 二人の目の前に突然、光栄が現れた。

「光栄様!?」
「光栄!貴様どこからあらわれた!」
 いきなりの現れに頼光は吃驚して刀を抜きそうになった。
「こうやってだよ」
 また現れた時のように突然消えたかと思うと、紙片になった。

 そしていきなり、ビロビロビロっと折り畳み状態にちじんだりのびたりして人の姿になった。
 本当に頼光は腰を抜かした。

「気持ちの悪い現れ方すんなよ!」
「式紙をつかってんだもん。人間業じゃないことしたほうが面白いと思ってさ」
はははと光栄は笑う。

「光栄様、お、おひさしぶりです」
 葛葉は顔を赤くしてもじもじとして、挨拶をする。

「うん、ひさしぶり。本当は式じゃなくって本当の僕で会いたいんだけどさ、仕事が忙しくってね」
 と言い、葛葉の頭を撫でる。
 うふふってわらって幸せそうだった。

「晴明様にちくるぞ光栄!」
「それは困るなぁ~」
 全然困ったふうじゃないのが腹が立つ。
「これが、例の犬だね。」
 子犬のコーエーは威嚇している。
「こら!光栄様をいかくするな!」
 ポンと犬を打つと、犬はしゅんとなった。

「あ、そういえば!ちょっと待ってて下さい!」
 といい、自分の部屋に入り、血塗れの呪府をもって戻ってきた。

「あの、昨日倒した式神の犬なんだけど、これの気配分かりますか?」
 光栄は血塗れの呪府を手にして額につけて少しだまっていた。

「光栄動かなくなっちまったぞ?」
「っつっつくんじゃないわよ!失礼な」
 ぺしっと光栄を突いた頼光の指を払う。

「う~ん式から念を探るのはちょっと難しいね。だけど、一つだけ分かった。これは犬神を使ってる。」

「犬神ってなんですか?」
「犬の神様の祟りとかか?」

 光栄はヘラヘラと笑っていた顔に表情を消して二人の問いに答える。

「ちがうね、生きた犬を生き埋めにして自分の式神にする、呪詛だよ。」

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2014/06/03 (Tue)

1.葛葉姫の苦手なもの


「そこまでよ!!」

 長い髪を高いところに縛り、狩衣に朱の袴を夜風になびかせ、血なまぐさい匂いをはなつ異様な妖しを葛葉は睨む。

 グルルルっと威嚇するように唸る妖しは犬の様にも見えた。影の様に黒く、襲った人間の血を赤く口元に滴らせ、尻を持ち上げ、助走をつけて飛び葛葉に襲いかかった。

「あぶねえ!」
 横から頼光か自分の身長と同じくらいある刀をその口に挟ませ、防ぐ。

「そのまま、押さえておいて!」
 葛葉は瞳を閉じ、手にしていた呪府をピンと立て呪をとなえる。

「散妖伏邪!急急如律令、畜怪!」

 府は光る鳥となって黒い獣を貫いた。

 獣はけたたましいく叫び闇にとけ消えた…
そこには葛葉が放った呪府のほかにもう一枚血に塗られた呪府が落ちた。

「また偽モノなのね……」

 今し方命を落とした人に拝む。ぶじ成仏できるように…
 そして、血に染まった府に触る。

「いったい誰が放ってるかわからないのか?」
 刀を鞘にしまいながら、頼光は聞く。

「うん…私じゃまだまだ未熟なのかも知れない。父様か、光栄さまに聞けば分かると思うけど」

 今この二人は宮中行事で忙しいのだ。
 それに、この事件は貴族達にはどうでもいい事であった。

 襲われているのは庶民なのだから、いまだに貴族の一人にでも危害を加えられた者がいない。

 だから、宮廷陰陽師たちは動けない。
 外法陰陽師も庶民相手に金もうけにならないことで動きたくないという者も多いのか、動いている気配はなかった。

 そう言う理由から、うわさを聞き付けた葛葉はこの依頼を受けることにしたのだ。
依頼してきた人は正直上座に堂々と座る子供の葛葉を疑った。

 「こんな子供に任せられるものなのか…」
とつぶやいた。
 そのつぶやきを聞き逃さなかった葛葉は侮られているのがしゃくに触って、

「希代の陰陽師安倍晴明の娘葛葉姫に不可能はない!!」
と断言して。

 獣の妖しのうわさを聞けばこうして駆け付けて、夜な夜な京中に跋扈する獣の妖し退治をしている。

「それにしても、葛葉って、恐い者知らずだよな。」
「なんで?」
「その手に持ってる府に…べたべただぜ……?」
「もう慣れたわよ。」

 けろりという。
 頼光は月明かりのせいで青ざめているわけではないようだった。

「おれは慣れないな……葛葉って恐いものってないのか?」
「この葛葉姫に恐いモノがあると思うの?あるわけないじゃない」
 わざと胸を張って自慢してるように言う。

 そのとき、角の塀から、くう~んと子犬の泣き声が聞こえてきた。

 葛葉はまた妖しかっ!?と思い身構える。
 だけど、妖しの気配はない、ふつうの子犬らしかった。

「お!犬だ!おいで、おいで!」
「ち、ちょっと、やめなさいよ!頼光!」

チッチと舌を鳴らす頼光にかけよってきた。
葛葉は後ずさる。

「お~お!お主、賢いな。しかも、人間に慣れてる感じだ」
しっぽを思いっきり振って、頼光の顔を舐める。

「ちょっと、頼光!病がうつったらどうするのよ、というか、懐かれたらどうすんの!」
「そうだな~俺の父ちゃん犬嫌いだからな~葛葉かってくれないか?」
頼光は犬を抱きかかえ、葛葉に向き直る。
葛葉は、また後ずさる…

「ぜ…絶対嫌!!っていうかこっちに近付かないでよ!!」
「え~かわいいじゃん。撫でてやれよ」
 頼光は子犬を葛葉の顔に近付けると子犬はぺろりと葛葉の鼻をなめた。
「いや~~~~~~!!!!」

 バシンっと頼光の頬を思いっきりたたいた。

「イッテ~~~!ぶつことないだろう!」
「あんたが悪い!!」
 葛葉は涙ぐみながら、鼻を思いっきり袖で擦る。
 葛葉のそんな様子をみて、頼光は気がついたそしてそのことをにやにやしながら口にする。
 「もしかして葛葉って……犬が恐いなのか?」
 葛葉はぎくっとした。

「恐いものなかったんじゃなかったけぇ~?」
「う…それは…そうだけど……」
 葛葉は口籠る。
 なぜか葛葉は犬が本能的に苦手だった……

「葛葉もう仕事はおわったのか?」
「父さま!!」

 葛葉は『炎』という火をあやつる式神をつれて、闇からあらわれた父安倍晴明に駆け寄った。

「葛葉ちゃん御苦労様です」
 炎は手のひらにともしていた、火の玉をもう一つだし、辺りをいっそう明るくた。

 炎の対の式神の氷をあやつる式神の『氷』は炎と双児の童だが、今は光栄の式神として働いている。

「頼光が犬を使って私を虐めるのよ!!助けて!」
 葛葉は父に助けを求める程、犬が苦手のようだった。

「いじめてる?ほんとかい?」
頼光をにらむ目が光った。

「ち、ちがうよ。こんなにかわいい犬を恐いなんて変だって思って……撫でてやれって言っただけなんだけど…」
 これって虐めたことになるんだろうか?とちょっと罪悪感を感じた。けれども理不尽だと思う。
 頼光はからかうことはしてもひどいいじめは誰にでもしたことがないのだから。
 
 表情が難しく曇る頼光の頭をぽんぽんと晴明は撫でた。
「わかってるよ。さっきまで見てたからね。頼光君は悪くない」

「悪いって!」
 ムキになって反論する、葛葉の頭を軽くたたいた。

「なんでぇ~私が叩かれるのよ~」
「頼光君は悪気があったわけじゃないんだよ。葛葉は大袈裟すぎた。そうだろう?」
「確かにそうだけど、苦手なの知って近付けたんだもん!」
 それも見ていてそれも真実だろう。
 だが葛葉は父に甘えているだけな感じがする。
 修行以外のことは甘やかせて育てたことを晴明は自覚してる。

「じゃあ、修行として、犬に慣れよう葛葉」

「えええ!!」

「私も犬は苦手だったけど、案外可愛いよ。その犬うちで飼おう」
「本当ですか!」
頼光はパッと顔を輝かせた。

「オレが飼いたかったんだけど、オレのとおちゃんも生き物苦手でさ…翌朝、父ちゃんに串刺しにされると思うと飼えなかったんだ。良かったな、お前」
「ワン」と元気よく犬は吠えた。

「そんな~隠れて飼えばいいじゃないの!」
「うちも、母さまに隠れて飼わなくちゃいけないよ」
「たべられちゃいますものねぇ~」
と炎は青ざめ、小声で付け加えた。

「そんな~~~~!?」
葛葉は青ざめて叫んだ。

「これも修行修行。」
 晴明はニコニコしながら、葛葉の頭を撫でた。

 晴明には犬を葛葉に近付けることである意味があった。
 晴明の母、葛葉の祖母は辰狐だ。
 葛葉の血にも獣の気配が残っている。
 葛葉の母カグヤ姫の血は月神の者。

 月は獣を従える力。
 獣を従えるものが獣に脅えることはいけないことだ。
 それとは別に、人として生きていくのに犬の『気』によって、狐の『気』を払わせることも必要だった。
 本能的に犬が嫌いな根本はそこにある。
 だから、人として、暮らしていくためには、狐の力と別に『気』を払わなくてはいけないことなのだ。

 晴明も師匠加茂忠行、保憲にその修行をさせられた、苦い思い出がある。
 可愛い娘である葛葉にその思いをさせるのは忍びなかったが、これが娘のためでもある。
 娘を想いやるとき、もう一人の大切な存在の事を晴明は想う…

(これをあの子にもさせてやりたかった…)
 もう一人愛しく思う者を思いながら、夜は深けていき、朝となった。

「きゃ~~~~~~~!!」
鶏よりも早く朝の知らせを告げる叫び声が響いた。

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2014/01/01 (Wed)

京に吹く風

「頼光、頼光、みてみて!光栄様からのお手紙!」

「なんて書いてあるんだ?」

 暖かな昼下がり。
 いつものように高欄に腰をかけ、葛葉と頼光はいつものようにお喋りをしている。

「中将は罪を認めて、貴族からはずされたんだって、その事はもう噂になってるけど、光栄様が吐かせたことっていうのは、伝わってないんだよね~だけどね、光栄様からの文で陰陽師の術を使って脅したそうよ。陶然の報いよね!」

「ふーん…陰陽師って怒らせると恐いよな……」
 
 頼光は光栄の懲らしめ方がなぜだか想像ができた。

「それと、もう一つ、宮姫からきたのよ。」

「宮姫って出家したんだよな? その後どうしてるんだ?」

「この文によると、姫は尼になって、正樹様を見られるように修行するんだって。それと、ありがとうって…」

「尼寺ってそんなことをするための修行場じゃないだろうに」

「ま、いいじゃない。好きな人を見るための努力は実を結ぶわよ」


「それにしても、今日は葛葉機嫌がいいな」

「そう?」
 
 いつもは大人ぶって、渋々と遊ぶだけだが、今日は蹴鞠に、弓に、囲碁、いろんな遊び相手をしてくれる。
こういう日はとても良いことがあったりする時だ。

「うん、何か良いことあったのか?」

「わっかるー?」
 
 ニコニコと満面の笑みを向け、幸せそうに両手を組みあわせる。

「だって、光栄様が明日かえってくるんだものーーーーきゃーーーー!」
 嬉しさの余り葛葉は叫び声をたてる。


「げっ!きゃーじゃねぇよ!ぎゃーーーーーーー!だ!おれにとって!」

「なによ!頼光!一緒に喜びなさいよぉぉぉ!」
葛葉は頼光の両方の頬を無理矢理笑わせようとギュッ! と抓りあげる。




「お取り込み中悪いけどね。2人とも…」
 高欄に座る二人の間から、晴明が顔を挟むように割り込んできた。

「なーに?父様、『光栄様お帰りなさい宴会』についての御相談?」

『光栄様お帰りなさい宴会』というのはたった今考えた宴会だ。

「う~んその宴会なんだけど」

 晴明は娘の会話にあわせる。
 だけど、表情が困った顔だ。

「『光栄様お帰りなさい宴会』を『お父様、葛葉ちゃん播磨にいってらっしゃい!』
の宴会になりそうなんだよね」
一瞬意味が飲み込めなかった…

「は?『お父様、葛葉ちゃん播磨にいってらっしゃい!』ってどういうことかしら?」
にこやかなまま固まっている葛葉に、同じ表情をした晴明は分かりやすく言う。



「保憲様の代わりに、私が播磨の任地につくことになったんだ。一人で播磨にいくのは寂しいから、葛葉ちゃんも一緒につれていこうかな?って思って…」

 葛葉はみるみる怒り顔になる。
「父様寂しーよぉ~葛葉がいないと寂しくて夜も眠れないし光栄に何かされていない
とも限らないし」

「なにかされないように俺が守りますよ!父上さま!」

「なにかってなによ!まったく!」
 
 葛葉は本気で怒る。
 その葛葉を宥めるため晴明は頭を撫でる。

「ゼッッッッッタイ嫌!父様一人でいってきてよ!」

「ま、今の播磨へ赴任というのはそれは冗談だとしても」
「悪い冗談やめてよ!父様、心臓に悪い!」
晴明はハハハと少し笑い、優しげな瞳で葛葉を見つめる。
「都の悪い風より、播磨の澄んだ風を葛葉に知ってもらいたいのもあるのだけど…」

「…都の風が悪い風?」

「念風が吹き荒れる都より、播磨に連れていきたいんだ…本当は…」

 晴明は娘のことを思っていっている。

 葛葉もそれに気付いたが、にっこりと笑って答える。

「あのね、そう言う、念とか廻ってっている都を守るために陰陽師や祈祷師や、僧侶がいるのよね。
私、都でも清らかな風になるように祓える力をもってるんだから、自分なりに清らかにしていきたい…ダメかな?」
 まだ、何て言ったらいいのか分からないけど、自分なりの言葉を父に言う。

「俺も!その手伝いするから、葛葉を播磨に連れていかないで下さい!」

 頼光は冗談じゃなくて、真剣な表情で晴明に言う。
 晴明は優しく微笑んだ。
 何も言わずに葛葉と頼光の頭を撫でる。
 

「こういう良い子がいれば、都も健やかになるだろうね…」

 健やかな、あたたかな風が、三人を吹き抜けていった。
 それは、葛葉たちが浄化した風なのかもしれない…

 念は決して消えないと言った。


 けれど、いつかきっと…健やかな、清らかな風が吹くことだろう…
 
 清らかな風を都にふかせることが葛葉のやることだと葛葉は思うのだった。




葛葉姫鬼譚念風鬼 終わり。

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2014/01/01 (Wed)

光栄の中将退治

 氷はバタリと倒れた。
 目を閉じ祭壇に向かっていた光栄は瞼を上げ、ゆっくりと体を中将へと向ける。
 光栄の表情はにこやかだったが、瞳が笑っていないどことなく恐い…
 その表情にビクリと肩を震わした中将は横柄な態度を崩すまいとしたが、声が出てこない。

 「京の鬼騒ぎの原因の一端は…中将様だったのですねぇ…」

 とぼそりと呟く。
 相手には何いってるのか分からない程の音程なので中将はいぶかしむ。

「藤原の大臣の息子で三十路過ぎで正樹どのを殺し位を昇級させた中将どの…を御存じですか?」

 を業と光栄は今度は本人を目の前に尋ねる。

「う…む……?」
 
 中将は表情をひきつらせた。
 それは自分のことで、皆には他言無用にしてあり、あまつさえ、光栄は播磨に住ん
でおり噂のうの字もきこえないはずなのに…
 光栄はただただにっこりと笑って、

「依頼は果たしました。
貴方様の悪行に恨みを抱き、都中を恐怖に陥れ貴方様の命を狙おうとした鬼は祓い終わりました」
 とハッキリと今度は言ってやる。
 自分の状況を理解するために一旦、間をおいた中将はキッと光栄を睨み立ち上がった。

「鬼を退治したのは、ほめて遣わすが、なんという無礼の数々!この私を誰だと思っているんだ!身分の低く位もない外法陰陽師めが!」
 
 中将は光栄を見下し怒り狂って罵った。
 
 都にいない、そして、位を持たない陰陽師は外法(げほう)とつけられ妖魔や呪術を自分の勝手にあやつり悪さをするという者、金銭を貰い呪を行う者のことをいうこともある。

 しかし、京にいられなくなって播磨に来たこの中将とは状況が逆で光栄自身、京に帰れば宮廷の仕事が待っているし、賀茂家の陰陽師の御曹司でもあり位もそこそこ戴くことになる。
 
 光栄は中将に、挑発するように視線に合わせ不適な笑みに変える。
 

「外法は認めますよ?僕が外法陰陽師なら、あなたは外道貴族というところでしょう?」
 イヤミなど認めてしまえば効果はない。直接悪口をいう方がストレートに攻撃になる。




光栄は顎に手を当てて考えるようにわざとらしく
「外法陰陽師は褒美があって依頼を果たす者なんですよね…」
と言う。

そんな光栄のわざとらしい態度に中将は腹を立て

「だれがお前のような者に褒美なぞやるか!」

 手にしていた扇を光栄の額目掛けて投げ付けるが、頭をわずかにずらして躱された。
 
 光栄はすくっと立ち上がって、中将の目の前に立ちふさがり、光栄より頭一つ分程低い中将を見下す。

 さっきまでの笑みは無い。
 ただ無表情に見据える。

「いえ…貰いますよ。あなたの汚れを落としてからね!」
 
 光栄は懐から札をだし、中将の額に張ると一足先に結界から出た。

「何のまねだ!この札は!」
 
 額につけられた札を剥がすより、はやく呪を唱える。
 すると、暗い影が中将の周りに現れた。
 暗い影は姿を形どる。
 目は暗く落ち窪んでいて頭には角をはえ、口は暗い空洞を思わせるが牙が鋭く生えている。
 中将に恨みを抱く怨霊達だ。

「ひっひぃぃぃぃ!!」

 中将は結界の中で腰を抜かしその場に座り込む。
 恐ろしさのあまり、立ち上がれない。


「おやぁ…あなたに恨みを抱くのは都にいる鬼たちだけでは無さそうですね?」
 光栄は意地悪くいう。
 中将は、急いで這いつくばって結界を抜け出そうとした。

 そこをすかさず光栄は中将の頭に軽く蹴りを入れるとコロンと鞠のように中将は一回転して転ぶ。

 起き上がったところで鬼が中将の目の前で悲痛な叫びと真暗な空洞な口をあけて中将を喰らおうとしてすり抜け無気味な笑いを耳朶にのこしていく。

「だめですよ、この結界内から出るとたちまち、怨霊にとり殺されてしまいますよ?」

 容赦しない光栄の態度と自分の周りにいる鬼たちに中将はビクビクする。
 鬼たちの表情と光栄の底意地の悪い表情が重なる。

「じゃあ…ど、どうすればいいのだ?」
もう何もみたくないのか突っ伏して訴える。

「さぁ…あなたの汚れたお心が改まるまで…でしょうか? 心が改まるのが先か、あなたが、狂われ、地位も名誉もなくなるのが先か、愉しみなところですね…ふふふふふ」

「そ、そんなぁ~~~~!」
 
 光栄は倒れたままの氷を抱きかかえ、さっさと部屋をでていく。
 氷の意識は少し戻っていた。

(こいつ…北の方より末おそろしぃ…性格してんじゃねーか……?)

 と心の中でつぶやいたのだった。


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2014/01/01 (Wed)

愛しきものの想い

 老女房は語る。
 なぜ姫が鬼に憑かれたかを…
「姫様には恋人がおりました。名を近衛正樹様。
 藤原一門でなくとも有能で少将の位の殿方でございました。
 彼は身分が低かったのですが、宮家の姫さまに似合う殿方になるために頑張られたのでございます。」
 その一生懸命さと、お優しさに姫様も惹かれ、相思相愛の仲になられたのでございます。
 けれど、結婚する為には、
『まだ位が足りぬ、もっと昇進してからでない』

 姫様の父上様は正式な結婚を許さなかったのでございました。
 そんな時、賊盗伐の命が下り、正樹様は賊討伐に向われました。
 手柄を取れば、少将から中将に昇進できる。

『姫、この討伐で手柄をたて、きっと姫を幸せにしてみせる。だから待っていてくれ…』
『正樹様…あなたが無事に帰ってきてくださるだけで良いのです…討伐が終わったら
真直ぐに私のもとに…』


『ああ…必ず姫のもとに戻ってくるよ…』

 と堅い誓いをたて、賊討伐に出かけられました。
 姫は正樹さまを信じて待つ日々が続きました。

 そして、討伐が終わって凱旋の日、姫は正樹様をお待ちしておりました。
 けれど、正樹様はいらっしゃいません。

『正樹様…一体どうなさったのかしら……まさか…!』

 姫は正樹様に文をおくりました。
 けれど返ってきた返事は正樹様のものではなく、正樹様に付く従者のものだった。
 それに記された文面を御覧になった姫は深い悲しみに暮れてしまわれました…

 正樹様は討伐のさい、敵に討たれて亡くなられてしまわれたのでございます。

 私は姫の傷心ぶりを宮に話しました。

『そうか…姫はそれほどにも正樹殿の事が…おしいことを……』

 宮も正樹様が亡くなられたことを悲しく思われました。
 宮は正樹様のことの討伐の時の話を関係した貴族達に話を聞き姫に正樹の勇姿を聞かせてやろうと、父親心に正樹様に関わる話を聞きまわりました。


そこで、府に落ちないことを聞いたのです。

 藤原の大臣の息子が討伐で活躍する正樹様を妬ましく思い、どさくさにまぎれて、正樹様を殺したという噂を…
 大臣の息子で三十路もすでに過ぎていて、正樹様と同じ官位のその息子は藤原一門でもないのに若くして少将ということに妬みを持っていたのです。

 手柄はなくとも、討伐にでかけたことと藤原の大臣の息子だということで三位の中将という位についたのです。
 正樹様が今は中将となった男に殺されてしまったことを姫は聞いて、深い悲しみは、
激しく根強い恨みと変わり毎日恨み続け、夜風にあたり、鬼に憑かれておしまいになられたのです…

「そう言うことだったの…怨みの念が念をよび惨劇を呼んだのね…」
とその女房の語りを聞き葛葉は悲しく思った。
 父上がいった無念そのままだと、呪うのは呪わせるような悪いことをした者が悪い。
 そして、恨みを成就できなかった姫に悔しさを思った。


「けど、播磨の男ってどういう意味だ?」

 と頼光が問う。

「大臣の息子のことですわ…その男は現在、播磨にいるらしいのです。うわさが消えるまで播磨の地で隠れるつもりで大臣に命令されたそうですわ…鬼の身になったときに分かったことですけど…」

 姫君はまた恨みに満ちた目で答える。

「播磨の中将ねぇ…ふ~ん……」
 ぼそりと炎の光栄は独り府に落ちたようにごりる。

「許せませんわ!また、鬼に身をやつしてでもあの男だけは!あの男だけはっ!」

 姫はぎゅっとその恨みを拳に握りしめ、涙がぽろぽろと、こぼれ落ちる。
 その涙を優しい目に見えない、手が拭おうとする…けれど身のないモノがその涙を拭うことはできない…
 葛葉はハッと気付いた。その透明なもの。
 ふつうの者には目に見えない者…
 鬼の荒れ狂う風の中姫を守っていた人…

「姫…正樹様はいるよ…姫のそばにずっと…」

 憎しみ、恨みを握りしめる姫の拳を葛葉は開かせ、両手で握りしめる。

「今あわせてあげる…在光明現 前事真形…」
 呪を唱えると姫の目に移らなかった者が光となって形をつくり、この世にすでにいない愛しいものの姿になる。

「ま…さき…さま…?」
 姫は驚きのあまり目を見開いて正樹を見つめる。
 正樹も姫が自分を見てくれていることに驚いたが、すぐに、愛しいものに向ける優し気な笑顔になった。

「姫…もう…恨みを持つのは止めなさい…姫のためにも……
オレの所為だな…姫をこんなにも窶れさせてしまった…すまなかった」
 愛しい姫のやつれた姿を悲しそうに見つめ頬にふれる。
 頬に生前生きていたころと同じようにふれる正樹の手の上に姫の手が重なる。
「いいえ…いいえ!悪いのはあの男っ…」

正樹は姫の恨みの言霊を吸い込むように唇を奪った。

「姫…約束をしてくれ…もう人を恨むまいと…美しかった姫が窶れて、恨みに心を汚すようなことは…見たくないのだ…健やかに…幸せに生きてほしい…」

「いや!あなたがいない幸せなんてあり得ない!あなたがそばにいてくれなければ…」
 
 涙ながらに激しく正樹を見つめながら訴える…正樹の体を掴み、抱き締めようとしても、通り抜けてしまうこの世にはない愛しき者…ならば、自分もこの世のものにな
らずにあなたのそばにいたい!
 その真剣で悲しい表情に、正樹は困ったようにだけど、優しく見つめていう。

「姫はこの世に生きていてほしい…それにオレはずっと姫のもとにいる…姫を守っている…姫の目にはオレが見えなくてもずっとそばにいるから……おれと同じモノにな
ろうとはせずに生きてくれ…」
 
姫を納得させるようにいい終えると、葛葉の呪によって姿が見えていた正樹はまた消えていく。

…声も聞こえなくなる前に

「姫…愛してるよ…ずっと…そばにいる…」
 くり返しつたえる。

「正樹様…わかりました……私も愛しております…いつまでもずっと……」
 光はだんだん細くなり消えた…

「これで一件落着ね…」

 葛葉は疲れたように正座を崩し、後ろに手を尽き安堵のため息をつく。
 呪は力を使い、体力を使う。葛葉はとても疲れたが、晴れ晴れとしたスッキリした気分だった。
「ううううっ!いい話だったなぁ~葛葉~正樹殿は男の中の男だぁ~!」

 と顔中、涙と鼻水に濡れなから、頼光は感動している。
 頼光の目にも呪が消えたとたん消えた。
 葛葉は力を使ってしまったため、今は見えないがきっと、姫のそばに正樹はいるだろうと思った。

「葛葉ちゃん良くがんばったね。初仕事、お見事だったよ。頼光君もね」

 炎の光栄はニコニコしながら二人を誉めた。



「だけど、鬼を退治したのは結局、光栄様よ?」
「それでも、一番大事なところ…恨みを浄化させること。そこは葛葉のお手柄だ。偉い偉い」
 炎の光栄は葛葉の頭を撫でた。
 撫でられてとても嬉しく満たされた気分になる。

「僕もそろそろ、炎に意識をもどさないとね。」
「ええええ!もう帰っちゃうの!?もう少しお話したいよ!」
「僕も葛葉とお話したいのはやまやまだけどね。
炎も氷もへとへとだし、僕にはもうひと仕事あるからね」
 
 仕事というところを強調した。

「仕事? 仕事があったのに私達のこと手伝ってくれたの? 
迷惑かけてごめんなさい!」
すまなそうに葛葉は光栄に謝る。

「謝らなくていいよ、共通した仕事だったから」
「共通した仕事?」
「そう、例の中将からの依頼」

ニッコリと可愛らしい炎の表情でいうから一瞬分からなかったが、ハッとして思いあたる。

「中将ってまさか!」
「しっ!」
 
 炎の光栄の手に口を塞がれる。
 光栄はその男を助けるための依頼を受けたのか?
 興奮して疑問を口にするよりも早く。

「ちゃんと、懲らしめておくからさ!」
 
 と言うやいなや、炎はバタリと抜け殻のように倒れた。

 けれど、すぐに弱々しくも上半身を支えながら立とうとするが、疲れ果ているようで、尻をつき後ろに手をささえにして仰け反ろうようにすわる。


「光栄様ひどいよ~!いきなり意識を奪うし! 僕達も一応鬼なのにあんな、鬼を散らす呪を放つなんて! 氷から聞いてるはずなのに…晴明様から頂いた額の五芒星がなければ僕達も昇天してたよ!もう!それでなくても疲れるというのに~~~!」

炎は立つ力はなかったが、怒りを口にする力はあるらしい。

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2014/01/01 (Wed)

鬼現る!いざ鬼退治!

 鬼女は完全に姫に離れたわけでははく、足もとが姫の背に根付いている感じだ。
「これを切ればいいのか?」
 鬼の足下を頼光は指さす。
「ええ」

 頼光は鬼切丸を水平に振りサパッと鬼の足を姫から切り離した。

 斬られた途端、鬼は結界の中を勢いよく回り始め、突風のようなモノが結界の外にも伝わってくる。

 風を起こして結界を壊そうとしているようだ。
 葛葉はその激しく外にまで伝わってくる結界の姫は無事かと見ると風に巻き込まれることもなく横たわっている。
 何かの力に守られている…

「なぁ!こんなモノさっさとやっつけた方がいいんじゃないか?」

 結界の近くにいる頼光は強風に煽られないように踏ん張りながらいう。

「それもそうだけど、すぐにやっつけなくてもいいわ!」
「中にいる姫が危ないじゃないか!」
「姫は大丈夫みたいよ…それより…」

 父の言葉が心に引っ掛かる。
「父様がいったのその鬼の立場に立ってみると、あまりのも無念だと思わないかって…だから聞きたいの!聞いてあげて成仏するならそれにこしたことはないでしょ?」

 と父の言い付けを守ろうとする葛葉。

 そして、結界で暴れ回っているものに声をかける。

「どうして恨んでいるのか、どうして姫に取り付いたのか教えて!」

 葛葉は鬼に問う。
 鬼は動きを止めずに答えた。

「ワレラト同ジ気持チ…思イ…仲間ダカラダ……コノ女は私達自信…同ジ者…」

「同じって何が?何が同じなの!」

「悲シミガ同ジ…同ジ念…男ヲ怨ム念……ハリマの男ガ…憎イ…」
グルグルと回り続ける。その声も濁った声音。

「播磨ねぇ…」

と光栄は呟いた。
なにか思い当たることがあるといった口調。
「光栄様なにかあるの?」

「まぁね…」

 そういうことか……
 と口の中でつぶやいて、葛葉の瞳を見る。
 葛葉が心に引っ掛かってることを言う。

「それよりも、晴明様が言ったことはごもっともだけどね。
無念なのは死んだ者がいう台詞だ」

 葛葉は首をかしげる。光栄の言葉がすぐに理解できない。

「この鬼は死んでいない鬼だから話を聞いても仕方ないと思うよ」
「死んでない?ってどういう意味?」
「正確にいえば、思い…人の心の吐き出した念の固まり。
霊に近いがそうでもない。言霊だ。京の都の中を巡る念」

 葛葉はわけが分からなかった。
 だが、京の都は守護された結界の都。
 父が施した結界のようにグルグルと巡り外には出られずにいるのと同じということか?
 その間に同じ思いや、念を吸い取って、鬼になっていく。
 それが、この鬼なのだと思い当たった。

「話を聞いても無駄ってことはやっつけてもいいてことだな!?」
「そうだ。頼光君、好きなだけ、やっつけてもいいよ。」
「おお!やってやるぜ!」

 刀を結界の幣紙に当たらないように垂平に構える。
 そして、回っていた鬼の念が刀に当たり真っ二つになる。

 が、消えない。
 
 ずっと構えたままで、鬼は何体も分裂していきキリがない。
 腕が疲れてきた頼光は、光栄に訪ねる。

「いつまでやってれば…いいんだ?」
「好きなだけやっつけていいよ。でもいつまでやってもキリがないけどね」

 炎の光栄はニコニコ穏やかなまま答えた。
 光栄さま、もしかして頼光で遊んでる?
 と、こんなときでも余裕な光栄様はさすがだと葛葉は素直に感心する。


「光栄貴様~~~~~!」

 頼光も遊ばれていると気付き怒りが湧いてきて頼光は刀を勢いよくおろしたが、下ろしたところが悪かった。

「あ!結界が!なんて事するのよ頼光!」

縄が切れてしまい結界が解けた。

「憎イ! 憎イ! 憎イ! 男タチガ!!」

 突風が洞くつの中を吹き抜けて聞く時の音と同じような音と共に念鬼は勢いよく結界から出ていき、部屋の中で暴れまくる。

「道具トシテシカ見テイナイ男ガ!苦シメル男タチガァァ!」

 鬼切丸でバラバラになった念はまた一つになり葛葉に襲い掛かる。
 呪を唱えようとしたが、念鬼のほうが早かった。
 葛葉めがけて突進してくるのを頼光の鬼切り丸が閃き念を切る。
 だが、斬っても斬っても消えない。
 増えるだけだ。
 鬼は葛葉を狙っていたが、頼光の方に標的を変えた。

「オ前モ!大人ニナッタラ私達ノヨウナ者ヲ増ヤス男ニナル!」

「俺はならん!!」

 正直に応えバサリと切る。
 二つになった念鬼は葛葉と頼光に同じに襲い掛かる。
 頼光は葛葉を守るために自分が傷を負う覚悟で前に立ち鬼念を斬る。
 葛葉も自分の周りに結界を張るのに手一杯になる。

切れば切るほど増えていき、二人を回り囲った。
やがて、念鬼は一人に標的をしぼる。

「私タチノヨウナ者ヲ増ヤサナイ為ニモ、オ前ヲ殺シテヤル!」

 一気に頼光に押し寄せる。さすがの頼光も防ぎきれない!
 葛葉は護身の呪をかけた光りの壁も耐えられそうにない!
 護身の呪の結界にヒビが入り、崩れた。

「散妖伏邪急急如律令、逐怪!!」

 炎の光栄の呪文が念を消した。
 炎は鬼と同じ気の持ち主。

 鬼にとって生身の生を感じない炎を見のがしていた。
 二人が囲まれているすきに式には耐えられない程の退魔の呪文を唱えて二人を助け、鬼も消した。

「ワレラハ…コノオモイハ消エヌ…永遠ニ……」

 念はバラバラに塵とかした。



「一件落着だね」
と光栄は吐息を吐く。
「光栄様凄い!一発でやっつけちゃうなんて!」
「それほどでもないよ」
「こいつ今まで高みの見物してただけじゃないか! さっさと消せるんだったらけせよ!」

「呪文を唱える時間稼ぎが欲しかったんだ。頼光君が時間と念の気を引いていたおかげだよ。」
そんな風にいわれると怒る気が少し和らぐ。

「ま、とりあえず。助けてくれてありがとな」
そんな二人をみた葛葉は微笑んだ。

「…ん……?」
姫が気がついた。

「姫様!」
 今まで隠れていた老女房が姫のもとに駆け寄る。

「姫様が気付かれた!姫さま!姫様」
「ここは……私は何を……?」
 葛葉も姫のもとに行き。
 まだ微かに残っといる障気を払ってやる。

「今まで鬼に憑かれていたのです。鬼に憑かれる心当たりが姫にありますか?」

 念鬼は姫と同じ気持ちだから取り憑いたと言った。
 だから聞きたかった。
 姫は宮家の姫。

 捨てたり捨てられたりされるような身分ではない。
 それなのに、念鬼に憑かれたのだ。
 そこが不思議に思った。

「心当たり……?」

「男に捨てられたりとか…裏切られたり…」

 姫は首をふる。
 だが、思い当たることはある様子で、悲しい表情を葛葉に向けた。

「愛しい人が、遠くへ行ってしまったの…殺されてしまったの…それで鬼に憑かれて
しまったの…」

 姫の目から涙が溢れだし嗚咽しはじめた。
 とても悲しいく辛いことを急に思い出したせいだ。
 
「詳しい話は私が…」
 姫の背を優しく摩りながら、姫の代わりに老女房が語り出す。

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2014/01/01 (Wed)

鬼に憑かれし宮姫


「こちらが姫様のお部屋でございます。」

 女房は簾を上げて、姫の部屋に葛葉と頼光と、牛車を止めてきてから葛葉の後をついてきた、式神の炎を中に入れた。
 呪力のあるもの意外は炎は葛葉と同じ子供に見える。

 葛葉は部屋に入った瞬間うっと口を押さえた。

 倒れそうになって頼光に寄り掛かる。
 葛葉を頼光は押さえて心配そうにいう。

「どうかしたのか…葛葉?顔色がわるいぞ…」
「だって…あれ…」

 葛葉が指で示した方向には姫が苦しそうに眠っている。
 姫の周りには鬼を封じる護符が五芒星の位置に置かれた御幣と共に貼られ、頭もとに祭壇が用意されていた。
 昨日父晴明が行った封印と準備だった。

「すごいな…やっぱり晴明様だな」
 と綺麗に整えられてある祭壇をみて頼光は感心したが、本当は違うのだ。


 葛葉が示したのは頼光程度の霊感では見えないもの。

「部屋中に…ち…血が飛び散っているの…」

 姫の部屋は大量の真っ赤な血が壁という壁に激しく飛び散った感じにこびり着いてい
る。
 この血は殺してきた男達の魂の呪縛。

「えっ!?」
「頼光には見えないわ…」
「みえるぞ!うん!こわいな!うわあー」

 頼光は嘘をつく。
 葛葉と同じモノをみたいから。
 なぜか頼光はこんな時にも意地になる。
 そんな頼光の様子に葛葉は苦笑した。

「もう…大丈夫、ありがとうね頼光」
 葛葉は気再び気を締め、心を落ち着かせ様とする、がなかなかこの無気味な感じは取れない。
 鬼の気配がビンビンと伝わる。この鬼の気は陰の気。心の弱いところに影響する。
 こんなに近くに、しかも頼光と2人だけで鬼退治をするのは初めてである。

そんな自信のなさが、鬼の気に捕らえられそうになる…

 祭壇の前で葛葉は祈祷を始める。
 祝詞を唱え、姫に憑いているモノを剥がすための呪を唱える。
 姫は身悶えし苦しそうに唸る。
 だが憑いているモノは中々出ていかない。

 父から受け継いだ能力と教わった呪文は間違っていない。
 だけど、自分には無理なのではないだろうかと徐々に不安になってくる。
 父は葛葉にもできる仕事だといったが、本当にこれを一人で(頼光をいれて二人になるが)できるのだろうか?
 こんな気持ちじゃ祝詞を唱えても効果がなく、鬼の気の影響か、

「私一人じゃ心細い…やっぱり…」

 いつにもなく弱音を吐いてしまった。
 自分でもしまった!影響去れてると焦る。
 焦れば焦る程状況は悪くなるのに…

 そのとき、葛葉の肩をぽんぽんと炎が叩いた。


「僕のこと忘れていない?」
「炎?」

 父の式神はそれは役に立つだろう、けれど、祝詞は唱えられない。
 式神も鬼と実際はかわらないからと思ったが、その思いを理解してか炎は首を 小さく振った。

「違うよ、僕は光栄」
「え!?」
 葛葉は驚いた。
「炎に魂を移したんだ。葛葉は一人じゃないよ。安心しなさい。葛葉を守ってあげるから」

 葛葉はとっても驚いた。
 声も懐かしい許嫁の声だ。
 嬉しくて心強くて炎をぎゅっと抱き締めた。
 姿形は違うが、炎から感じる気配は光栄のものだった。

 光栄のいる播磨では同じく祭壇が置かれていた。
 葛葉がいる宮姫が結界にいるように播磨の邸では結界の中にいるのは中将だった。
 中将はぶつぶつと、文句をいっている。
 久々にゆっくり眠れているところを光栄に遠慮なしに起こされ、強引に浄めさせられ祭壇の中央に座らされて不機嫌である。
 自分の身を守ってもらう為とは言え、安心を確保した今は位のない光栄に不満を漏らしている。

 光栄は氷の肩に手を置いたまま動かないのを良いことに文句をいっているのだ。
三流陰陽師だの、大臣になったら二度と京に帰れないようにしてやるとか聞こえよがしに言い放つ。
 それは、光栄に十分届いている…

 京の宮姫の邸でも頼光が炎の光栄に文句を言った。
 抱き着いてる葛葉を無理矢理退かして炎に詰め寄る。

「あのなー葛葉を守るのは、この俺、源頼光さまだ! 播磨にいるお前に何ができるんだ!」

 炎の襟元を掴み掛かりながら怒りをあらわにする。
 頼光は葛葉に喋っているのは今朝がた盗み見た会話するだけのものだと思っている。

 だが違った。

「頼光君も守ってあげるからねー」
 と自分より背の低い、炎の式神光栄に頭を撫でられた。
頼光は光栄を殴ろうと思った時、尋常じゃない気配を感じた

「ハリマ…ハリマ…アノ男ガイル播磨…」

 地を這うような無気味な声を出したのは結界の中で寝ている姫のものだった。
 姫は手も使わずにぐわっと上身を起こす。

 そしてその背後からは邸の外で見た禍々しい気が流れ出ていた。
「ハリマ…アノ男ガイル……許セナイ……許セナイィィ!!!」

 姫は結界から出ようとして弾かれた。
 姫は苦しそうに呻く。
「さ、葛葉、姫と憑いているモノを剥がすため呪文を続けよう!」
「はい!じゃあ、頼光、姫に憑いているモノが出てきたらその刀で姫と切り離して!」
「おう!」

 頼光は刀を構えて、姫の背後に近い場所に移り準備万端整える。
 炎の光栄と葛葉は祭壇の前に声をあわせ呪を唱える。
 姫は苦しそうに体を激しくうねらせる。

 尋常ならない動きだった。
 だが、その動きとともに憑いているモノが浮き上がり、鬼女の形になっていく。
 そして、姫は動きを止めカクリと首を俯かせ、背後に鬼女があらわれた。


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2013/12/16 (Mon)

異様な邸

 そこは大きな邸だった。
 葛葉が住んでいる一条戻り橋の邸よりはるかに大きい造りの邸で、身分の高さがうかがえる。
 今上帝の弟の宮様の邸である。

 宮の娘の姫が鬼に憑かれて、今世間を騒がしている鬼の根元だという。
 葛葉はぶるっと肩を震わせる。

 父、安倍晴明に付き、いろいろ邸を回ったことがあり、無気味な気配は慣れていたが、
 このように強い渦は初めてである。

(安倍晴明の娘である私がこんなことでびびってどうするのよ!気をしっかり持たな
いと!)

 顔をふりつつ自分を戒め気をひきしめる。

 そっと頼光の手が葛葉の手を握りしめてきた。
 そして、自分の胸のところに重ね合わせたてを持っていき真剣な顔で葛葉を見つめる。
 業とそういう形に頼光は持ってきたのである。

「なぁに……?この手は…?」

 葛葉は不機嫌な声でいった。
 頼光の意図が見えたからだ。
 案の定頼光は
「葛葉こ…こわいのか?」
「なにが?」

 葛葉は手を上下に思いっきりブンブンと手を解こうと振払おうとしてたが、頼光は離そうとしない。

「鬼が怖いのであろう?俺が手を握ってやるから安心しろ」

 いかにも男らしい台詞を言う。
 だが、声は震えていた。手も冷たい。
 葛葉はニヤっと意地悪く笑う。

「そーいえば頼光も少しは見えるんだったよねー鬼とか幽霊とか」
「あう!」
「あんたの方が怖がってるんじゃないの?」
「そんなことは…な……ないぞ!」
「どーかしら?それにしても手が冷たいんだけど?」
 その言葉に頼光はパッと手をはなした。

 男の自分の方が怖がって、好きな葛葉にこれ以上に怖がっているのを知られるのが恥ずかしくなっったからだ。

 ギギギギっと門がいきなり開いた。

それはとてもこの邸の雰囲気にあった無気味な音だった。
 頼光はさっと驚きの余り葛葉の後に隠れた。

「あんたね!私を守ってくれるんじゃなかったの!?」

 葛葉の声も上擦っていた。
 門から出てきたのは老女房と門衛だった。
 その老女房の皺くちゃの顔と白髪をみて頼光は叫んだ。

「鬼ばばぁだぁーーーうっ!」

 葛葉は頼光の腹に拳を入れて黙らせた。

「失礼なこというじゃないわよ!あー見えても人間よ!」
「失礼な童どもめ……」
 と老女房は怒りを静かにあらわしていた。

 門衛たちは苦笑した。

 門衛の一人が葛葉が乗ってきた牛車の家紋を見て安倍家のものだと分かり、牛車を中に通してくれた。
 老女房は葛葉たちを見て少し驚いた。

 安倍晴明自身ではなく子供2人だけだったからだ。

「あ、あの!私は、父、安倍晴明の代理で参りました葛葉と申します。
そしてこっちは……」

「清和源氏、源満仲の息子、源頼光ともうします」

 頼光は片膝をついてなれたようにお辞儀をいた。

「晴明殿からはお話を伺っておりまする。どうぞ中にお入りくださいませ」
 老女房は、ふーっと、ため息を吐いた。本当にこんな子供を寄越すとはと困ったように呟いた。

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2013/12/15 (Sun)

初仕事の緊張の朝

 翌朝、晴明と光栄は、式神を通して遠い土地から話していた。

話す様子は電話みたいな感じで、自分が喋ったことをそのまま式神がその人物の声で言葉をとおす。

 晴明がことの次第を光栄に詳しく説明した。



「そう言うことだからよろしく頼むぞ」

「はい分かりました。でも、葛葉一人で本体の方をやらせて、平気でしょうか?」

「それは大丈夫だ。頼光君も手伝ってくれるよ」

「なお、心配なのですが…」



 光栄は声を低くして心配そうに言った。



「まあ、いつでも式神を通して連絡できるから助けてやってくれ。……ってそろそろ出仕しないと遅刻をしてしまう…ではな…光栄」

「あ、ちょっと!晴明様まだお聞きしたいことが!」



 一方的に晴明は連絡を途絶えた。



「切られちゃったよ…まだ聞きたいことがあったのに……」

「なんか…その台詞、平安じゃないぞ…」



 自分の意識に戻った氷がいった。

「そうか?」

「うん」



と氷に言われて、光栄は顔をかきながら、照れた。

光栄は顎に指を当てて困ったことをつぶやく。



「連絡だけじゃ…葛葉を助けられないよな…いくら何でも…」

晴明はいそいでいて、肝心なことを忘れていたようだ。

だが、氷がその点は氷がフォローする。

「それは、大丈夫だ。オレ達を通して魂を乗り移らせればいいことだ。そうすれば、炎になって光栄は葛葉たちを助けられる。」



 その言葉に光栄は驚きと感嘆の息をもらした。



「へぇ~さすがは安倍晴明様の式神だ」

「だけど、あんまり術とか使われるとオレ達疲れてしまうから…って、光栄!」



 光栄はその言葉は聞かずにテキパキと祭壇の用意をした。

 鼻歌まじりで…その鼻歌は…かずかに、葛葉の名前の音が含まれていた…



「こいつって………」

氷は白い目で光栄眺めていた…



「あれ~?父様は~?」



 葛葉は寝坊け眼で、父を呼ぶ。

 興奮して眠れなかったため、寝るの遅れ、起きるのも遅れた。

 そのため、父はいなく、光栄と連絡を取るところにも立ち会えなかった。

 単衣の姿をした葛葉は炎に着替えを頼みながら、今日の仕事内容を炎から聞く。

 それは宮家の邸にいき、鬼を払うこと。

 昨日、父が結界を張ってあるので後は鬼を引き出し、退治をする。

 だけど、昨日父のいった言葉。



『やっつけちゃえばいいとか、退治してしまうのは簡単だけど、その鬼の立場に立っ

てみると、あまりのも無念すぎると思わないかい?』



 その言葉を理解はするがどうその無念を思ってあげればいいんだろう?

 と考える。



 ……思うだけいいのだろうか?

 その無念をはらすなら望みのまま動かさせればいいことだ。

 だけど…それは、人々が困ること。

 それを止めるのが父や葛葉がやろうとしていることなのに…



「本当に私できるのかなぁ…不安になって来た…」



 やっぱ父様がやった方がいいんじゃないかな…と自信がなくなってきた。

 そんな葛葉を見て炎は慰める。



「葛葉ちゃんの手に負えないものなら晴明様がと?くに仕事を終えているよ。

だから大丈夫。光栄さまも手伝ってくれるしそれに…」



「俺様もいる!」

 

 少年の声がどこからか叫んだ。

 

「う、わああぁ!」

 

 中庭の木から少年が落ちた。



「頼光!」



 左頬に紅葉のように赤い平手の後をつけた少年が葛葉のもとにかけよる。



「どうして、邸にいるのよ!」

というか、また塀をよじ登ってきたんだろうな……と思いながらいつもの台詞をいう。



「君の父上さまに頼まれたからさっ!

俺って信頼されているな~はっはっは!」

 

自信たっぷりで、胸を張り言う。

 しかも、君とわざというところが臭い台詞っぽく葛葉はうんざりとした。





「光栄様も頼まれてるんだけど?」



 うっと頼光は言葉につまった。

 だけど気を取り直す。



「播磨にいるんじゃ何もできないじゃないか!」

「頼光だって何もできないじゃないの!」



 確かに、遠くにいちゃ何もできないと自分でも思ったが、他人にいわれると腹が立 つので言い返し冷たいめで頼光を見下ろす。

 だが、頼光はめげなかった。

それどころか自嘲の笑みをした。

 腰につけていた自分の背よりは頭一つ半くらいの低い刀剣を葛葉に見せた。



「なにそれ?飾り刀?キラキラした石が多いのねそんなんで何ができるというのよ」



 刀には北斗七星の形をした紋章に宝石が星の位置にうめてある、豪奢な刀だった。

 星の色は、赤、青、黄、緑、紫、黒、白の小さな宝石だ。

 けれど、飾り刀はしょせん飾りであるが、その刀には異様な力の気配がした。



「これは、退魔の太刀で『鬼切丸』っていうんだ。」

「鬼切丸って頼光の父様の刀じゃない!勝手に持ち出してきたの?」



「いいや!晴明さまから頼んでくれたらしくて今日一日貸してやるといって預かってきた」



 頼光はニコニコしている。

 なかなか触らせてもらえない神剣をかしてもらい、それを使えるのもうれしいのだろう。

 鬼切丸を葛葉も頼光から貸してもらい持ってみる。

 この刀はとても重かった。

 先程木から落ちたのはこの刀の重さゆえバランスを崩したせいだろう。

 それを、頼光は軽々と持つところを見ると初めて感心した。

 頼光も剣術は何度か見せてもらって信頼はある。





 ちょっと自信を失いかけた葛葉でも頼光がそばにいてくれると少し頼もしいかなと思った。



 そんな、葛葉を頼光はここぞとばかりに格好の良い台詞を考え言う。



「この刀で葛葉…お前を守ってやる…命にかえても…」



 ふ…決まった!

 これで葛葉は自分に惚れると思ったが、



「ねぇ? 炎、車の用意はできてる? 札は? 」

「はい全て整えてあるよ」

「じゃ、行こう、炎」

頼光をまるっきり無視して牛車の方へ向かうため渡殿を通っていた。



「ちょっと、まてよ~、待ってくれよ~!」

 頼光は急いで葛葉を追った。



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2013/12/13 (Fri)

愛しの君の光栄

ここは播磨。波打つ海の音が気持ちがよい…

砂浜にはきれいな貝殻が落ちている。

巻貝が半分砂に埋まっているのも京にない風情がある。

そんな播磨の海岸を光栄は歩いていた。





「この地から離れるのか…離れがたいな…」





夕日が海に接して紅い…そんな海を見つめていた。

父、賀茂保憲に従ってこの地に訪れてから随分とたつ。

京には年に二、三回は帰っていたが、ついに帰るが来るとは…

長年この地に住んでいたのでこの空気や、風景がとても好きだった。



京の空気より、景色よりこの美しい土地…だから離れがたい。

そんなことを考えながら、歩いていた足に貝殻がぶつかった。

その貝を手にとり見つめながら思う。





「葛葉をここに連れてきたかったな…きっと、大喜びで砂や海で遊んだだろうな」





幼い許嫁のやりそうな行動を想像してくすりと笑う。

光栄は本当に浮気の心配のない青年だった。ただちょっとロリコンなだけかもしれないが。





「光栄様ーーーー!」

葛葉のお土産に貝殻を拾っている時、従者が光栄を呼びにきた。

「なにかあったのか?」





従者が光栄のたつ砂浜までくると息を切らせながら告げる。





「保憲様のお呼びでございます。何やら貴族がまえられていて…光栄様にその貴族のことを任せるとのこと。」

「貴族が?」





なぜ貴族がこんな播磨の地に来ているのだろう?



と思いながらも、邸に向かった。



邸に着いたころにはもう夜空だった。

貴族は一段高い位置に円座を敷き座っていた。

歳は三十、位は中将。



そして、藤原姓なのである。



その男はガタガタと震え、燭台の明かりを受けてみえる顔は青ざめている。

そして、光栄は机の上に紙と墨と筆を用意して、その貴族の用件を聞いていた。

貴族は声を震わせながら話す。





「毎日恐ろしい夢を見るのです。昔通っていた女が出てきて…その女は鬼の形相で…手と口は血まみれで…あ、あらわれて…『今度はあなたを食ろうてやる!』と高笑いをしながら追い掛け私を喰らおうとする夢なのです…恐ろしくて恐ろしくて…」

その夢のことを思い出したのか目に分かる程の震えをした。



そんな中将とは反対に光栄は無表情の冷静な態度で話を聞くふりをする。





「そうですか……ですがなぜ、この播磨の地に?京には晴明様やなだたる陰陽師、祈祷師がいらっしゃるでしょうに…」





「それはその…父上が…いや…恐ろしくなったのだ!京には私が捨てた女が何人もおる…京を離れれば女達いや…鬼に殺されずにすむとおもって…いや…だが…夢は消えぬのじゃ…今も私を追って播磨まできているのかもしれん…ですから、助けてほしくてまいったのですのじゃ」





恐怖にかられているためか、言葉数が多く、言葉もかなり乱れている。

光栄はその用件をすらすらとそのまま紙に書き写していく。

書きながら光栄は自業自得じゃないか…と思っている。

浮気をして女を捨てる方が悪い。



好いた女なら捨てることをせずに妻としてくらせばよかったのだ。



光栄は自分は浮気などしないたちなので、こういう男が許せなかったりする。





「わかりました。なんとかいたしましょう。」

「本当ですか!?」





用件を書き終えた筆を置き額をおさえて光栄は大きくため息をついた。

とても面倒だという態度がありありだとそばで控える光栄の従者ははらはらするが、中将は逆に大柄な態度は自信の表れだと思って心強くかんじたらしい。







「その夢の原因の鬼をどうにかするためには京との連絡が必要だと思いますので時間かかりますよ?」

「ど、どのくらいですか?」

「3,4日ってところでしょうか?」

「そ、そんなに!それまでに私は殺されてしまう!」





いきなり光栄に抱きつき懇願した。





「大丈夫です。この札を邸に貼っていれば夢は見ませんし、鬼も現れません。



それと念のためこの邸に泊って下されば問題ないと思います。



だから、抱きつくのはよしてくれませんか!」

思いっきり貴族の体を引き剥がした。

札を渡すと、従者に部屋へ案内するように命じ、手を叩きながら光栄は貴族より先に部屋を出てていった。

従者は、相変わらず態度のわるい…と思ったが、注意もしなかった。









光栄は父保憲のもとに訪れて文句をいっていた。









「父上が依頼をお受けになったらよかったのだ」

「私は忙しい。もうすぐこの地を離れる準備をしなくてはいけないからな」





書物の棚を整理しながら保憲は言う。









「その言葉…一週間も前にも聞きましたが…」

「荷物が多くて整理しきれんのだ」

その言葉も聞いたきがする。





「そういえば葛葉の君に文を送ったそうだな。」

「父上の所為で遅くなると書いておきました。」





恨みがましく言う。まるで子供の態度。

そんな光栄を保憲は精神年令は葛葉の君と同じだなとおもった。









「ああ、そうだ、鬼女の件に関する文が晴明からも来ていた。」





懐から文を取り出し息子の前に放り出す。





「それをしっているなら……ん?」





光栄は文を手に取った時、簾の向うで何を感じた。

人間ではない気配。

そして尋常ならぬ息切れの音…ゼイゼイという…苦しそうな息遣いだった。

光栄がその何ものかを調べるため簾を慎重に開けてみるとそこには…





「お前は氷ではないか!どうしたのだ!」

氷は手にた文をフルフルと腕をあげ光栄に差し出す。

「これを…葛葉…から…」

光栄がそれを受け取ると、氷はパタリと気絶をした。





「そろそろ、播磨に文が着いたたころかな?」



葛葉は夜空を高欄に寄り掛かりながら見つめている。

葛葉の側には手のひらにわずかな光として燭台のようにほぞぼぞと火を灯している式神の炎が、苦笑いをした。



「死にものぐるいで飛んでいったからねぇ…着いたと思うよ」



氷は今日中までに播磨に文を届けなかったら、帰ってきた時に母様の刑に処されるので、

葛葉が文を書き終えた後すぐに必死に飛んでいったのだ。

葛葉はその時の氷の様子を思い出して、うふふふっと笑った。



「何がそんなにおかしいのかな?葛葉」



その人物は足音を忍ばせて、渡殿を渡り葛葉のいる東の対(葛葉の部屋)まで来た。

この人物はいつも葛葉を驚かせるために忍ばせて渡ってくる。

葛葉は満面の笑みでその人物を見る。



「おかえりなさい!とー様ぁ!」



ぱっとその場を立ち上がると、父、安倍晴明に抱き着く。

この時代の姫はそんなことはしないのだが、この家の家風は世間ととてもずれている。

スキンシップ旺盛な父子はしばらくお互いの温もりを確かめた後、幸せいっぱいな顔を見つめあいながら、家族の会話へと入る。



「父様、今日も遅い帰りなのね。仕事が大変だったの?」

「とても大変だったのだよ。

とても疲れたけど葛葉の顔を見るだけで疲れが吹っ飛んでしまった」



もうすぐ40になるとは思えない程とても若々しくて美男な晴明の顔は父の顔になっている。

葛葉はとても若く見えて美男でとても優しい父がとても大好きで自慢だった。



「そういえば氷の姿が見えないが…どうしたんだ炎」

「それが…播磨まで使いにいっています。葛葉様の怒りを買い北の方様の刑になるのが嫌で…とでいきました」



「そう…か…」

(可哀想に…氷…。)

と哀れんだ。



晴明も北の方自分の妻の式神に対する恐ろしさを知っていたからだ…

「そんなことより!どんな仕事だったの?もしかして今世間を騒がしている。鬼女の仕事?」



「良く知っていたな~葛葉は世間の噂に聡いな。」

「だって父様の娘だもの~」

実際には頼光に聞くまで知らなかったのだが…その事は口に出さない。



「そうなんだよ。鬼女に怯える公卿たちに祈祷をしにまわっていたからね」



「たいへんね~」

ふぅ~と自分が疲れたような仕種をする。

そんな、葛葉の仕種が愛おしくなって頭を撫でる。



「大変なんだけど、鬼の根元をたてば、怪異はなくなるんだけどね」

「その根元はみつからないの」

「見つかったよ」

「じゃあ、さっさとやっつけちゃえばいいのに」



晴明は苦笑いをした。そして優しく言い聞かすように葛葉に話す。



「葛葉…やっつけちゃえばいいとか、退治してしまうのは簡単だけど、その鬼の立場に立ってみると、あまりのも無念すぎると思わないかい?」



葛葉はハッとした。

人を脅かすのはとても悪いことだけどそれにも理由がある。

男達の身勝手な振る舞いで鬼になる。悲しみを怒りで我を忘れてしまうのは、その男達の所為なのだ。



「なるべく、その鬼の心もくんであげるのが陰陽師というより、人としてやるべきことだ…」

葛葉は自分の考えの浅かったことを恥じる様子でうつむき頷く。

そんな娘を『偉いぞ』というように優しくなでてやる。

「でだ。この仕事…葛葉がやってみるか?」

「え!?」

突然父に思ってもいなかった言葉をいわれて、一瞬意味が飲み込めなかったが、その言葉の意味をりかいする。



「え~~~~~~!それって私が祈祷とか鬼退治をするってこと!」

「うん。前々から、葛葉もやりたがっていただろう?」

「やりたかったけど…私一人で?」

「一人じゃないよ。光栄もきっと手伝ってくれるよ」

「光栄様も!?」



ぱぁあと葛葉の頭は有頂天になっている。

光栄様と一緒に……

だけど、光栄は播磨だ。

それでどうやって、一緒にできるのだろうか?

その疑問が過った時、晴明は炎に話し掛ける。



「氷とは連絡できるか?」

「それが…何度もためしたのですが、氷は気を失っているらしくって…」



炎は困ったように言った。

「まったく。氷ってば役立たずなんだから!」

晴明と炎は苦笑いをして葛葉を見た。



「それでは仕方がない、明日連絡をとるとするか」



葛葉は寝床に入っても、興奮のあまりなかなか寝つけなかった。

初めて自分の成果を試せる。

そして何より光栄と一緒に仕事をすることが嬉しくてたまらなかった。





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2013/11/11 (Mon)

事の始まりの風

時は平安時代。
貴族社会は位をあげるために自分の娘を帝の妃にしたり、身分の高い姫のもとに通い位を極めたりする。

能力がある公達を退いて出世し、栄華を極め、邪魔な貴族たちを不幸に陥れたりした…

陥れられた男は鬼になり都に災いを起こす…
身分低い女と愛しあい、一緒に暮らしたいといっていた男が出世に目を暗み女を捨てる。
捨てられた女はそうは知らずに男を待ち続け、それを知った女は

怒り悲しみ憎しみ鬼となる…

その思い…鬼たちは呪う念の姿にかえ風に運ばれていく…その風を念風という。
念風はめぐる都を巡る…そして同じ思いを持つ者に憑き鬼へと変化させていく…
一人の姫が念風に憑かれた。
姫は風にあたった瞬間バタリと倒れた。

「姫様!?」

姫付きの老いた女房は慌てて姫のもとに駆け付け抱き起こす。
姫の長く美しい髪が顔を遮り隠している。

「ドウシテイッテシマッタノ…ドウシテ……ワタシヲノコシテトオクヘ…正樹サマ…
ドウシテ……」

悲しい悲痛な声…愛おしい者をなくして悲しく思うそんな声だった。
だけど、突然激しい怒り声になった。

「コノウラミハラサズニオクベキカ!」

姫は今はいない誰かを力いっぱい掴むような手付きで、空をつかみそのまま倒れた。
顔は何時もの姫に戻っていただが…姫の周りに不吉な影の気配は消えなかった。
女房は我にかえり、姫をそのままにしてしまったが、恐怖が先立って助けてくれるものを呼ぶ。
「だれかー!だれかー!早う陰陽師を!姫が鬼に憑かれた!」

あの人はかえってこない…私を置いていってしまったから…

必ず私のもとに帰ってくると笑顔で私告げたのに…わたしはまっていたのに……



希代の陰陽師の娘☆葛葉姫☆

 平安時代それは平和な世とは裏腹に、夜ともなれば百鬼夜行という物の怪たちが京を練り歩き、すきあらば疫神が京に被害を起こすため侵入しようと虎視眈々と狙っていた時代。

 都を守る役目を担う希代の陰陽師安部晴明はある事件で邸を留守にしていた。

 その留守をまかされていた一人の少女は昼の京同じように平和で暇な生活を送っていた。

「あ~~~あ~つま~んな~い!」

ゴロンと寝転がり、読みかけていた絵巻ものを足で蹴飛ばし、絵巻ものは広がっていく。

 広がっているのは絵巻以外にもある。

 囲碁の石は散乱し、父からもらった見本の札を清書していた紙は紙屑として……
 見事な散らかしりぶりである。

すべてが暇でたいくつで今の葛葉には何の興味も示さないものだった。

葛葉は今年で10歳になる少女。
ふつうの姫ぎみと異なっていた。

長い髪は高く上の方に縛り上げ、赤いリボンをしているし、桂を着て楚々として深層に隠っているような服装もしていない。

 葛葉と同い年くらいの男の童がきるような狩衣をき、括りばかまではなく足首の高さまでに切った緋色の袴をはいている。
 まるで白拍子のような姿。
 だが、葛葉はその服装が一番自分に似合っていると思うし、なおかつ動きやすいのだ。

 「父様はこの頃は忙しくて陰陽師の術とか教えてくれないしー」

 またゴロンとする。
 その動作をしながら、日当たりのよいところまで転がっていく。

 日当たりの良いところまでいくとぬくぬくして気持ちがよい。
 大の字になって空をあおぐ。

「それに…光栄さまからお文もまだこなーーーい!つまんなーーーーい!」

 不満を大声で叫ぶ。一番の不満は愛しい許嫁からの文が来ないこと。
 もう1週間も前に出した返事がこないのだ。そこらへんは恋する姫ぎみそのものだが態度はまだまだ子どもだった。

 「まったく…はしたない姫君だな~はしたない上にだらしのない……」

 父の式神で葛葉のお付きをしている『氷』が散らかした部屋を見て呆れた声をだした。

「うるさいわね!氷!あんた達が片付ければいいことよー!私は今不機嫌きわまりないの!」

「母親そっくりだな…そーゆーとこ…」

「うるさい!母さまの刑にするわよ!」

うっと氷はつまった。
無言で葛葉が散らかした部屋を片付ける。片付けるからそれだけは止めてくれと態度で示した。

「あの~葛葉ちゃん機嫌の直るお薬が届いたよ」

もう一人の式紙炎がニコニコしながらそういった。
炎は懐から文を取り出し葛葉の前に差し出す。


「光栄様からの文が届いたので持ってきたんだけど…」

「え!ほんと!」

バッと炎の手から手紙を取り文を読む。

 光栄様とは葛葉の許嫁の晴明の師匠の息子の賀茂光栄である。
 賀茂家の嫡子で晴明と同じぐらいの呪力の持ち主で今年で十九になる。
 その許嫁を葛葉はとても好きで恋をしている。
 顔いっぱい嬉しい顔をしている。
 さっきの不機嫌さは吹っ飛んだようだが、今度は悲しい顔になった。

 その表情の変化をみて、心配になった炎と氷は葛葉に問いかける。

「なんてかいてあったの?」

「なんてかいてあったんだ?」

手をフルフルさせながら、涙声でいう。

「光栄様…播磨からなかなか帰って来れないかも知れないって……」

「仕事なんてあの光栄様のことだもの、すぐに終わらせて京に帰ってくるよ」

 炎は気の毒にと思い、慰めの言葉をかける。
 だが、氷は逆に意地悪くからかうように言う。

「案外播磨に女ができて浮気してたりな。葛葉みたいな子供より大人の女性の方がいいに決まってるしー」

 葛葉はキッと氷を睨み……

「母さまの刑決定……」

 氷の顔は血の気の引いた顔をして冷や汗をかいて土下座しながら謝る。

「ごめんなさい!ごめんなさい!葛葉様の可愛らしい婚約者がいたら浮気なんて滅相もございません!」

「北の方って相変わらず恐ろしいものね…」

 炎も青くなっている。
 北の方、葛葉の母親は式神にとってとても恐ろしい存在なのだ。

「わかればよろし!そのかわり、播磨まで私の文を今日中に届けてもらいますからね」

「は………い……」

(播磨ってかなり遠いいよな…今日中って)
「さーてと早速文をかこーっと」

散らかった部屋の中から文箱と机を見つけだし文を書こうとしたその時。

「くずはー!遊びにきたぞ!遊んでたもれ~」

 顔や手足にかすり傷をつけた少年源頼光が葛葉の部屋までかけてきた。

「遊んでたもれ葛葉」

 声はとても弾んでいて、もしお尻に尻尾がついてたら、はち切れんばかりに振ってい
るんだろうなと思う程元気な男の子だ。

 葛葉はそんな頼光を見て呆れた顔をした。

「あんた、どこから入ってきたのよ。家の門は無かったはずよ」

 晴明が留守の時は必ず門は邸にない。

 呪力によって消されている。

「そんなの!愛の力で入れたに決まってるだろ!
光栄はすんなり入れるだろうけど呪力なんて持ってない俺は愛の力で高い壁を苦労しながらもよじ登りつつ、葛葉にあいたい一心でここまでたどり着けたのだ!
凄いだろ~愛の力って!」

頼光は武勇伝のごとく語る。

 葛葉は呆れた。
 
この邸門がなくてもこのようにして、入って来れるなんて、もっと他の対策を父にとってもらった方がいいなと思った。

 この少年源頼光は武士の頭を勤める清和源氏の源満仲の息子である。

 葛葉と同い年で邸も近所だ。

 そのため幼馴染みでお互い知らないことは無い。

 葛葉はただの幼馴染みだと思っているが、頼光は葛葉に恋をしている。

「僕達はさがろうか?氷。」

「そうだな。」

 二人の式神は下がろうとしたとき、葛葉がドスの聞いた声で氷を呼び止める。

「文届けわすれたらどうなるか分かってるわよね…」

(うっ…しつこい…本当に北の方似だな…)
と氷はつくづくおもった。
「葛葉、鬼の女が出たって話を知ってるか?今京を騒がせているんだぜ」

「えーーまた出たの?今度はどんな鬼?」
 
怨霊が跋扈するこの時代、この手の話は尽きることはないのだが、世間の噂と言うのは大事な情報源でもあるし、世間話のネタにもなる。

 二人はいつものように高欄に腰掛けて、葛葉は頼光の話を聞く。

 話の内容はこうだ。

 鬼が現れたのは中納言の邸だ。
 中納言は自分の邸に使える女房と浮気をしているころだった。
 仲睦まじく夢心地に包まれていた時いきなり、鬼女が現れ、中納言の頭をワシつかみにし、中納言の体を真っ二つに引き裂いた。

 その鬼女は気がすんだように、ふっと笑うと消えたそうだ。

 次の現れた所は権少将のところ。中納言と同じ殺され方をした。
 あと他三名。五人とも共通点があった。

女遊びが好きで北の方やそれまで付き合ってきた女達を捨てたり、弄ぶことで有名だった。


そして、この頃は都中の男は女遊びを控えるようになったらしい。
「へーそんなの自業自得てところでしょー女にとって正義の味方って感じでいいと思うな。」

「そうかー?正義味方だったら人殺しはしないだろ?」

「あんたは男だがらそういうのよ。とーぜんの報い!」

「じゃあ、光栄も男だろ!」

葛葉はひとさし指をたててチッチッと指をふる。
そして自信を持って断言をした。

「光栄様は特別。
光栄様はそんなことはしませーんだ。
光栄様は私のことを愛してるんだもの」

頼光は意地悪したくなった。
好きな女の子から他の男の名前を呼ばれるのは、あまり気に入らない、しかも恋のライバルのこととなればなおさらだ。

「光栄だってわからないぜ大人の男だし、遠い播磨で浮気して鬼女に殺されていたりしてな!」

「お前こそ殺されろ――!!」

バァチン!!
という頼光の頬を叩く音が都中に響き渡った……


つづく

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2013/10/30 (Wed)
実は月化草の葉と根、茎をほんの一欠片削るだけで用は足りるものだった。

 そのことを知って、自分を試した罰と悪口いった罪として、グレイにジュカ猫を押さえてもらって鼻ビンタを思いっきりくらわせてやった。

 魔薬研究室に戻ると、早速薬を作りにかかった。
 出来上がった薬は茶色と黒色のマーブリング…とても下手物な色……ジュカは顔をしかめる。

「ねえぇ…・・・これ本当に飲めるの?」
「ああ…これを飲めば我は人に戻れる」

 ジュカの声は嬉しそうだ。

「うーん………」

 ジュダは、いつも懐にかくし持っている、七つ道具の香辛料を手にとって良い事を考えた。

「ねえ…人間に戻った時、服がないと大変でしょ?
 グレイ、ジュカを連れてって服を選んで来てよ」

「それもそうだな…苦しゅうない。グレイよ、我の服選びを手伝え」

「そうですね。人間に戻って変態魔王の称号をジュカ王子から貰いたくないですしね」

「・・・さすがジュダの側近じゃな・・・」
 無害なようで口が悪いと印象を強く持った。

「ん? 誉めても何も出ませんよ」

『誉めてないんだが・・・』と口に出すことはあきらめた。
猫に生まれてからあきらめが良くなったなとジュカ猫は自分を評価した。
「とにかく、服選びをすまそうではないか」
 
 グレイとジュカ猫は揚々と部屋を出ていった。
その好きに、ジュダは調味料を入れて味付けをしてしまった。

 戻ってきた時、ジュカ猫のために薬を豪華な皿にもり飲ませた。

 色はそのままでも味はとても美味しかった。
美味しい為、全て飲み干したジュカ猫は急に体中から煙りが出て煙りが治まった頃にはネコの姿ではなく人の姿に成っていた。



その姿は、黒い髪とても長く星をちりばめた煌めきが夜空を思わせるほど美しく床に着いた髪はしなやかな美しいのうねりのようだ。
 
そして、人間のジュカはジュダより少し年上に見える。

 顔はさすがジュダの先祖だけあってどことなく似ているが、人を魅了する凜とた美しさが備わっている。

「やったーーーー!成功!」

 ジュダは両手を上げて喜ぶ。
 目に涙まで浮かべている。

 「王子より神々しい感じがしますね!」

 グレイはジュカの姿や雰囲気が一瞬で高貴な者だと感じて感動で両手を組んでいる。

「なんだって?ぐれい~?」
 すかさずグレイの頬をつねる。
 ジュカ猫に再び視線を戻し

「どう?黙っていないで人間になった感そう言ってみてよ!」

 ジュカは声はそうだと思い、いざ何をいうか迷った。
 取りあえず撥音から…
「…に…にやーーーぁ……?」

 声が猫の泣き声?

「ん?」

 三人はキョトンとする

「にや!にゃぁあ!!ん!」

 ジュカは一生懸命人間の言葉の撥音をちゃんしても猫の鳴き声しか聞こえない。

 ジュダにどうなっておるのだ!?と言ってみても猫語である。
 ジュカにも猫の言葉で自分の耳に届いている。

 ジュダはジュカが猫語を喋って思ってジュカの長い髪を引っ張る。

「ふけてんじゃないよ!ほら、感想…」

 ジュカも苛立ちが頂点に達して、髪を引っ張る手を払い除けて、ジュダの頭をひっぱたいた。

 つっ掴み合いの喧嘩になりそうなところをグレイが間に割って入ってそしする。

「王子…もしかして失敗したんじゃないでしょうか?」

「えー?」

 と、疑わし気にジュカをみると煙りがボムっと体から湧いて、猫に戻ってしまった。

「おまえ……薬になにいれた…」

 とてもドスの効いた怒りが感じられる声…
 猫の姿に戻ったら喋れるらしい。

「え……?ジュカの教え方が悪いんじゃないの?」
「いや…味が良すぎた…味付けしたんだろう?」

 そっぽをむいて口笛を吹いて誤魔化し始めたジュダにジュカ猫は飛びかかり容赦ない爪がジュダを襲う!

「だって僕のポリシーが許さなかったんだモン!薬だって美味しい方がいいジャン!!」

「開き直るなバカ王子!!魔薬作りほんと才能ないな!!
教えた通りにすれば出来るのに余計なことしおって!~!!」

「王子は人と違ったことをするのが好きですから諦めるんですね…」

 グレイは苦笑して嗜める。

「そうそう!同じことしてたら未来なんか変わらないからねーははははは!!」

「そんな調子だといつまでたっても魔法使いになれないぞ!」

「それなら君も人間に戻るのむりだね~ま、気長にいこうよ。人生さきは長いんだからさー」
 そういうと、ジュカは研究室から逃げた。

「待てこのぉへらずぐちがぁ~~~!!」

 ジュカ猫は王子を追い掛けて引っ掻き大げんかに発展した。
 グレイはその様子を今度は止めずに見て呆れたが、ホッともした。

 王子の願い。

 同じ過ちをくり返さないために、魔法を使えるようなるのはまだまだ魔法を操れるようになるのは当分先のお話になりそうでですが、ジュダ王子夢は一歩ずつ進むのでした。

「あ、今度は猫の耳だけ残っちゃった」
「かわいくていいんじゃないですか?まぁ変態がつきますが」

「おまえ等・・・我で遊んでいるのではあるまいな・・・?」

★終わり★

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2013/10/30 (Wed)
ジュダ王子の金髪だった髪が、亜麻色…きらめく星を散らしたように輝く魔力の光を宿した髪…それは魔法使いの証。

「僕を導く者はいないんだ…こういう命に関わる時にしか発動しない…
 僕を殺そうとした者も、僕の無意識の力で消してしまった。
 この力を制御できる方法を教えてほしいんだ・・・!
 そして、この力を民の為に役立てたい!」

 ジュダの印象としたのほほんとした顔ではなくて真剣に悲しそうな表情でジュカに訴える。

「……その力を持っているなら…また我と同じことをくり返すことが多くなるではないか、ごめんだ!
 魔王の復活なんぞ・・・」
ジュダには魔力も何もないと思っても、自分と似ているところがあるし、早いうちに芽をつぶしてしまおうと思った。
 魔力があるならきっと過ちを繰り返す。
 自分と同じように力に溺れるではないか。
 けれど、少しジュダが無事で安心している自分がいて自分自信にも戸惑っている。

「だから、僕は王位敬称権がないっていってるじゃない。 だけど民のみんなに僕の魔力を認めてもらいたいと思ってたんだ…・・・ジュカが言った『皆を助けるなんて傲慢』って言葉はそうだなって思った。
 それが傲慢につながるなら、本当に困っている人だけを助けることにする」

 そう拳をつくって空を見てジュダは決意した。

 決意されてもこっちが困るとジュカ猫は思った。


「ジュカがやって後悔したことは自分もしたくない」
ジュダは岬にトンっとつま先を着けると風はおさまった。
金髪に戻る。

「まずは、君を人間の姿に戻して、僕を救くうことから始めよう。
…後悔はやり直すことで希望に変わると僕は思う。
 そして僕にも希望をちょうだい?いいでしょ?」
 無邪気に明るく屁つら笑いでそう言うジュダの言葉にジュカ猫は苦笑した。

「お前…民のため、我のため言って置きながら…自分の為の事しか考えてないな」

 ジュダはそんなつもりはなかったけど、考えてみたらそうかも知れない。

「自分がちゃんとしないんじゃ本当に他の人の望みも叶えられないでしょ?」

「へらずぐち……」といい鼻でフンと笑う。

 不安な気持ちで成り行きを遠くで見守っていたグレイのもとに、人間にする材料を持ってジュダとジュカ猫はどこか打ち解けた雰囲気で戻ってきた。

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2013/10/30 (Wed)
 太陽は炎の灯火を地平線に沈ませ、闇を連れてきた空には鋭い刃を連想させる月が船のように月化草停泊しているように見える。
 その月を目指しながら歩いているような不思議な気分だ。
 その足下には人の歩調に合わせて歩幅に二歩ほど前を歩くジュカ猫。
 ジュカ猫は先を歩きながらも、ついてくるか確認するようにこっちをちらちらとふり向くが、しっぽが下の方に激しくふっている。

(来てほしいのか来てほしくないのかどっちなんだよ)

 とジュダは思う。

 崖岩に根が一体化するように織り込まれるように張っているため、ゴツゴツとして躓いて横へ倒れたら一貫の終わりなので、慎重に歩いている内に月化草に辿り着いた。

 実際に近付くと平均的な青年男性の胴体の幅ほどのグレイの体の幅ぐらいの茎だった。

 大きく見えたのはその3倍に茎が螢の光りのように放っているからだ。

 ジュダは月化草を見上げてウ~ンと唸った。
身長は自分の三倍ある高さだ…自分一人じゃ引っこ抜けないし、切り倒すのも難しそうだ。
 けれど、出来ないといいたくない。

「あれって…引っこ抜けるの?本当に抜いちゃっていいのかな?」
 と強がっていってみる。口には出さないが、

(これを観光にやってくる人がいるなら残念がる人が何人出るか…)と思う。
ジュダは実際見たこともないが、満月の夜に神々しい光景を観て喜ぶ民達の観賞用のスポットをジュダは奪っていいのか考えた。
 しばらく黙って考え迷っているジュダにジュカ猫は人を嘲るような口調で言う。

「魔法使いになりたいのだろう?
 私を人の姿に戻さなければ魔法使いになる夢は叶わぬぞ?それでもいいのか?」

 逆に猫の姿のままでいいのか?とジュダは言ってやりたかったが、もし、それでもいいと言い出したら困るので言わなかった。

「うん……じゃあ…しかたないよね」

 ジュダは迷っても一方を捨てる決断力に優れていた。
 捨てたモノに後悔はあってに選んだ方に何か希望があるとおもう。
 けれど、判断力はともかくとして…
 岩が根に張り付いていていて抜くことは到底無理。
 どんな方法で抜いたら良いか、考えるより言い出した猫
に文句を垂れる。

「ねえージュカーこれ絶対抜けないよ!!茎もでかすぎるし!切ってもって……っ!」
 ジュカ猫がいる足下に目を向けたがいなかった。

 ジュカ猫は助走をつけて、ジュダの頭に勢いよく蹴りを入れた。
 その反動でジュダの足は岬の先端から踏み外した。

「な!なにするんだよ!!」

 とっさに月化草にしがみつく。

「お前の望みをいってみろ…」

 ジュカ猫はジュダを見下ろす。

「望み…・・・!?魔法使いになって国のために力を尽くして民達を幸せにしたいっ…痛っ!!」

 ジュカ猫は思いっきり手を噛み付く。

「それが・・・気にくわないんだよ…」

 ジュカ猫は困惑するジュダを金色の細い目で見下ろし 声を低めて憎々し気に言い放つ。

 ジュダはジュカ猫の言っている気に食わないというのは力に関してだと理解した。
 ここまで導いておいてこの仕打ちはないと思う。

「なんで?ジュカはその力で民を救って導いたじゃないか!
 いくらその力が恐れるものだとしても皆の役に立つ力だったって僕は思うもの!」

「皆を救おうなんて大それているんだよ…幸せや不幸は人それぞれ違うモノ…なのに何が救うだ?
民は魔力で解決することを望むと思うか?」

 ジュカネコは自分を責めている様にいう。
 ジュダは落ちまいと両手のみでしがみついている苦しさより、ジュカの苦しみを感じた。

「悔いてるの?自分がしてきたことを」



ジュカ猫が前世人であった時、魔法を使って、他国や自分の国の民を恐怖に陥れた。
これは『魔王』と敬われた真実。

「ああ…そのため…我は皆から見放された…」
 ジュカ猫は三日月を眺めるが、それより遠い過去を思い出しているようだった。
 
 ジュダはジュカ王のことを誰よりもしらべて憧れていただけにジュカが思っていることが分かるような気がした。

 
 ジュカ王は他国の魔法使いに殺されたという伝説は幽かだが残っている。

 民達が頼んだ魔法使い。民達の望みは王の死。
 戦争に狩り出される民達が増えないように…
 もうこれ以上戦争はしたくない…という民達の望みだったという。

 ジュカ王は領土を増やせは皆幸せになると信じていた。
 
 けれど、目的に情は存在していなかったのかもしれない・・・

「お前は同じだ…この月化草だって民達のわずかな愉しみの一つだ。
 それを迷いなく奪おうとする…その性格も何もかも我に似て腹が立つ。また同じ繰り返しをしようとしているお前が・・・」
 遠くへ、視線を向けていた金の瞳のをジュダを憎々し気に見下ろす。

 それは、自分に憧れていたジュカが企みを知り、どんな表情をしているか確かめるためだった。

 恐怖か、怒りちらした顔か、助けをもとめ情けない表情をしているか・・・・・・

「・・・ジュカと同じだね・・・」


 けれど、どれも違った。

 ただ悲し気にこちらを見ている。
 悲し気に微笑んでいる。
 仕方がないというように、その顔を見られたくないのか、地上を見下ろす。

「僕も・・・同じ繰り返し…したくなかったんだ・・・」

 声が締め付けられる、だから弱々しく声を絞り出すようにジュダは言った。

「なに?」

意味が分からない。くり返そうとした癖に何をいってるんだ?

「僕が魔法使いになりたいと思ったのは魔王…君のことを知ったから…」

「我の所為だといいたいのか?」

 ジュダは首を少し横に振る。
 もっと否定的に大きく振ったらバランスを崩して落っこちそうで出来ない。

 ジュダはジュカ猫に視線をあわせて訴える。

「僕はそんな魔法使いにならない…違う道があるんじゃないかと思って、同じ魔法使いになりたかった!」

 ハッとする。
 そんな考え方をしていたなんて思いもしなかった。

「それに…自分の未来を教えてくれる先生がほしかった…」
 微笑んで自ら手を離す。
「!?」

「僕の本当の望みは……」

 落ちていくジュダの言葉はその言葉までしか聞こえなかった。

「ジュダーーーー!!」

 ジュカ猫は闇に落ちていくジュダに身を乗り出し叫ぶ。
 悲鳴にも似た声。
 このままジュダは死んでしまうのか……?
 いや再び民に最悪を与え殺される自分の子孫を見たくなかった。
 だから、ここで殺すつもりだったが・・・
 自分の思っていたジュカの望みと違うらしい。
 それに自ら手を放し、『先生がほしい』とはどういうことなのだろう…
 自分がけしかけて、望みどおりの展開になったが、ジュダの最後の言葉と微笑みがジュカ猫の心に後悔が生まれる。

 あの時と同じに……民に殺められた時のように…
新たな後悔の念に苛まれた時、突然下から上にかけて突風が吹く。

 あり得ない風向き。

 風はだんだん緩やかになり、上からジュダが降りてくる。
「ジュ…ジュダ……?」

「僕は不思議な力を持って生まれた…だから、みんな君の生まれ変わりだと思われて…殺されかけた事があるんだ…」

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2013/10/30 (Wed)
「ごめん。ジュカだって民のこと思って魔法に手を出したんでしょ?
 戦争始めるまで、偉大な王だって言われてたって本に書いてあったよ。」

 自国の祖先の王が悪く言われるこの国で、ジュカは幼い頃、数少ない異論者の文章を見てジュダは魔王のことを尊敬し、自分もそれに近い事をしたいと思って、人に役に立つ魔薬を作る研究をしている。

「さあ…だが、偉大さは恐怖に変わる…だから我は魔王って言われていたのだからな…それをお前はぶり返そうというのか?」

 ジュカ猫はジッと金の瞳を縦に細めて、その視線にジュダは少し気おされた。

「いや…そんな権限ないし。ただ興味があるんだよ。それだけ。なに怒ったように言っているの?」

「別に怒っておらぬわ…」

 ジュカから視線をはずし、ジュカ猫は、ふぅ…とため息を吐いた。

 なぜか雰囲気が湿っぽくなったのでしばらく皆だまっていたが結局ぶり返すのはジュダ王子。

「ジュカってイメージ違うよね。もっと横暴でえばり散らす、わがままな王様って感じだと思ってた。意外と冷静沈着なんだね」
 ジュダは、あははと笑い悪びれずに冗談めかしていう。

「そのイメージはお前自信だろう?」
 ジュカ猫はニヤっと笑ってバカにして返してやる。
 グレイも頷く。

 その言葉にジュダはすかさず指で輪っかをつくる。

「くらわせられたい?」
 にっこり微笑んでいうからなお恐ろしい。
 やはり、横暴さは自分自信だろうとジュカ猫とグレイは思った。

 夕日が西に沈もうとしていた。

 岩をのぼり切ると、細い岬の先端部分に月化草がほのかの光を放ち月が夜に向けてハッキリと現れたところだった。

 シーズンじゃなくても幻想的な光景にジュダとグレイは圧倒された。

「すっごいですね…」
「おおきぃ…船の先端みたいだね」

「それをお前は持っていかなくてはならんのだぞ」

 ジュカネコはグレイの腕から飛び下りると、さっさと月化草に向かって歩き出した。

 先端部分は太いと思われたが崖の部分から月化草の根っこが岩に巻き付くようになっていて、頑丈増だけど、意外と細い。
 ひと一人が渡れる程度で足場は悪い。

 ジュダたちが下で見た時は横から見たものだったので、細いとは思わなかった。
ジュカ猫はグレイの腕から降りて茎の付け根まであるきふりかえる。

「ここから先はジュダだけで来い」

 そう命じる。

 
「王子!やっぱダメですよ!こんな細いところを渡なんて!危険な事はさせられません!」

 グレイは王子の腕を掴み止める。

「王子の命が最優先です!猫を人間にしなくてもいいじゃないですか!
 猫は猫のまま喋れてもべつに命に関わりませんが、王子の命は大事です!」

 ジュカ猫は、フン・・・とバカにするように鼻で笑う。

「ここまで来ておいて危険な目もないだろう。それともジュダは恐いか?」

「ううん?こわくない…よ」

 ジュダは足下をみて語尾を少し濁した。

「だけど、僕、どうしても魔法使いになりたいから、行ってくる」

「王子!魔法使いなんかに成らなくてもいいじゃないですか!
 王子は王子ままで民を救えますよ!」

 なおさら、ムキになって止めるグレイにジュダも剥きなる。

「王子のままだけじゃダメなの!魔法使いにならなきゃ……僕の望みなんだから!」

 ジュダは真摯な瞳をグレイに向ける。

「っつ!」

 グレイはそんなジュカにドキリとする。

 滅多に見ることのない有無を言わせない表情だったからだ。

 バッとグレイの腕を払って、月化草の方に歩みをすすめた。

 ジュカ猫は二人のやり取りを首を傾げて見ていた。

「ナニ意味不明で深刻な事なふうに言っておる?
私が人の姿なるか、なれないかの問題だろうに…」

「そうだよ~ん。だから深刻なの!行ってくるネ、大人しくそこで待ってるんだよ、グレイ」

 グレイの方に向けた顔は微笑んでいたが、作り笑いだとグレイには分かった。

「王子…御無事で……」

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2013/10/30 (Wed)
「あれが月化草…?」

 大きな森の中に、大きな岩が船の先端のように突き出ている。
 そこに、月へ向かうようにいくつもの、先が丸るまった茎のようなものが、月を目指して、伸びていた。
 
 現時点、村の入り口から森まで距離はあるが、それでもかなり、大きく見える。
 実際はどのくらい大きいのだろうか…

 月化草は観光名物らしく、満月に向かって、草がのびていく特徴があり、それは月への道を示すかのように輝き、幻想的な光景が見られるという。

 現在は細く輝く三日月なので、草は仄かに弱々しく輝いて見える程度だ。

 ここの管理をしている村長に王子の権限でその月化草を採る了承を得た。

「採るといっても何処から摘み取るおつもりですか?」

 突然の訪問と申し出に冷や汗をかきながら中年で小太りの村長は王子に尋ねる。

「う~ん・・・」

 そこまで考えていなかったジュダはグレイに抱かれてるジュカ猫の方を見る。

「根元からだ」

 とジュカ猫は答えた。
 猫が喋ったと村長が度胆を抜いたかとちょっとわくわくして反応をみたが、グレイが喋ったのかと思われ驚きもしていなかった。

 村長はそれだけは御勘弁ぉぉ!と泣きつくわけでもなく、

「ああ…道の方は観光客も訪れられるようになっておりますので、森をすぐに抜けられますが、月化草に続く道は根元が所々に突き出ていて危のうございますので御注意なさってくださいね。」
と快くおくってくれた。

(二人だけであの月化草を切れるはずもない)

 と思っているからかもしれない。
 採ってきたら今度こそ度胆を抜くかも知れないと思いジュダはバカにされた事に仕返しはしなかった。

「王子、俺一人で先に取りに行ってきましょうか?」
森を抜けるみちを行きながらグレイは言う。

 王子の側近兼護衛たるもの、王子に危険なことをさせるのは避けたい。

「いいや、月化草は少しでも魔術の知識があるものがよい。その知識を活かして魔術を理解し、草の力も理解できる。理解できぬ者が持ってしまったら、魔草は力を発揮できなくなる。
だからジュダにやらせるのだ」

 村長の言うとおり、岩の管理人や岩を登る事が趣味な民たちが自ら、足場を築き誰でも訪れられる観光スポットになっている。

 ただ、近付かないのは月化草へ続く岬の道だった。
 遠くから眺める観光が目玉にもなっているらしい。
 その道をジュダ王子達は慎重に歩いて岬を目指して歩き時には登る。
 自分では面倒な道は歩きたくないジュカ猫はグレイに抱かれて、ふと王子に聞く。

「どうして魔法使いになりたいんだ?」
「国のみんなを幸せにしたいから…」
 王子の視線は月化草をじっとまじめに見つめながら答えたが
「に、きまってるじゃん。」

 おどけてジュカ猫に屈託無く微笑んだ。

「そうか…だがな…魔法の力は決して良いものではない…」
「御先祖様のジュカはそれで死んだから?」
「王子!そういうことは遠回しに言葉を選ぶように…」
 遠慮知らずのジュダ王子をグレイは嗜める。
 例え猫でも今は人と喋れる相手なので気を使うものだと思う。
「今は猫として生きているからな。グレイの気使いは無用だ…死んだといわれても…実感は湧かない。」
感慨もなくジュカ猫はそういった。

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2013/10/30 (Wed)
 目的地は月ミチの村。
 そこにある月船の岩といわれる場所似向かうために馬車を走らせている。
 人に戻るためにはミチの村にある森に囲まれた大きな岩崖の頂点に咲く月化草が必要だという。
 月の変化を見つめ続ける草という意味で、月の光を浴びた草は姿をかえる力を持つという伝説の草。
 その草を手に入れるためにジュダ王子とジュカ猫とグレイはお忍びで城を出た。
 と言っても、ジュダはもともと第四王子で継承権もない。
 王子だと敬われても何をすることもない。
 だから咎める者もいないから遠慮なく禁忌とされている魔術研究に没頭していたりする。
 
 正直咎められたい、気にとめて貰いたい、と思ってもいる・・・
 あの日以来ジュダを恐れる親族や家臣達に囲まれてしまっている・・・
 
 馬車に揺られ、ジュダはうとうとし、眠った。
 眠って見た夢は昔の夢。
 あれは…僕が5歳のとき…近隣の国からきた年老いた老人とあったときのこと…
 恐ろしい憎いものでも見るかのような目つきで僕を睨んだ。
 王宮の薄暗い物陰のような場所でいきなり捕まえられてあの恐ろしい目を間近に見て、恐怖におののいた。

「どうして…生まれたのだ!?」

 幼いジュダは突然首を閉められる。
 いわれのない恨みの恐ろしさを幼い頃のジュダは鮮明に覚えている.

 だから夢でも現実に思える。
 老人とは今日、父王の謁見の間で会ったばかりなのに、そう、わけが分からないことを言いなおさら首を強く絞めてくる。

「お前はまたあの悪夢をくり返す者なのか!?」

 やめて!やめてよ!くるしいぃ・・・・・・

「あの悪夢を再び繰り返す前にお前を!!」

 くり返す?何を?とにかく助けて…
 くり返さないなにもしないから……
 助けて…誰か……

   ガブ!

「っ…!」

 指先に痛みが走り、ジュダは目が覚めた。

「もうそろそろ着くぞ。うなされている場合ではない」
 ジュカ猫がジュダの指を噛んで起こしてくれたらしい。
「ジュカ…ありがとう。お礼をあげるね?」
 指でわっかを作ると人差し指を勢いよく弾いてジュカ猫の鼻頭にあてた。
 
ジュカ猫はシャーーー!と口を大きくあけ、威嚇した。

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2013/10/30 (Wed)
「ニャー!って言ってないもん!どうして今まで黙っていたの?」

 猫は黙る。
 何か考えているように目を閉じ、暫くして目を開くと同時に耳を一回ぴくりと動かした。

「たぶん、お前がかけた薬を飲んだ所為だな・・・」

 最初戸惑い顔だったジュダの表情が笑顔になる。

「……じゃあ、僕の実験は成功したんだ!やった!!」
「王子さっき黙らせる薬作って失敗したって言ってましたよね?」

 すかさずグレイは王子につっこみをいれた。

「失敗は成功のもとなの!」
 ジュダはさらりと言い換えてしまう。

「本当に我の声が聞こえるのだな……」
 しみじみと嬉しそうにいう。

「うん。その口で、僕のこと侮辱したこともね」
 ジュダは素早く猫をかかげ、グルグルと激しく回転する。
「な!なにをするぅぅぅ!」
「その口許せないから薬をはかせてやる!」
「王子にあんまり逆らわない方が身の為ってことを覚えていた方がいいぞお前」
 グレイは同情したようにその光景を見ている。
 ジュダ王子はプライドをちょっとでも傷つけられると悪戯めいた苛めをしたくなるのだ。
 それをグレイはよく知っている。
「ばか王子!我を、我を誰だと心得る!偉大なる魔王だぞ!」
「魔王~~~?」
 ぴたりと回転を止めて猫を見つめる。
 猫は目をまわしているが口は正常に動くようだ。
「王子なら知っておるだろう?魔力を持ってこの国を治めた王の事を…」
「それって…ジュカ王?」
 ジュダは猫を真剣に見つめて話を聞く姿勢を見せた。
「そうだ……その生まれ変わりが我だ…」

 ……その昔。
 魔力を持った王がこの国を治めていた。
 王はその力を使い近隣諸国を我がモノにしようと企んだ。
 王の名はジュカ。意味は呪歌。
 名の通り、呪文を歌うように操る力を持っていた。
 皆その魔力を恐れた。
 だが、一番その力を恐れたのは自らの民だった。
 民は隣の国の王に味方し王を裏切った。
 そして、魔力を操り国を栄えさせたジュカ王は隣国との戦いに破れ、命を落とした…

 魔力を操る魂は前世の記憶を覚えているという。
 再び生まれ来て復讐を恐れた鈴国の魔術師たちは、復活を防ぐために猫に転生をくり返す呪術をかけた…
というのが、魔王と言われたジュカ王……
 猫の話だった。

 その話を聞いた二人の反応を見てみるが無表情だった。

 ジュダとグレイはその話はとっくに知っていた。
 だいたいが昔話としてよく聞かされた話だから、二人の 反応はふ~んという素っ気無いものだった。

「なにか…質問は?」

 重々しく話したのだが、二人の反応がイマイチなので、味気なさを感じてジュカ猫は問うた。

 ジュダは手をピッと上に伸ばして質問のポーズをとる。

「今も魔法って使えるんですか?」

 目を輝かせてジュカ猫の方をみる。

「今は…使えない」
「なーんだ。喋れるだけの珍しい猫になっただけジャン!つまんない」

「王子つまんないとかそう言う問題なんですか?
喋れるだけでもたいした者じゃないですか。
この猫が伝説の魔法ってのはとにかくとして」

「人の姿をしていたら…お前達を儀式の贄にしてるところだな……」
 怒りを込めた声でジュカ猫はいう。

「じゃあ人間だったら…魔法を使えるようになるっていうの?」

 ジュダ王子は疑い深気なめでジュカネコを見下ろす。

「ああ…私の魔法は手で印を結んで唱えるものだからな。人の複雑の手じゃないと魔法は使えぬ」

 魔法にもいろいろ方法があって、魔王は印を結んで魔法陣の変わりにし、精霊をあやつる魔法などを使ったらしい。
 だが、昔話程度にはその事は語られていない。
 それに猫ごときがそこまで知るはずもない。
 今まで、自称ジュカ魔王猫の知識は人から聞いた物だと思って疑っていたが、その事まで知っているなら信じてもいいかも知れない。

「ふ~ん…じゃあ!人間になる魔法の薬を作ればいいんじゃないかな!?」

 ジュカ猫の言葉を信じたらしい王子にグレイはぎょっとする。

「王子!本当に猫のいうこと信じてるんですか?」

「ホントにジュカ魔王さまなら人間になる薬の作り方くらい知ってるよね?」

「ああ…知っているとも……」
「もし、人間の姿にしたら、僕に魔法を教えてくれる?そしたら人間にする薬を作ってあげる!」

 猫はピクっと耳を動かしてジッとジュダ王子を見つめ、しばらく考えてから、ニヤリと笑ったふうなネコの表情をつくり、答える。

「いいだろう。魔薬は教えた通りにすれば出来るものだからな……人に戻ったあかつきに呪術のすべてを教えてやる」
 ジュカ猫は目を細めて承諾したが、シッポは左右に振っていた。

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2013/08/15 (Thu)
どうして僕は、皆から避けられるの……?
 僕は………じゃないのに……
 また昔の夢を見てる…みんなが僕をおそれてる・
 またくり返すんじゃないかと…
 何を繰りかえすというの…?
 
 ある国に『魔法使い』に憧れる王子様がおりました
 
 
 ジュダ王子は城で見つけた魔法の研究室に入り浸り薬の調合をしている。
 
 今年で十四歳になる末の王子は深い海の色の瞳に癖毛かかった金色の髪は長く頭の天辺に縛り上げている、一目で身分のあるものだとわかる品性が漂っていたが、その姿は黒いローブ身を包み、まるで魔法使いのようだ。
 
 手にした瓶の液体は綺麗な紫色。
 けれど、ぐつぐつと煮えて気泡を上げる様は毒薬にも見える。
 
 そのなかに最後の調合薬を入れようとスポイトで吸い上げた時、後ろで机の上にあったビンが割れる。
 
「バカ猫がっ!よくも引っ掻きやがって!!懲らしめてやる!」
 
 王子の近衛を務めるグレイは猫に手を思いっきり引っ掻かれ、この研究室を住まいにしていた、ネコを本気になって追い掛ける。
 彼は長身で細身の体格だが近衛だけあって運動神経がよくまだ少年らしさが残るが凛々しい顔立ちをしてる。
 そんな彼の顔には猫のひっかき傷が三本赤い線になっていた。
 
 猫を捕まえようと広いが書物や薬瓶がひしめき合う部屋を遠慮なしに走り腰にさしている剣が壁にあったモノをひっくり返す。
 
 猫も棚に登って、ところ狭しと置いてある薬の瓶を遠慮なく落として計算したようにグレイの頭にぶつけるのだ。
 この研究室を見つけて以来何時ものことになりつつあるのだが、いいかげんジュダ王子も怒りを覚えていた。
 
「うっるさいっ!」
 
 そう怒鳴ると、今作っている薬を瓶に素早く入れてグレイと猫めがけて、投げ付けた。
 
「なっ!何するんですか王子!飲んじゃったじゃないですか!何かヤバい効果とか、ヤバいモンなんじゃないでしょうね!?」
 
 薬をかけられた事にグレイは恐怖を覚えて蒼白な顔で王子に詰め寄る。
 
 ジュダはその言葉を聞いて、うむ~と顎に手を置いて真剣に何かを考えてる風で
 
「黙らせる薬は失敗におわちゃったかぁ…」
 
 最後に、ちっ!と舌打ちした。
 
「だ…黙らせる薬って…どういう……?」
「だってネコとグレイうるさいんだモン!
どうして失敗しちゃったんだろー?」
 
 悪びれもせずにジュダはむしろ自分の失敗に腹が立っている。
 口調は子供で冗談のように聞こえるけれど、そう言う時こそジュダは本気の時が多い。
 
 そんな王子にグレイは頬をひきつらせ訪ねる。
 
「成功した時の対処法も考えましたか…?」
「え……?必要あるの?」
「お…王子…」
 
 グレイはそのまま黙ってしまった。
 ジュダの無責任発言に、効果があったらしい。
 
「また失敗か?いい加減に、自分の才能に気づけバカ王子」
「グレイ……?」
 
 ジュダはグレイを睨むが、けして俺じゃない!と必死に顔と手を動じに横に振る。
 
「確かに、グレイにしては透き通るいい声してたよね?」
 
 辺りをキョロキョロと見渡してみる。
 ここには自分とグレイと猫しかいない。
 
「ん?…もしかして……猫が喋っ…た?」
 
 ネコを注目する。
 横にしていた体をシャンとして座りジュダを見返した。
 
「私が喋ったのが、分かるのか?」
 猫は口を細かく動かしてそう喋った。
 ジュダとグレイは一瞬時が止まった。
 
「ええええ!!?猫!?」
 
 ジュダは時が動き出すとに大声で叫び猫の両脇を捕まえ抱き上げて見上げる。
「お前、喋れるのか!?」
「猫としては喋っていたが…人の言葉に聞こえるのか?」
猫も驚き問い返す。

★続く★
 

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2013/07/13 (Sat)
間だ見ぬ相手にドキドキする
間だ知らないあなたにドキドキする

どんなひとかな
なんで相性あわないんだろう

うまくいくかな
うまくいかないかな

すきになれなれないかな

すきになることができるのだろうか?

間だ見ぬ相手を想うことはなんだか
おとぎ話のお姫様が王子さまを想像するのと似ている

ただただ
ドキドキと未来の希望不安が入り乱れるだけ…

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* ILLUSTRATION BY nyao *